経済分析第39号
地域計画の財政モデル 他

1972年4月
<分析1>
市川 洋
<分析2>
<産業組織・物価ユニット>
新飯田 宏,前原 金一,江藤 勝

<分析1> 地域計画の財政モデル(注1)

(地域計画の概略)

東三河都市開発区域建設計画は、愛知県豊橋市、豊川市、浦郡市、新城市及びその周辺の市町村を対象とし、計画期間を昭和44年度から昭和60年度までの17か年とする地域開発計画である。この計画では各都市間の機能分担及びその調整を図り、工業、商業、金融、サービス、リクリエーション施設等を隣接地区との均衡を考慮しつつ、一体的な都市郡としての特色ある都市圏を計画することになっている。

建設の予定されているプロジェクトの概要は、第1表の通りであり、これら各施設が互に関連しながら立体的に配置されることとなっている。このうち例えば、三河港湾整備事業についてみつと、この事業は愛知県営事業であって、岸壁工事、航路泊地浚渫、道路工事、埠頭用地造成、大崎航路泊地、蒲郡埠頭建設、木材埠頭等の工事に分かれている。

第1表 東三河区域主要施設予定
第1表 東三河区域主要施設予定

開発計画の事業主体は国、国鉄、電々公社、県、市町村、地方公社、民間企業等に分かれているが、開発のための財源調達はそれぞれの事業主体によって異っている。国や電々公社の財源制約条件と例えば豊橋市の財源制約条件とはそれぞれ異っているので、開発計画の財源問題を検討するに当っては、財政基盤の異なる事業主別にプロジェクトを分割して考察せぬばならぬ。国直軸事業は国税及び国債発行による歳入が原資であり、国鉄は財政投融資、電々公社は加入者の購入する電話債券による収入を原資としている。本研究に於ては県営及び市町村営のプロジェクトに分析を限定し、県と市町村の歳入を予測し、そこから収支可能な普通建設事業費を求め、東三河地域開発計画と参合することにより、この開発計画が地方財政サイドに於てファイナンス可能であるかどうかを検討するためのモデルを作成することとする。

県及び市町村の地域計画モデルの財政部門は、次の2部分に大別される。1つは歳入予測モデルであり、他の1つは歳入総額から普通建設事業費を求めるモデルである。そしてモデルの主力は歳入予測にあてられることとなる。今愛知県(略記号K)及び東三河地域(略記号M)の就業者数をそれぞれLK、LM、純正生産をXK、XMとする。東三河地域の開発計画を実施すれば、LK、LM、XK、XM、はその分だけ増大することとなるが、それは県及び東三河地域の歳入を増大させる。歳入を増大は開発計画のための普通建設事業にまわし得る財源を増大させるから、再び地域開発計画にフィード・バックされることとなる。但し、このフィードバック・システムは開発計画の内容に強く依存するのであって、大規模な重化学工業を地域に誘致すれば、それは直ちに固定資産税、法人事業税、法人住民税等の税収増となってハネ返って来るのであるが、下水道、公園、社会福祉施設や文教施設を建設した場合には、地方の歳入増にあまりハネ返って来ないこととなる。本研究はこれらの全システムの中、LK、LM、XK、XM、等を与えて県及び東三河地域の普通建設事業費を求めるまでの財政部門の部品製作を行なうものである。重化学工業誘致プロジェクトと福祉増大プロジェクトのいずれを選択するかはその地域住民の判断による。適切な福祉指標あるいは民度指数等を作成して地域開発計画の指針とすることは可能であろうが、それは今後の課題として残されている。地域住民が工業整備を選択しない場合は、大幅な歳入増加は期待できないから地域開発計画実施のために必要な財源の制約が強く影響することとなり、下水道、住宅、公園、福祉施設等の建設速度はおそくなる代りに産業廃棄物、大気汚染、過密現象等による被害は小さくなるであろう。

なお、愛知県は東洋一の規模(昭和46年現在)の心身障害コロニー及び付帯施設(県営)を昭和41年から45年にかけて建設しており、これにつづいて大阪府が精神薄弱者のための金剛コロニーを建設中である。これら府県の社会福祉に対する努力はなみなみならぬものがあるのであるが、いずれも財政力の豊な府県であることに留意する必要がある。地域開発計画の財政モデル作成に当って若干の技術的な障害があった。第1の問題は利用可能なデータがきわめて制約されていることである。特に時系列データを利用する場合、昭和41年度以前の地域別県民所得、市町市民所得は極めて簡単なものがある程度利用可能であるのみであり、純生産の推計が行なわれていない市もある。また、昭和42年度に於て県民所得統計推計方法の改正が行なわれたのであるが、市民所得については、新・旧両推計の接続が図られていない。

東三河地域の市町村に於ては、第1次、第2次、第3次市町村民純生産が大部分の市町村に於て利用可能であったので、純生産データの欠ける市町村分を適宜追加し、新旧両推計の補正を行って基礎のデータとした。(注2)

これらのデータ上の制約は財政モデルのスペシフイケーションに決定的影響を与えており、第1,2,3次産業純生産データ以外は利用可能でないために、法人事業税、法人住民税等の推計に当って法人所得YCを説明変数に使用することが不可能であり、この点は歳入予測の精度を低下させる原因となっている。

第2の問題は、県及び市町村の歳入はある程度全国ベースの計数に依存するが、モデルを全国ベースまで拡大すると操作性を害することとなるので、その処理をどのようにするかということである。例えば市町村の歳入には地方交付税があるが、これは国の所得税、法人税、酒税の合計額の32%を地方に譲与するものであって、地方公共団体の財政力格差を是正することを目的としている。この総額は全国ベースで決定されるものである。この他にも法人事業税、法人住民税は全国ベースで決定される要素の方が大であり、更に、国庫支出金の取扱い等も問題となる。本モデルに於ては、モデルの複雑化をさけるために全国ベース計数を使用しないこととした。


(注1)本研究は東三河地域開発に関し、総理府中部圏開発整備本部の依頼により中部圏地域計画管理研究会において開発したモデルの財政部門であり、市川 洋、保坂 正が担当開発したものである。

(注2)本研究のための基礎データ作成に当って、愛知県企画部及び東三河地域市町村の関係者から多大の協力と援助を戴いた。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 420 KB)
  2. 1ページ
    1.地域計画の概略
  3. 2ページ
    2.財政資金の流れ
  4. 4ページ
    3.地方歳入
  5. 5ページ
    4.国庫支出金と地方債
  6. 7ページ
    5.法人住民・事業税
  7. 9ページ
    6.間接税
  8. 11ページ
    7.税目の総合
  9. 13ページ
    8.個人住民税
  10. 17ページ
    9.普通建設事業費
  11. 19ページ
    10.シミュレーション

<分析2> インフレーションと所得再分配

(序)

従来のインフレーションの研究は、古くは貨幣数量説の分析、また、ディマンドープルとコストープシュの議論、あるいは最近の輸入インフレの研究にみられるように、その原因を解明することに重点をおかれてきた。そしてその際、インフレーションが悪であること、すなわち資源の配分によくない影響を及ぼすとか、所得配分を不平等化するといった厚生経済上の価格判断が、暗黙のうちに前提されていた。

このような研究姿勢は、インフレーションが古典的なハイパー・インフレーションである場合には、あながち誤りでないかもしれない。しかし、現代のように問題とされるインフレーションがマイルドなクリーピング・インフレーションである場合には、事態は全く異なったものとなる。

関する実証分析を提示することを試みた。まお、われわれの分析対象が家計であることか現在世界各国で進行している物価の上昇は、一体、いかなる影響を経済的厚生に及ぼしているのであろうか。この問題に関する研究は、われわれの知る限りでは、ホリスター、パーマー〔1〕、ブリマー〔2〕、バッド、セイダース〔3〕、ハリス〔4〕、安田〔5〕等、数えるほどしか行なわれていない。しかも、これらの研究によっても、現代のインフレーションが大きな悪害を及ぼしているという結論はいまだ出されていない。これらの研究の中には、むしろ〔1〕のように、インフレーション、失業率、成長等経済諸変数間のトレード・オフ関係を考慮したうえで、現代のインフレーションが経済的に望ましい影響を与えていることを明らかにしたものもあるほどである。わが国における数少ない実証研究〔5〕も、インフレーションが所得再分配を歪めていることを明確に証明してはいない。

われわれは、インフレーション研究のこのような実状に鑑みて、今後議論を発展させていくうえで基礎となるような、インフレーションの所得再分配にら、家計の購買力と密接に関連する消費者物価の継続的上昇をもって、「インフレーション」と考えることとした。

この研究は、安田氏の研究を参考にして、これを発展させると同時に、税制とインフレーション、非持家世帯、老人世帯、被保護世帯に対して、インフレがどう影響してきたかについても分析を試みた。

このように、ここでは所得再分配という視点からインフレーションの分析を試みたわけであるが、インフレは、この他にも資源の配分に重要な影響を及ぼしている。従って、完全なインフレーション研究を行なうためには、企業と家計あるいは政府の間の資源の配分に対しインフレがいかなる影響を及ぼしてきたか、また、一般にいわれるように、インフレ過程を通じて(資金の借り手としての)企業が得をし、(貯蓄者たる)家計が損をしてきたか、どの程度の損得か、その経済成長に与える影響はどうか、などといったとこが明らかにされねばならない。しかしながら、現在のところ、われわれはこの分析を行なうためのコンプリートなモデルをもたないし、これに必要な統計資料もない(特に、中心となるキャピタル・ゲインの把握が困難である。)それ故、われわれの研究は、必然的にデータの利用可能な所得再分配効果の測定に限定されざるをえなかった。したがってわれわれの分析は完全なものではない。資料に表われてこない特にストックを中心とした再分配効果については、出来る限り、その方向が推論されるように配慮したつもりである。


〔1〕Robinson G. Holister, John L. Palmer THE IMPACT OF INFLATION ON THE POOR., Discussion paper of Institute for Research on poverty, The University of Wisconsin.

〔2〕Andrew F.Brimmer INFLATION AND INCOME DISTRIBUTION IN THE UNITED STATES, The Review of Econonics and Statistics, May 1970.

〔3〕Edward C. Budd, David F. Seiders, THE IMPACT OF INFLATION ON THE DISTRIBUTION OF INCOME AND WEALTH, Amercan Economic Review, May 1971.

〔4〕Seymour E. Harris, THE INCIDENCE OF INFLATION: OR WHO GETES HURT?, U. S. Congress Study Paper No7.

〔5〕安田靖、所得再分配効果の実証研究、週刊東洋経済、近代経済学シリーズ臨時増刊、1971年5月20日


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 546 KB)
  2. 23ページ
    1. 24ページ
      I.インフレーションと所得再分配
      1. 24ページ
        (1) 階層別所得分配の測定方法
      2. 24ページ
        (2) 階層別所得分配
      3. 26ページ
        (3) インフレーションの所得再分配効果
    2. 28ページ
      II.税の所得再分配効果とインフレーション
    3. 31ページ
      III.インフレーションと金融資産の動向
    4. 34ページ
      IV.非持家世帯に与えるインフレーションの影響
    5. 37ページ
      V.老人世帯に与えるインフレーションの影響
    6. 41ページ
      VI.被保護世帯に与えるインフレーションの影響
    7. 49ページ
      VII.生活必需品による階層別物価指数の分析
  3. 55ページ
    結語
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)