経済分析第32号
政府・個人間の所得移転の内生化 他

1970年9月
<分析1>
市川 洋,平井 弘
<分析2>
市川 洋,林 英機

<分析1> 政府・個人間の所得移転の内生化(注)

(目的)

1-1 目的

本研究は国民所得ベースの「個人から政府への移転Si 」および「政府からの個人への移転TR 」をマクロ計量モデルのサブモデルとして内生化するものである。

一般に、マクロ計量モデルに於ては、Si およびTR は外生変数として扱われて来た。それは、Si , TR が実際に外生的(気象条件や世界輸出のように内生化できないという意味において)であるためでなく、Si , TR を構成する制度がきわめて複雑で、内生化の手がかりが容易にはつかめなかったためであろう。

本研究においては、租税制度に似て複雑なSi ,TR 制度に正面から取組み、制度を定式化することにより内生化を行なう。

Si ,TR の制度的構造は、租税によく似ている。健康保険法、厚生年金保険法、失業保険法等の多くの法律により、Si , TR の金額を確定させる手続きが定められている。

これらの制度にいれば、Si の大部分は所得比例的である。一部均等割部分がある。TR は年金、医療、公的扶助(身体障害、精神薄弱、老人等)に大別され、医療のウエイトが半分を超えている。TR は給与水準、生活費水準から決定される部分がかなり多い。したがって、Si , TR は本質的に内生化可能変数なのである。

1-2 内生化のメリット

実体は内生化可能である外生変数をマクロ計量モデルのサブモデルとして内生化するメリットは色々あるが、Si ,TRの場合次のような点が考えられる。

A)マクロ計量モデルの内生変数とSi ,TR の相互関係がつけられる。
たとえば、1人当り賃金w の変動にともなって、Si ,TR は変動するが、その変動がマクロ計量モデルと連立させることにより正しくマクロ計量モデルにフィードバックされる。
B)斉合的な変数系列を作成できる。
多くの変数と相互関連を有する外生変数の予測系列に斉合性をもたせることは容易ではない。サブモデルを開発しない限り不可能であろう。とくにTR は他のマクロ変数との相互関連が複雑である。
C)Si ,TR の内部構造が明らかにされる。
多くのマクロ計量モデルにおいて、Si ,TR は外生変数として使用されるが、その内容が何であり、その値が増大してゆくことに如何なる意味があり、国民福祉に如何に関連するかが明らかにされる必要がある。
前記B)とも関連して、制度を定式化する過程においてSi ,TR の内部構造と変動様式が明らかにされる。
なお、農民年金の新設、児童手当制度の発足等にともなって、これらの影響をサブモデルに組み込めるような一定の方法を確立させることができる。
D)社会保障固有の問題か解決に有意義である。
社会保障固有の問題は、当然、賃金、物価、生計費等のマクロ変数に依存している。そして社会保障問題自身がマクロ変数に影響を与える。
Si ,TR を内生化するメリットは、社会保障固有の問題にむしろもっともメリットがあるであろう。従来、特殊分野の問題が、とかくマクロ経済と切り離されて議論されるきらいがあった。Si ,TR サブモデルは社会保障固有の問題の全経済セクターとの関連づけに有意義であろう。
とくに社会保障問題を物価との関連においてとらえる必要が今後高まってくる。現在我国では公害問題が大きく採り上げられているが、そのうちもっと切実な問題として老人問題が重要になる時が来る。老人のウエイトが高まるということだけではなく、世界歴史に類のないスピードを以って老人かが進むことに問題があるのである。
稼得能力を失った老人は、物価上昇に対する抵抗力のもっとも弱い階層である。そして老人階層が急増するとともに老令年金支出が激増することとなる。これらの問題を"モノ"ベースおよび"カネ"ベースの両面から分析し、解明することは社会保障の最大問題の一つである。
E)政府によるSi ,TR の制御可能性が明らかにされる。
租税においては、免税点や税率は税収を通じて経済全体に大きな影響を与えるが、そのらは政府により決定され、政府にとっては制御可能変数である。Si ,TR についても、料率、給付基準等が政府にとっては制御可能変数である。政府に関連する事項の経済における重要性の一つに制御可能性があることはいうまでもないが、政府にとって国民所得ベースの集計された額が直製制御可能であるのではなく、法律の条文に定められている料率等を直接制御できるのみである。国民所得ベースの集計量は、マクロ経済循環の中で、これら政府のコントロールを受けて、結果として決定される。
Si ,TR を内生化する結果、Si ,TR が制御可能変数を陽表的に含む式で表現されるとき従来のマクロ計量モデルと連立させて最適な制御を求める問題を解決することができるかも知れない。これはある意味ではシミュレーション分析の逆の問題でもある。外生変数と制御可能変数(以下「コントロール」と略称する)および初期条件を与えれば、マクロ計量モデルを使用してシミュレーション分析が出来る。しかしながら数多くあるコントロールの時間的径路の組合せのうちで、どれがもっとも望ましいものであるかは、非常に数多くのシミュレーションをやってみたとしても決定的なことは言えないであろう。目的関数を設定したうえで、その目的関数に最大値を与えるコントロールの径路を時間の関数として求める手法、すなわち変分法やポントリヤーギンの最適制御理論の実際の経済問題への応用方法が開発されたあかつきには、経済政策は飛躍的発展をとげ、そしてそれは政府のとるべき政策に対して貴重な指針となるであろう。政策当局にとって重要なのは、最適なコントロールの時間径路を求めることなのである。
これらの問題を志向して、Si ,TR 関数にはコントロールがかなり多く陽表的に織り込んである。

社会保障におけるコントロールの大部分は保険料率と給付基準である。そして、社会保障を構成する多くの制度のこれらのコントロールを一本の指数に総合することにより、操作容易な社会保障関数を得ることが出来る。本研究のキーポイントは、コントロールを加重平均した総合指数を作成することにある。
なお、本研究においては目的関数や価値基準について全くふれなかった。これらはPPBSの今後の一層の発展にまたねばらならない。

1-3 内生化の方法

Si ,TR を内生化する原理は、それらを構成する制度の要点をできるだけ制度に充実に定式化することである。この原理は租税関数が税法の規定あるいは各税申告書の税額を算出するシステムそのものを定式化することにより得られるのと全く同一である。

ここで困難な問題が2つ発生する。制度の定式化を精密にすればする程技術的な変数や項目が増大して、サブモデルの運転に際して社会保障に関する予備知識を必要とすることと、Si ,TR の説明変数としてたとえば年金受給者数のような、積上げ計算をしない限り予測困難な外生変数が必要となることである。

本モデルにおいては、関数が多くのコントロールを含んでいるため、外挿に際して将来コントロールがどのようなレベルに決定されるかを予測することはどうしても必要である。しかしながらそれ以外の社会保障に関する予備知識は極力前提せずにサブモデルの運転ができるように配慮してある。即ち、サブモデルはマクロ計量モデルと連立させることに重点をおいたため、ある程度精密度はぎせいになっている。

ここにおいえは、社会保障制度の複雑なしくみ等はすべて総合指数に織込まれる。総合指数を実際に計算するためには社会保障に関する予備知識を必要とするが、一旦総合指数が求められてしまえば、これを運転・操作するに当っては社会保障に関する予備知識はあまり必要でない。総合指数は制度の複雑な箇所を一本の数値に直してしまっている。

Si ,TR を内生化しても、再び予測困難な外生変数が説明変数として登場したのでは、内生化のメリットは減殺されるである。この点については、年金受給者数のような外生変数は年齢別人口分布等のデータから積上げ計算により求めた昭和55年度までの予測値が作成してあり、かつ、できるだけ毎年改訂・延長した係数を発表して利用の便に供する予定である。このような外生変数は、年金制度の構造と年齢別人口構成、平均余命等の制度的、医学的要因で決定され、直接にはマクロ経済とは独立であるとみなし得る。

Si ,TR サブモデルは、マクロ計量モデルと連動することを第1目標に置いて作成したため、説明変数はほとんどのマクロ計量モデルで内生化されている変数に限定してある。TR の半分以上は医療費であるため、TR の説明変数に医療費を採用するとあてはまりは格段に上昇するが、医療費の説明は容易ではない。

このため、1人当り医療費の代理変数として1人当り個人消費支出、あるいは、平均賃金等のマクロ変数が使用される。


(注)本研究を行うにあたって、竹内邦夫,峯村英司,山崎登,山上友康の各氏から多大の御援助と御協力を戴きました。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 462 KB)
  2. 1ページ
    第1章 序論
    1. 1ページ
      1-1 目的
    2. 1ページ
      1-2 内生化のメリット
    3. 2ページ
      1-3 内生化の方法
  3. 3ページ
    第2章 社会保障関数
    1. 3ページ
      2-1 関数の分類
    2. 4ページ
      2-2 社会保障関数
    3. 7ページ
      2-3 上限の定式化
    4. 7ページ
      2-4 総合料率指数
    5. 8ページ
      2-5 年金保険料
    6. 8ページ
      2-6 医療等保険料および給付
    7. 9ページ
      2-7 年金給付
    8. 9ページ
      2-8 その他
  4. 10ページ
    第3章 制度改正の指数化
    1. 10ページ
      3-1 記号と国民所得統計
    2. 12ページ
      3-2 上限の定式化
    3. 13ページ
      3-3 比率のウェイト
  5. 19ページ
    第4章 社会保障関数各論
    1. 19ページ
      4-1 年金保険料関数
    2. 20ページ
      4-2 医療等保険料および給付関数
    3. 23ページ
      4-3 年金給付関数
    4. 25ページ
      4-4 共済と恩給 給付関数
    5. 28ページ
      4-5 その他の関数

<分析2> 財政モデルの改訂

(改定について)

昭和42年度分から国民所得統計の計算方法および表彰形式が若干改訂され、便利になった。政府勘定については、付表の「中央政府から地方政府への補助」が政府消費および政府投資について新設計上されるようになったこと、および防衛支出が別掲されるようになったことの2点が財政モデルの格式のスペシフィケーション上、非常に便利になった点である。これらの理由に基づき財政モデル(企画庁経済研究所 研究シリーズ第19号 財政制度モデルの研究)を改訂したものが本研究である。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 363 KB)
  2. 37ページ
    第1章 モデルの改訂について
  3. 43ページ
    第2章 租税関数
  4. 48ページ
    第3章 歳出関数
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