経済分析第57号
生産物量を基礎とした産業別実質国内総生産の推計に関する研究

1975年8月
小金 芳弘,吉川 隆芳,大守 隆,藤木 靖朗,小林 進

(はしがき)

当研究所においてはここ数年来、経済変動の瞬間風速を測定するための統計データとして月次GNPの開発を試みてきたが、速報性の最も高い原統計としては各種生産統計と物価統計があるだけである。従って、月次GNPをつくるためには産業別実質生産額の推計を基礎にせざるを得ない。後述するように、カナダでは生産数量をもとにした四半期GDPの推計が行われている。一方、わが国においては、産業別名目生産額の年次系列は当研究所国民所得部が参考系列として作成しているが、実質系列の推計は行っていない。新SNAへの移行は、産業別国内生産額の名目および実質系列の作成を意味するので、その完成を待てばよいわけであるが、昭和48年秋の石油ショック以来、わが国の経済は新局面に入り、エネルギー、環境コスト等の問題に関して各産業がどのように対応するかという分析の必要性が高まっている。産業連関分析では、長期的・構造的問題へのアプローチは可能であるが、たとえば来年度に石油供給量や電力供給量がどうなったら、これまでの経済構造のもとでは各産業のOutputはどうなるか、というような短期分析に直接役立てることはできない。最終需要の部門別配分がどうなるかを先ず推定しなければならないからであり、資源に制約がある時それを部門別にどう割当てるか、相対価格をどうするか、というようなことはまさに政策課題であって、分析の出発点にすべき問題ではないのである。

以上の諸点にかんがみ、次月別、産業別実質生産額の推移を行い-そうすれば自動的に産業別価格の系列も出てくる-次にこれを四半期に分割する-必要性と可能性があればこれを更に月別に分割する-というように作業の手順を変更することにした。

産業別実質生産額の推計は、しかしながら大きな問題点を持っている。いうまでもなくその第1は、産業別のデフレーターがないことであって、産業=支出の関係を実質ベースで成立させるためには、InputとOutputを別々にデフレートしその差額を産業別実質附加価値額とするという、いわゆるダブルデフレーション法を用いなければならない。これは新SNAへの移行に伴って行われるべきものであり、これまでわが国で産業別実質生産額の推計が行われなかったのは、主としてダブルデフレーションが不可能であったという事実にもとづく。

しかしここでは、生産指数の存在するものについては、その動きはすなわち実質付加価値額の動きである、という仮説を採用して実質化を行った。これはもちろん、産業ごとのコスト構成がすう勢的に変化することがあり得るという事実から考えれば、理論的に正しいとはいえない。しかしあえてそれを行ったのには二つの理由がある。一つはダブルデフレーションが完成するまでの間に暫定的にでも使える系列をつくってみて、それにもとづいて産業構造を考慮に入れた計量モデルの開発を試みることを可能にしようとすることである。もう一つは、速報性という見地からみて生産指数をベースにした実質生産額の容易であるが、名目生産額-ダブルデフレーションによる実質化、という過程をとる推計には時間がかかり、月次GNPの狙いとする分析には役立たないため、この種のデータを開発しておくことは将来役に立つだろう、ということである。生産指数の存在しない部門については、後述するように各種の方法を混用した。その中にはシングルデフレーションを用いたものもある。本資料はもちろん、四半期別ないしは月別産業実質生産額の推計というプロジェクトのほんの第一段階にすぎないが、現段階においても役に立つ場合もあると考え、一応印刷に付することとした。

本推計は暦年系列の早期作成という意図もあって、難しい個所を後に残して作業を進めたきらいもあり、今後にさらに検討を加えていかなければならないが、経済分析等に利用していただければ幸いである。

終わりに本推計作業に関して、資料の提供、アドバイス等絶大な応援と御協力を願った先輩諸賢及び各産業を所管している関係機関の方々に、深く感謝の意を表したい。

なお、本推計作業は当研究所の小金芳弘次長の指導のもとに小林主任研究官、藤木靖朗(昭和49年11月まで)吉川隆芳および大守隆が分担した。

最終報告の本文は吉川、大守が、付録の(1)は大守が、(2)(3)は吉川が、(4)は小林が執筆した。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 491 KB)
  2. 1ページ
    はしがき
  3. 2ページ
    I.実質国内総生産の推計について
    1. 2ページ
      (1) 実質国内総生産の概念
    2. 2ページ
      (2) 生産面からの実質化
    3. 2ページ
      (3) 生産物量方式
    4. 4ページ
      (4) 実質化に伴う困難
  4. 4ページ
    II.産業別推計方法
    1. 4ページ
      (1) 推計の原則
    2. 5ページ
      (2) 名目国内総生産の調整
    3. 9ページ
      (3) 産業別推計方法
  5. 41ページ
  6. 55ページ
    IV.結果の検討別ウィンドウで開きます。(PDF形式 628 KB)
    1. 55ページ
      (1) 国内総生産と国民総生産
    2. 56ページ
      (2) 名目・実質比と物価指数
  7. 61ページ
    V.主要結果
    1. 61ページ
      (1) 国内総生産の産業別働き
    2. 67ページ
      (2) 経済成長率の産業別寄与率
  8. 68ページ
    付録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 483 KB)
    1. 68ページ
      (1) ダブルデフレーションの意味について
    2. 70ページ
      (2) 実質労働生産性
    3. 73ページ
      (3) 各国の産業別実質国内総生産推計方法
    4. 75ページ
      (4) カナダの産業別実質国内生産指数
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