経済分析第52号
短期経済予測パイロットモデル SP-15

1974年12月
小林 進,堀口 順一郎,横田 謙一,島内 昭,尾坂 雅弘,中城 吉郎,大守 隆

(はじめに)

短期経済予測パイロットモデルは「経済分析」(第21号、昭和42年3月)に発表されて以来、再推定を重ね、昭和48年6月には「SP-14」の完成をみた。しかし、このSP-14は48年に入ってからの物価上昇を追い得ないこともあって、主要内生変数における外挿結果と実績とのかい離は拡がるばかりであった。折しも、石油危機の突発に直面、経済構造が激変しているとの判断のもとに、従来の有効需要モデルに対する不信感はいっそう増大した。こういった状況下で、今年1月再推定作業をはじめるにあたっての指摘された課題は、次のとおりであった。

  1. (1) 47~48年における物価上昇を説明できるようにすること。投資、輸出入、賃金などの主要変数についても実績とのかい離の原因を明らかにすること。
  2. (2) 預金準備率、個別物資対策などの政策効果を分析し得るようにすること。
  3. (3) 供給制約を考慮すること。
  4. (4) モデル・ビルディング上、次の諸点を検討すること。
    1. i. 分布ラグの吟味
    2. ii. 推定期間の短縮
    3. iii. 公定歩会などに季節調整は必要か
    4. iv. 新しい説明変数の導入

まず、推定期間についてであるが、SP-14は昭和29年度第1四半期から昭和46年度第4四半期までを内挿期間とするものであったが、SP-15は昭和32年度から、昭和46年度までとした。昭和47年度のデータを追加しなかったのは、従来の再推定では最新のデータを追加することによって良好な内挿テストを得ても、十分な外挿テスト期間をとり得ないため、前向きの予測力がテストされないうらみがあったからである。名古屋大学の樋口敬二教授が雑誌「ESP」(1973年10月号)の座談会で、中谷宇吉郎先生の話を紹介している。先生はコンピューターを使った気象予測の話をきいたあとで次のようにコメントしたという。

「気象の変化を予測できるという話で、たいへんよくわかった。しかし、あなたはいままでのデータを使って来年を予測しているけれども、そうではなくて、3年前までのデータを使ってその後の3年を予測し、実際の3年と合わせてみてくれ、それをやらないとチェックできない。」

それに、47年度のデータを加えれば、48年度の予測能力が高まるかといえば、他所のモデルをみてもわかるように、必ずしもそうはいえないのである。

次の供給面であるが、結果的には特別な考慮はしなかった。石油危機のさなか供給面を補強するための種々の努力を試みたが、現在の体系の中では、そのような器用なことは無理のようだ。だからといって、モデルが役立たなくなったとみるのは早計である。プライス・メカニズムが生きている限り(徹底した統計経済にならない限り)、有効需要モデルはなお十分に有用だと思う。もちろん、それは今後の予測結果が判定を下すことではあるが、

そこで、「あたりの良い」モデルを作るにはどうすべきかが、われわれの念頭に常にあった。政策変数をふやす場合には、外生変数として想定が容易か否かを考えざるを得なかった。結局、SP-14に比べて、政策変数はたいして増えていない。

SP-15の大きな特徴は、連立方程式体系がひとつ以外あり得ないようなプリゼンテイションのやり方をやめたことである。モデルは推定期間を固定していても、複数個作ることが可能である。実際に予測する場合には、予測者の抱いている「経済に関するものの見方」によってそのひとつを選ぶべきだと考える。自動車についていえば、多数の車種があるように、予測者はその経済観に適合するモデルを選択すべきだろう。残念ながらすべての関数について、多数の回帰式を導き出すほどの余裕はなかったが、主要なものについては、いかの章にみるように複数の回帰式が並列してある。

しかし、方程式を並べただけではモデルといえないわけで、ファイナル・テストを通った、ひとつの組合せについて、その方程式体系を一覧にし、外挿結果と乗数効果を掲載した。この組合せが最良というわけではない。たえまなく、新しい部品を開発し、新しい組立てを行う必要があると考えている。そういった意味で、われわれは「体裁のいい論文」を書くよりも、試行錯誤の記録を覚書風に綴ることにした。今回の作業過程で、先人たちの「きれいごと」は何の役にも立たず、率直な苦心談こそ繰返し読むに値することを痛感したのである。誇らしげな成果もさることながら、失敗の記録こそモデル・ビルディングのような継続作業(しかも人は定期的に交代する)には有用なのである。

方程式の中に「実績値に合わせるためにダミー」は全く入れていない。ファイナル・テスト結果を良くしようと思えば、在庫関数などにダミーを入れる必要があろう。過去の分析用としてはこれは必須であるが、われわれの作業目的が将来予測にあったために、その手間をはぶいている。では、こういったモデルが何期先まであてることができるかとなれば、感じとしては4期先までだろう。後に掲げる外挿結果表をみればわかるように、47年度第1期スタートの47年度、48年度第1期スタートの48年度における外挿結果をみると、かなり良好である。年度数字あるいはGNPのような合計値になるとますますそうである。5期以上にわたる場合は、誤差の累積に注意し、異常な値の出る関数については、工夫をこらしつつ使えば、予測道具として役立つと信じている。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 687 KB)
  2. 1ページ
    I はじめに
  3. 2ページ
    II モデルの方程式体系
    1. 2ページ
      1 構造方程式
    2. 6ページ
      2 定義式
    3. 7ページ
      3 変数記号表
  4. 10ページ
    III 個別方程式の説明
    1. 10ページ
      1 国内最終需要
      1. 10ページ
        1-1 個人消費支出
      2. 11ページ
        1-2 民間住宅投資
      3. 12ページ
        1-3 民間設備投資
      4. 28ページ
        1-4 民間在庫投資
    2. 30ページ
      2 貿易別ウィンドウで開きます。(PDF形式 625 KB)
      1. 30ページ
        2-1 商品輸出関数
      2. 33ページ
        2-2 商品輸入関数
    3. 35ページ
      3 生産
      1. 35ページ
        3-1 鉱工業生産指数
      2. 37ページ
        3-2 製造業稼働率指数
      3. 38ページ
        3-3 能力国民総生産
    4. 40ページ
      4 賃金、雇用
      1. 40ページ
        4-1 賃金関数
      2. 45ページ
        4-2 雇用者関数
    5. 45ページ
      5 デフレーター
      1. 45ページ
        5-1 個人消費支出デフレーター
      2. 48ページ
        5-2 民間住宅投資デフレーター
      3. 50ページ
        5-3 民間設備投資デフレーター
      4. 52ページ
        5-4 政府固定資本形成デフレーター
      5. 53ページ
        5-5 民間在庫投資デフレーター
      6. 55ページ
        5-6 商品輸出デフレーター
    6. 56ページ
      6 分配所得
      1. 56ページ
        6-1 法人所得関数
      2. 59ページ
        6-2 法人税関数
    7. 60ページ
      7 金融
      1. 61ページ
        7-1 全国銀行約定貸出平均金利
      2. 63ページ
        7-2 産業資本供給(増減)関数
  5. 65ページ
    1. 65ページ
      1 内挿テスト
    2. 66ページ
      2 乗数分析
    3. 66ページ
      3 外挿テスト
  6. 81ページ
    [参考] SP-14及び内調モデルについて
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  • 電話 03-5253-2111(代表)