経済分析第19号
全国地域計量モデルの研究-昭和35年横断面資料によるパイロットモデル- 他

  • <分析1>全国地域計量モデルの研究-昭和35年横断面資料によるパイロットモデル-
  • <分析2>租税関数の計測
1966年9月
<分析1>
福地 崇生,安井 正己,村松 ひろみ,竹中 治,山川 博康
<分析2>
市川 洋,池田 裕夫

<分析1> 全国地域計量モデルの研究-昭和35年横断面資料によるパイロットモデル-

(はしがき)

経済企画庁経済研究所では総合計画局・総合開発局と協力して地域問題分析用の全国9地域計量モデルの作成を行なった。作業は(ア)昭和35年横断面資料に基づく全国9地域および46府県別横断面パイロットモデル(Pilot model)の作成・分析、(イ)昭和30年~37年の8年間時系料資料に基づく全国9地域系列マスターモデル(Master model)の作成・分析の順に行なわれたが、この小論は(ア)についての作業の概略説明である。

昭和30年代のめざましい高度成長の結果1人あたり実質国民所得は顕著な上昇を示したが、この成長の実をあげる一方で、(i)地域間、生産性・所得格差は拡大しなんらかの政策的措置による均等化が要請をされるようになり、さらに(ii)急激な人口移動・都市化の傾向と社会資本整備の立ちおくれの両者があいまって社会資本の不足・アンバランスに基づく過密・過疎問題が発生し公共投資の拡大・最適配分が強調されるようになった。

この(i)(ii)を中心とする地域経済問題の発生に対応して、最近数年間に多くの地域計量モデルが作成されて(注1)地域ごとの長期計画樹立・社会資本需要の算定などに応用された。これらの大半は全国経済の特定地域に関するもので全国規模はわずかに地域開発センターモデルと藤井モデルの2個であった。全国規模の地域モデルの試行例がごく限られていた原因としては以下のいくつかの理由にあげられる。

  • (a) 三面不等価の原因の研究の立ちおくれ。これは特定地域モデルの構成に際しても、もちろん大きな問題点であるけれども、全国モデルのように一般均衡的視点から総合的な地域経済のは握を行なう場合には、理論的にも資料の整備の点でも実証段階でも最も重要な問題点である。三面等価の成立しない主たる原因は次のように考えられる。(i)経済主体が財貨サービスの購入に際し他地域から調達するときは支出と生産がアンバランスとなる(生産物の地域間移動)。たとえば、消費者が他府県で消費財を購入したり企業が他府県で生産者耐久施設を購入したり地方政府が他府県からサービスを購入する事例があげられよう。(ii)要素報酬の支払に際し受け取りがわ主体が他府県に立地するときは生産と分配がアンバランスとなる(生産要素サービスの地域間移動)。たとえば、勤労者所得者が他府県で働いたり、法人所得が本社集中上によって他府県で計上される事例がある。(iii)対価を伴わない所得の移転は分配と支出の間にアンバランスを発生させる(所得の地域間移動)。たとえば、国税の徴収と地方への還付・交付・補助金支払いの差や個人間純送金などの事例がある。以上は統計の整備されたideal conditionでの差であって、実際は、生産・分配所得推計の過程などで多くの誤差が生じるので三面バランスの関係はいっそう複雑となろう。
  • (b) 全国規模での地域経済の最適配置などを論じようとすると社会資本の配分を無視できず変数としてとりあげざるを得なくなるが、従来地域別の社会資本ストック資料はごく限られており公共投資累積額を代用するとしても適合度・精度に懸念がもたれ、公共投資の変数指定が困難であったこと。
  • (c) さらに、変数指定しても外生変数として支出面の一項目として扱うにすぎず、いわゆるシグマ(σ)効果・生産力効果等を示すために他の式で説明変数に採用する例がきわめて少なく需要面効果しか描写しえなかったこと。
  • (d) 現実の公共投資決定は所得の平準化や主産地集中・新産地の育成・後進地域への外部経済効果創出のための先行投資などいろいろの考え方・投資基準(investment criteria)を総合して行なわれるので、これらの考え方を陽表的に表示して公共投資を内生的に説明することが望ましい。しかし、公共投資関数の推定例は非常に少なく、多くの場合適合性が悪かったり理論的な意味づけで行きづまって統計式以上の式は採用に至らなかった。(注2)
  • (e) 投資効果のは握や基準の実証にはどうしても公共投資全体の主要項目への分割が必要になることがこの分割例は皆無に近い。
  • (f) 全国地域モデルの試行にさいしては、地域間経済関連の描写がモデルビルディングの一つの焦点であり、これら関連のうち観察可能な人口・財貨移動については近年グラビティーモデル(Gravity model)のような、ざん新な理論が提示されている。しかし、従来はこの人口・財貨移動資料の利用可能性(availability)はごく限られて有意義な推定作業は困難であった。このため、これらを内生的に説明する場合もある種の収歛計算で行和・列和を分配する形で説明するのが通例であった。
  • (g) グラビティーモデルで域間移動を説明した例もあるがある地域については適合度が非常に悪くなり全国全体で推定基準をみたす式は得られていない。これはサンプル数が多く計算が煩雑なこと、グラビティーモデルを他の説明変数で補完する可能性を考慮しなかったこと、モデル全体が非線型化して操作性が低下することなどが主要な障害となっていた。
  • (h) 他の地域関連、たとえば、民間投資資金の域間移動なども重要な事象であることは疑いないが取り扱いが困難で変数指定されていず、地域間関連の詳細な描写は不可能であった。
  • (i) 全国モデルを作成して地域経済のつりあいのとれた姿を求め最適投資配分を論じ、格差是正や過密・過疎の解消策を提示するには、単に1人当たりの所得のような量的指標の算定・比較では不十分であり生活水準を総合的には握するような評価基準が必要である。

以上のように社会資本賦存額・地域間移動・生活水準の総合的指標などの統計資料の未整備と、大規模な推定作業に伴う困難と、モデルビルディング上の理論的な困難があいまって全国地域モデルの作成を妨げていたと考えられる。(注3)
全国規模モデル作成の先行例である地域開発センターモデルや藤井モデルの場合も以上の諸点、要約すれば地域経済水準の総合的評価方式の確立・地域間移動の陽表的かつ正確な描写・公共投資や社会資本の重要項目分割と内生的説明について、資料の整備に伴って逐次改良してゆくのが操作的に意味のあるモデルも作成するための今後の基本的な課題であると考えられる。経済研究所を中心とする計量グループでのモデル作業は、地域別に整合的な長期予測を行ない基本的課題の解決に有効な政策措置を示唆するのが目的であるから、以上3点はモデルビルディング上克服しなければならない最大の難点と考えられる。

昭和35年横断面資料に基づくパイロットモデル作業は次の目的で行なわれた。(A)上述の3点を克服するため、われわれは民度指標関数・人口および財貨移動関数・行政投資(一次産業基盤・二次産業基盤・運輸通信関係・生活基盤関係の4区分)関数の3種類の方程式を推定してモデルを改良してゆく方針を採用した。長期予測が目的であるから本格的に政策シミュレーションを行なって政策手段の長期的効果をみるには時系列資料によるモデル作業が不可欠であるが、パイロットモデルは、ます横断面資料に基づく瀬踏み用の原型モデル(prototype model)として、上記3種類の式について有意な推定が可能かどうかを探るのが目的である。(B)特に地域間異動に関するグラビティーモデルのように元来横断面資料で推定され開発されてきた方程式は時系列推定に先立ち横断面で適合度を検討しておく必要がある。(C)地域経済関係諸統計はゆがみがあって精度に疑点があるものが多く、有意な推定にさいして障害となるので、あらかじめこれらの資料の補整の仕方・適合度を調べておく必要がある。(C.1)たとえば、民間設備投資向け産業資金供給の計数は本社集中取引きがあるので東京や大阪では実態の生産者耐久施設建設に比較して過大になっていて投資関数の説明変数に採用しても良好な説明力は期待できない。われわれはこの難点を回避するために推定前に資料に手を加えた。(C.2)マスターモデルでは社会資本は項目別にストックサーベイの集計値を用いることとしたが、この新しい計数の精度・ゆがみの程度が不明なので、有意な推定結果が得られない場合に備えてパイロットモデルでは粗投資累積額を資本ストックの代理変数と考え推定を行なった。(C.3)公共投資の数字は、地域ごとに大きく変動する場合が多い。このためダミー変数(dummy variable)の採用などいろいろの考慮を払ったがとりあえずパイロットモデルでは3年間の平均値を作成して推定を行なった。

以上は、マスターモデル作成に資するための原型モデルとしての作業目的であるが、このほか以下の諸点に関してもパイロットモデル作業は有益である。(D)経済審議会地域部会では、昭和35年構造分析も行なう予定なので、その参考資料として各種シミュレーションができる。(E)マスターモデルを使用して長期外挿を行なう場合に、経済発展に伴う構造変化を考慮し、各種構造係数の改定を行なう必要がある。構造変化の方向や大きさをとるために横断面分析はチェック用に有益である。

実際にわれわれが行なったパイロットモデル作業は以下の手順に従った。(α)地域部会指定の9地域分割によって9サンプル横断面資料でモデルを推定する。(β)次に全国府県別46サンプル横断面資料でモデルを推定する。方程式型は9サンプルモデルとなるべく同型のものを想定する適合度が悪い場合にはこれにこだわらず他の式型も考慮する。(γ)横断面モデルであるから通常の3段階のシミュレーション適合度テスト、すなわち、部分テスト(partial test)、全体テスト(total test)、最終テスト(final test)のうち最終テストは行なえない。そこで、推定年以後の短期の予測シミュレーションを行なって(γ.1)全体としての適合度を調べ、また、(γ.2)パラメーターの安定性を予測によって検討しておくこととした。ただ、横断面モデルという特性を考慮して全変数は時価表示によっており、予測にさいして事後的資料との突き合わせもすべて時価表示によった。

横断面モデルとして重層的に9地域モデル・46府県別モデルを推定したが両モデルの特性・関連は以下のように考えた。
(1)地域部会による公式の地域分割は9地域なので、この区分でのパラメーター値の推定のためには9地域モデルは不可欠である。
(2)しかし、9地域モデルは推定にさいして自由度が少なく推定・検定を十分な精度で行なえないので、46サンプルモデルで自由度をましてより精密に推定を行ない、さらに同一地域内の各府県ごとにパラメーター値に有意な差異があるか調べておき9地域モデルパラメーターの安定性を検討することが必要である。特に地域諸統計は府県ごとに作成されてから集計される場合が多いのでこの手続きは重要である。
(3)政府的視点から離れて自律的な安定して経済関係を推定する実証的な立場をとると、財政収支などのように府県単位で決定される経済諸量が多数存在する。したがって、これら諸量に関する構造方程式についてみると9地域モデルパラメーターは府県別の基本的関係に集計操作を施して得られる誘導関係の計数値であって、この意味でも46サンプルモデルによる補完が重要と思われる。
(4)しかし、両モデルは、説明変数の種類・形式などに大きな差があるので両者の関連を正確には握することは困難である。横断面で同一年次で異なった地域区分に基づき複数個のモデルを作成する場合にはこれを統合問題(aggregation problem)の一例と考え、種々の立場(ミクロの構造と両立するマクロの型式を求めるか、マクロの構造と両立するミクロの型式を求めるか、便宜上両者を同型と考えて統合誤差(aggregation bias)を評価するか)などのどれかを選択して両者の理論的な関連を求めるべきであろう。この手続きを踏んでおけば両モデルを併用する分析で統合誤差を具体的に評価したり、統合誤差を生じない完全統合(perfect aggregation)を意図するとき適当な補正手続きを提示したりすることが可能であろう。しかし、現在の分析では両者の関連を、ある統合問題の精密な解(exact solution)として求めることは不可能である。両者モデルでは第一に変数グループが異なっており、単一方程式推定・連立方程式推定いずれを行なうとしてもパラメーターの推定値やかたよりはモデル全体の型の想定(specification以下単に想定と訳す)から影響を受ける。こういう統計的な側面のほかに既述のように自律度の高い関係を求めえられる意味での地域の最適区分も指標によってまちまちで、マクロ・ミクロいずれを基本的構造と見るか断定できない。そこで、われわれは同型の式を両区分でしいて採用することはせず、昭和35年についてなるべく適合度が良いように別個に推定を行ない短期予測にさいして両モデルの予測誤差を比較する手続きをとった。したがって、9地域ベースで比較したときよの両モデルによる予測値の差は、モデルの規定による差・構造推定精度の差などとともに統合誤差も含んでいると考えられ、9地域モデル予測を府県別モデル予測で補完すると、どの程度の改善が期待できるかについて一つの判断材料を提供すると考えられる。統合問題については未解決な問題が多い。マスターモデルは実際は9地域8年間のプーリング資料(poolingdata)によって推定を行なったので、昭和35年9地域モデルと比較すると、モデル規定上の差を除いて考えれば各年の構造の加重平均値として構造推定を行なったと考えられ、時間的な統合(overtime aggregation)の一例とも考えられる。しかし、地域ごとにせよ時間的にせよ統合問題の例として扱うには、政策シミュレーション用という作成目的をもつわれわれのモデルは大規模にすぎるので、われわれは統合・両モデルの比較については異なった区分ごとに最も適合度の良いモデルを作成したという実務上の(practical)の立場をとることとした。

以下第II章で9地域モデル推定作業と46府県別モデル推定作業、第III章で予測シミュレーション結果を説明し、主たる観察事項を第IV章で概括する。


(注1)主要な既発表のモデルについては、"地域経済計量モデルの展望"、経済分析第17号、昭和41年3月、pp.1-58および本論文付随の補訂参照。

(注2)米国のSSRCモデルで推定例が若干ある。わが国では東海モデルのように水・電力などを物理的原単位で抑えてゆく原単位方程式、藤井モデルのように乗用車等々の伸びで説明するこの改良型、三鷹モデルのように地方公共団体の総収入との間の会計上の支出式を求める方式などがある。

(注3)地域別計量モデルのサーベイに基づくこれらの問題点の評細な議論については前掲展望、ibid, pp.56-57参照。


全文の構成

  1. 1ページ
    I.はしがき別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.0 MB)
  2. 4ページ
    II.構造推定結果の説明
    1. 4ページ
      1 モデルビルディングの特徴
    2. 7ページ
      2 モデルビルディングの概略
    3. 9ページ
      3 9地域モデル推定結果
    4. 24ページ
  3. 46ページ
    III.予測、政策シミュレーション結果
    1. 46ページ
      1 パイロットモデルによる予測の意味
    2. 47ページ
      2 9地域・46府県別モデル事後的予測結果
    3. 53ページ
      3 社会資本ストック増加シュミレーション
  4. 55ページ
    IV.むすび
  5. 56ページ
    付表

<分析2> 租税関数の計測

(序)

経済政策に租税制度を織り込むことは、租税特別措置の改廃とも関連して毎年問題になっている。一方税制調査会には、各方面からの税制改正に関する要望事項が多数寄せられている。

しかしながら、租税の経済効果の測定について、その試みは若干行なわれてはいるが不十分である。また、マクロ分析においても、若干の租税関数の計測が行なわれてはいるが、重要な政策変数を関数の中にとり入れることに成功しているとはえない。

租税のような制度的なものを説明する関数は、有効な政策変数をとり入れることが重要であるので、ここでなるべく有効な政策変数を関数にとり入れて、年中行事となっている税制改正の経済効果をマクロ分析に反映させ、計測可能にするのが本稿の目的である。

さて、このような制度式は、制度の重要部分が連立させた場合に操作しやすいような式に直すのが望ましいので、簡単に税制の概要を略述し、あとで「付1」以下において補足することとしよう。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 889 KB)
  2. 63ページ
    I.序
  3. 63ページ
    II.税制
    1. 63ページ
      1 税制
    2. 64ページ
      2 タイムラグ
  4. 64ページ
    III.個人税関数
  5. 68ページ
    IV.法人税関数
  6. 72ページ
    V.間接税関数
  7. 74ページ
    付1.税制、納期、減税の補足
    1. 74ページ
      1 税制
    2. 77ページ
      2 納期
    3. 79ページ
      3 減税
  8. 81ページ
    付2.法人企業減価償却関数
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)