経済分析第67号
賃金所得分配の分析-人的資本アプローチ- 他

  • <分析1>賃金所得分配の分析-人的資本アプローチ-
  • <分析2>金融のマクロ・モデルとクラウディング・アウト効果の計測
1977年4月
<分析1>
貝塚 啓明,石山 行忠,石田 祐幸
<分析2>
馬場 孝一,藤井 正志

<分析1> 賃金所得分配の分析-人的資本アプローチ-(注1)

(はしがき)

人的所得分配の実証研究は、従来いくつかの分配の平等の尺度を用いて、日本の所得分布がどのような趨勢をたどってきたかに力が注がれてきた。このような研究は、所得分配の実情を把握し、また分配の不平等化を判定し、所得再分配政策の方向を定めるのに貴重な判断材料を提供するものであった(注2)

この論文の目的は、従来の所得分布の実証分析とは異なり所得分配の平等化の背後にある経済的要因をさぐり、所得分配の平等化、あるいは不平等化の傾向を説明することにある。

人的所得分配は、その対象を個人所得(要素所得)に限ったとしても賃金所得と資産所得の両者を含んでいる。この論文は、もっぱら前者の賃金所得の分配を対象として、賃金所得の形成に関して人的資本理論のアプローチを採用し、所得分配の変動を教育投資、就職後(on the job training)の人的投資の収益率の変動にもとめ、さらに収益率の変動の背景にある要因をさぐろうとしたものである。

人的資本アプローチは、年功序列型の賃金を人的資本の収益率によって、いわば内生的に説明しようとするものであり、通常の制度的な年功序列型賃金の説明と比較して長所をもっている。われわれが人的資本アプローチを採用したのもこのような長所による。

戦後の日本の所得分布は、昭和30年代後半以降40年代前半にかなりはっきりした平等化傾向を示しており、この点は、賃金所得の分配についていちじるしい。賃金所得以外の資産所得に関する正確な統計がえられない現状では、さし当り所得分配の平等化を主として賃金所得のそれに求めることについては異論がないと思われる。

人的所得分配を規定する要因としては、究極的には、少なくとも各人の才能の分布、教育機会、訓練投資の機会の分布を個人のレベルにさかのぼってとらえなくてはならない。ここでの分析は、賃金所得分布に関して、個人レベルにさかのぼるようなデータを利用することが困難であり、集計化されたデータを用いた点で制約があり、また人的資本の収益率の背後にある諸要因を完全に識別するに至ってはいないが所得分配の平等化に貢献した人的投資の役割の重要性、主として教育の機会均等化とともに進行した高学歴化の影響を示唆していり。またこの論文は、労働経済学の立場からすれば人的資本理論のもつ有効性をその副産物として示しているといってもよい。

この論文は、2つの章からなり、まず、Iにおいて人的資本理論にもとづいて賃金プロファイル関数を定式化し、次にIIにおいてその計測結果から教育投資の収益率低下、就職後の人的投資の役割を検討し、所得分配の平等化と関連を明らかにする。


(注1) この論文の成立に当っては、小宮隆太郎教授、浜田宏一助教授および東京経済研究センター研究会のメンバー、特に堀内昭義助教授の有益なコメントをえたことに対して謝意を表したい。なお、計測作業の1部については、長尾久子氏、及び最終段階では原孝裕氏の協力を得たことを付記したい。

(注2) 溝口敏行,倉林義正,市川洋,高山憲之氏等の論文,所得・資産分布に関する報告等がこれらの研究の成果である。


全文の構成

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  2. 1ページ
  3. 2ページ
    I 人的資本理論(Human Capital Theory)に基づく賃金プロファイル関数の定式化
  4. 4ページ
    II 計測結果とその解釈
    1. 4ページ
      1. データの性格及び分析手法
    2. 5ページ
      2. 賃金プロファイル関数の計測結果とその解釈
      1. 11ページ
        (1) 教育投資率の低下とその解釈
      2. 22ページ
        (2) 就職後の人的投資の役割
    3. 38ページ
      3. 所得分配の変動と人的投資収益率等との関係
  5. 41ページ
    結び
    1. 48ページ
      参考文献

<分析2> 金融のマクロ・モデルとクラウディング・アウト効果の計測

(はしがき)

本モデルは当初短期経済予測モデルの金融ブロックとして構成されたものである。唯、パイロット・モデルのサイズに比して金融ロックのサイズがかなり大きくなることなどの理由から金融のサブ・モデルとしてパイロット・モデルとは一応切離してテストを試みようとするものである。(金融モデル-I)このモデルはマネーサプライ決定のためのモデルであり、14個の構造方程式と11個の定義式からなっている。主たる特徴は公債の大量発行による財政支出の短期的クラウディング・アウト効果をフォローすべくマネーサプライを資金形態別に把握したことである。また、実物モデルと金融モデルの波及効果を把握すべく、パイロット・モデルSP-17とのリンク・シミュテーションを行い、クラウディング・アウト効果の金融市場および実物市場への波及効果を実際に計測した。(金融モデル-II)。政策シミュレーションのみならず実際的予測的利用のためにより操作的実践的なねらいをもっているといえる(注3)


(注3) なお本文執筆にあたっては経済研究主任研究官の吉富勝氏および大蔵省の花角和男氏に御教示をいただいた。厚く御礼申しあげたい。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 416 KB)
  2. 49ページ
    はじめに
  3. 49ページ
    I モデルのフレームワーク
  4. 50ページ
    II モデルの方程式体系(金融モデル-I)
    1. 50ページ
      1. 構造方程式
    2. 51ページ
      2. 定義式
    3. 51ページ
      3. 変数記号表
  5. 52ページ
    III 個別方程式
    1. 52ページ
      1. 各経済主体とその資金過不足
      1. 54ページ
        (i) 法人企業部門の資金不足額
      2. 54ページ
        (ii) 公共部門の資金不足額
      3. 56ページ
        (iii) 海外部門の資金不足額
    2. 57ページ
      2. 預金量および貸出量の決定
      1. 57ページ
        (i) 準通貨(貯蓄性預金)増減
      2. 58ページ
        (ii) 金融機関の貸出増減
      3. 60ページ
        (iii) 預金通貨(要求払預金)増減
      4. 61ページ
        (iv) 発行金融債,準通貨増減
    3. 61ページ
      3. 資金需給と財政資金の対民間収支
      1. 62ページ
        (i) 日銀純信用増減
      2. 64ページ
        (ii) 日銀券の発行残高
      3. 64ページ
        (iii) 金融機関保有現金残高
      4. 64ページ
        (iv) 財政の受取り額
      5. 66ページ
        (v) 財政の払出額
    4. 66ページ
      4. 貸出金利および外部負債金利
      1. 67ページ
        (i) 全銀貸出約定平均金利
      2. 67ページ
        (ii) コール・レート
  6. 69ページ
    IV 全体テスト・最終テスト
    1. 69ページ
      1. 全体テスト
    2. 69ページ
      2. 最終テスト
  7. 70ページ
    V パイロットモデル SP-17とのリンク・シミュレーション(金融モデル-II)
    1. 70ページ
      1. パイロットモデル SP-17とのリンク・シミュレーション(金融モデル-II)の特徴
    2. 70ページ
      2. 金融モデル-IIの方程式体系
      1. 70ページ
        (i) SP-17の方程式体系(実物ブロック)
      2. 72ページ
        (ii) 金融ブロックの方程式体系
    3. 75ページ
      3. 変数記号表
    4. 78ページ
      4. 貸出のディスアグリゲーションと設備投資
      1. 78ページ
        (i) 設備資金新規貸出
      2. 79ページ
        (ii) 運転資金貸出増減
      3. 79ページ
        (iii) 民間設備投資
    5. 81ページ
  8. 95ページ
    VI 財政政策のクラウディング・アウト効果の計測
    1. 95ページ
      1. クラウディング・アウト効果の理論的分析
    2. 104ページ
      2. クラウディング・アウト効果の計測
  9. 122ページ
    結び
    1. 123ページ
      参考文献
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