経済分析第65号
勤労者家計の消費関数の分析
-石油ショック以降の消費性向-

1977年2月
<雇用・金融ユニット>
古賀 誠,藤中 章三,原 孝裕

(はじめに)

昭和48年の異常物価上昇以後、勤労者家計の消費動向には従来と異なった動きが現われている。

その第1は、昭和49年の実質所得に低下期において、勤労者家計の消費性向が低下し、貯蓄率がますます高まるという結果がみられたことである。従来からわが国の消費性向は国際的にみても低い水準にあったのであるから、これが更に一層の低下期に入ったのであるとすれば、投資需要の停滞とあい待って今後の経済動向に深刻な影響を及ぼす可能性が生じることになろう。

第2には年間収入階級別にみると、消費性向の低下は低所得層ほど大幅で、とくに最低所得層である第I・5分位階級は、昭和49年、50年と2か年にわたって著しい消費の停滞を記録し、消費性向はこの階層を下回るに至った。これに対して、最高所得層である第V・5分位階級のみは消費が伸びつづけ、昭和50年の消費性向は他の何れの階層よりも高くなっている。つまり、異常物価上昇期を境に、所得階級別消費性向が逆転してしまったのである。これらの動きは、高所得層は習慣形成要因や投機的動機による消費財購入などが消費性向を高めたのであり、一方、低所得層は家計防衛と雇用不安などを動機として消費を切りつめ、貯蓄増大に努めたのだとする見方が一般的である。しかし、従来の経験にないこのような異常な状態が、これらの要因によって実証的に説明されていることは言い難い。

この分析では、横断および時系列の変化を同時に斉合的に説明できるような解釈を見出すことを目標として始めたものであるが、これから得られた一応の結論は次のようなものである。

まず、勤労者世帯平均でみた昭和49年にかけての消費性向の異常な低下は、物価の異常な変動によって消費者選好が動かされた結果によるものであると考えられる。消費支出には消費されてしまう財・サービスの購入にほか、耐久財などのようなストック的性格の財の購入を含んでおり、一方、貯蓄にも保険金払い、預貯金の外、土地・家屋その他の財産購入のような財への支出を含んでいる。つまり、「家計調査」の上では、一方は消費に、他方は貯蓄に分類されているが、これらの相対価格変動に応じて消費者或いは消費支出に分類される剤を購入し、或いは貯蓄に属する支出を選ぶといった選択を行っているのであろう。

昭和49年の消費性向の低下は、異常物価上昇期の物価上昇の内容に従来とは異なった動きが生じたのに対応して、このような消費者選好が変化したことによって、説明することが可能であって、実質所得低下と消費性向の低下が同時にみられたのは従って異常な時期における特異な現象と考えられるわけである。

一方、年間収入による所得階級別の消費性向の逆転現象は、何の階級についても習慣形成仮説でかなりの程度説明できる。ただし、この場合には年間収入5分位階級別に、世帯の属する階級がほぼ安定的であるあると仮設して、現在の可処分所得と過去の最高可処分所得で消費の動きを説明する方法では立証不可能である。むしろ、世帯追跡的に、階級区分に用いた過去1か年間の年間収入と当年の収入を用いることが必要になる。このことは、別言すれば世帯の属する階級が各年とも安定しているとは限らないことを意味する。より正確に言えば、形式的には習慣形成仮説で説明可能だが、もともと年間収入5分位階級の区分に問題があると思われる。ちなみに、昭和49年「全国消費実態調査」および昭和49年、同50年「貯蓄動向調査」の年間収入5分位階級別結果表によると、49年、50年とも低所得層ほど消費性向が高く貯蓄率が低いという結果がみられ、従来に比べて逆転しているような結果にはなっていない。家計調査の所得階級別結果は49年以降については取り扱い上の注意が必要であるとおもわれる。なお、家計調査の年間収入による階級別結果に、このような問題が生じた原因についても、本分析の中で考察を加える。


全文の構成

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  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    (I) 分析の構成と使用するデーター
  4. 2ページ
    (II) 所得階級別系列による消費関数の分析
    1. 2ページ
      (1) 所得階級別区分の問題点
    2. 7ページ
      (2) 絶対所得仮説及び相対所得仮説に基く検討
      1. 7ページ
        (i) 年間収入階級別系列による横断分析
      2. 8ページ
        (ii) 世帯主定期収入階級別系列による横断分析
    3. 10ページ
      (3) 恒常所得仮説に基く検討
      1. 10ページ
        (i) 年間収入階級別系列による横断分析
      2. 12ページ
        (ii) 世帯主定期収入階級別系列による横断分析
  5. 13ページ
    (III) 時系列消費関数の分析
    1. 13ページ
      (1) 絶対所得仮説と習慣形成仮説
    2. 14ページ
      (2) 物価指数ないし相対価格を導入した消費関数
    3. 18ページ
      (3) 流動資産仮説
    4. 19ページ
      (4) 恒常所得仮説
  6. 25ページ
    (IV) 年間収入5分位階級・年次系列の同時回帰による分析
    1. 25ページ
      (1) 横断系列分析と時系列分析の組み合せ
      1. 28ページ
        (i) 相対所得仮説と習慣形成仮説による分析
      2. 33ページ
        (ii) 恒常所得仮説による横断・時系列同時回帰とその残差項の分析
  7. 34ページ
    (V)年間収入階級別消費性向の問題点と攪乱要因
  8. 37ページ
    むすび
  9. 39ページ
    付属資料
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