経済分析第4号
設備投資函数についての覚書 他

1960年12月
<分析>
宮部 義一
<ノート1>
桜井 弘,瀬下 富作
<ノート2>
池内 康彦,佐藤 将夫

<分析> 設備投資函数についての覚書

(はしがき)

この覚書はモデル分析の一環として、旧馬場ユニットが担当した函数につき、設備投資函数を中心にまとめたものである。

従来から設備投資凾数はその作成が困難であり良好な結果を得ることができなかったが、われわれの凾数もまたあまり良好な結果は得られなかった。

この覚書の狙いは四つある。すなわち、

  • (1)第1は設備投資凾数を作成する場合、従来無条件でその対象としていた国民所得統計そのものを、今後なんらかの形で吟味しなければならないのではないかという一つの提案である。
  • (2)第2は設備投資凾数の説明変数として、売上高の予想を導入する試みである。
  • (3)第3には企業の側からみて、わが国企業経営、とくにその資金源泉の点での特異性の指摘である。
  • (4)第4には、業種別設備投資凾数の試算とその反省であり、国際競争力を示す変数の導入を試みたことである。

なお、本覚書作成にあたり、大川所長をはじめ研究所の諸先輩から多くの示唆を与えられたこと、また、とくに馬場正雄助教授の御指導に対して感謝したい。


<ノート1> 国民経済計算における財政の範囲と分類について

( はじめに )

ここ数年、財政支出は漸増し、国民総支出に占める割合は20パーセントに達せんとしている。財政は乗数効果と再分配効果を通じて経済に影響をおよぼすという点で極めて重要視され、通常は短期の見通しによる判断によって操作される。しかしながら景気変動論の展開と呼応しつつ、長期的にも消費と投資さらに進んで労働と資本との相関関係に結びつくものであり、最近は財政支出の産出能力に与える効果についても理論化の必要性が唱えられている有様である。

特に政府支出の一部としての公共投資は財政政策の目標達成のために直接的役割を果すものであるから、少なくとも国家会計を経常勘定と資本勘定とに区別する必要があり、さらに経済変動の周期を考慮に入れた長期的均衡予算を編成する方策が西欧諸国では研究されている。しかし公共投資の効率の測定はその受益程度の計量が困難であり、また費用との対応関係を把握する方法も未開の分野である。

わが国では、はやくから国民所得統計の一環として、財政活動を所得の循環過程において経済的な見地から把握するため、政府部門において一種の経済分類が行われており、さらに最近資金循環面よりする計測が加わって、いわば収支計算書と貸借対照表の形をとりながらまがりなりにも経常、資本両勘定の体系化が可能となった。しかしながら構造、資料の制約による精度あるいはタイミングの点からその役割を充分に果たし得ないうらみがあった。これは単にわが国に限られたことではない。世界各国いずれも同様であり、さらに国際比較を可能ならしめようとする意図がこの改善措置に加わって、国際連合経済社会局あるいはエカフェ事務局から1951年、'53年、'55年、'58年と数次にわたって財政支出の再分類および社会会計における統一的基準を示す報告書が公表されている。ことにその最後のA Manual for Economic and Functional Classification of Government of Transaction(以下単に要覧と呼ぶ)は予算制度を国民所得分析用具に融合させようと目論んで作成されたものであるので、これを契機としてわが国においても既存の財政関係統計の理論的、実際的両面にわたって再検討を加えることは意義なしとしない。

今後、さきに述べたような国際的趨勢にそいながら新たなる段階に踏み出すに先立って、現在の財政関係二次統計には予め解決をはかりあるいは概念規定を明確にしておくべき問題点がいくつか存在する。そこで基本的問題にたちかえって反省の手掛りとするために、政府取引の経済再分類に関する会計検査院試算との比較検討と併せて取りまとめた部内検討資料の一部が本稿である。内容は政府部門と非政府部門との区別と政府部門内部の細分類に関する考え方と実例を示しており、議論の材料を提供するに止めるものである。

なお対象としたのは、範疇では中央政府関係のみとし、分類基準では主として経済的分類に限定することとした。勿論、財政と国民経済との交互作用について立入った分析を行うためには、近年次第にウエイトを増大しつつある地方公共団体をも加えて、それとの政府内部取引としての処理の仕方と、分類方法としては機能的、あるいは物財的分類が要請されるであろうが、これ等の諸点については基礎データーの欠乏その他の理由で別の機会にゆずることとした次第である。


<ノート2> 供給面分析のためのテスト・サーベイ
-セメント工業の実例による生産函数と資本係数の試算-

(はしがき)

  • (1)本作業は、経済の供給面とくに生産函数と資本係数を計測する作業の一環として、産業別アプローチを試みるためセメント工業をまずとりあげ、テスト・サーベイをおこなったものである。ここにテスト・サーベイという意味は、作業の狙いおよび資料面で新しい試みをおこない、あわせて、それらの有意性をテストしようという点にある。
  • (2)狙いについて新しい試み
    • (イ)生産函数については、タイム・シリーズとクロス・セクションの両面から、ダグラス形を中心として生産函数をあてはめることを試みる。とくに、コスト・ミニマムの条件を加えた場合も考えた。
    • (ロ)資本係数については
      • I.設備稼働能力ベースの資本係数の計測。
      • II.付加価値ベースの資本係数に対する新しい解釈。
      • III.資本源泉別の資本係数に結びつけるための、有形固定資産項目別の資本係数の計測。
      • IV.設備稼働能力、あるいは、生産実績の評価に時価および基準時価格の双方を使う試み。
  • (3)資料面についての新しい試み

    資料としては、これまで、この方面の研究にあまり使われていなかった企業別の有価証券報告書(注1)をとりあげ、これを集計して活用した。

    これによると、工場別の設備能力と労働者数が明らかになること、付加価値の内わけも明らかになること、有形固定資産の取得価格と簿価とが、資産項目別にわかること、各期ごとの販売価格もわかること、各社を1サンプルとして扱えば、サンプル数もふえることなど、法人企業統計ないしには、工業統計表などだけではこれまで明らかにできなかった点に光を当てることができるものといえよう。

  • (補論1)セメント業界の特色

    セメント業界は、出荷額ないしは付加価値額では全経済に対し1~2%ていどの比重であるから、ウエイトの点で、セメントに優先する業界は少なくないが、ここでは、テスト・サーベイという性格にかんがみ、オペレイションのやり易いものとしてまずとりあげた。

    この点からみたセメント業の特色は、(イ)企業が、一生産物に特化しており、その生産物は単一の大量生産製品であり、かつ、設備の内容も比較的単純であって設備能力の計測し易いこと、(ロ)業界の構成が、規模間に格差があるとはいえ、概していわゆる大企業であり、主要企業数社を把握することによって業界全体の動向を判断しやすいこと、(ハ)業界の性格としては、同じ窯業でもガラスなどとちがって、独占的ではなく、各社とも非常に激しい資本主義的競走場裡に立たされていること、(ニ)(ハ)と関連して、設備投資意欲が強くかなり積極的な投資が継続されてきたために、資本の動向を比較的短期間のサンプルで把握するために便利であること、といった点をあげることができよう。


(注1)有価証券報告書とは、総額5,000万円以上の有価証券を発行する会社に課せられた報告書作成義務によりつくられるもので、内容としては、「大蔵省令で定めるところにより事業年度ごとに、当該会社の目的、商号及び資本又は出資に関する事項、当該会社の営業および経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項、当該有価証券に関する事項、その他の事項で大蔵大臣が公益又は投資者保護のため必要且つ適当であると認めて大蔵省令で定めるものを記載」することになっており、毎事業年度が終ったら3ケ月以内に大蔵大臣に提出することになっている。現在上場会社約600社をふくめて約1,000社が、毎事業年度(通常1期は半年)ごとに提出している。


<資料1> 四半期別国民所得統計(昭和35年1~3月期)

(はしがき)

経済研究所の発足以来、国民総生産の四半期別推計をおこなって公表してきたが、ここに昭和35年1~3月期の計数を次のとおりとりまとめた。

  1. 国民総生産とそのうちわけ(季節調整未済年率) (付表1)
  2. 国民総生産とそのうちわけ(季節調整済年率) (付表2)
  3. 四半期別国民総支出 (付表3)

(一) 昭和34年4~6月期以降の各四半期の計数は、四半期基準の暫定推計として、個々に独立して推計されたものであり、したがって、従来の年度基準の本推計でおこなわれているように、はじめに年度分の計数を算出してそれを各四半期に分割する方法は原則としてとられていない。

また、本作業中、設備投資のうち、農家の投資については基礎統計の入手の関係もあり、34年4~6月期にさかのぼって改定した。

(二) 季節調整の方法については、まだ検討の余地があるが(付表2.備考参照)今回設備投資の季節調整について、その方法を改訂している。その詳細については(注)を参照せられたい。

昭和34年度第4・四半期(昭和35年1~3月期)を季節調整済年率にて概観すると、国民総生産は、13兆1,532億円に達し、前期(34年10~12月)に対し2,520億円2.0%(実質1.6%)の上昇を記録した。

そのうちわけは第1表に示すとおりである。この増加率は1・四半期のものとしては決して低いとはいえないが、第1表にしめす如く、前三期の増加率が平均約5.8%であったのに比較すれば、かなりの低下を示したことになる。

第1表 国民総生産のうちわけ、ならびに各四半期の対前年比増減
(備考) 季節調整済 「付表2」参照

国民総生産の増加テンポを鈍化させた第1の原因は第2表からも明らかなように前期まで増勢をつづけ、国民総生産の大巾な拡大に寄与してきた在庫投資が今期に至ってほぼ横ばいに転じたためである。第2の原因は前期まで比較的堅調に拡大を続けてきた個人消費、輸出などその他最終要因が1.7%(前三期平均2.8%)増加させる要因として働いたにすぎなかったためである。なかでも注目すべきものとして、着実に上昇を続けてきた輸出が今期は前期に比し、僅かながら減少を示したことであろう。一方において第3・四半期から急速な増加を示しはじめた設備投資は第4・四半期に至り年率2兆5,780億円(24,056億円、季節調整未済)に達し、前期に比し、3,768億円(1,432億円、季節調整未済)の増加を示した。このような設備投資の急増が在庫や、個人消費等の増勢テンポの鈍化を補って国民総生産を2.0%増加させたものといえよう。

第2表 昭和34年度国民総生産の増加率とそのうちわけ

このように国民総生産としては増加のテンポがかなり鈍化したが、前期まで安定していた輸入が今期に至りかなり上昇を示したので、総供給は4.1%と僅かの低下にとどまった


(注1)今回の推計作業中設備投資について季節調整の方法を改訂した。前回までは、法人、個人企業の設備投資を一本にして、昭和26年度からの原系列をもちいて連関比率法により季節変動を除去していた。この方法によれば、個人企業の設備投資の季節性にひかれ、殊に第3・四半期(10~12月期)にそのひずみが出る傾向があった。(第1図参照、とくに32年度第3・四半期、33年度同期)

第1図 設備投資(年率換算)

この傾向は季節変動除去の目的に反するので、検討の結果、今回より法人、個人企業の設備投資を別々にして、それぞれ二本の原系列について上記と同様の方法によって、季節変動を除去し、加算する方法を検討した。検討の結果なお個人企業については今後の研究にまつところが多いが、従来の方法に比して改善されていると認められるので、一応採用した。

設備投資の改訂季節指数は下記のとおりである。

法人・個人企業の設備投資の改訂季節指数の一覧
IIIIIIIV
法人1.0091.0660.9850.939
個人0.7710.8951.4480.886

また、参考のため、新旧の季節調整済計数を比較したのが第1図である


付表1 国民総生産とそのうちわけ(季節調整未済)

付表2 国民総生産とそのうちわけ(季節調整済)

付表3 四半期別国民総支出


<資料2> 合衆国における地域市場の拡大

(訳者はしがき)

この論文は、アメリカ商務省『合衆国の所得と生産』(U.S Income and Output)-1958年11月刊-における巻頭論説「国民所得勘定からみた国民経済」の第二部を全訳したものである。

ちなみに、この書物は商務省がほぼ3年ごとに刊行している、いわば国民所得統計報告書のうち最新のものである。なお前記論説の構成は第一部「経済の成長と進歩」第二部がここに訳出した「地域市場の拡大」、第三部「家計所得と購買力」となっている。この第三部の飜訳はすでに経済研究所編『経済分析』第3号(1960年6月刊)にかかげられている。

この論文がとりあげている主題は、州別個人所得の水準と構成を横断的、時系列的に比較検討して、地域市場の拡大傾向に内在している法則性をとらえることにあると云えよう。なお、この論文の基礎としては、商務省の『1929年以降における州別個人所得』(Personal Income by States since 1929)-1956年刊-がある。これは個人所得からみた各州の発展を詳細に記録した書物であって、膨大な所得統計および関連資料が付加されているものである。

わが国においても、県民所得や市町村所得の推計は戦後になって相当普及し、とくに31年以降では県民個人所得の推計については全県のものが得られるにいたった。しかし、これら地域所得を利用し、しかも国民経済の観点にたっての分析はいまだ皆無である。したがって、この分野における分析を今後行なっていく場合、アメリカ合衆国に州別個人所得による経済分析は十分参考とされなければならないと考える。


<資料3> 経済成長と農業・農家経済

(研究のねらい)

農地改革は昭和25年頃ほぼ完了し、漸次その経済的効果を示してきた。従来の地代部分が所得として流入するようになった農家経済は、戦前に比べて著しく好転している。このことは、農業生産が昭和30年以降、戦前(昭和9~11年)あるいは25年頃の水準を約3割上回る水準にたっし、その線を維持していることも反映されている。また、これに対応して農家経済の構造にも後述のような意味において、若干の高度化が実現されたといえる。しかし、それは依然として家族零細農制の枠のなかでの高度化におわっている。以下の分析において、われわれはこの点の解明をおこなうことを1つのねらいとしている。

以上の視点はいわば農業部門の内部における動きを地域別・階層別にとらえ、これを総括して農業・農家経済の構造変化をあきらかにしようとするものである。この構造変化の程度に対応して農業成長の姿をえがくことができる。そこで、われわれは成長の観点から農業と非農業とのあいだの相異と連関をある程度あきらかにすることを第2のねらいとした。

要するに、われわれは日本農業の成長過程の特徴を、農業部門のなかでの動きと、非農業部門との対比との両面から総合的にとらえようとするものである。


<資料4> 銀行の預貸金流動性分析
-主として、間接金融との関連で-

(研究のねらい)

終戦後のわが国経済は、復興から発展という急激な経済成長を遂行しているため、企業は多額の資金を必要とするが、自己資金の蓄積が小さく、とうしても投資超過にならざるをえない。しかも資本市場の未発達などの制度的な諸要因もあり、直接金融による資金調達の途が狭隘であるため、企業は投資に要する資金を、大部分金融機関の貸出に依存せざるをえない実情が続いている。一方、これら恒常的に投資超過の企業の資金需要を賄う金融機関は、主として零細な個人預金、とくに長期預金にその資金的な支柱を求めている。これが常識的にいわれる間接金融方式である。すなわち、それは個人→金融機関→企業という資金供給方式をいい、社債、株式の発行によって企業が資金調達をするのを直接金融方式と呼ぶのに対比して使われているのである。

このように個人部門と企業部門との間にあって資金媒介者の役目を果している市中金融機関のうち、最大なもの-全国銀行-について、その預金、貸出の分析を行い、間接金融方式を可能ならしめている実体の解明をすることが1つのねらいである。

つぎに、間接金融方式である以上、恒常的に投資超過の企業の資金運用可能量は、銀行の資金供給可能量によって決ってくる。したがって、銀行の資金供給能力を決定するものを追究することが第二のねらいとなり、これが銀行の流動性分析になる。

以上の二つの研究のねらいをより具体的にいえば、次の如くなろう。

第1のねらい

  • (1)全国銀行の預金分析であるが、それがどのような特質のもとに、間接金融の支柱たりうるかの解明、すなわち、非常な増加を続ける個人、企業双方の長期預金について、各々その特質を見究め、それがわが国銀行の構造的機能的な特質――間接金融を可能ならしめる――をもたらすこと。さらに、それら預金が如何なる要因によって変動するか、景気循環との関係でそれを把握し、間接金融の支柱として如何に機能しているかを追究する。
  • (2)全国銀行の貸出分析であるが、先づ貸出資金の流れを明らかにした上で、間接金融に焦点を合わせ、構造的な特質と景気変動に応じた変動を解明することを目標とする。

以上(1)(2)により、間接金融の資金的支柱である預金分析、間接金融の資金供給ルートである貸出の分析を通じ全国銀行における間接金融の実体を明確にし、第2のねらいに入る。

第2のねらい

これは銀行の流動性の解明である。すなわち、銀行の資金供給能力を左右するものが銀行の流動性であるので、静態的、動態的な銀行の流動性指標について、計量的に分析を進める。先づ、静態的な流動性を示す流動資産比率によって戦後銀行の流動性が著しく低下していることを確認する。ついで同様静態的な流動性を示す預貸率からは、流動性の変動および銀行・日銀・企業の三者の関係の究明、また動態的な流動性を示す限界預貸率からは、市場の資金需給の実勢と銀行の資金供給能力の変化の関係の究明が各々目標となる。これらの解明により限界預貸率がどのような要因によって左右されるか、すなわち銀行の資金供給能力(企業の運用資金量)は何によって変動するのかを計量的に分析することがねらいとなってくる。


全文の構成

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  2. <分析>
    1. 2ページ
      設備投資函数についての覚書
      1. 2ページ
        1.はしがき
      2. 5ページ
        2.民間設備投資関係資料とその相互関係
      3. 8ページ
        3.設備投資凾数の試算
      4. 11ページ
        4.資金使途と資金源泉
      5. 2ページ
  3. <ノート>
    1. 8ページ
    2. 48ページ
      供給面分析のためのテスト・サーベイ
  4. <資料>
    1. 64ページ
    2. 69ページ
      合衆国における地域市場の拡大
    3. 94ページ
      経済成長と農業・農家経済(要旨)
    4. 98ページ
      銀行の預貸金流動性分析(要旨)
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