経済分析第46号
東京大都市圏の圏域構造

1974年3月
<経済研究所都市分析ユニット>
山田 浩之,小林 良邦,近藤 誠

(序論)

第1節 研究課題

戦後の経済成長の過程で、経済活動や人口の都市集中が急激に進行し、日本の都市は急激な変貌を遂げた。とくに大都市では、住宅問題、交通問題、環境問題などさまざまの都市問題が発生し、また深刻化しつつある。この点については何人も異論はないであろう。

問題とすべきは、これらの都市問題解決の方向であり、都市政策のあり方である。従来の都市政策は、たとえば住宅問題については住宅政策、交通問題については都市交通政策というように、個々の都市問題に対する個別的対策に終始していたと思われるが、個々の問題は相互に関連しており、ある個別的対策がしばしば他の問題をかえって悪化させ、全体としての都市問題の解決にはならない場合があるのである。

これは、都市の変化を全体として把握する視点が欠如していたために看過されてきた現象である。都市問題解決の方向を探るにあたって、まずわれわれはこの視点を確立する必要がある。

都市の変化を全体として把えることの重要性は、現実の事態を次のように考えるとき、極めて明らかとなる。周知のように、都市集中は、一言でいえば、企業が「集積の経済」を利用しようとして都市へ移動することによって惹起されるものであるが、他方その結果として「集積の不経済」(あるいは「過密の弊害」)とよばれるものが生ずる。この「集積の不経済」を解消しようとして、公共投資によって都市施設を拡充し、都市をより機能的にし、あるいはより住みやすくしたとすれば、それはさらに多くの企業や人口の都市集中を招く効果をもつ。ここで新たに「集積の経済」が生じるわけであるが、一方「集積の不経済」も再び拡大する。こうすて、都市施設への投資の必要性はさらに高まるのである。このようなスパイラルを生じているのが、現在の姿ではなかろうか。

その最も典型的な場合が交通問題である。いま交通混雑の緩和のために交通投資を行い、交通条件の整備を計るとすると、人々は交通の便利さを利用しようとしてさらに都市に集中し、再び交通混雑はもとの水準に戻って、さらに投資が必要となる。

その過程で、住宅需要はさらに増大してスプロールが進行し、交通公害も発生して、住宅・土地問題や環境問題の悪化を招くことにあるのであろう。

このように、交通、住宅、土地環境などの諸問題は相互に関連しあい、都市の動態的変化の中で相互に問題を深刻化させているのである。このような事態を全体として把握するためには、都市を空間的広がりをもった存在と考え、そこでの経済活動が相互に空間的に関連しあっているという事実を分析する必要がある。

この点について、従来の経済学では空間を捨象した分析が行なわれていたために、空間的広がりをもつ都市を理論的に分析する用具が十分に開発されなかったといえる。

そこで、空間的広がりを明示的に取扱い、空間もしくは距離を最も重要な変数として、モデルを構成するような経済理論としての都市経済学の登場が要請され、この分野の研究が発展することになったわけである。都市経済学によって初めて、都市における空間的土地利用の構造、経済活動の空間的配置、あるいはその空間的相互依存関係を分析することができるのである。

さてこのような都市経済学の立場に立脚して都市を全体として把握しようとするとき、あるいは都市における変化を総体としてとらえようとしたとき、われわれはまず都市集中がいかなるメカニズムを通じて、またいかなるプロセスをたどって「都市化」を進行させるか、を分析してゆかねばならない。また、その過程を、住宅問題をはじめとする多くの問題へのインパクトとの関連でみてゆかねばならない。

このような都市集中に伴う都市の全体的変化を分析するために、われわれはこの過程を把えうるモデルを建設する必要がある。これを「都市的土地利用モデル」と呼ぶことにしよう。このモデルの特徴はどのようなものでなければならないのか。当然それは従来の計量モデル、たとえば、ケインズ理論に基づくマクロモデル、とはかなり性質の異なったものになるであろう。

「都市的土地利用モデル」は、都市における空間的な土地利用の関係を解明するためのものであるから、当然、都市内における種々の地区あるいはゾーン間の関係を把える必要がある。そのためには横断面分析としての側面をもたなければならないであろう。そして、都市における消費者や企業が立地と土地利用に関してどのような意思決定を行うか、を分析するものでなければならないであろう。すなわち、消費者ないし企業のミクロ的行動を前提として、それらの経済主体の空間的な立地関係を明らかにできるようなモデルを構想しなければならない。

もちろん、こういったモデルの建設は決して容易ではない。したがって、都市経済学において現在までに開発されたモデルは、基礎的産業の経済活動を所与として、企業や家計の行動、とくに住宅の生産と消費を分析することに力を注いできた。これは次のような理由による。第1には、都市の成長をもたらすような基礎的産業の場合には、その企業の生産活動や立地行動が全国的な地域間の経済活動の相互依存関係の中で決定されるものであり、都市を主たる分析対象とする都市経済学の範囲をこえること。第2には、都市の形態ないしは都市の個性を与える要因が、都市の経済活動を大きく産業活動と居住活動とに分類するとき、後者に求められるからである。つまり、都市において、人々がどこにどのような住宅を選んで居住するか、ということが、現実の都市問題の進行と深く関連しているからである。

「都市的土地利用モデル」は、「都市シミュレーション・モデル」とも呼ばれるが、ローリー(I.Lowry)によってその基礎を与えられて以来、アメリカにおいてさまざまな開発が試みられ、最近ではNBERにおいて大規模なシミュレーション・モデルの建設が、ケイン(John.F.Kain)を中心に建設されるに至った。注1)わが国については、若干の試みが行なわれているが、まだ大きな発展を見ていないが現状である。したがって当研究所において、わが国に適合した「都市的土地利用モデル」の開発を行うことの意義は大きいと考えられる。なお、これら従来の研究についてサーヴェイをしておく必要があるが、これについては別の機会を待ちたい。注2)

さて、われわれの究極の目的は「都市的土地利用モデル」の建設にあるわけであるが、その対象地域としては東京を取り上げることにしたい。その理由はいくつかあるが、主要なものを挙げておこう。まず第1に、今日の都市問題が最も厳しい形で表われている地域が、いうまでもなく東京であるという点である。この意味において、都市問題の解決を考えるに際して東京を分析対象とするのは、むしろ当然であろう。第2は、東京がわが国において最も広大な関東平野の南端に位置している点である。都市経済学では、対象とする都市が特徴のない同質的な平野に位置するものと前提して抽象モデルを構築するのが常であるが、東京はわが国で最もよくこの条件に合致している地域なのである。第3には、東京では規模が大きすぎはしないかという問題があるが、ある意味で東京は最も豊富にデータが揃っている地域でもあるということを指摘しておきたい。

なお、われわれは東京に特有なモデルの建設を目的とするのではなく、ある意味ではどの都市にでも適用可能な汎用性のあるモデルを目指している。そして、都市の経済分析に関する基本的手法の確立に努力したいと考えている。

第2節 本報告の作業目的

以上で述べたように、われわれの究極的課題は、都市集中に伴う都市化過程あるいは種々の問題の発生・展開過程を分析するための「都市的土地利用モデル」の建設にあたるが、われわれはそのための準備的作業として、まず現実に都市化が空間的にどのように展開しているかを事実に即して把える必要がある。というのはまず、第1に、直接的な目的として、われわれは研究対象の圏域を限定しなければならないかれである。東京を分析する場合に、東京23区あるいは東京都だけを問題にするのは、現代の東京を考えれば明らかなように、あまり意味がない。なぜなら、東京に職場をもつ人々が、神奈川県、埼玉県、千葉県などの東京以外の地域から通勤している例に見るように、東京への人口集中に伴って、都市化は東京都という行政区域をこえて、はるかに拡大しているからである。したがって、われわれは東京都をこえて拡がってゆく都市化の過程を全体として把えなければならないし、また都市化地域をそうでない地域とを何らかの基準によって区分し、前者を対象領域として分析してゆかねばならないのである。

第2に、都市問題をより深く把握するためには、都市化が地域的・空間的にどのように広がってゆくかを考察しなければならないが、それと同時に、どのような指標によって都市化が把えられるか、という点についても、分析しなければならないからである。いうまでもなく、都市的性質ないしは都市化を示す指標は数多く採ることができる。人口の密集性を示す指標、非農業的土地利用を示す指標、人口の流動性を示す指標などの諸指標がその一例であるが、これらの指標はどのように関連しているか、そして都市化を最も端的に示す指標は何か、といった問題を追求しなければならない。またある場合にはいくつかの指標をもとに、抽象的に都市化を示す指標を人為的に作成する必要があるであろう。

第3に、上述の第2点関連するわけであるが、都市化については、従来、都市社会学や都市地理学において、研究がかなりの程度進められている点を考慮して、それら諸科学の研究成果を吸収しつつインターディシプリナリーなアプリーチとしての地域科学的分析によって、都市化された地域の内部構造を把握しておくことが重要な意味をもつからである。

さて、都市化の地域的・空間的分布あるいは都市化地域の内部構造は、次の2つの側面から見ることができるであろう。その1つは都市化地域内における種々の都市機能の地域分散とその配置という側面である。この側面にていては、都市社会学者バージェス(E.Burgess)が提唱した「同心円地帯」仮説が有力であり、検証すべき仮説としてわれわれの前にある。この仮説は、異なる都市機能が地域的に分離し、従って同一の都市機能は同一地域内に集中する傾向があり、その結果、同一機能をもつ地域が都市の中心からの距離によって同心円状に、したがって不連続に区分されるとするものである。ここでは、都市地域がいくつかの同心円からなる、不連続な多層構造として把握されることになる。

この「同心円地帯」理論を基本的には認めつつ、若干修正したものがホイト(H.Hoyt)の扇型(セクター)理論である。これは、交通機関の発達の程度の差、地理的条件などによって、同心円構造がある方向に偏する可能性を指摘し、かつ中心地域付近における機能地域の配置が外側に向かって拡大すれば、ある方向に特定種類の土地利用が伸長すると唱える。つまり、都市化の進行に際しての機能地域の拡大には強い方向性があると指摘するのである。

東京の都市地域に関して、これらの仮説がどの程度適合するかを検証することは、東京という都市地域の内部構造を把握する上できわめて重要である。また、都市化指標の分布のパターンの関連で都市地域の内部構造を解明することも有意義と考えられる。

次にもう1つの側面は、都市化が都心から農村地域へと連続的に分布しているか否かという点に求められる。これに関して、従来は、都市と農村との地域区分はきわめて明確であるとし、それを前提として都市と農村の対立を強く論ずる傾向があった。しかし、これに対して、都市化の外延的拡大を前提として、都市的性格の都市から農村への移行はきわめて連続的であるとする「都市・農村連続体(rural-urban continuum)説」が主張されるに至った。この仮説を文字どおりに解釈するならば、都市的性格は都市の中心から農村に向って連続的に減少し、従って、どこかで両者を区分することはきわめて困難になるであろう。つまりと私的性格から農村的性格へと連続的に変化するために、都市と農村は明確に区分され得なくなるのである。

わが国の場合、この「都市・農村連続体説」は、はたして妥当するであろうか。この点に関しては、社会学者安田三郎氏の研究注3)があり、そこではこの仮説が肯定されている。しかしながら、この研究は、たとえば東京のような大都市地域について行なわれたのではなく、多数の都市を集めて「因子分析」を行なって「都市度」を抽出し、その結果に基づいて「都市・農村連続体説」を肯定するという手順によっている。しかし「都市・農村連続体説」を検証するには、東京のような大都市において、都市の中心から農村への連続的移行が行なわれているか否かをみるべきではなかろうか。

ここで「都市・農村連続体説」を問題とするのは、われわれの作業仮説が、都市的性格の都市地域から農村地域への連続的変化によって都市圏と非都市圏の分離が不可能であるというものではなく、むしろ逆にその分離が可能であるというものであるからである。ただし都市化は現実の行政区域を越え拡大しているのであり、従来の都市概念によって都市と農村の分離を行なおうとするのでなない。

われわれの仮説は、次章において詳しく述べるように、中心都市の郊外はむしろ都市化地域と考えるべきであるとし、都市中心とその周囲の郊外とから構成された「大都市圏(メトロポリタン・エリア)」と非都市圏とが地域的に区分しうるものういうものである。この作業仮説を以下で検証するが、この仮説か正しく「東京大都市圏」と呼ばれるべき圏域を設定することが可能となるのならば、われわれはこのような圏域を分析の対象地域とすることになるであろう。

以上の要約をしておこう。本報告におけるわれわれの作業目的は、「都市的土地利用モデル」を建設するための予備的作業として、地域科学的手法によって、次のような諸問題を分析し解明することである。すなわち、都市化は空間的にどのように発展しているか、都市化を示す指標としてどのような変数を採用すべきであるか、都市化された地域として大都市圏が非都市化地域から分離できるかどうか。つまり、大都市圏の圏域の設定が可能かどうか。さらに、この設定がなされた場合、その内部構造はいかなるものであろうか。その場合、「同心円地帯」仮説、あるいは扇型仮説は妥当するであろうか-以上の諸点である。


(注1) G.K Ingram, J.F Kain, & J.F.Ginn, "The Detroit Prototype of the NBER Urban Simulation Model", National Bureau of Economic Research,1972を参照のこと。

(注2) 従来の研究をサーヴェイしたものとして、とりあえず次のものをあげておきたい。
H.J.Brown, et al., "Empirical Model of Urban Land Use", National Bureau of Economic Research, 1972;
石原舜介・熊田禎宣「都市計画からみた都市経済学の展望」 経済研究所Vol.24, No.2, 1973年4月;
安田八十五「都市化社会のシステム分析」安田三郎編『数理社会学』(社会学講座17) 東大出版会、1973年1月、所収。

(注3) 安田三郎「都鄙連続体説の考察」、『都市問題』50-2,50-9,1959(同『社会調査の計画と解析』東大出版会1970再録)。


全文の構成

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  2. 1ページ
    第1章 序論
    1. 1ページ
      第1節 研究課題
    2. 3ページ
      第2節 本報告の作業目的
  3. 6ページ
    第2章 大都市圏の圏域構造と都市化指標
    1. 6ページ
      第1節 大都市圏の概念
    2. 9ページ
      第2節 SMSA基準
    3. 10ページ
      第3節 3つの個別指標分析
      1. 10ページ
        (1)非第1次産業就業人口比率
      2. 13ページ
        (2)人口密度
      3. 16ページ
        (3)流出入就業人口率
      4. 19ページ
        (4)上記個別3指標による分析の結論
  4. 21ページ
    1. 21ページ
      第1節 主成分分析の概要
    2. 22ページ
      第2節 使用変数について
    3. 23ページ
      第3節 主成分分析の結果
      1. 24ページ
        (1)第1主成分-都市度
      2. 26ページ
        (2)第2主成分-産業度
      3. 31ページ
        (3)第3主成分-住宅度
    4. 36ページ
  5. 48ページ
    第4章 判別分析の適用
    1. 48ページ
      第1節 判別分析とは何か
    2. 48ページ
      第2節 判別分析の応用
    3. 52ページ
      第3節 判別分析の結果と個別指標との対応
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