経済分析第18号
巨視的計量モデルと時間にかんするアグリゲイション 他

1966年6月
<分析1>
森口 親司,中沢 拓生,土志田 征一
<分析2>
内野 達郎,黒河 一夫,青木 雅明,犬塚 明
<分析3>
斉藤 充夫
<資料>
安藤 登

<分析1> 巨視的計量モデルと時間にかんするアグリゲイション

(序)

現在、経済予測を目的のひとつとして作られた計量モデルは数多くあるが、その多くは年次モデルか四半期モデルである。最近になって半年次モデルが作成された。異なる期間に基づいた計量モデルは、異なるタイム・ラグの構造をもち、したがって異なる動学的性質をもつけれども、それらはしばしば経済予測という共通の目的のために用いられる。

そして、予測結果をみると、一年間の予測に関する限り、年次モデルのほうが四半期モデルよりもよい結果を生ずることがある。さらに、四半期や半年次モデルから予測された変数の系列は年間の数字にアグリゲイトされて初めて意味をなすという場合がしばしば起こる。これらの事実は何に起因するのであろうか?推定しようとする計量モデルを期間に関してアグリゲイトすることにより、われわれは原データのもつ情報の一部を失う。

その上、真の構造が短い期間に基づいて組み立てられるべきだとすれば、期間に関してのアグリゲイションは方程式のスペシフイケション・エラーを避けることができない。

本論文では次の2点に注意を向けることとする。

  • (1) アグリゲイションに関連するパラメーター推定値の性質
  • (2) 推定されたモデルが再現する変動径路の動学的性質

全文の構成

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  2. 1ページ
  3. 1ページ
    I.単一方程式における期間についてのアグリゲイション
    1. 1ページ
      1.もっとも単純化されたモデル
    2. 2ページ
      2.ラグ付変数について
    3. 2ページ
      3.自己回帰型モデル
  4. 4ページ
    II.相互依存的動学体系での時間にかんするアグリゲイション

<分析2> 回帰分析による国民所得の早期把握-いわゆる事後的段階予測法-

(経済政策と早期統計情報)

個々の経済政策はいくつかの過程からなっており、それぞれの過程においては多くの時間が費やされる。経済政策に付随したこのような時間的遅れはとくに短期政策の次元において無視しえない重要な問題となろう。この政策ラグの問題に関して、たとえばマスグレイブは一般的に経済政策は(1)政策調整を必要とする事態の発生からその必要の認知まで、(2)政策変更の必要の認知からそのような変更の実施まで、および(3)政策変更の開始から所得水準の変化が有効に実現するまでの三つのプロセスからなっており、伸縮的な政策を確保するためにはこれら各プロセスにおけるラグを最小にする必要があることを指摘している1)。小論でとくに問題にしなければならないのは(1)における情報の遅れ(Information Lag)である。短期政策の変更を必要とする事態が発生したかどうかを認知するためにはカレントな統計情報によらなければならないが、統計データの作成には時間がかかりしたがって事態の発生から情報入手までにはかなりの大きさのラグが存在する。

このようなラグを縮小するためには個別の景気観測統計の作成期間を短縮し、いわゆる「速報数値」をさらに早く入手しうるようになることが望まれるが、さらにわが国の統計情報制度に即して考えるともう一つの問題があることに気づくであろう。それは個別の景気観測統計の数値に比較して四半期別国民所得データの入手が著しく遅れることである。短期政策のための情報として有用と考えられる月次データの多くはほぼ1~2か月後に入手可能となるのに対して四半期別国民所得統計の速放数値は5~6か月後でなければ入手できない。このような情報入手の時間的制約は短期経済政策の有効性ないしは伸縮性を著しくそこなうものであろう。もちろん、情報入手の早い多種の景気観測統計に基づいて直接経済の現状判断を行なうことも可能であるが、この場合客観的な判断に到達することはきわめて困難であると考えられる。

一方では現状判断において最優先すべき四半期別国民所得データの入手時期が著しく遅れ、他方ではそのままのかたちでは利用することの困難な多種の早期統計情報が存在するという状況にある場合、とるべき道としては後者の情報を前者の情報に変換する何らかの客観的な方法を開発することであろう。以下に述べる「事後的段階予測法」は基本的にはこのような観点から開発されたものであって、国民総支出の各構成項目の最近の値を、情報入手が早くまた比較的信頼の高い実績データによって予測する方式をとっている。


  • 注1) Richard A. Musgrave The theory of public Finance, 1959, 邦訳 木下和夫監「財政理論III」PP, 751~757.
  •  同様に経済政策におけるラグに言及した最近の文献には次のようなものがある。
  •  E. S. Kirschen and others, Economic policy in our Time Vol 1 General Theory, 1964, P265.
  •  Economic Commission for Europe, Economic Survey of Europe in, 1959 Chapter V P19.
  •  Organization for Economic Co-operation and Development Techniques of Economic Forecasting, 1965, P9.

全文の構成

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  2. 9ページ
    I.経済政策と早期統計情報
  3. 9ページ
    II.事後的段階予測
  4. 12ページ
    III.推定手続き
  5. 18ページ
    IV.推定結果について
    1. 19ページ
      1.個人消費支出
    2. 19ページ
      2.民間住宅
    3. 19ページ
      3.民間企業設備投資
    4. 20ページ
      4.政府固定資本形成
    5. 20ページ
      5.政府経常支出
    6. 20ページ
      6.輸出および海外からの所得
    7. 20ページ
      7.輸入および海外への所得
    8. 20ページ
      8.在庫関係式
    9. 22ページ
      9.新推計デフレーターの推定式
  6. 23ページ
    V.現状の迅速把握 ―結びに代えて―
  7. 23ページ
    参考式A 事後的段階予測用の推定資料集(新国民所得統計)
    1. 23ページ
      1.国民総支出項目推定式
    2. 31ページ
      2.新推計四半期別デフレーターの個別物価指数による推定式
  8. 32ページ
    参考式B 事後的段階予測のための国民総支出推定式(旧国民所得統計)

<分析3> 消費者物価モデルの計測1)

消費者物価に関する研究は、その問題の重要性にもかかわらず、日本経済のマクロ計量経済モデル2)における消費者物価関数と、さきに当研究所で発表した水野正一、鈴木多加史両氏による個別指数関数3)および、渡部経彦氏の個別価格関数4)あるにとどまる。

しかし、両者は消費者物価を総合として取り扱い、物価変動のメカニズムの把握には、いささか包括的にすぎる。

また、後二者はメカニズムの分析に適当な示唆を与えるものであるが、予測用として用うるにはかなり無理がある。

そこで、本分析では昭和30年代における消費者物価の価格決定のあり方に照らして、全都市CPIを4個のグループにブレーク・ダウンして、近時の物価上昇のメカニズムをとらえるとともに、若干の予測を行なわんとするものである。

このように、消費者物価を分割して検討することは、分割の方法に若干の主観が介入する欠点はあるが、消費者物価は、本来その性格を異にする種々の個別物価の総合であるため、ある程度性格別にブレーク・ダウンして検討することが物価変動のメカニズムを明らかにするという目的に忠実であろう。

したがって、この分析では、後出「全都市消費者物価指数の組替え」の項において述べる理由に基づいて、全都市消費者物価を次のように分割した。

  • (1)工業製品価格
  • (2)個人サービス料金
  • (3)季節性商品価格
  • (4)公共性料金

  • 注1)本分析は、(イ)当研究における短期予測モデル作業の一環として行なったものである。(ロ)また、われわれの最終目標である総合物価モデルの一部でもある。
  • したがって、この分析の中で外生的扱われている数個の変数は、他の理論モデルによって内生化されることが期待されている。
  • 以上のような意味で、本稿は中間報告であることを、おことわりしたい。
  • 注2)中期経済計画等
  • 注3)「経済成長における消費者物価変動の計量的分析」:経済企画庁経済研究所・研究シリーズ第17号
  • 注4)「経済成長と財政金融」第2部第4章:岩波書店

全文の構成

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  2. 35ページ
    I.本分析の目的
  3. 35ページ
    II.消費者物価上昇の要因
  4. 39ページ
    III.全都市消費者物価指数の組替
  5. 40ページ
    IV.消費者物価変動要因の計測結果
    1. 40ページ
      1.工業製品価格
    2. 43ページ
      2.個人サービス料金
    3. 45ページ
      3.季節性商品価格
    4. 47ページ
      4.公共性料金
    5. 48ページ
      5.全都市消費者物価総合指数
  6. 49ページ
    V.消費者物価モデルの外挿テスト
  7. 51ページ
    補論 対前年同期比データによる計測
    1. 51ページ
      1.消費者物価総合
  8. 54ページ
    参照文献
  9. 54ページ
    付表

<資料> 諸外国の国民所得統計 ―アメリカ、とくに1965年の改訂について―

国民所得統計の伝統的な目的は、国民生産物の規模、構成、ならびに使用を総体的に把握することによって国民経済の活動の成果に関する情報を提供することにある。そして、この目的にそうかぎり、国民生産物の計測が基本的な目標となるのであって、今後ともこの点でかわることはない。しかし、各種の情報の集積によって、経済構造の解明がすすむにつれて、国民所得統計は、経済活動がどのような要因によって決定されるかという問題の解明に利用されるようになり、この観点から国民生産物の生産、分配、使用を取引の形式であらわす仕組み、つまり、国民所得勘定の重要性が認識されるようにいたった。

このような言及はもはや常識であるから、あらためて詳述する必要はないであろう。現在では、国民経済計算のなかの中心的体系として国民所得勘定は過不足なくその重要性が認められているように思われる。

アメリカの国民所得統計は1932年から商務省によって公式化され、その30年代および40年代における先駆的業績はとくにはなばなしいものであった。

ひるがえって、戦後日本の国民所得統計は、アメリカの専門家の指導に負うことがきわめて多かった。概念、勘定体系などの面で、戦後初期のわが国民所得統計は、アメリカ国民所得統計に範をとっていた。その後、国連統計局を中心とする国際標準化の過程で、われわれは、徐々にアメリカ方式から国連方式へ近づいていったが、最近における「国民経済計算の統合」の推進などの例にもみられるように、アメリカ国民所得統計の発展から、われわれはなお貴重な示唆をえているといえる。1)

アメリカの年次別、四半期別国民所得統計、月別個人所得統計は、商務省の企業経済局(Office of Business Economics, OBEと略称)の国民所得部(National Income Division, NIDと略称)において作成されている。NIDは44人から構成されているが、建設部門と季節変動調整の作業はセンサス局、農業部門は農務省が作業にあたっている。ちなみに、産業連関表はOBEの国民経済部(National Economics Division, NEDと略称)、国際収支表は、同じくOBEの国際収支部(Balance of Payments Division)、資金循環勘定は連邦準備局(Board of Governors of Federal Reserve System)において作成されている。さらに地域所得に関して同じくOBEの地域経済部(Regional Economics Division, REDと略称)が州別個人所得の推計と分析を担当している。

アメリカ国民所得は、伝統的に要素費用の合計としての「国民所得」の計測を中心においてきたので、推計方法としては、いわゆる所得接近法(Income approach)がとられており、所得面に関しては、農業部門を除いて生産物接近法(Production approach)は採用されていない。基本的には、数年おきに基準推計(Bench-mark estimates)を確立し、中間年次、最新年次については、年次四半期の系列とも、基準推計を基礎とした補間、補外の推計方法を採用している。

国民所得統計の基準となる統計資料は、大部分、他の行政項目のためのものであり、また民間の資料も利用される。その一例として建設推計に関してはF.Dodge Corporation の資料が利用され、これに対してかなりの金が支払われている。統計資料は概して、詳細な分類がしめされており、推計にさいしては、できるかぎり詳細な積み上げ計算がなされるよう留意されている。しかも、極力、〔平均値×人員〕の算式による推計は避けられ、できるだけ直接的に所得額あるいは支出額が把握されるよう留意されている。

支払側(GNP)の構成項目についても同様である。個人消費支出と国内民間固定投資については、コモ法(Commodity-flow-method)がとられて基準推計が作成されている。1958年の基準推計については、とくに、同年の産業連関表の知識が参考とされて、従来にないcross checkが行なわれ、また、国民所得勘定と産業連関表との統合が達成されている。

アメリカ国民所得の年次推計は7月に確報が公表される。しかし、四半期統計がきわめて迅速化されているため、暫定推計の形では1月に前暦年の計数が公表される。

四半期別国民所得統計については、利用者側の要望にこたえて、1か月おくれでGNPの暫定推計が公表され、2か月おくれで、修正GNPと暫定国民所得の数字が入手できる。3か月目にさらに修正されるが、これら四半期統計の確定は7月である。2)

これらの公表はすべてOBEの月刊誌Survey of Current Businessである。

以上は名目表示の推計であるが、GNPの実質推計は1958年価格によっており、年次系列がNIDによって推計されている。四半期別実質統計は今後の課題となっている。しかし産業別GNPの実質推計はNIDの産業別国民所得の系列を基礎とし、他の種の統計を採用してダブル・デフレーション法ないし、若干の簡便法を用いて、NEDが推計している。

地域所得の系列では、州別個人所得が推計されている。NIDの個人所得(月例、四半期別および年別の系列があるが、この場合は年別の系列)を基礎として、配分方式を用いてREDが推計している。彼らにいわせれば、個人所得の州別配分だけが、ようやく実用に耐えうる系列であり、国民所得の配分と産業別の系列および支出の系列は、州別の配分は不可能であり、かりにいくつかの前提を設けてそれらを推計したとしても、それらの数字はきわめてSophisticatedなものとなり、実用に耐えないと断じている。したがって、州別所得勘定の推計は、彼らにとっては論外である。


注1) わが国における国民経済計算調査委員会、同審議会による国民所得統計の大改訂ならびに産業連関表との統合などはアメリカの1956~57年におけるNational Accounts Review Committeeの活動にヒントをえている。また最近における四半期別国民所得統計の迅速化についても、アメリカの方法から、手がかりをえようとしている点である。

注2) 四半期別国民所得統計の詳細については、安藤登「アメリカの四半期別国民所得推計-とくに速報の実態-」(「経済企画」1966年4月号)を参照。


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  2. 60ページ
    I.序―アメリ力国民所得統計の現状
  3. 61ページ
    II.1965年改訂の特色
    1. 61ページ
      1.概観
    2. 62ページ
      2.主要な改正点
    3. 62ページ
      3.定義上の変更
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)