経済分析第61号
コール市場と貨幣の供給過程 他

  • <分析1>コール市場と貨幣の供給過程
  • <分析2>わが国の貸出市場構造-都市銀行と地方銀行との貸出金利を中心として-
1976年3月
<分析1>
浜田 宏一,岩田 一政,石山 行忠
<分析2>
浜田 宏一,石山 行忠,岩田 一政

<分析1> コール市場と貨幣の供給過程

(序)

本稿の目的は日本における金融政策の波及過程において重要な役割を演じているコール市場に焦点を合わせながら日本における貨幣の供給過程を考察することにある。欧米の伝統的な金融理論においては、銀行の自由準備が貨幣供給過程の説明において中心的な役割を演ずるが、日本においては借入れに基づく準備が銀行準備の大部分をしめているので、銀行間、とりわけ都市銀行と地方銀行を含むその他の金融機関との間で銀行準備を融通し合う場であるコール市場の需給均衡を通して貨幣供給が決定されると見ることが出来るのである。

日本の金融政策の波及過程におけるコール市場の役割については、前稿「金融政策と銀行行動」(『経済分析』56号)においてもすでに論じたところである。すなわち日本銀行の貸出政策の影響を直接受けるのは都市銀行であって、コール・レートの変動を通じて中央銀行のコントロールがその他銀行のも及ぶ可能性があるという意味において、金融政策の効果が波及して行く際の重要なリンクの一つとしてコール市場は機能している。また、昭和46年に創設された手形売買市場も、銀行準備を短期に融通し合う市場であるという意味で、これをコール市場の一部として取扱うことが出来よう。手形売買市場における日本銀行の手形オペレーションは、近年日銀貸出に代わるハイパワード・マネー(中央銀行貨幣)の主要な源泉の1つになりつつあるので、この手形市場を含んだ広い意味でコール市場の分析は、日本の貨幣供給過程を記述する上で欠くことが出来ないものである。このような広義の意味のコール市場において、直接に中央銀行のハイパワード・マネーの量的調整がなされているのと同時に、先に見たように都市銀行とその他銀行との間でハイパワード・マネーの分布に関する調整がなされているといえよう。

一般に、貨幣の供給過程は中央銀行の行動と銀行部門および非金融民間部門(以下単に民間部門と呼ぶことにする。)の資産選択行動の相互作用を通じて決定される。そかし、この銀行と民間部門の資産選択行動がこの貨幣供給過程にどのような形で組み込まれているかという点については、様々な考え方が存在し得る。メイグス(1962)に始まりゴールドフェルト(1966)クーパー(1974)らによって展開された米国のおける貨幣供給過程に関する実証研究は、自由準備または超過準備と中央銀行からの借入れに対する需要の決定を通じて貨幣の供給過程を記述しようとする試みである。この考え方によれば、主として銀行準備に関連した短期貨幣市場における均衡の達成を通じて、預金の供給量が決定されるのである。この理論は、ゴールドフェルト、ブルッキングス・モデルやFRB-MIT-PENNモデルなどの計量モデルにおける金融部門の貨幣供給に関する構造方程式の定式化に用いられている。

一方、フリードマン(1963)は上述した構造形を用いた定式化とは対照的ないわば誘導形による均衡貨幣量決定の枠組みを提示した。ここでフリードマンの定式化を導入形と呼ぶ理由は、それが金融部門および実物部門のすべての構造方程式を同時に解いた後に得られる関係式だからである。注1)この定式化においては銀行準備に関連した市場ばかりでなく、民間部門の現金ないし預金に対する需要も貨幣の供給過程の決定要因として加わってくるのである。そこでは、貨幣の供給過程は、様々な資産の均衡達成を前提として導かれると言ってよいであろう。ブルンナーとメルツァー(1964)は、銀行の収益資産に対する需要に注目し、銀行の貸出市場で貸出利子率が決定されると同時に貨幣供給量が決定されるという関係を、フリードマンと同様に誘導型を用いて定式化した。

このフリードマン、ブルンナー、メルツァーらマネタリストの定式化と上に述べた銀行の準備を中心とする理論の1つの相違は、「他の事情にして等しい限り」("Ceteris paribus")とする仮定に基づくものと考えられる。後者の見方によれば、さし当り実物部門における経済諸変数の動きを所与と見て、預金の供給過程を銀行の資産選択行動を中心として分析するのに対し、マネタリストの見方では金融部門、実物部門における諸資産の均衡達成を前提として分析を行う訳である。しかしながら、マネタリストは、以上のように包括的、全体のリパーカッションを考慮するとはいえ、銀行の行動がどのようなパターンで行われるかに関しては個別的に明らかにしない。

一般に、銀行準備とりわけ自由準備を中心とする見方は、短期の貨幣供給過程を調べようとするのに対し、マネタリストのそれは銀行準備を中心とする見方よりやや長期の貨幣供給過程を叙述しようとするものであると言うことが出来よう。また、この「他の事情にして等しい限り」という仮定のおき方によって、すなわち民間部門の行動をさし当り所与であると見なすかどうかによって、貨幣供給の対象として預金のみを考えるのか、それとも通常の貨幣の定義に従って民間部門保有の現金通貨と預金の和としての貨幣を考えるのかという違いも生じて来ているのである。

さて、日本の金融の制度的特徴である量的な付加的制約の下での銀行の行動ならびに金融政策の効果がどのようなメカニズムを通じて波及してゆくのかといった問題を個別的に明らかにするためには、経済の構造を明示的に把えることが必要である。したがって、そのためには構造形を用いた接近方法が適切であると考えられる。

そこで、本稿においては日本におけるコール市場の役割を検討するため構造形を用いた接近方法を採用することにし、銀行準備の短期的調整にあり方を中心に貨幣の供給過程を分析することにしたい。この結果、貨幣供給量の一部分-民間部門保有の現金通貨-は需要によって決定され、銀行部門はそれを所与として、行動するという、ceteris paribus の仮定の下に、預金の供給過程を観察することになる。

以下、まず2.において通常の制約条件(バランス・シートと必要準備の制約)のほかに日本銀行による付加的な量的制約を受けている銀行の保有する銀行準備の市場であるコール市場において、需要と供給がどのようにして決定されているかを、預金量が銀行にとって外生的に与えられるという仮定の下で考察する。3.においては、銀行準備とりわけコール市場の需給均衡を通じて行なわれる預金供給過程と預金量の決定因を検討する。自由準備の代わりに、コールの需要と供給が預金供給過程の分析の中心にすえられることになる。4.では、比較静学の方法を用いて中央銀行の政策の有効を分析し、日本における金融政策の有効性に対する意味を調べることにする。最後に、こうして得られたコールの需要、供給関数に関する仮説の単一回帰方程式や連立方程式の推定法を用いて計測を試みる。


注1) このフリードマンの定式化した貨幣供給の式は、M ,HM ,D ,Cp ,R をそれぞれ貨幣量、ハイパワード・マネー、預金、民間部門保有の現金、銀行準備とすれば、次のように示される。

ここでは、m は貨幣供給乗数であり、民間部門および銀行部門の資産選択行動に依存して決定されることになる。


全文の構成

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  2. 1ページ
    1. 序
  3. 3ページ
    2. 付加的制約下のコール需給関数
  4. 5ページ
    3. 預金供給の決定因
  5. 7ページ
    4. 金融政策の効果-比較静学分析-
  6. 9ページ
    5. コール需給関数の計測
  7. 15ページ
    6. 結び
  8. 17ページ
    参考文献
  9. 18ページ
    付表

<分析2> わが国の貸出市場構造(注)-都市銀行と地方銀行との貸出金利を中心として-

(序)

わが国の金融制度のきわだった特徴は、貯蓄主体である家計から投資主体である企業への資金の移転が主に銀行を通じて行なわれるところにある。すなわち、家計は普通預金、定期預金等の形でその資金余剰を銀行に預け入れ、それを銀行が資金不足主体である企業に融通するという経路が、信用仲介経路の中で最も大きなチャンネルとなっている。これが、「間接金融の優位」と呼ばれる現象であり、さまざまな問題点をはらみながらも、ともかく戦後の経済成長を支えた金融のメカニズムであった。したがって、銀行が企業に資金を貸出す市場の性格を明らかにすることは、日本の金融メカニズムを理解する上で必要不可欠なことである。

われわれは、前稿「金融政策と銀行行動」(『経済分析』第56号)において、銀行行動を日本銀行や政府のコントロールの下にある制約条件付の合理化行動として定式化し、その定式化のもつ理論的、政策的意味を明らかにしようと試みた。しかし、そこでは日本銀行の都市銀行に対する信用供与の効果に関して詳細な分析を行ったけれども、都市銀行や地方銀行の対企業貸出しの市場に関しては、二,三の代替的な仮定を設けるにとどまり、詳細な検討を行うには至らなかった。つまり、銀行の貸出収益関数が所与のものとして分析を進めたのである。貸出収益関数の決定要因に関しては、貸出しの取扱い費用が逓増的であると仮定したけれども、貸出金利の決定に関しては、いくつかの代替的仮定の中から貸出金利が公定保合と連動して動くよう因果が最も強く働いているのではないかという暫定的な結論を導いたにすぎない。

本稿は、このように前稿において十分に検討するに至らなかった貸出市場の性格について、多角的な観点からそのメカニズムを明らかにしようとするものである。すなわち、単に平均金利の推移をみるのみならず、銀行側からみた貸出の金利別構成、規制内金利と平均金利との関係、期間別構成等のデータを検討するとともに、貸出先の企業を規模別にみたときに支払金利にどのような特徴があるかを詳しくみていこうとするものである。そして、このような fact finding が、わが銀行の対企業貸出市場の性格づけに関してどのような光をなげかけるかをも明らかにしようと試みるものである。

ところで、日本の貸出市場の性格については、すでに多くの論者の秀れた研究がある。

山下邦男を中心とする経済企画庁経済研究所のスタッフによる研究(1964)は、都市銀行の資金供給サイドと預金獲得面を中心として、わが国の銀行行動を分析したものである。

この研究における貸出行動の分析では、銀行の貸出市場の特性として、実勢以下の水準に固定された低金利と、恒常的資金需要超過とを背景として、資金供給者側の力が強いこと、また資金需給は金利による調整よりむしろ信用割当によって調整されていることを指摘している。

また、銀行の貸出行動パターンを、都市銀行を中心として分析し、貸出増加率の著しい銀行ほど借用金依存度が高いこと、すなわち都市銀行の貸出が単純に預金に対応していないことを明らかにしている。さらに、貸出増加率の著しい銀行ほど資本利益率が低く、また利益の伸び率のも低いという現象より、銀行の貸出拡張が必ずしも当面の収益性を重視したものではないというのである。しかし、一方、貸出増加率の著しい銀行ほど預金の伸びが大きいという訳ではないので、銀行にとって貸出行動がただちに預金量増大を志向しているとはいい難しいこととなる。そこで、これらの現象を統一的に把握するため、「預金シェア維持」という観点を導入する。そして、都市銀行は、長期的経営視点にもとづき、ある程度の利潤(いわば必要最低利潤)が確保されている限り、ときとして預金シェア維持のため、当面の収益低下を甘受することもあり得るというのである。

川口弘(1965)は、わが国経済の基本的特徴を二重構造として捉えている。この特徴と金融との関係を考えるとき、金融機関の構造が経済の二重構造を反映し、また金融の側からも二重構造を再生産する作用を果しており、中小企業への金融的「シワ寄せ」がみられるというのである。この現象を、いわゆる高度成長期以降昭和38年頃までについて、まず企業統計により検討すれば、中小企業については、短期負債の比重が大きいこと、長期借入金が少ないこと、過度の歩留り保持を強制され実質金利格差が大きいこと等の特徴がみられ、これは川口によれば量的側面にとどまらず、質的側面においても中小企業が「シワ寄せ」をうけていることを示している。また緊金融統計により、金融逼迫期には中小企業向け融資の増分が大企業向融資の増分におしのけられ、大企業資金需要の循環的変動に応ずるクッション的立場におかれていることが主張される。また金融機関別にみた場合、地方銀行は大企業向け貸出市場では、限界供給者の立場にあることなどに表われるように、金融機関側にも二重構造がみられることが指摘されている。さらに、企業間信用の構造を金融的側面から接近すれば、金融逼迫期には、大企業が増減額ベースでみた場合受信超過に変わり、中小企業への企業信用面での「シワ寄せ」が行なわれている現象を川口は明らかにしている。

貝塚啓明・小野寺弘夫(1974)は、昭和47年頃までの信用割当をめぐる議論の概観し、信用割当の概念の明確化と、わが国の貸出市場において、どの様な形の信用割当が成立しているかを実証的に分析している。すなわち、まず信用割当の概念を明確にするため、実効金利段階でみても信用割当が生ずる場合を厳格な意味での信用割当とよび、名目金利では信用割当があるように見えるが、実効金利段階でみると信用割当がない場合を擬似的な信用割当と整理する。また、信用割当が恒久的に存在する場合と、一時的に生ずる場合とを分けて、均衡的信用割当と動学的信用割当とよんでいる。

貝塚・小野寺は、ホッジマン、ミラー、フラィマー:ゴードン、ジャフィー:モジリアーニの信用割当に関する理論的分析のサーベイの後、わが国における信用割当の実証分析を行っている。そこでは、実効金利、期限別貸出構成、担保別貸出残高構成、標準金利以下での貸出割合等の金融指標を使用して、厳格な意味での信用割当の可能性かあること、また信用割当に関しては、都市銀行と地方銀行との間に顕著な差異がないこと等を指摘している。

寺西重郎(1974)は、戦後わが国の貸出市場において、銀行の短期貸出額が大規模の企業に対しては好況期に多く、不況期に少ないのに対して、中小規模の企業に対しては逆に、不況期に多く好況期に少ないという融資循環の二重性を、中・長期資金市場との関連で検討している。すなわち、銀行からの短期借入金は、長期資金の代替財としての性格を持つ。そして銀行と企業との間の貸出市場は相対取引の場であり、その市場を需要独占、または銀行独占の場合として取扱いうるという立場を寺西はとるのである。融資循環の二重性は、長期資金市場において、大規模企業ほどの社債、株式、長期借入金面での利用可能性が大きく、小規模企業ほど長期借入金に対して「充たされざる需要」(unfilled demand)が存在する。従って、短期貸出市場において、小規模企業ほど交渉力が小さくなるため、融資循環の二重性を生むというものである。

われわれは、以上の研究の成果をふまえ、今まで提出されてきた諸仮説の検証に関係すると思われる貸出量、貸出金利に関するデータ昭和49年に至るまで、新しく整理することを努めた。それのみならず、現在まで、どちらかというとマクロ的な貸出総額や金利の平均値に関して行なわれてきた議論をその構成要素にさかのぼって、より立体的に、つまり銀行の種類、貸出期間の長短、貸出先の規模別、さらに景気循環や金融の繁閑等の要素によって構造的に捉えようと試みるものである。

より具体的にいって、貸出市場に関してわれわれが興味を持ち、少なくとも部分的に明らかにしたいと思うのは次のような問題である。すなわち

  1. (i) わが国の銀行の貸出市場においては、金利の需給調整機能が十分に働いているか。
  2. (ii) もし金利が需給調整を行うに十分なだけ伸縮的に動いていないものとすると、金利はどのようなメカニズムで決まってくるか。
  3. (iii) 金利に硬直性があるとすれば、それはどういう形の信用割当を生んでいるのか。
  4. (iv) 金利決定のあり方、そして信用割当がありうるときには信用割当のあり方は、与信側の都市銀行と地方銀行とでどう異なり、また受信側の企業の規模によってどう異なるか。
  5. (v) 金利決定とともに、信用供与の条件、態様すなわち貸出の期間構成、拘束預金比率などがどういう機能をはたしているか。
  6. (vi) 金利をはじめとするもろもろの条件が時間的に、そして景気動向の局面によってどのように変わってくるか。
  7. (vii) そして、以上のような諸条件の差異が、中小企業に対してどのような差別的取扱いとなって現われてくるか。

という問題である。

本論に入る前に、われわれが用いたデータの出所について簡単にまとめてみることにしよう。

貸出市場における量的側面と価格(金利)の側面とを把握するためのデータのよりどころは、主として「経済統計年報・月報」と「法人企業統計季報」に求められる。

これらのデータには、次の様な性格がある。すなわち、「経済統計年報・月報」は、日本銀行(統計局)が作成したもので、主に金融機関側よりみたデータである。従って、金融機関の種別に、月次ないし四半期別に簡略化された形ではあるが、貸借対照表を中心として、資産内容や貸出残高を知ることが出来る。またら、諸金利の推移や、マネーサプライの動向なども知ることが出来る。さらに、半年ベースであるが、金融機関別の損益状況や利鞘の推移が把握出来る。

一方、「法人企業統計季報」は、大蔵省が作成したもので、企業側よりみたデータである。従って、企業規模別に簡略化された形ではあるが、貸借対照表・損益計算書を中心として、四半期別に企業の資産内容や損益状況が把握出来るものである。

この二つのソース以外のデータは、ほとんど一般的な入手可能性という面での制約がある。

従って、本稿では、基本的にこれら二つのデータ源のみを使用しているため、次のような限界がある。例えば、「経済統計年報・月報」では金融機関の種別に諸統計はあるものの、借り入れ先である企業との接点でのデータが非常に少ないため、貸出市場を金融機関別と企業規模別との交叉した点での現象を把握することが難しい。また新規貸出に限った機関別貸出金額や金利のデータがないため、限界的に金融機関がどの様に行動しているかの分析が出来ず、平均量での考察を行なわざるを得ない面があること等である。

なお、貸出市場の構成を立体的に捉える一端として、貸出金の金利別貸出残高の構成比の検討を行なったが、その際「経済統計年報・月報」には、金融機関の種別のデータがないため、地方銀行協会作成の都市銀行・地方銀行別の「貸出金の金利別構成」(半年データ)を使用した。

一方、「法人企業統計季報」によれば、借り入れ先である企業の規模別に、貸借対照表・損益計算書を基に種々分析が可能であるが、各勘定科目についての詳細な記載がないため注1)、近似的な分析に留まってしまうおしれがある。さらに、金融期機関別に借り入れ額が把握出来ないので、都市銀行・地方銀行別に、その貸出先である企業を規模別にみた貸出市場で、どの様な行動をとってきたかという分析は困難であるといった制約である。

本稿の構成を簡単に述べると、2.では、貸出金利の構造の分析を行なう。わが国の貸出金利が硬直的であるのはしばしば指摘されるところであり、われわれの前稿「金融政策と銀行行動」においても、貸出金利決定が市場の資金需給のみによっては決定されないのではないかと想定を行なった。ここでは、都市銀行・地方銀行とでは、貸出金利の構造にどの様な相違があるのか、また景気変動の過程で貸出金利変動の形にどの様な差があるかを明らかにする。すなわち、貸出金利別貸出割合の分布図を画き、その分布図を公定歩合、臨時金利調整法に基づく規制金利の上限値、預金コストにその他の費用を加えた銀行の平均費用、さらにコール・レートとの関連で捉えることにより、わが国の貸出市場における貸出金利の構造を明らかにしようとするものである。

3.では、このような金利構造の変動がどのような要因によって生まれるかの分析を行なう。貸出金利が銀行の利潤最大化行動にもとづく市場の需給要因で決まっているとすれば、貸出金利はコール・レートないしその加重平均ともっとも強く関係して動くであろうし、これが鈴木淑夫(1975)の分析の倫理的帰着である。これに対して、前稿で想定したように、貸出金利の多くの割合は公定歩合との動きによって支配されると考える見方もあるし、また、貸出金利は預金コストにその他の費用を加えた銀行の平均費用に一定のマージンを加えた、一種のフル・コスト原理で決まると考える見方もあり得よう。そして、貸出金利として名目金利をとるのか、拘束預金の存在を考慮した実効金利をとるのかで、以上の諸仮説の当否が変わってくるかもしれない。3.では、名目・実効貸出金利のそれぞれについて、コール・レート、公定歩合、銀行の平均費用等と相関分析、回帰分析を行なうことによってこの問題を考察しようとするものである。

4.では、都市銀行・地方銀行別に貸出と預金の期間構造を時系列的に分析するとともに、それが景気変動とどのような関係にあるかを検討する。

ところで、貸出金利に硬直性があるとすると、その結果貸出量に量的制約が存在する可能性がある。そこで、5.ではその一つの証左として、間接的な形ではあるが中小企業向貸出市場における量的制約の可能性を検討することとする。すなわち、「経済統計年報」により、都市銀行・地方銀行別に中小企業向貸出しの比率や、中小企業向設備資金貸出しの比率を分析し、中小企業が景気循環の過程で貸出量に量的制約を受けているかどうかを検討する。

結びでは以上の実証的な結果をふまえると、わが国の銀行の貸出市場をどう性格づけたらよいかという問題を考察する。データの制約や、分析用具の制約のため、この難問に決定的な解決を与えることは困難であるけれども、多角的な見地から金利構造や貸出量の構成を検討することによって、わが国の貸出市場のメカニズムの輪郭をより明らかにすることができるものと信ずる。


(注) 本研究にあたり、中央大学教授の川口弘氏に有益な示唆を頂いたことに心から感謝したい。しかし、本稿の意見・誤謬に対する責任はわれわれのみが負うものである。

注1) 例えば、損益計算書における「支払利息・割引料」には、金融機関に対する支払利息・割引料のみならず、社債の利子や関連会社への支払利子等も一括計上されており、これらを分別することは不可能である。


全文の構成

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  2. 20ページ
    1. 序
  3. 24ページ
    2. 貸出金利の構造
  4. 43ページ
    3. 貸出金利の決定要因
  5. 56ページ
  6. 60ページ
    5. 貸出しの量的側面
  7. 64ページ
    6. 結び-貸出市場の性格
  8. 65ページ
    参考文献
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