経済分析第13号
価格面を内生的に組み込んだ日本経済の計量モデル 他

  • <分析>価格面を内生的に組み込んだ日本経済の計量モデル
  • <資料>わが国における産業別間接費について
1964年9月
<分析>
宮本 邦男
<資料>
楠田 義

<分析> 価格面を内生的に組み込んだ日本経済の計量モデル

(序論)

本作業の最終目標は、日本経済について価格を内生変数として組み込んだ長期計画用の計量経済モデルを作成し、それを用いて理論的に整合を保護された長期経済計画を樹立するところにある。

周知のごとく、今迄にわが国で作られた経済計画は、その殆んどが、大まかなフレーム・ワークと単純な積み上げ方式により、しかも価格面を捨象した実物量だけで作成されているために、1)内部的な整合性を欠き、価格面から計画が崩れ去ってゆく場合が多かった。かかる事態を避けるためには、理論的整合性を保証し、計算過程の明瞭な計量経済モデルによる接近を根気よく継続することが必要である。

しかし、かかる見地から今迄に日本経済についていくつかの計量経済モデは作成されてきたが、それらは殆んど実物支給面だけの短期単純予測モデルであった。2)

それは、価格面を組み込んだ長期計画モデルを作成することが、理論上からも資料上からも又統計処理上からも非常にむずかしいからに外ならない。すなわち、まず第1に、価格を陽表的にモデルに組み入れることが困難である。現実の財貨、労働、金融の各市場において価格がどのような役割を果し、どのようにして決定されるかについては、様々な考え方があり、未だ十分な検証がなされていない。更にGNPデフレーター、賃金率、労働生産性、実効金利など価格関係の諸統計には定義上も精度上も問題が多い。又、価格を導入するとどうしてもモデルが非線型になり、統計処理上の困難が著しく増大する。第2に、長期モデルという点にはつぎのような困難が伴う。まず理論的には、われわれの計量経済モデルはその背後にある経済構造が不変であるという前提に立っているが、現実の経済では長期的な構造変化は不可避である。この難点を避ける1つの方法としてKleinが日本経済の長期モデルで行ったように3)構造変化を表わす仮設変数を利用することも考えられるが、それは必ずしも納得的ではない。又実際的には、長期モデルを作成するためには相当長期に亘った観測資料が必要となるにも拘らず、特に価格関係の資料を他の資料と同じ程度の精度で長期間に亘って作成することは不可能に近い。第3に、計画モデルという点については、一般に政策変数をモデルに導入するとモデル全体の適合度が低下し説明力が落ちる欠陥があるが、価格を組み込んだモデルでは、その非線型性のために、計画モデルとしての使用が著しく困難になることが予想される。

以上のような諸問題を承知で、われわれは敢えて上記モデルの作成にとりかかったのであるが、その場合、つぎのような考え方で作業を進めることとした。すなわち、第1目標として、価格を内生的に組み込んだモデルの作成だけを覗い、長期計画という性格にはとりあえずこだわらない。しかもこの第1目標の作業を更に2段階に分ける。その第1はいわばテスト・プラントであって、価格モデルとしてどの程度のものが作り得るか、それがどの程度workableであるかなど、その感触を探ることを目的とする。これは、本格的な価格モデルが今迄1度も作成されたことがないという公的な理由と、筆者にとって計量経済モデルの作成は初めての経験であるという私的な理由とから、不可欠な過程であると考える。なお、この第1段階モデルには戦後の年データを使用し、推定法も最も簡単な直接最小2乗法で済ませ、努力を専らその価格面での構造と行動とを見る点に集中することにした。すなわち、理論的な設定を重視して、支出→生産→分配の3面を統一的にモデル化し、所得面をdeflateせずに名目のままで扱い、価格決定をbehaviouristicに説明することを目指す。その結果、実質量×価格=名目量という定義式を通じてモデルが非線型にならざるを得ないが、それを敢えて避けず非線型体系の性質を研究することにする。さて、価格モデルの第2段階は、価格面の構造と行動、その実物面との絡み合いの説明力を増すことをその目標とする。そのためには価格面、実物面共に変数の細分化と新たな変数の追加が必要となる。したがって、相当大きな標本が必要となるので、4半期データを用いる。標本のサイズが大きくなれば、最小2乗法よりも望ましい推定値をもたらす推定法を適用することが可能となり、更に計画モデルとして好ましい3角型にモデルを構成することもできる。ただし、4半期資料によるモデルが長期モデルとして使い得るかどうかは問題であるが、この点は更に研究したい。

以上で価格モデルが完成したら、第2目標として、それを長期計画モデルに改造することを試みる。そのためには、いままで述べて来たようないくつかの問題点を解釈しなければならないが、それらは又別の主題に属する。4)以下の報告は、われわれの作業の第1段階前半に当る年データによるテスト・モデルについてのものである。サンプル・サイズ11というのは非常に狭苦しい部屋のようなもので、実際的な発言をするためには制約がきつすぎる。したがって、ここでの結果はすべて試論的なものにすぎない。しかし、かかるものをあえて公表するゆえんは、作業過程の散逸を避けるためと、試論的ではあれいくつかの興味ある結果が得られたために外ならない。


1)大来佐武郎,「所得倍増計画の解説」,日本経済新聞社,1961. 参照。

2)今迄に作成発表された日本経済の計量モデルは別表の通りである。これから明らかのように、価格面と正面から取り組んでいるのは、No.9, No.12, No.13, No.15, No.19の 5つにすぎない。価格と関連の深い分配所得、雇用などを組み込んだモデルが多いが、それは価格形成のコストを説明するのが目的でなく、有効需要を説明するためのもので、したがって所得はすべて予め実質化されている。(本作業は1963年の夏に行ったものなので、これはそれ以前の業蹟のみを挙げている。その後更にいくつかのモデルが発表されており、それらの中には"価格を内生的に取り組む"という面での努力を示しているものもあるが、ここでは割愛することにした。)

3)Klein. L.R. and Shinkai, Y. "An Econometric Model of Japan, 1939~59",International Economic Review Vol.4, No.1, 1963. 参照

4)本作業で作成したモデルは、今迄に作成された殆んどすべての計量経済モデルと同様に、基本的には短期有効需要型モデルである。このタイプのモデルを長期計画用として使用することがどこまで可能であるかは非常に大きな問題である。経済計画における短期有効需要型モデルと長期成長型モデルの関係、あるいはプロセス・モデルとターゲット・モデルも関係については別の機会により深く研究したい。


全文の構成

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  2. 2ページ
    第1章 序論
    1. 2ページ
      本作業の性格
  3. 6ページ
    第2章 モデルの構成
    1. 6ページ
      1 2つの接近方式
    2. 6ページ
      2 KBHVモデルの検討
    3. 7ページ
      3 われわれのモデルの構成
  4. 14ページ
    第3章 モデルの推定
    1. 14ページ
      1 データと推定法
    2. 15ページ
      2 推定結果とその解釈
    3. 30ページ
      3 問題点と今後の課題
  5. 38ページ
    第4章 種々の分析
    1. 38ページ
      1 線型近似体系の作成
    2. 42ページ
      2 内挿
    3. 46ページ
      3 外挿
  6. 47ページ
    第5章 データとグラフ
    1. 47ページ
      1 データの作成法
    2. 51ページ
      2 データ
    3. 54ページ
      参考文献

<資料> わが国における産業別間接費について

(はしがき)

一般に企業における生産費(販売費及び製造原価)は、生産費に直接に関連する労務費、原材料費などの直接費と、販売費、一般管理費、その他の営業費用などの間接費の二つに分けられる。本稿では、国民経済的立場から後者の範疇に入る産業別の間接費について考察を行う。

この間接費は、売上数量の変動によって変化する変動費と、売上数量の変動に関係ない固定費の二つに分類される。前者は、販売運賃、販売のための包装費、広告宣伝費、出張旅費などの諸費用であり、後者は、機械・建物の減価償却費、動産・不動産の賃貸料、借入資本の利子などの諸費用である。しかし、これらの費用の中には、売上数量の増減に正比例するものや、その変化率が大きいものと小さいものがあり、厳密な意味ですべての間接費について変動費と固定費の二つに分類することは困難である。問題意識としては、このような売上数量と費用の分析を通じて産業発展と間接費の関係を明らかにすることにあるが、この問題を本格的にとりあげるには、まず日本経済における産業別間接費の水準と内容を明らかにしておくことが前提となる。この意味で、本稿では、主として産業別の間接費の水準と構成を中心とした分析とその推計方法の検討を行う。売上高と間接費の関係について時系列的分析は、資料的制約もあり充分に行うに至らなかった。

なお、本分析の基礎資料となっている「法人企業間接費調査」は、産業連関表及び国民所得統計における産業別生産所得の推計のための資料上のウイーク・ポイントとなっている企業のサービス・コストと家計外消費(企業の消費的経費)の推計のために行われたもので、本推計値は、産業別の生産所得の精度をあげるための貴重な資料となっている。

本稿の内容は次の4つに分けられる。1は、「法人企業統計年報」の業種別損益表によって、製造業を中心として最近における売上高と間接費の関係を概観し、2と3は、「法人企業間接費調査結果第1次報告」註1)資料に基づいて昭和35年の産業別間接費の水準ならびにその構成を分析し、4は、始めての試みとしての昭和35年「産業別間接費調査」の推計上の問題点をあげている。

分析に入るまえに産業別間接費の定義を次のように規定しておく。

物的産業部門である第1次産業および第2次産業については、企業が生産活動に伴って投入した営業経費のうち、原材料、燃料、動力費および人件費を除く諸経費を指す。第3次産業については、運輸通信業に関しては、燃料、動力費および人件費を除く諸経費を、商業、サービス業は、人件費を除くすべての経費をいう。


註1) 「法人企業間接費調査結果第1次報告」昭和38年3月経済企画庁,経済研究所


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 809 KB)
  2. 56ページ
    はしがき
  3. 56ページ
    1 製造業における売上額と間接費の関係について
  4. 60ページ
    2 昭和35年における産業別間接費について
  5. 65ページ
    3 家計外消費の概念および推計値について
  6. 68ページ
    4 産業別間接費の推計上の問題点について
  7. 72ページ
    付録
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