経済分析第12号
わが国における個人消費(貯蓄)凾数の実証的研究について 他

  • <分析1>わが国における個人消費(貯蓄)凾数の実証的研究について
  • <分析2>わが国銀行の貸出行動について-都市銀行を中心として-
1963年9月
<分析1>
大谷 洋
<分析2>
斎藤 健

<分析1> わが国における個人消費(貯蓄)凾数の実証的研究について

(はしがき)

わが国における個人消費(貯蓄)凾数の実証的研究は数少なくない。これらの研究を通じてこれまでどれだけの事実が戦後の消費(貯蓄)について明らかにされてきたかを整理するのがこのノートの主な目的である。とりわけ,従来の研究は個別的に行われることが多く,関連のあるその他の研究にそれほど関心が払われなかったり,その個別研究が全体としての個人消費(貯蓄)凾数にどのような意義をもつかという点について考慮がはらわれていない場合が多かった。したがって,これらの多くの研究から戦後の日本における消費(貯蓄)の問題をどう理解するのが正しいのか,あるいはまた,欧米で理論的にも実証的にも確立されたとみなされているいわゆる定説をもってわが国の消費・貯蓄構造がどこまで説明できるのかというような点が必ずしも明らかであるとはいえない。本稿ではこれらの研究をできるだけ整理して問題の綜合的理解に役立つことが意図されている。

ここでは,整理の方法として分析方法による分類をとっている。すなわち,1 総計量分析,2 家計調査分析である。これは,マクロ分析およびミクロ分析に相当するもので,資料面からいえば前者は国民所得資料を,後者は家計調査資料を主として利用する。

総計量分析における個人消費(貯蓄)凾数はその大部分がマクロ計量経済モデルのなかで扱われており,モデルのなかでは最も問題の少ない,つまり,相関係数がつねに高く,係数も有意に計測される変数としてあまり立ち入って考察されたことがなかったというのが実状である。

わが国における個人消費(貯蓄)凾数の研究の焦点は家計調査分析にあり,従来の研究の過半数はこのミクロ分析に属している。これは,わが国において家計調査資料が相対的に豊富である事情を反映したものである。そこで,これらの諸研究を接近方法に応じてさらに分類してとりあげるのが便利であろう。

ここでは,つぎの3つの分析に分類した。すなわち,1 時系列分析,2 クロス・セクション分析,3 時系列とクロス・セクションの綜合的分析。このなかで,第3の時系列とクロス・セクション資料による綜合的分析は比較的最近になって試みられたもので,資料の制約もあってまだ十分に研究されてはいないが,消費(貯蓄)凾数の綜合的理解の立場からは将来もっとも開発されなければならない方向であるとみられる。

クロス・セクション分析は家計調査分析のなかでもっとも研究の数も多く,それぞれ興味の焦点が異なるので,ここでは便宜上,取りあげられた主要な問題別につぎのように分類した。i)経済主体別所得階層間分析,ii)地域別所得階層間分析,iii)家計特性別所得階層間分析。

以上のような分類をとった上で,第1節,第2節はそれぞれに代表的な研究を紹介しながらその主要な結論を要約することにあてられる。第3節では,これらの諸研究からひき出される結果が矛盾なく綜合的に理解することができるかどうかをめぐって,いくつかの問題点を指摘して結論にかえる。

なお,個人消費(貯蓄)の主体間分析をすすめるためには,現状はまだ主体間で比較可能な概念による基礎資料の整備が必要な段階にある。したがって,この点に関する研究は,推計の問題にわたるので,ここでは付録としてとくにその主要な結果を推計方法とともにとりあげることにした。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 481 KB)
  2. 2ページ
    わが国における個人消費(貯蓄)凾数の実証的研究について
    1. 2ページ
      第1節 総計量分析
    2. 7ページ
      第2節 家計調査分析
    3. 13ページ
      第3節 消費(貯蓄)凾数の綜合的理解について
    4. 15ページ
      付録

<分析2> わが国銀行の貸出行動について-都市銀行を中心として-

(はしがき)

実物と金融との関係をどのように考えるかという問題は一応別として,経済における金融の役割がきわめて重要であることは改めて記すまでもあるまい。とくにわが国のように,産業資金供給が殆んど間接金融によって行なわれている場合には,金融機関,とりわけ銀行の果す役割が非常に大きく,それを明らかにすることなしには,経済の実態を充分に把握することができないと考えられる。わが国における銀行の役割を理解すためには,単に銀行を資金余剰部門(家計)と資金不足部門(企業)との間の仲介機関として見るだけではなく,一つの経済主体,一つの企業としてとらえ,その主体的行動を明らかにすることが必要であろう。すなわち,銀行を全体としての銀行組織という段階で論ずるだけではなく,ある程度個別銀行の段階にまで掘り下げて分析することが必要である。(注)しかし,いままでのところ,このような形の分析は殆んど行なわれていない。

現在,金融ユニットでは以上のような視点から,都市銀行を中心とした「銀行行動の分析」を作業中である。本稿はその一部をなすものであり,とくに銀行の貸出行動についてまとめたものである。

銀行行動全般の中で,貸出行動はきわめて重要な部分をなしていると考えられる。その理由の一つは,産業界に対する資金供給という銀行の主要な役割が,具体的には個々の貸出によって行なわれていることにある。第二の理由は,銀行を企業経営的側面から見た場合に,貸出行動が主たる収益源になっているという点に求められる。すなわち,最近の都市銀行を例にとれば,総預金の約9割,総資産の約6割(いずれも期末計数)を貸出に運用しており,貸出金利息収入によって総収入の6割以上をあげているのである。

ところで,貸出行動の分析に際しては,国民経済的観点から,あるいは銀行経営上の視点からさまざまな接近が考えられるが,われわれが狙っているものはいわば両視点を結びつけることである。そのような意味合いから,ここでは,個々の銀行の貸出総額がどのように決定されているかという問題を中心にして考察を進めることにしよう。


(注) 米国においても,最近,金融政策の効果という点にからんで,このような分析の必要性が提唱されている。H.G Johnson, “Monetary Theory and Policy”American Economic Review, June 1962,高山晟訳「貨幣理論と貨幣政策」(久武雅夫編「現代の経済学I」)P.161参照。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 696 KB)
  2. 23ページ
    わが国銀行の貸出行動について―都市銀行を中心として―
    1. 23ページ
      はしがき
    2. 23ページ
      第1節 わが国銀行貸出市場の基本的性格
    3. 28ページ
      第2節 銀行貸出と費用
    4. 35ページ
      第3節 最近の動向から見た都市銀行の貸出行動パターン
    5. 41ページ
      第4節 要約
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