経済分析第16号
資本ストック成長の構造分析 他

1965年12月
<分析1>
浜田 文雅
<分析2>
水野 正一,小林 弘道

<分析1> 資本ストック成長の構造分析

(序論)

戦後のわが国における固定資本ストックの成長は、特に際立って高いことがしばしば指摘されている。例えば、1956~1963年におけるわが国製造業主要企業グループの実質粗固定資本ストックの成長率は年率平均で約25%、同じ期間における実質売上高成長率は年率平均で約15%であった(後出表1を参照)1)。したがって、この期間における実質粗固定資本係数は、製造業主要企業グループに関するかぎり、年率平均で約10%の上昇を示したことになる。

このような資本ストックの高い成長率が、主として生産技術の著しい進歩と所得水準の急激な上昇に帰因するという見方は、多くの論者によって支持されてきたように思われる。R.M.ソロー[6]はアメリカ合衆国の1909~1949年のデータによって、この期間の生産における中立的技術進歩の累積効果が80%にも達し、労働生産性の上昇率の8分の7が技術進歩に、残りの8分の1が資本・労働比率に依存していることを明らかにしている。

資本ストックの成長を支える他の一つの要因として資本の労働に対する相対価格に注目することができるであろう。1956~1963年のわが国製造業におけるこの相対価格は年平均で約7%の低下傾向を示している(後出表1を参照)。資本、労働比率とこの相対価格との間には、少なくともその長期傾向として、明瞭な逆相関が観察される(本稿末の別図1~17を参照)。

いま仮に、コブ・ダグラス型の生産関数を条件とした費用極小原理にしたがって固定資本ストックの最適量を求めると、つぎのような周知の方程式を得る。すなわち、

数式

ここに、数式は最適な固定資本ストック量、数式は資本の労働に対する相対価格、 は生産量である。試みに、この対数線型方程式を製造業業種別主要企業グループの時系列データ(半期別)に適合してみると以下のような結果を得た。

製造業業種別主要企業グループ別の計測結果
化学工業 化学工業
鉄鋼 鉄鋼
金属製品 金属製品
電気機器 電気機器
輸送用機器 輸送用機器
自動車 自動車
製造業計 製造業計

ここに、R は重相関係数、d はワトスン・ダービン統計量、自由度はすべて12である。また、データについては本稿末の付録を参照せよ。

以上は推定結果の一部であるが、これらの業種において、相対価格の係数が有意に負値と認められるのは鉄鋼のみであり、皮肉なことには、製造業計において有意に負の推定値が得られている。これらの計測結果から明らかなように、相対価格の効果は、恐らくマルティコリニアリティが主な原因で、多くに場合にそれらの推定を困難にしているものと考えられる。

そこで、以下においては、直接的な回帰推定法によらずに相対価格の効果を推定することを試みた。IIでは、中立的な技術進歩、生産拡張-またはその期待の強さ-および資本の労働に対する相対価格という三つの要因と資本ストックとの関連-企業の最適な資本ストック量決定のメカニズム-が示される。そこでは、固定資本ストックの成長率が中立的技術進歩の効果、生産拡張の効果および相対価格の効果という三つの効果に分解される理論的構図が明らかにされる。IIIでは、これらの三つの効果が1956年上期~1963年上期のわが国製造業主要企業グループに関する産業別時系列データを利用して推定される。その結果、資本ストックの成長に対して最も強い影響を与えたのは、生産拡張-またはその期待の強さ-および資本の労働に対する相対価格の傾向的な低下であり、中立的技術進歩の効果は予想されたよりも小さいことが明らかにされるであろう。

技術進歩の効果の推定に関してはすでに多数の研究者による成果が発表されている2)。したがって、この小論では上述の三つの効果がそれぞれどの程度に有効であるかを明らかにすることに力点をおくことにした。


1) ここに、主要企業グループとは、大手企業の固定したグループのみを指している。したがって製造業全体での資本ストックの成長速度を表わしているのではない。

2) 例えば、R.M.ソロー[6]、L.ヨハンセン[5]、K.J.アロー他[1]、M.ブラウンとJ.ポプキン[2]、C.E.ファーガスン[3]などを見よ。

[1] Arrow K.J., H. B. Chenery, B.S. Minhas, and R. M. Solow, "Capital-Labor Substitution and Economics Efficiency", The Review of Economics and Statistics, August, 1961. pp225~256

[2] Brown M. and J.Popkin, "A Measure of Technological Change and Returns to Scale", The Review of Economics and Statistics, November, 1962, pp.402~411

[3] Ferguson C.E., "Substitution , Technical Progress and Returns to Scale" American Economic Review, May, 1965, pp.296~305

[5] Johansen L., "A Multi-Sectoral Study of Economic Growth", Amsterdam 1960
 西川訳「経済成長の多部門分析」(ダイヤモンド社)

[6] Solow R.M., "Technical Change and the Aggregate Production Function", Review of Economics and Statistics August, 1957, pp.312~320


全文の構成

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  2. 1ページ
    I. 序論
  3. 2ページ
    II. モデル
  4. 4ページ
    III. 経験的結果
  5. 6ページ
    IV. 結論
  6. 7ページ
    付録・参考文献・付図

<分析2> 製造業(法人企業)在庫投資行動の研究

(はしがき)

本研究は製造業・法人企業の在庫ビヘイヴイヤを業種別・規模別に考察したものである。

米国においては、1950年代から60年代の初めにかけて、在庫分析に関する多くの研究があらわれ、一つの頂点を極めた感じがある。しかし、わが国では従来、この分野の本格的な研究が少なく、藤野、篠原、並木、森口等各氏の研究を数えるにすぎない。戦後日本経済の景気変動において、主動的役割を果たしてきた在庫変動につき、本格的な分析のメスを加えることは、この面での弱点を補強することになるであろう。

本研究では、主として法人企業統計季報のデータを用い、それに慎重なデータ処理を加えた後、業種別、規模別に在庫の変動パターンを考察し、さらに在庫関数の計測を試みた。

第I章において、業種別、業種規模別の在庫の変動を景気循環との関係において形態論的に分析する。第II章においては、つぎの二つの章において計測される在庫関数の理論的基礎について簡単に述べ、第III章で業種別在庫関数の計測を、第IV章では業種・規模別在庫関数の計測結果を示す。そこにおいては製品在庫、原材料在庫、仕掛品在庫のそれぞれについて在庫関数の計測がなされるが、とくに製品在庫関数の考察に重点がおかれている。最後の第V章では、この分析に用いた法人企業統計季報のデータ処理、とくに規模修正と評価調整について説明しておくことにする。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.3 MB)
  2. 15ページ
    はしがき
  3. 15ページ
    I. 景気循環と在庫変動
  4. 30ページ
    II. 在庫関数の理論的基礎
  5. 35ページ
    III. 業種別在庫関数の計測結果
  6. 50ページ
    IV. 業種別規模別在庫関数の計測結果
  7. 75ページ
    V. 基礎データの処理
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