経済分析第6号
勤労者家計における有業率の研究 他

1961年12月
<分析1>
尾崎 巌,小尾 恵一郎
<分析2>
辻村 江太郎
<分析3>
岡崎 不二男
<資料1>
安藤 洋
<資料2>
経済企画庁

<分析1> 勤労者家計における有業率の研究

(要旨)

最近の雇用の動向は、一方において新規学卒労働力の求人難という労働市場の局所的硬化と、他方には依然臨時工、零細企業労働者、中年女子労働力のパートタイム等に、示される多数の低賃金労働者の存在という二面的構造にその特徴を見出すことができる。

局所時にせよ、労働需要が供給を経過し、初任給が高騰するという現象は戦後始めてのことといってよい。このような状況は種々の側面から将来の労働需要に影響を与えるであろう。

賃金の水準および構造に影響する主要な労働供給側の三つの層を区別しよう。

第1は主に成年男子で代表される家計の経済的中心を占める層であり、第2は新規学卒者を含む若年労働力の層、第3は主に家計補助的労働に従事する中年女子労働力の層である。

成年男子層の賃金は、主に国体交渉下の賃金決定を通じて、彼等がその経済的中心を占める各家計の主な収入源を規定する。若年層は市場の需給関係を通じて、初任給決定の場に登場する。その賃金の高騰は年功序列型賃金カーヴを水平化し、賃金体系の変化への契機となり、社会的一般賃金水準に影響を与える。

一方、社会的賃金水準の上昇は中年女子労働力層の労働力率に正負両面の効果を与える。すなわち、成年男子層の賃金上昇は、家計補助的労働力としての中年女子層の労働力率を減少せしめるが、他方、若年労働力の不足および、成年労働力~中年女子労働力の需要交替作用がおこれば、就業機会の増加を通じて、この層の労働力化を促進せしめると期待される。

このような図式の下に本研究では、次のような分析方法をとる。

  • (イ)労働供給の主体を家計とする。家計には経済的中心者(世帯主、以下核とよぶ)を中心として家計構成員(以下非核とよぶ)が労働供給源を構成している。
  • (ロ)家計の経済的中心者、核(成年男子層はこれにあたる)の収入は、非核の労働供給行動に影響を与えるであろう。
  • (ハ)その他の家計構成員(非核)は主に妻と子女から成り、現在のわが国では前者は特に中年女子の家計補助的労働力として登場する。若年男女層の労働力化は常に進学との選択において行われる。男子の場合は、将来家計の核たるべく常に需要側の生涯賃金を基準にして、その労働力化を決定する。若年女子の結婚前の就業は、家計補助的労働の性格が比較的濃厚であると考えられる。

以上の考慮の下に、労働供給量の指標として家計の有業率を採る。

家計の型を15才以上の人員3人の世帯中、特にAm(夫婦と15才以上の息子1人、および不特定数の未成年子女)とAf(夫婦と15才以上の娘1人、および不特定数の未成年子女)およびfA(夫婦と母および不特定数の未成年子女)の三つに限定する。

家計補助的労働に対しては第一段階としては非核(母、妻、娘、息子)有業率を考え、次に、若年層に対応する娘と息子の有業率および主として家計補助的中年女子労働力の主構成要素である妻の有業率を、夫々区別して考察することにした。

本研究で得られた観測事実と計測結果の概要

  • a)一般的結果
    有業率を要動せしめる主要因は、
    イ)性、ロ)年令、ハ)家計内成年人員、ニ)世帯主収入、ホ)世帯主の職業、ヘ)未成年(15歳以下)数、ト)持家の有無、チ)需要側要因として該当供給主体に提示された賃金率
    の諸項目である。
  • b)非核有業率の変動について
    対象世帯は、Am, Af およびfA型世帯であるから、ここにいう非核構成員は妻、男子(15歳以上)女子(15歳以上)である。

1)以上の項目イ)~チ)のうち、支配的な要因で層化した。層化は詳細な方が望ましいが、標本の大きさの制約のため、次の三つの方法が採られた。

勤労者家計における有業率の研究の分析方法
第1家計構成員の性、年令Am,Af,fA
世帯主収入月収8,000円未満を第一階層として、それ以上は4,000円きざみ
第2家計構成員の性、年令同上
世帯主収入同上
職業労務者、職員
第3家計構成員の性,年令fA
世帯主の収入同上
職業同上
妻の年令20~29、30~39才、40才以上

第3の方法はfA型世帯(夫婦+母)にだけ適用された。

2)Af、Am型における(第1の層化に依る)核収入の効果。非核有業率(妻と子-Af 型では娘、Am型では、息子-の有業率平均)は、核収入の増大につれて、(他の条件を一定とすると)減少する。

3)娘、息子の年令の効果。Af、Am型共に、娘、息子の年令は、核収入階層間で大きなちらばりはなく、殆どが15才~24才である。この年令の範囲において、子供の年令の増加はAm、Af両型家計において非核有業率を増加せしめる。

4)非核の賃金率の効果。

非核の平均賃金率(一階層内の非核収入計÷同階層内非核就業者数)の非核有業率に与える影響は、核収入第11階層(月収4万8千円~5万2千円)の上と下で明確に逆転し、第11階層以下では賃金率と有業率は逆相関、以上では順相関である。

A-m型家計では第7階層(3万2千円~3万6千円)を境堺として同様の逆転が見られる。

5)このことは次のように解釈される。

非世帯主有業率μと非世帯主賃金Wの相関は理論的には正であることが期待される。なぜならばWの増加は就業機会の増大を意味し、同一供給主体グループ内におけるより高い労働供給価格をもつものとをも誘引できるからである。しかるに妻と子を一緒にした非世帯主有業率は、A-f型家計では、世帯主収入4万8千円以下、A-m型家計では3万2千円以下で負の関係を示した。このことは妻と子供の何れか一方の有業率の増大が他の非有業化を促進するために、両方の総合効果としては負になったものと見ることができる。すなわち、妻と子供の何れかが世帯主に次ぐ第2の経済的中心者(核的存在)となり、その収入増は他方の非有業化をもたらすと考えられる。いま家計内の他の構成員の収入増によって、非労働力化しうる層を、純粋に家計補助的労働と考えれば、4万8千円以下のA-f型家計では、そのような家計補助的労働力が多数存在していることを示す。このことはA-m型家計で逆転階層が低位置にあったという事実と整合的である。

6)前記 4)、5)の結果と関連するが、A-f型家計では、妻の有業率と女子子供の有業率が互に相互従属的な関係にあり、更に妻の収入水準が女子子供の労働供給行動に与える影響が強く、その結果は負であると推論された。A-m型家計では妻と男子子供の労働供給行動は互に独立であることが見られた。C)A-f型家計における若年女子の有業率について

7)A-f型若年女子の有業率μfは世帯主収入Iの増加と共に減少し、子供の年令上昇と共に増大し、とくに妻の有業化とは従属的で妻の有業率μfを増加せしめる効果をもつ。

8)A-f型若年女子に示される賃金Wfの上昇は、その有業率μfを増加せしめる効果をもつ。

d)A-m型家計における若年男子有業率について

9)A-m型若年男子の有業率は妻の有業率(あるいは収入水準)とは独立である。

10)世帯主収入Iの増加と共に減少し、それ自身の年令の上昇と共に増大している。年令効果の勾配はA-f型女子の場合よりも一層大である。

11)A-m型若年男子に示された賃金率Wmの上昇は有業μmに正の効果を与える。

f)妻の有業率について

12)妻の有業率はAm, Af, fA型を通じて(他の事情一定なる限り)世帯主収入の増加に対して減少する。

13)妻の年令は(他の事情一定なる限り)その有業率を増加せしめる。

14)30才代の妻について雇用労働に従事するものの91%は母のいる世帯である。これに対して内職の妻のいる世帯で母のいる世帯の割合は50%にすぎない。これは30~40才の妻の雇用労働への就業にはChildcareを通じて幼児の有無が影響することを意味している。

15)イ)未成年者数は、Am, Af型では有意な影響は与えない。 ロ)これに対して、f-A型では妻の有業率は(他の事情一定なる限り)未成年数の増加に対して減少する。 ハ)妻20~30代の家計群ではf-A型家計が多く40代以上ではAm, Af型が多いことと結びつけると ロ)は、fA型で未成年者(15才以下)が幼児であり、 ハ)はAm, Af型で未成年者が比較的高年であることを示すものといえよう。従って、未成年者の年令を(例えば満6才以上、以下の如く)分けて、妻有業率への効果を見る必要があるが、これは調査の拡充にまたねばならない。

g)妻の年令別有業率

16)女子の年令別有業率は二つのピークをもつM型をなすことが最近の研究(佐々木孝男:有業率の変動について-「我が国完全雇用と意義と対策」)において明かにされた。

本研究においても、成人3人世帯合計の妻についてみると、20~29才層と、40~49才層をピークとするM字型曲線が見られるが、更にこれを、労務者、職員世帯別帯分けてみると、両者は夫々異なる特徴的な形をなすことが見出された。

17)すなわち、職員世帯の妻の有業率は20~29才をピークとする明瞭な、右下がり曲線になり、これに対して、労務者世帯の妻は、40~49才を唯一のピークとする逆V字型曲線がえられる。

つまり、職員世帯妻の有業率は年令の上昇と共に有業率が単調的減少を辿るのに対して労務者世帯妻は40~49才層へかけて有業率が急増し、50~59才で急減する。

18)労職別妻の有業率曲線の差と照応するものとして、労職別、夫の収入、年令(妻の)別収入曲線が指摘される。職員世帯の夫の収入は年令と共に単調増加するのに対して労務者世帯の夫の収入は30~39才をピークとして、減少することが見出された。

19)16)~17)および18)を結ぶと、職員世帯では夫の収入の生涯的増加が妻の有業率の単調減少をもたらし、労務者世帯では、40才代以降の収入減少が妻の有業率と増加を招来したものと推論される。従ってAm, Af、fA型における労職別、妻有業率~妻年令曲線の差異には、主として夫の収入の生涯的パターンの差が支配的影響を及ぼしているといえる。

h)此後の課題

20)以上の分析は主として昭和34年家計調査資料再集計原表に依るクロス・セクション資料を中心として行われたが本研究では最近入手可能となった昭和35年度の資料を中心として補完、拡充の途上にあり、有業率の時系列変動機構とその要因分析については次稿において更に検討を加えたい。

21)景気変動過程における就業構造の変動機構は特に我が国においては、雇用労働-家族労働の代替-流動関係を無視しては明かになしえない。(本研究シリーズ2、景気変動と就業構造参照)従って、本研究は、勤労家計に関するものであるが、自営業主家計についても同様な分析を適用することによって、はじめて全般的な我国就業構造の計量的解明が可能となる。

個人業主調査の再集計を含む資料の整備をまって、この方向の分析が次の課題である。


<分析2> 低位就業と分配率

(要旨)

本稿は、わが国において規模別の大巾な賃金格差の存在している事実と、これに対する説明として限界生産力説的命題の無意識な適用から出発して、賃金が限界生産力以下に決定されうること、さらに生産性の賃金との関係は、生産の工学的技術的条件(生産函数)の相違と労働市場の需給バランスの両者によって説明されなければならぬことを明らかにしたものである。

まず、作業仮説として限界生産力説的な構図を明かにし、これを念頭におきながら、資料にあらわれた生産性と賃金との関係を考察する。

このモデルから製品市場と労働市場がともに完全競争的であれば、賃金は限界附加価値生産力に一致することが明かにされる。しかしながら、現実のデータは規模別分配率の差を買手独占度の差で説明することは困難であることを教える。この反面、規模別分配率の格差を工学的技術的条件によって説明することは一応説得的にみえるが、分配率の国際比較を行うと、この説明が無力であることが明かにされる。すなわち、日米の分配率を産業毎に比較すると、例外なく、わが国の分配率の方が低い、この事実を工学的条件の差や製品ならびに労働に関する市場の競争条件によって説明することはできない。すなわち、日米の分配率の差異は、他の条件によって説明されなければならない。

かつて、ダグラスは限界生産力説の諸前提のうち、現実に満たされない可能性のもっとも強いものの一つとして「失業が存在しない」という前提を掲げており、失業の存在する社会では賃金が雇用労働力の限界生産力以下となる可能性を指摘している。

周知の如く、中進国や後進国においては、いわゆる潜在失業が存在し、就業者中の過剰就業労働力が理論上の「失業」に対応する存在になっている。

この労働市場の需給バランスを導入すると、分配率の差異をよりよく理解することができる。まず、32カ国につき、分配率と雇用者比率とを比較すると、相関係数は0.624と1%水準で有意であり、回帰式は


(分配率)
=14.85+0.447X
(0.102) (雇用者比率)

となる〔()内数字は標準誤差、以下同じ〕。これによって、構造的失業率に高いほど分配率が低いこと、すなわち、生産性に対して賃金が相対的に低下されることが確認される。

さらに、日米の産業分配率については


(日本の分配率)
=-5.56+0.8467X
(米国の分配率)
R=0.693

(日本の産業の分配率)
=-5.57+0.9638X
(0.1791)(米国の分配率)
-0.2225Y
(0.0729)(女子の比率)

R=0.8196

という結果を得る。これは、産業毎の生産函数のかたちは、日米間でかなり一致していること、さらに、労働市場の需給バランスを示す女子従業員比率を説明変数として、追加することによって、高度に有意な相関が得られることを示し、労働市場の需給バランスを説明変数として追加することの有効性を証明する。


<分析3> 地域経済計画のための一つの計量経済学モデル

(要旨)

  1. 国の経済見透し乃至経済計画に対応して、数多くの地域でも、各種の計画作成作業が行われている

    その場合、国と地域との関係について極めて大胆な仮定を設け、更に、いわゆる積み上げ方式が採用されることが多い。このことは、地域経済に関する変数相互の構造的特性を客観的に説明することを困難ならしめ、場合によっては、恣意的な結果すらもたらす。

  2. この小論は在来の地域短期経済計画作成に当って、国と地域及び地域内の経済構造における特性を、計量経済モデルによって把握した上で、国の経済計画に対応する地域経済の予測的見透しを得る方法を、実例によって提示するものである。

  3. このモデルは、短期計画のための、地域所得モデルと呼称できよう。地域所得成分を内生変数、国の計画についての若干の指標を外生変数として含み、方程式は14個である。

  4. 外生変数に国の計画で与えられた、外生変数の値を挿入することによって、国の計画の目標年次の、地域経済見透しが求められる。

  5. 地域所得モデルを、現時点で作成する場合、サンプル数は極めて少ない。このことは、モデルに外挿を行う際、理論上可成りの困難を予想させる。この小論では、例示的に阪神地域のデーターを使用してモデルを作成し、外挿に先立って必要な各種テストを行うとともに、上掲のような地域モデル特有の難点についても、若干の解決方法を試みてみた。


<資料1> 個人貯蓄の主体別推計

(主体別個人貯蓄の必要性)

  1. 公表国民所得統計(経済企画庁経済研究所)における個人貯蓄は、それぞれ独立に推計された個人可処分所得および個人消費支出の差として間接的に推計されている。このような残差計算による推計には、推計上の誤差が含まれる可能性が大きい。したがって、公表の個人貯蓄とは別に、できればより直接的な推計法による個人貯蓄の推計が要求される。

  2. 公表の個人貯蓄推計は個人部門における貯蓄を総額として推計したものであり、その内容については何らの情報も与えない。個人貯蓄はさまざまな属性をもつ家計の経済活動を通じて発生するものであるから、個人貯蓄の動きを分析するためには、個人貯蓄を主要な家計グループにわけて推計することが望ましい。

    個人貯蓄との関連で考慮されなければならない家計の属性としては、家族人員、年齢構成、世帯主の職業および就業上の地位、家族の就業状況、地域別、家計所得水準のちがいなどが挙げられる。ここでは、世帯主の職業別-就業上の地位別(以下においては単に主体別と称する。)に個人貯蓄を推計することを試みた。個人貯蓄の長期的変動の理解のためには、この分類による推計が分析の手がかりを与えるのに最も好都合的であると判断したためである。

  3. 主体別に個人貯蓄を推計する場合、可能な推計方法としては、1)主要な主体グループごとに可処分所得と消費支出とを推計してその差として個人貯蓄をもとめる残差法、2)主体別に、貯蓄の純増を直接もとめる推計法、3)主体ごとに細分されたマネーフロー表式による推計の三つが主なものである。ここでは、一世帯当りの平均貯蓄額に世帯数をかける推計法がとられている。これは、2)に属する推計法であり、現在利用可能な資料では他のどの推計法よりも適応が容易なためである。とりわけ、この推計法はわが国のように、「家計調査」が発達している場合にはじめて可能であり、また有効であるとも予想される。

  4. もっとも、このような世帯単位の個別資料から総計量を推計する手つづきについては、従来、多くの問題点が指摘されている。しかし、個人貯蓄を家計の特性によって分類してゆく場合には「家計調査」が最も基本的な資料であり、このような世帯単位の資料なしには個人貯蓄の主体別内訳を推計することは不可能である。したがって、問題点があるにせよ、このような推計法がどの程度有効であるかを検討する意味からも、家計調査資料を用いて主体別個人貯蓄の推計を試みることは意義があると考えられる。


<資料2> 昭和35年度国民所得報告

(はしがき)

この報告は、昭和35年度の国民所得計算の推計結果をとりまとめてしめしたものである。国民所得計算の諸計数の動きについての概括的な説明は概観として述べられている。

ここでは35年度に達成された国民総生産と国民総支出の水準および構成を評価し、さらに、この年度の経済諸部門の活動を国民所得計算の個別鑑定の体系にもとづいて概説している。

なお国民所得計算の方式については昨年度報告と変化はない。

また推計の資料および方法については、例年と同様であるが、ただ35年10月におこなわれた国勢調査の結果が今年11月中旬に発表されたので、前回の国勢調査のおこなわれた昭和30年まで遡って国民所得計算の改訂をおこなっている。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 911 KB)
  2. <主要項目の要旨>
  3. <分析>
    1. 6ページ
      勤労者家計における有業率の研究
    2. 27ページ
      低位就業と分配率別ウィンドウで開きます。(PDF形式 909 KB)
    3. 38ページ
      地域経済計画のための計量経済学モデル
  4. <資料>
    1. 48ページ
    2. 67ページ
      昭和35年度国民所得報告
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