経済分析第3号
日本経済シュミレーション分析(上) 他

1960年6月
<分析2>
佃 近雄
<ノート1>
安藤 洋
<ノート2>
田原 昭四
<資料2>
辻村 江太郎,佐々木 孝男,中村 厚史

<分析1> 日本経済のシミュレーション分析(上)
-TCER Model IIIのシミュレーション・テスト-

本稿は、経済企画庁経済研究所が東京経済研究センター(TCER)、シミュレーション・プロジェクトに昭和34年度委託調査として依頼した研究の中間報告である。この研究の実施にあたっては、同プロジェクトの森敬がこれを担当した。

(はしがき)

この論文は昭和28年第1・4半期から昭和32年第4・4半期まで日本経済について推定されたTCER Model IIIに対して行なったSimulation分析に関する研究報告である。

エコノメトリック・モデルの改善強化は、これまで一方では与えられた規模において個々の構造方程式の適合性を高めることによって全体としてのモデルの説明力の強化を期するという形で行なわれるか、あるいは他方において与えられたフォームのもとで説明される項目の細分化によってモデルのもつ情報量を豊かにすることを主目的とするか、あるいは多くの場合がそうであるように同時に両者を含んだ形で行なわれてきた。ある方針に基づいて構成されるこうしたモデルに対する検定は、これまで推定作業に付随するものを主体として行なわれ、全体としてのモデルの性質に関してはのちにふれるところのこれまでのあまり感心のしない方式に限られてきた。それではなぜこれまでのエコノメトリック・モデルについてdynamic mechanismとしての妥当性があるかどうかを判定するテストが殆んど行なわれなかったのであろうか。それは、おそらく、大規模化したエコノメトリック・モデルを具体的に解くという適当な手段がないと思われていたことと、これまでの検定方式があまりにprevailしていたために、モデルの動学的性質を調べるという景気循環理論における当然の要請がeconometricianの間で実感として生まれていなかったのではないだろうか。もしもこのような推測が正しいとするならば、漠然とした形で生じてきた理論的要請を直ちに具体化の方向へ導くところのSimulationという考え方の新しいフォームをここに明確に打ち出しておく必要があると思う。もちろんこのSimulationという考え方が新しいフォームとして意味をもつようになった背後には電子計算機、およびそれに付属する各種の入出力装置の性能の向上と、それに関連するプログラミング・システムの充実に伴ない、従来不可能視されていた計算を、迅速かつ正確に、処理しうる可能性が与えられたことが重大な支えとして存在する。

そこで経済分析にそくして説明を試みれば、Simulationとは、観察対象として存在するreal worldにanalogousなmechanismと性質を備えるように構成され、かつ推定されたモデルを媒介として、組織的に模擬的オペレーションを行なうことによってreal worldの動きを類推することであるといえる。

このような現状認識のもとにおけるその論文の主な積極的論点は次の二つである。

第1の論点は、かりにこのdynamic mechanismとしてのモデルの妥当性をテストすることをSimulationテストとよぶことにすれば、このテストがいかに重大な結果をもたらすものであるかを強調すると同時に、それによって発見しえた問題の箇所を除くことによって、いかにモデルの適合性が著しく高められるような修正がほどこされうるかを示すことである。

第2の論点は、Simulationテストの結果適合性があると認められたモデルについて各種のSimulation実験に関連している。またこれらに基づいて若干の立言をのべてみたいと思う。しかし、これらのの立言はあくまでも仮説的なものであることを強調しておきたい。なんとなれば真にanalogousなモデルの備えるべき外的条件は、Simulationテストによって保証されたものの、なお十分という保証がえられたとはいえないからである。さらにデータの不確実性を考えるときとくに強調しておきたい。

第II節では、Simulation実験の指針を明らかにする意味で線形の連立定差方程式体系の一般解を吟味する際に注目すべき五つのポイントを指摘した。

第III節にTCER Model IIIのOriginal Formと二種類のModified Formの構成と推定結果にふれる。

第IV節では、先にのべた前1の論点を中心にModel IIIについて行なった三回のSimulationテストについてふれる。ここでは非線形項が予想以上に重要な役割を演ずること、そしてその項をもつModified(I)が非常によい適合性を示すことが確かめられる。

第V節では、第2の論点の前半を中心にModified Form(I)に対して試みたSimulation実験についてふれる。実験の方針は第II節において指摘した五つのポイントに準じて行なう。付録は、私達の今回の作業において使用したIBM650の便利なオートマテイック・プログラミング・システム、すなわち650 FORTRATについての簡単な解説と、計算プログラミング等についてふれることにした。

第VI節では、第2の論点の後半にふれる。

第VII節では、結果の綜合的評価および今回の作業の進行中に生じたいくつかの問題点を挙げて将来の研究計画への覚え書にしたい。


(注1) TCER, Technical Report, No. 505,「モデルIIIによる日本経済の変動の分析」

(注2) 研究の結果がまとまり、この論文の体裁もほぼ整ったころ、次の二つの重要文献を入手した。これらは私たちの研究とはまったく独立に同様な考え方に立脚してKlein Goldberger modelの動学的性質の研究を同じ手法を使って行なわれたものであった。これら二つの研究はわれわれにとって非常に興味深いものがあるが、時間的余裕がないので詳細な吟味は別の機会に譲りたいと思う。
 Adelman I.and Adelman F. L.,"Dynamic properties of the Klein-Goldberger Model, "Econometrica, Vol.27,No 4, Oct., 1959
 Goldberger A.S, Impact Multiplier and Dyuamic Propeities of Klein-Goldberger Model, Contribvtion to Economic Analysis.1959


<分析2> 賃金水準と輸出

(はしがき)

本稿は、わが国の製造工業における賃金水準を各業種の輸出比率および輸出額と関連させて、統計的に検討した結果をとりまとめたものである。

  1. 1人当り賃金水準によって製造工業の各業種を8階級に区分し、各階級について輸出比率(輸出額/出荷額)をみると、賃金水準のもっとも低い二つの階級で、輸出比率は圧倒的に高くなっている。
  2. 輸出比率よって製造業を4階級に区分し、それぞれの賃金水準を調べると、輸出比率が最大の階級、すなわち輸出比率が20%以上の業種で構成されている階級では、他の各階級と比較して賃金水準がかなり低い。
  3. 輸出額の大きい業種について賃金水準を調べると、平均的な賃金水準よりずっと低い。
  4. 上記の結果はIrving B. Kravisの調査したアメリカの場合(1)とまったく対蹠的である。すなわち、Kravisによると、アメリカでは輸出産業の賃金水準は、賃金の一般的水準と比較して、また、とくに輸入競争産業(輸入品との競争に対してvulnerableな商品を生産する産業)と比較して高くなっているのである。
  5. 上記1)~3)の一般的特徴とともに注目すべき点は高賃金階級の輸出比率もかなり高く、いわば、わが国の輸出は低賃金業種と高賃金業種の両極端に集中しているとみられることである。

ここで、この調査の結果をいかなる理論的フレムワークの中に位置づけてみればよいかを検討しておく。

賃金格差が貿易の商品構成に与える影響をその他の諸要因とも関連させながら、全体的に考察するためには、K. Forchheimer(2)に従って、比較生産費をその構成要素に分割して考えるのがよい。ある商品の総生産費(c)は、時間当り賃金(w)、当該商品の1単位を生産するために要するのべ時間数(p)および1単位当りの貨幣コストの労賃コストに対する比率(r)、この三者の積としてあらわされる。

c=w×p×r

2国2財の貿易を考えて、大文字はI国、小文字はII国に関するものとし、プライムをつけない記号でA商品、プライムを付した記号でB商品を表示することにすれば式2のときにI国はA商品について比較優位をもつというのが比較生産費理論である。上述のように生産費を分割して考えれば、これは、式2として表わされる。したがって、I国がA商品について比較優位をたもつためにはつぎの条件のうち少なくとも一つが満たされなければならない。

式3

このように、比較生産費理論から、賃金格差は貿易の商品構成に影響を及ぼす可能的な一つの要因であるということができる。そして、比較生産費理論において重要なのは一国における、業種間の賃金格差それ自体ではなく、他国のそれと比較した相対的賃金格差である。ところで、本稿の調査はわが国だけを対象とするもので賃金格差の国際比較をおこなっていない。それにもかかわらず、つぎに述べる理由から本稿の調査結果を比較生産費理論のフレームワーク内に位置づけてみることは許されると思う。

第1に、各種間賃金格差の型ーすなわちどの業種で賃金水準が高く、どの業種で低いかという順位関係-はいかなる国でも大体類似しているというKravis(3)の証言があるけれども、わが国の賃金格差は他の諸国より大きいと思われることである。(4)

第2に、観察結果にもとづく推論であるが、この調査で輸出比率の高さと賃金水準の低さとの間にかなり密接な関連が、認められたことから、わが国の場合、賃金格差が比較生産費の決定要因として大きな役割をもっていると推定することが可能だと思われる。

かくして、この調査は、比較生産理論の立場からする分析とみて差支えないと思うけれども、賃金格差以外の要因すなわち生産性や賃金以外のコストを考慮していない点で一つの部分的アポローチにとどまるとことはいうまでもない。

以下、まず基本資料とその処理方法を概説し<2>、つぎの調査の結果を提示し<3>、最後に調査結果の意味について若干の考察を加えることにする。


  • (1)Irving B. Kravis, Wages and Foreign Trabe(Review of Economics and Statistics, February 1956)
  • (2)K. Forchheimer , The Role of Wage Difference in International Trede(Quarterly Journal of Economics, November 1947)
  • (3)Irving B. Kravis, "Availability and Other Influences on the Commodity Composition of Trade (The Journal of Political Economy, April 1956)
    Kravisの示すところでは、製造業の20グループに、時間当り賃金の大きさによって順位をつけ、これをアメリカと日本で比較すると、両者の間に高度の順位相関(順位相関係数は0.82)が認められた。そして、賃金水準は農業より製造業おいて高く、製造業の内部では比較的最近に発達した業種-化学、石油、機械、運輸設備等-が歴史の古い業種-食料、繊維、衣服身廻品等-より高いのが一般的傾向であると主張している。
  • (4)製造業総平均の時間当り給与額を100とした場合、最低と最高は国によってつぎのような相異がある。
製造業総平均の時間当り給与額を100とした場合の各国の最低・最高の割合
最低最高
日本53.3149.0
アメリカ70.7125.5
イギリス77121
西独(男子)76121

(備考)労働省、労働経済図説第4による。基礎資料はILO,Year Book.


<ノート1> イギリスの実質国民所得推計における
生産物法(Production Method)の適用について

(はじめに)

最近、国民総生産の時間を通じての、あるいはまた地域を通じての比較研究との関連において、不変価格による国民総生産の推計がますます重要視されている。不変価格による推計は i)最終支出の合計を物価指数でデフレーとするか、 ii)産業別の生産物を不変価格で評価するかのどちらかに大別される。前者は実質国民所得推計における支出法(Expenditure method)であり、後者は生産物法(Production method)とよばれる。

生産物法による推計は日本ではまだ系統的には採用されておらず、その上この推計法に固有の困難性も予想され、したがって未解決な問題が多く残されている。そこでこの問題解決に一歩を進めるために、もっとも系統的に生産物法を適用していると考えられるイギリスにおける実際をここで紹介することにした。原書はCentral Statistical office ; National Income Statistics , Sources and Methods , Her Majesty's Stationery office , pp.viiii+387, London , 1956である。

はじめに生産物法の一般的特質およびこれによる推計方法(原書第三章、統計資料および推計法)について要約し、つぎに、現在イギリスにおいて実施されている推計法の概略ならびに採用されたウエイトと「指標」についての詳細を紹介する。これは原書巻末付録の第四に「実質生産物推計」として二つの部分〔A〕、〔B〕に分けて解説されているものである。

〔A〕は「指標」の選択について、とくに、説明を要する個別産業に関する解説であり、〔B〕は「鉱工業生産指数」に含まれる産業を除く、すべての産業について用いられている「指標」とウエイトを示している。


<ノート2> アメリカにおける景気後退の形態
-とくに1957~58年を中心として-

(はしがき)

1957~58年のアメリカ経済は、戦後第3回目の景気後退を経験した。後退期間は9ヶ月間というきわめて短かいものであったが、その振幅はかなり大きかった。しかし、1958年4月を景気の底としていわゆるV字型回復を示し、年内にはほぼ回復段階を脱して以後、比較的順調な経済成長を続けている。

1957~58年の景気後退の評価は、各方面で種々の観点から行なわれている。ここでは、ナショナル・ビューロー・オブ・エコノミック・リサーチ(National Bureau of Economic Research, Inc.以下ではNBERと略称する)のムーア(Geoffrey H. Moore)の最近における論文、Measuring Recessions (Occasional Paper 61, NBER, 1958)および"The 1957~58 Business Contracton : New Model or Old?"(American Economic Review, vol. XLIX, No.2, May 1959 )を中心にして、この問題をとりあげてみた。

ムーアは、現在Associate Director of Researchの地位にあり、ミッチェル(Wesley C. Mitchell)およびバーンズ(Arthur F. Burns)によって打立てられたNBER的な実証的景気変動分析方法を、さらにより一層発展させている人である。その成果はそでにかれの労作Statistical Indicators of Cyclical Revivals and Recessions(Occasional Paper 31, NBER ,1950)をはじめ、その他、数多くの論文に収められている。

ここでとりあげたからの論文は、1920年以降におけるアメリカの景気後退の形態-すなわち、継続期間、振幅、タイミングなどを測定し、さらに、1957~58年の性格を過去と比較して、その類似性、特異性を明らかにしたものである。しかし、それはあきくまで景気循環の型態論的分析にとどまり、変動の要因や、相互関係などの因果関係的側面については殆んどふれていない。また、経済諸現象を主として基準循環という立場から把握せんとしているため、それらの個々の循環的変動は解明されていない。


<資料1> 四半期別国民所得統計(昭和34年7~9月期)

昭和34年7月~9月期の国民総生産(季節調整済,年率)は12兆135億円で、前期より4.0%(実質値では2.9%)増加し、引きつづき急速な拡大傾向を示している。

国民総生産の構成要素をみると、各需要項目と増加しているが、在庫投資が以前増勢をとめず、季節調整済、年率で7,914億円に達したことが注目される。

なお、7~9月期の国民総生産を前年同期にくらべると、18.0%(実質値では16.2%)の拡大になっている。これは、神武景気のときの最高であった32年4~6月期の前年同期に対する拡大率16.1%(実質値では11.8%)を上回るものである。

今回の推計にともなって、4~6月期の四半期別国民所得統計についても、諸基礎統計を検討の上、改訂された。

改訂されたものは、個人消費支出、個人住宅、生産者耐久施設、財政支出についてである。

改訂されたおもな理由は、つぎのとおりである。

  1. 個人消費支出については、雑費のうちに計上される社会保障の現物医療給付等につき新たな計数におきかえたことによる。
  2. 個人住宅については、住宅公団における分譲住宅を業務統計により新たな計数におきかえたことによる。
  3. 生産者耐久施設については基礎統計として、大蔵省「保人企業統計」の季報によっているが、前回の推計は季報「新設」の対前期比によって推計したが、今回は対前年度に対する4~6期の伸びによって、推計しなおしたことによる。
  4. 財政支出については、今回も資料の関係により、今までどおりの推計によっているが、主として企業会計の新投資につき改訂をおこなったためである。
    なお、在庫については計数の整理によるものある。
    つぎに、第2表は季節調整済の諸計数であるが、推計方法は2月発表の方法にもとづいて推計した。

<資料2> 家計における労働供給の分析資料(昭和30~33年)

ここに掲げるのは経済企画庁経済研究所が総理府統計局の協力を得て行った家計調査資料(全都市勤労者世帯)再集計の結果である。

(資料整理の目的)

当研究はさきに研究シリーズ第2号「景気変動と就業構造」において吾国労働市場の特性を明かならしめるよう試みた。その際に指摘されたのはつぎの点である。すなわち、「労働力調査」で把えられる完全失業率がつねに摩擦的失業の国際基準3~5%を下回っていることまた、この完全失業率は他の経済諸指標が景気後退を示しているときにも上昇しないこと、等である。

いうまでもなく上の観測事実は、吾国の雇用情勢がつねに高度先進諸国のそれよりも良好であることを意味しない。

しからば、何故に米国等で雇用情勢の好転、悪化を敏感に反映し、他の経済指標とさいごう斉合した動きを示す完全失業の指標が吾国では同様の役割を果たさないのかが説明されなければならない。

右の事情を説明するものとして大巾な賃金格差が存在すること、とともに要素的労働供給の単位たる家計の行動法則がとりあげられた。

綜合的な失業指標としては失業保険受給者数の変動が経済の好、不況を敏感に反映することが見出され、好況時には完全失業者数と失業保険受給者数との乖離が甚しく、不況時には両者の数字が接近することが確認されたが、これは両者に含まれる失業の内容に差があるためであると判断された。

失業保険受給者数として現れるのは世帯主的労働力の失業であり、これに対して完全失業者数の中には家計補助的労働力、とくに女子、若年労働力の失業が含まれる。好況時には労働需要が増大し、限界的労働力に対しても比較的良好な就業機会が生じるために、非労働力であったものが労働力化して市場に現れる。これが就業するまでの期間に失業者として現れるために完全失業者数を増大せしめる効果をもち、これら家計補助的労働力の市場流入が失業者保険統計で把えられる世帯主的労働力の失業減少を相殺するために好況時にも完全失業者数が急減しない。

逆に不況時には、上の限界的労働力たる家計補助的労働力に対する需要価格が低落するためにこれらが市場から引揚げて非労働力化してしまい、それが世帯主的労働力の失業増加を相殺する効果をもつために完全失業者総数の増加が目立たない。

このような労働市場の内外に流動する非世帯主的労働力層の存在はその后、梅村又次教授の研究(「過剰就業と日本農業」第2章第3節「労働力の構造と失業」)によってさらに裏附けられた。上のことからすれば失業保険受給者数は失業のうちでも緊急度の高い失業量の変動を示すものであり、好況時に増加する部分の完全失業者数は短期的にはむしろ雇用市場の好転を示すものといえる。

試みに失業保険受給者数を完全失業者数で除いて「緊急失業者示数」というべきものを算出すると、生産指数その他の経済指標ときわめてよく斉合する働きを示す。

上の記述的結果を分析的に裏附けるものとしては家計の労働供給行動をあらわす「ダグラスー有沢の法則」が援用された。この種の研究としてはダグラスーの後を継いだロングのそれ(The Labog Force under Changing Income, C. D. Long ; Princeton University press, 1958)があり、現在はエール大学のプロジェクトでロセット等によりすすめられている。(Studies in Household Economic Behavior ; Yale University press,1958)吾国では有沢広己博士の分析の基礎資料となった総理府統計局家計調査資料の世帯主収入階層別集

前述の完全失業水準がつねに低いという事実、および好況期不況期とで女子、若年労働力が市場へ流入、流出するという事実と直接に関係のある家計の労働供給法則はつぎの二つである。

  1. 一つの家計について家計補助的労働供給と世帯主収入との関係。
  2. 世帯主収入が一定のとき、家計補助的労働供給と需要賃金との関係

(1)の関係は世帯主収入階級層別有業率の比較によって、世帯主収入が大である階級ほど世帯内有業率が低いという事実が確められる。これは前記昭和29~32年各9月分の資料に基いた一応の結論であった。しかし、周知のごとく家計の行動には季節変動が含まれるから、各年9月分のみの資料から結論を導くことには若干の不安が伴う。世帯主収入と世帯内有業率との負方向の関係が各年9月に特有なものではなく、一般的な関係とみてよいことを確めることが今回の再集計のねらいの一つである。

(2)の点に関して、すなわち家計補助的労働供給とその労働自身に対する需要賃金との関係については、従来の資料から直接に結論を導くことができなかった。これを知るために資料から家計の所得-余暇選好函数の推定が行われ、その結果から、世帯主収入が一定のばあい、家計補助的労働供給はそれ自身に対する需要賃金と正方向の関係をもつこと、すなわち需要賃金が上れば労働供給が増加し、需要賃金が下がれば供給は減少することが一応結論された。この結論と前記の完全失業内容の変動とがきわめてよく斉合するために双方の推論の妥当性が確認されたのであるが、これら従来の資料に基く分析では推定の精度が低いために質的な結論しか得られず、それらの係数を利用して将来の労働力率の予測を行うのは無理であった。

本推計の目的は世帯の成年人員規模、家計補助的労働の世帯当り平均収入率、等に関して層化を行い、第一に結果表から直接家計行動に関して従来以上の情報を得られるようにすることにある。第二には従来情報不足のために推定上、方法上の無理をおかしていた点を改善して所得-余暇選好函数の精度の高い推定値を得、将来の労働力率の量的予測を可能ならしめることを目標としている。有業率を中心とする分析が整備されれば、つぎの段階として労働時間概念による労働供給分析を行うばあいの基礎としても大いに役立つこととなる。

集計結果の分析は現在進行中であるが、とり敢えず結果表およびその一部の図示したものを公表して大方の利用に供する次第である。集計形式はその他に関して改善すべ基点を指摘して頂ければ幸である。


第1図 世帯主の勤め先収入 階級別有業率(年計)

第2図 世帯主の勤め先収入階級及び非世帯主一人当り収入階級別有業率

第3図 世帯主の勤め先収入階級別有業率

第4図 世帯主の勤め先収入階級別「妻」の有業率


<資料3> 米国における家計所得と購買力

(記者はしがき)

この論文は、アメリカ商務省『合衆国の所得と生産』(U.S Income and Output)-1958年11月刊-における巻頭論説「国民所得勘定からみた国民経済」の第三部を全訳したものである。

ちなみにこの書物は商務省がほぼ3年ごとに刊行している、いわば国民所得統計年報のもっとも新しい決定版である。なお前記巻頭論説の構成は、第一部「経済の成長と進歩」第二部「地域的にみた市場の膨張」で、第三部がここに飜訳した「家計所得と購買力」となっている。

この論文がとりあげている主題は、家計所得と購買力としていかに実現しているかを、家計主体別(農家、非農家、単身世帯)、所得階層別に分析することによって、横断的時系列的にあきらかにすることである。なお、この論文の基礎としては商務省の『1944~50年における合衆国の所得階層別所得分布』(Income Distribution in the United States by Size , 1944~50)がある。

わが国では、家計所得の階層別分布についての推計は、基礎資料の関係できわめて困難であるが、農家、勤労者についてはすでに作成されている。しかし、この分野における推計と分析は先進国にくらべいちじるしく立ちおくれているので、もっともすすんでいるアメリカの例を知っておくことは重要であると考える。


<資料4> 資本構造と企業間格差

(研究のねらい)

わが国の経済構造の特徴として、二重構造とか傾斜構造とかいわれる大幅な格差現象が指摘され、この問題については従来からもいろいろな側面からの研究がなされてきた。しかし資本面からの実証的研究は、雇用、賃金面や生産の側面からの研究にくらべて、非常に乏しかった。その主たる理由は、相互に異質的で種類も多様な資本を統一的に評価した資料がなかなかえられないためである。本研究のねらいは、この面で各種の資産を客観的・統一的に評価した「国富調査」の資料を基軸とし、これに「中小企業総合基本調査」、「法人企業統計」の資料を配して、これら資料の再集計作業を通じて、従来の格差分析に欠けていた資本面の分析をうめることにある。そしてそのことによって、資本構造の側面から、わが国経済の二重構造の成立がいかに支えられているかについての一つの参考資料を提供する。

分析の内容は大別して三つある。

  1. 第一に、わが国の二重経済構造を成立させている一支柱としての資本の規模間格差の実態は、具体的にどのような形態をとっているか。これを資本集約度、資本係数などの規模別計測によって実証する。
  2. 第二に、このような資本集約度、資本係数の格差の実態を明らかにすることによって、一般によく知られている生産性の格差がいかにして生れているか。さらには賃金格差が資本面の規模差にどう関連しているか。これら諸格差現象相互のあいだにある関連を明らかにする
  3. 第三に、実態面で資本装備の格差として、あらわれる現象が、その背後の金融面ではどのような形で支えられているか。この問題をとくに、企業資金の借入先別・規模別の構造に重点をおいて、金融面にあらわれた二重構造の一面を究明する。

以上三点を通じてのわれわれの分析対象は、主として製造業に限定されている。また分析に使用した資料は、昭和30年あるいは32年に限られているから、以下に掲げる具体的な数値をそのまま一般化することはさけられたい。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.0 MB)
  2. <分析>
    1. 2ページ
      日本経済のシュミレーション分析(上)
    2. 18ページ
      賃金水準と輸出
  3. <ノート>
    1. 29ページ
    2. 46ページ
      アメリカにおける景気後退の形態
  4. <資料>
    1. 61ページ
      四半期別国民所得統計別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.1 MB)
    2. 64ページ
      家計における労働供給の分析資料
    3. 75ページ
      米国における家計所得と購買力
    4. 86ページ
      資本構造と企業間格差
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