経済分析第26号
国民所得政府勘定の計量分析 他

1968年8月
<分析1>
市川 洋,林 英機
<分析2>
押坂 晃,小山 茂樹,石橋 恒彦,国吉 健一

<分析1> 国民所得政府勘定の計量分析

(序説)

I-1 目的

現実には財政政策は制度を通じて行なわれる。財政の制度は中央・地方が交付税、国庫支出金制度等を通じて互いに関連しあい、それぞれ各省各庁において、その所管事項についてのきわめて多岐にわたる法制を通じて実施される。一般会計、40をこえる特別会計、50をこえる財政投融資対象のそれぞれに複雑な制度が法定され、あるいは慣行として確立され、運用されている。

一方、マクロの経済の計量分析はその需要効果を中心として、国民所得統計を使用して行なわれ、そこにおいて政府消費、政府投資、政府所得等は外生変数として取り扱われている。

これらの外生変数が人口や公定歩合のような意味における真の、体系外で決定される変数であるかどうかはかなり疑わしいものである。

たとえば、税制は所得に依存する内生変数であり、したがつて金額で表わされた減税額も内生変数である。真の外生変数(政策変数)は所得税の基礎控除、扶養控除、税率等の制度そのものである。歳出についても類似したことがいえる点がある。社会保険給付や生活保護費の支出について、政府がコントロール可能なのは制度自体であって、支出額ではない。

この議論は、上記のようにスッキリ割り切うるものではなく、たとえば公務員給与の決定過程のように、人事院勧告の額が内生変数であると仮定すれば、どちらともいいがたいものが多いのである。

政府の事業所得となるといっそう複雑である。たとえば国鉄運賃を値上げすれば政府所得は上昇するから、政府所得の金額そのものは内生変数であり、政策変数は国鉄・電信電話等の料金体系と考えるべきであろうが、たとえば国鉄の決算のやり方にも高度に依存すると考えられるので、複雑である。

経済の制御装置の一つとしての財政を考えてみることとする。ロケットエンジンの出力自体はコントロールではなくてトラジェクトリであり、真のコントロールはロケットエンジン制御装置の制御機器のスイッチであるのに類似して、財政の真のコントロールは制度そのものに近く、歳出額はトラジェクトリであると考えれば、経済の最適制御を行なう一つの装置としての財政をマクロモデルに組み入れるに際しては、なるべく政府が実際にコントロール可能な制度の政策パラメーターを使用したほうがよい。

多くの場合、制度こそ真のコントロールなのである。

経済分析第22号「租税関数論」はこの試みの第1弾であつた。現在われわれは歳出面を研究中であり、本研究はその中間報告である。

さて、前述のように財政の現実の運営は複雑な制度によって行なわれるから、なるべくマクロ経済に関する事項を制度の言葉に翻訳しなければ、計量分析と現実の政策との間のギャップはうまらないであろう。現在、制度的な歳入歳出決算額と国民所得統計の政府勘定の金額との間の計量的関係すらあまり明確にされてはいない。

本研究においては、財政の制度的制御装置を明らかにする段階にはまだ到達していない。国民所得の政府勘定と財政の制度的統計(予算、決算、財政投融資実績等)との間の関係を明らかにする段階である。

たとえば、マクロ分析において政府投資、政府消費の額を外生的に与えた場合、一般会計規模、国債の要発行額等の制度面の計数がいくらになるかを求めようとするものである。

したがって、一般会計規模関数、地方普通会計純計関数等に重要な意味があるのである。

I-2 金融面および社会保険

経済の制御装置の一つとして金融面がある。近来財政と金融の両政策は調和がさけばれている。本研究においてはまた金融面にはほとんどタッチしていない。政府投融資(以下「財投」という。)および地方企業債を説明変数に使用したのであるが、これは全くこの研究の体系のうちにおいて決定されるようになっていない。

本研究はまた中間報告であるので、これらは将来の問題として残されている。特に財投に関する事項は、この次の研究において着手を予定している。財投の投融資対象機関は近来一般会計による補助金、交付金、補給金等による金利補給を通じて一般会計との関連を著しくしており、精密な分析を必要としている。

財投の原資は郵便貯金と厚生保険がそのおもなものであるが、このうち厚生保険およびその他の社会保険制度による、個人から政府への移転については、現在のわれわれの体系の中で内生化が可能である。すなわち、社会保険の負担および給付は租税関数とほとんど同じジャンルに属しており、直接に制度から金融に直す制度式が作成可能である。したがって、財投の研究と並行して社会保険関数を作成することを次期スケジュールに組み入れている。

純粋な意味における金融面、すなわち全体的な金融バランスの中における国債、政府保証債、地方債、企業債や短期の外国為替証券および食糧証券の問題は、むしろ民間の資金需給との関連において研究すべきものであろうから、われわれの研究対象として取り上げる予定は全くない。

I-3 留意事項

本研究において使用したデータは、一般に公表されている国の予算書、および決算書と、国民所得統計政府勘定の資料である。国民所得統計の政府勘定の計数は、若干の修正をほどこして使用した部分がある。

国民所得統計は非常に多くの利用目的があるため、すべての目的を満足させ得ない部分があるのはやむを得ない。

政府勘定については、だいたいは他の面を殺して財政サイトの原則によって作成されてはいるが、本研究のような中央・地方を分けた計量分析には向かない面もあるので修正を行なったものである。この修正については、次の機会に詳述したいが、修正前の関数も掲げて利用の便に供することとしたので、現在(昭和41年度、確報ベース)の計数を直接利用する場合は「修正前」のただし書きのある関数を使用する場合がある。「修正前」とは、現行の国民所得統計の計数を意味する。断わり書きのないものはすべて修正後である。「修正後」の計数については、政府勘定だけを修正し、これに伴うV,Y等の修正は行なっていない(修正の大部分は、ある支出が中央に属すると考えるか、それとも地方に属すると考えるかの差に起因している。)

本論分は第1部、第2部および第3部に分かれている。第1部はマクロ計量分析の立場から論じたものであって、特に財政に関する予備知識を必要としない。

第2部はデータ論であって、政府勘定の具体的計算方法を解説したものである。きわめて技術的な事項まで説明したものであるから、国民所得統計の政府勘定に関心をもつ財政の研究者のための記述である。モデルのことは全くふれていない。

第3部は各論であって、モデルの従属変数ごとに詳しく論じたものである。

モデルの従属変数の表わす歳出額等が、いかなる内容をもち、いかなる実態であり、いかなる根拠に基づいて第1部のスペシフィケーションが行なわれたかを詳細に論じたものである。第3部の各章はかなり独立しているから、必要に応じて字引き的に参照することができるようになっている。とくに、財政プロパーの問題に関心がある場合は、第2部および第3部を参照されたい。

各論の各章は精粗の差が非常に大きく、トランスファー関係項目について章もおこしていないのは、この研究がまだ中間報告の段階であるためである。

財投および社会保障関係は次回の研究において詳細に分析を行なうため、今回はほとんどノータッチに近い状態である。

補助金関係、中央政府企業事業所得についても、次回の研究において十分深く論じたいと考えている。


全文の構成

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  2. 1ページ
    第1部 総論
    1. 1ページ
      第I章 序説
    2. 3ページ
      第II章 制度式体系
  3. 15ページ
    第2部 政府勘定
    1. 15ページ
      第III章 中央一般政府財貨サービス購入
    2. 24ページ
      第IV章 地方一般政府財貨サービス購入
  4. 26ページ
    第3部 各論
    1. 26ページ
      第V章 地方一般政府財貨サービス経常購入 
    2. 35ページ
      第VI章 地方一般政府総固定資本形成 
    3. 45ページ
      第VII章 中央政府企業総固定資本形成 
    4. 52ページ
      第VIII章 地方企業総固定資本形成 
    5. 59ページ
      第IX章 中央経常補助金 
    6. 64ページ
      第X章 一般会計歳出規模
    7. 69ページ
      第XI章 地方普通会計歳出規模(純計)
    8. 71ページ
      第XII章 中央一般政府財貨サービス購入の簡易推計方法
    9. 80ページ
      第XIII章 中央政府企業事業所得 
    10. 96ページ
      第XIV章 地方政府企業事業所得 
    11. 101ページ
      第XV章 一般政府財産所得および一般政府負債利子

<分析2> 地域別輸出関数

(ねらい)

以下に述べる輸出関数は「輸出入関数の推定(その2)」(研究調査検討資料No.1昭和42年4月3日)の成果をふまえて、これを延長し発展させることにある。

これまでにもわが国の地域別または商品別の輸出関数の計測についてはいくつかの試みがなされてきた。第1表にここ数年間に推定された輸出関数の主要なものを列挙した。これらはいずれも貴重な推定経験ではあるが、その多くは精度上、または実用性といった点で必ずしも十分な成果をあげたとはいいがたい。ことに従来の輸出関数の推定はどちらかというと商品別輸出に力点がおかれ、あるいは地域別関数にしても対米輸出に対する推定に重点がおかれていた。

前掲内野モデル、犬塚モデルもこの点を補正し、グローバルな地域別輸出関数を目ざしたものであるが、これらも精度上、実用性といった点でそれぞれ難点をもらっていた。

第1表 輸出関数一覧表

第1表 輸出関数一覧表

全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 252 KB)
  2. 111ページ
    1.ねらい
  3. 111ページ
    2.推定方法
  4. 114ページ
    3.推定の結果
  5. 118ページ
    4.昭和42年度の外挿試算
  6. 119ページ
    5.結び
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