経済分析第2号
消費のクロス・セクション・データに関する若干の吟味-消費性向の趨勢的変動と景気変動との関連- 他

  • <分析1>消費のクロス・セクション・データに関する若干の吟味
    -消費性向の趨勢的変動と景気変動との関連-
  • <分析2>流動性貯蓄性向に関する分析
    -職業別および景気変動に関連して-
  • <ノート>日本銀行「景気変動指標」批判
  • <資料1>昭和33年度国民所得報告
  • <資料2>国民所得勘定とマネーフロー表との総合勘定表について
  • <資料3>四半期別国民所得統計-昭和34年4~6月期-
1960年2月
<分析1>
安永 武巳,野田 牧,荒井 豊
<分析2>
安永 武巳,荒井 豊
<ノート>
馬場 正雄
<資料3>
矢野 智雄

<分析1> 消費のクロス・セクション・データに関する若干の吟味
-消費性向の趨勢的変動と景気変動との関連-

(家計調査「クロス・セクション・データ」の問題点と本研究のねらい)

「家計調査」クロス・セクション・データ(収入階級別資料)は消費函数の算出をはじめ、費目別、品目別の所得弾力性の算出、さらに所得階級別-とくに低所得層-の消費分析などいろいろの面に利用されてきた。

ところが総理府統計局発表の月報による月々の実収入階級別消費支出のうち、消費支出は各世帯とも12月のようなとくべつの月を除けば、それほど大きな変化はないが、収入については4ヶ月に1回ないし2回、あるいは4ヶ月に1回ないし2回とくべつの収入がある世帯、または3ヶ月に1回ないし2回、あるいは4ヶ月に1回ないし2回収入がいちじるしく少ない世帯がそうとうにあるものとみられる。したがってふつうの月より収入が少ない場合はその月は赤字となり、また反対に臨時収入の多い月は、それらの世帯の消費率はいちじるしく低くなる。

従来の(1~11月)実収入階級別資料は家計調査が一つの世帯を年間固定して調査する方法をとらず、調査世帯の記入期間を原則として6ヶ月とし、毎月6分の1ずつ同一単位区内で名簿上のつぎの世帯と交代させる方法、いわゆるローテイションを行なっているため、同一世帯についての年間収入を得ることができない。したがって各世帯の年間平均収入による階級別区分ができず、同じ世帯でも月によってランクされる収入階級が異なるわけである。たとえば年間の月平均3万円の収入がある世帯でも3ヶ月のうち2ヶ月は2万円で他の1か月が5万円の収入があるとすれば、ある月は2万円階層にランクされ、ある月は5万円の階層にランクされる。ところが消費は平均月収の3万円に相当する支出となろうから2ヶ月間は収入に比して支出が多く、表面上赤字となり、他の1か月はいちじるしい黒字で高い貯蓄率となる。このような問題を持つ月々の統計を11ヶ月合計して11で除したものが現在の収入階級層別資料である。その結果、毎月の統計のゆがみがそのまま1~11月分に反映されるわけである。もちろん後(第3節)のも詳しく述べるように中央の階層では上記の意味における赤字世帯と黒字世帯が互いに消去し合うので問題は顕著には現われないが、低所得層と高所得層では、集計の結果が実際の消費行動といちじるしく異なったものとなることは容易に理解されるところである。これが第1の問題である。

第2の問題点は、現在の収入階層別資料には1年間のうちでもっとも収入、支出のパターンで特徴をもち、かつ年間の動きに大きな影響をもつ12月が集計から除かれている点である。すなわち12月はボーナスを中心とし他の月に比し収入が多く、したがって貯蓄性向が高いばかりでなく、支出の内容もかなりの特色をもっており12月の動きが反映されていない点も問題といえる。

以上のような問題をもつ資料を基礎にして行なわれてきた消費者行動の分析は真の消費者行動をあらわすものといえず、いろいろのゆがみをもつことは当然といわなければならない。

そこで現在までに調査された原票を利用し、できるだけ上記の欠陥を除去しようと試みたのが今回の集計でありこの研究である。消費者の中では月によりそうとう大幅の変動収入をうる世帯がかなりあるであろうが、それらの世帯は臨時収入があったから消費をふやし、また年間のうち2回ないし3回いちじるしく所得が少ない月があったとしても、その月だけとくに消費を減少させることはしないであろう。おそらく3ヶ月なり6ヶ月なりの平均収入をめやすとして日常の生活程度をきめているであろう。つまり個々の世帯はこのような意味での恒常的は所得(permanent income)を基準にして消費行動を行なっていると考えられる。今回の集計はこの点に着目し、しかももっとも変動の大きい12月を入れるという意味において、12月が調査対象となっている世帯(約2,100世帯)につき6ヶ月の収入、支出を合計し、つまり個々の世帯を追跡して6ヶ月間の収入額による収入階級別消費支出の再集計を行なったものである。

もちろん残る半分の世帯(約2,100世帯)つまり6月を含む世帯についても同様の集計を行ない、年間の収入階級別データを作成する必要があるが、おおかたの動きにはそれほど影響はなく、とくに本集計の基本的なねらいを明らかにするためには12月を含む6ヶ月で十分と考えられたので、残余の部分については本集計の分析結果をみた上で再集計を行なうこととし今回は見を送った。


<分析2> 流動性貯蓄性向に関する分析
-職業別および景気変動に関連して-

(この分析のねらい)

わが国における消費函数、貯蓄函数の推計においてもっとも大きな問題点の一つは、都市家計の消費性向に関する資料が勤労世帯にかぎられている点である。勤労世帯以外の世帯、とくに個人営業世帯は世帯数においても相当のウエイトをもち(この調査では25%)、国民経済計算における総貯蓄額は勤労世帯以上とも推定され、その動きが個人貯蓄の動きを大きく左右するということができる。したがって個人営業世帯の貯蓄率が勤労世帯の貯蓄率に対しどのていどの位置にあるかは大きな関心といえる。また貯蓄性向は景気の変動に対し深い相関関係をもつものとみられるが果してどのような反応を示すか、また職種別の貯蓄率はどのように動くかを大づかみに把握することも、貯蓄函数研究上何らかのプラスになりうるものと考えられる。また貯蓄性向が所得の変動だけでなく、家を持つものと持たないもの、貯蓄保有額-流動資産の多いもの少ないものによってどう異なるかという点も従来もっとも関心の深いところであったが、これらに関連する資料は皆無といっていい状態であった。

本分析の基礎資料とした「消費者動向予測調査」は、とくに次節に述べるようにその精度がそれ程高いものとは思えないが、これらの問題に何らかの手がかりを与えてくれるであろうという期待のもとにあえて分析を加えてみたものである。

なおこの分析のために、とくに総理府統計局にこの調査の再集計を依頼したものであるが、今回は都市だけに限定した。


<ノート> 日本銀行「景気変動指標」

(はじめに)

日本銀行(統計局)は、さきに公表せられた景気変動指標(『わが国景気変動指標の作成と測定分析』昭和33年7月)に「改正」を加えた第2回指標(『わが国の景気指標』)を、昨秋9月発表した。昨年4月、経済企画庁(調査局)からはナショナル・ビューロー・オヴ・エコノミック・リサーチのディフュージョン・インデックス方式に準拠する「景気動向指数」が公表せられているので、景気分析のために、私たちはいま2つの異なった方法にもとづく景気指標を利用することができるわけである。しかし、このために、2つの指標の波動が示す景気の山および谷の日付の異同が、種々論議の的となっているようである。

戦前のわが国における景気指標作成のこころみは、たとえば、ハーヴァード大学やブルックマイヤーのバロメーター方式や、バブソン・チャート、あるいはベルリン景気研究所方式などにならって、三菱経済研究所(「財界一般指標図」)、ダイヤモンド社(「経済活動量指標」)、東洋経済新報社(「本邦事業活動指数」)、あるいは田村市郎教授や北条時重教授などの努力によって、さかんに行なわれた。しかし、戦後におけるこの種のこころみについて特記すべきことは、それらが、中央当局によって実地せられ、明示的であると否とにかかわらず、景気動向の判断と政策立案のための1つの資料として役立つことが意図されているという点であろう。たとえば、昨年10月14日の山際日銀総裁談話には、「事務当局がまとめた景気動変動指標によると、わが国では循環の1周期が約40ヶ月になっている。しかし、適切な金融政策で好況期を延ばす自信があるし、またそうなるよう予防的措置を効果的に進めたい」(日本経済新聞、昭和34年10月15日)というような重大な意味がみいだされる。また、社内統計などを利用することによって、民間業界団体や企業においても最近種々の景気指数の作成がくわだてられるが、それらと一般景気動向との対比がこころみられる場合、日銀の「景気変動指標」や企画庁の「景気動向指数」が中央機関の公表資料として利用せられ、企業における予測や経営計画の編成に対してもかなり大きな影響を及ぼしているようである。

しかしながら、その影響力の重大さに比して、これらの内容についてのたち入った検討は、これまでのところ、私の知るかぎりきわめて乏しい。企画庁が「景気動向指数」算定にあたって依拠したいわゆるディフュージョン・インデックス(1)の問題点や限界については、私は別の機会に論じたことがあるので、ここでは、日銀「(第2回)景気変動指標」の算定における主要な問題点に対してコメントを加えたい。

短期的経済予測のために、最近計量経済学的モデル分析や予想・計画に関するサーベイ・データの利用などが、きわめてさかんに行なわれるようになった。しかし、かつてピグーがのべたように、「われわれがなしうる最善のことは、それぞれの段階ごとにその特徴を観察し、過去におけるそれと多少とも似通った事態について見聞していることがらを想起し、-そして、推測すること」であり、景気指標的接近は、もとよりそれのみによる独り歩きを厳にいましめねばならぬと私はかんがえる。そして、このような意味において、日銀や企画庁などのこころみが、わが国景気変動の成功的な分析と予測のためにより良き要具となるように成長することを私たちは心から希望するし、そのためには、そしの長短をあきらかにすることによっていっそうの改善を期待したい。本稿における私見は、すべてこのような意図にもとづいている。


(1)拙稿「ディフュージョン・インデックスの予測的価値」(通産省官房調査課編『通商産業研究』No.72. 34年3月)や34年度理論・計量経済学会報告など。なお、ついでながらこの機会を借りて記しておきたいことがある。包括的系列群について算出したディフュージョン・インデックスに「景気動向指数」という意訳語が当てられていることについて、私は責任の一端を負わねばならないが、この用語がかならずしも、適切であるとは考えていない。むしろ、無用の誤解すら招くおそれがありはしないかといま思っている。もし、その正しい意味に即したよりいっそう適当だとかんがあえられる用語があれば、御教示いただきたい。


<資料1> 昭和33年度国民所得報告

(はしがき)

この報告は、昭和33年度の国民所得および国民所得勘定の推計結果を、過年度と比較してしめしたものである。諸計数の動きについての概括的な説明は概観として述べられている。ここで33年度に達成された国民総生産と総支出の水準および構成を評価し、ついで、この年度の国民経済の諸活動を国民所得勘定の体系にもとづいて概説している。勘定方式については昨年度報告と変更はない。

推計の資料および方法については、おおむね従来と同じである。ただし資料のなかには数年に一度入手されるものもあって、これらの新たな資料をとりいれたこと、ならびに、若干の構成項目を精査した結果、過年度計数についても改訂を加えたものがある。


<資料2> 国民所得勘定とマネーフロー表との統合勘定表について

(はしがき)

当庁では、昭和31年秋以来毎年一回、「国民賃借対照表」と「金融連関表」とを合わせて「国民資本勘定」の名で公表してきた。海外においても、米国・カナダ・オランダ・フランス・西ドイツ・英国などの各国において「国民金融勘定」とか「資金循環勘定」とか名付けられた類似の勘定が推計されており。これらは一般に「マネーフロー表」とよばれている。

国民経済を企業にたとえると、「国民所得勘定」が損益計算書に当るように、「国民賃借対照表」はその名のとおり国民経済の賃借対照表であり、また「金融連関表」は国民経済の資金繰り表ともいうべきものである。国民経済の動態を正しく理解するためには、実物経済の動向(モノの動き)と、金融経済の循環(カネの流れ)とを合わせて観測しなければならない。これまでも、産業統計と金融統計とによって、たとえば大企業の投資が10%増加したことと、全国銀行の貸出金が20%増加したこととの間には、かなりの相関関係が存在するに違いないということは推測されていた。しかし10%の投資拡大が、何故に20%の貸出金を増加せしめたかの因果関係を、計量的に追跡することは困難であった。「国民所得勘定」の推計によって、投資規模の測定は国民経済の全体にまで拡張にされた。また「マネーフロー表」の作成は、資金供給を金融市場全体にわたって計測することを可能にした。けれども、これまでこの2つの勘定は、異なる基準によって作成されており、両者の完全な接続ははかられていなかった。

「国民所得勘定」と「マネーフロー表」とを統合した「総合勘定」を作成することによって、モノの動きとカネの流れとの関連を、単一の統計組織において観測することが可能になるだろう。すなわち、たとえば全法人企業の投資活動が10増大したのに対して、内部資金の充用は4しか増加しなかったから、残余の6は金融市場の供給に仰がねばならなかったこと、一方金融市場に対して、個人所得の増加20のうち消費の伸びを控除した残余の5が供給されたこと、および金融市場においては法人への供給6と、個人からの源資5との差額に当る1を日銀し尿の膨張によってまかなわなければならなかったことが確認される。上に記した世界各国においても、かような見地から総合勘定を作成するための研究がなされており、また国連統計局や欧州統計家会議(国連欧州経済委員会-ECE-の下部組織)においては、国際標準方式を加盟各国に提案するための準備が進められている。

当経済研究所においては、国民経済計算体系に属する各勘定を、相互に接続または統合することによって、全体系をさらに充実せしめ、その利用性を高めるための研究を進めているが、その一環としてこのたび「国民所所得勘定」と「マネーフロー表」とを統合した。「国民所得・金融総合勘定」と名付けた新しい勘定組織を試算したものである。これによって従来の「国民資本勘定」の名は発展的に消滅し、その個別勘定である「国民賃借対象表」と「金融連関表」とは、新しい総合勘定の付属表として引き続き公表されることになろう。付属表のうち「国民賃借対照表」は、目下推計作業中であるから作業の完了次第追って発表することとし、とりあえず新しい「国民所得・金融総合勘定」と、その付属表の一つである「金融連関表」の試算結果を公表する。

新たに試算された「国民所得・金融総合勘定」では、従来の「国民所得勘定」と「マネーフロー表」とを一表に統合して表示することによって、「国民所得勘定」によってとらえられる、所得・消費・貯蓄・投資などいわゆる財貨・サービスの循環(モノの流れ)と、「マネーフロー表」によってとらえられる現金・預金・有価証券・貸出金(借入金)・売掛金(買掛金)などいわゆる通貨・信用の循環(カネの流れ)とを一覧することができるようになった。第4章に詳述するとおり、同勘定はなお解決せねばならぬ多くの問題を含んでいる。これらの検討は、今後の研究課題である。


<資料3> 四半期別国民所得統計(昭和34年4~6月期)

昭和34年10月に公表した34年4~6月期の四半期別国民所得総計は、別表のとおり改訂された。改訂された主な理由は、民間設備投資および在庫投資の推計に使用した基礎資料が大蔵省調べ「法人企業統計」の速報か季報に変ったためである。

なお別表は、33年度国民所得報告にもとづき、30年4~6月期までさかのぼって改訂されている。また、季節調整計係数もつぎの二つの点で改正され、第2表はこの新しい季節調整係数をつかっている点に注意されたい。

  • (1)季節調整は連関比率法(昭和26~32年度、中位数)によっているため、原系列が30年度までさかのぼって改訂された結果、とうぜん季節調整係数も変ってきた。
  • (2)財政支出は、食管特別会計の在庫を除いたうえで季節調整を行ない、食管在庫は当該年度の四半期平均を加えた。

なお、新しい季節調整係数は以下のとおりである。

昭和34年4~6月期の四半期別国民所得統計
4月~6月7~9月10~12月1~3月
(備考) 民間在庫残高は農業在庫を除き、財政支出は食管在庫を除く。
民間設備投資0.89531.05921.14920.8959
民間在庫残高1.00671.00191.00320.9882
個人住宅0.97760.99821.17400.8502
輸出0.98630.99971.07150.9425
輸入1.06220.94091.01930.9777
財政支出0.64810.83031.16101.3606
個人消費0.95350.96031.11570.9706
第1表 国民総生産とそのうちわけ(季節調整未済) 第2表 国民総生産とそのうちわけ(季節調整済)

全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.1 MB)
  2. <分析>
    1. 2ページ
      消費のクロス・セクション・データに関する若干の吟味
      -消費性向の趨勢的変動と景気変動との関連-
    2. 23ページ
  3. <ノート>
    1. 42ページ
  4. <資料>
    1. 49ページ
      昭和33年度国民所得報告別ウィンドウで開きます。(PDF形式 963 KB)
    2. 56ページ
      国民所得勘定とマネーフロー表との統合勘定表について
    3. 80ページ
      四半期別国民所得統計-昭和34年4~6月期-
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