経済分析第69号
短期経済予測モデル SP-18(注)

1977年11月
  • 馬場 孝一,吉岡 昭子,河出 英治,
  • 新保 生二,小峰 隆夫,藤井 正志,
  • 松尾 泰秀,前田 大蔵,大平 純彦

( 序 )

経済研究所では昭和42年以来、短期経済予測用モデルの改訂を続け、その成果を「経済分析」、同付録などで公表してきた。以下に発表するものは、52年度に行われた改訂の経緯とその結果をとりまとめたものである。

1 基本的姿勢

我々が共通意識として抱いていたモデル改善の基本方向についての考え方は以下の3点に要約できる。

第一は、計量モデルの改善は、モデルを実際の予測、政策効果の分析に適用し、現実とのチェックを積み重ね、実際的経験をもとにした批判を吸収することによって前進するものだということである。
 計量モデルは常に一つの仮説であり、経験的なテストを切り抜ける限り妥当性を保ち得るが、テストに失敗した場合にはモデルはその欠陥を補うように改善されなければならない。計量モデルによる予測、分析が科学的であるためには、こうした仮説→演繹→検証→仮説再構成という連鎖が常に維持されていなければならない。このため、昭和51年3月に発表された、本モデルの前身、SP-17については、モデルの作成に従事するチーム自身が予測、政策シミュレーションの応用分野に積極的に取り組むこととし、四半期ごとの国民所得統計速報(QE )が発表されるたびに、簡単な予測シミュレーションを行うと共に、減税と公共投資の経済効果、数次にわたる景気対策の効果の測定等に積極的に適用し、問題点の発見とその改善の方途を探ってきた。今回の改訂の多くは、こうした経験に基づいて行われたものである。

第二は、モデルから出た結果は恣意的なものであってはならないということである。
 例えば、予測シミュレーションの結果が現実的でない時、モデルから出たという数字に対する信頼感を保ちつつ、批判を避ける最も安易な方法は、コンスタント項を適当に操作して結果を修正することである。しかし、このような操作を加える場合、そのさじ加減はモデル以外の場で恣意的に決定されるわけだから、得られた結果はモデルによる予測というより、特定の予測者の主観的予測という性格は強くなる。第三者にとってはどこまでがモデルの予測なのか、どこまでが予測者の判断に係る部分なのかがわからない。モデル自体にとっても、表面的な欠陥の糊塗は長期的にはマイナスだろう。我々は、そのような場合にはモデル自体を改良することが正しい方法であり、足元合せ等のためにコンスタント修正が必要な場合にも、一定のルールを設け、できるだけ恣意的な操作を排除することが重要だと考えた。

第三は、短期モデルとしての性格や、現モデル程度の操作性を損わない範囲でのモデルの対象領域の拡大である。
 短期分析用の四半期モデルという性格からいって、主として速報性の高いデータしか使えないし、臨機応変にシミュレーションを行うためにはあまり外生変数を増やすことはできない。しかし、短期的経済変動に対する関心が高まってきている現在、よりきめの細かい予測の提供、より説得力の高い政策分析を行うためには、できるだけモデルの大型化を図るべきだろう。この点、今回の改訂では必ずしも充分実現することはできなかったが、新国民経済計算体系(新SNA)基準の国民所得統計が整備されれば、モデル拡充の可能性も飛躍的に高まるものと思われる。

2 SP-17の問題点
 上記のような考えに基づいて、我々はSP-17を用いて何回か予測、政策シミュレーションを行い、問題点の把握に努めてきた。
 まず、四半期毎に行ってきた予測シミュレーションの結果(第I-1表参照)から以下のような問題点が明らかになった。
  • 1) SP-17は、石油ショック後の経済の動きを充分フォローしているとはいえない。特に、民間設備投資、輸出入の誤差が大きい。
  • 2) 四半期の不規則変動が大きい。これは、一人当たり雇用者所得、デフレーターをすべて対前年同期比型で推定していることによる面が大きい。
  • 3) 石油ショック以降、統計上の不突合がかなりの大きさになっているが、SP-17ではこれが外生変数となっているため、その想定いかんが予測結果にも大きく影響する。
  • 4) 予測をスタートさせる時点で実績とのズレを修正するため、すでに実績が出ている部分については、足元合わせのためのコンスタント修正を行う必要があるが、このやり方如何で予測結果も変ってくる。また、手作業では手間もかかる。
 また、乗数分析、政策シミュレーションの観点からは、従来は、支出国民所得と分配国民所得との事後的恒等性を維持する上で、個人業主所得を残差にしていたため、商品輸入デフレーター、為替レートの変化、賃金上昇などの影響がうまく反映されないという欠点があった。
 例えば、SP-17の商品輸入デフレーター上昇の場合の乗数は、在庫デフレーター(PJ )上昇→在庫品評価調整額(AC )上昇→[法人所得分配率{(YCAC )/(YAPAG )}は不変]→法人所得(YC )減少→個人業主所得(YU )増加→個人可処分所得(YD )増加→個人消費支出(C )増加という結果になっている。また、賃金上昇は、雇用者所得(YW )上昇→個人業主所得(YU )減少→個人可処分所得(YD )に影響なし、となる。こうした欠陥を修正するためにはSP-17の支出・分配結合方式を変える以外にない。
 
3 SP-18の特徴
 我々は、これまで述べたような基本認識に基づき、モデルを現実に適用する過程で浮び上ってきた、さまざまな問題点に応えることを念頭に置いて作業を進めた結果、本号で発表するSP-18は従来のSPモデルに比べて以下のような特徴を持つことになった。
 
(1) 推定期間の変更
 SP-17では35~48年度だった構造方程式の推定期間を40~50年度とし、思い切って新しくした。推定期間については、SP-17のスペシフィケーションを使って、35~50年度と40~50年度の両方についてチェックしてみた。その結果、35~50年度であればSP-17の小幅改訂ですむが、40~50年度では生き残れるスペシフィケーションはほとんどないことがわかった。これは、30年代後半の高度成長を入れた場合と、40年以降ではそれだけ経済構造の変化が大きかったことを示している。
 推定期間をなるべく長くするというこれまでの慣例に従えば、35~50年度にするところであるが、短期予測に焦点をしぼったモデルとしての性格上、今回は40~50年度の推定期間とした。この結果、ほとんどすべての関数について何らかのスペシフィケーションの修正が行われた。なお、新国民経済計算体系が(新SNA)基準での国民所得統計の四半期系列が当面は40年度以降について公表される予定なので、このモデルを新SNA基準に合わせて改訂する際にも相互比較その他の点で、分析上の便宜が大きいとおもわれる。
 
(2) 支出・分配結合方式の変更
 モデルにおいて、別々に推定される支出面と分配面との不一致をいかにして埋め合わせ、事後的合一性を確保するかは、つねに頭の痛い問題であった。SP-18では支出・分配間の不一致調整のため、統計上の不突合(SD )を残差とする方式を採用した。従来は、国民所得(Y )の特定の構成項目-個人業主所得(YU )や法人税所得(YC )-が名目国民総支出(V ' )との残差として決定される方式だったため、あらゆる項目の誤差およびSD の想定誤差がその特定項目にしわ寄せされていた。前述したように、この方式は乗数分析の観点から問題がある。名目国民総支出との差が一項目に集中するため、それが支出にも影響し、乗数全体の姿が大きくゆがんでくるからである。また、予測シミュレーションの際に不突合の大きさを想定しなければならないという困難もある。SP-18の構築に当たっては、1)従来の個人業主所得(YU )残差方式はもとより、2)法人所得(YC )残差方式、3)不突合(SD )残差方式(個人業主所得も構造方程式で推定する)を試みた上、今回は不突合残差方式を採用した。この結果、従来は外生変数だった不突合はSP-18では名目国民総支出(V ' )と国民所得(Y )の差として内生的に決まることになる。また、これに伴い、予測シミュレーション、乗数分析の際の不突合の処理についても独自の工夫をとり入れている。すなわち、
1) 予測シミュレーションの際の不突合に一定の制約を設けておき、その制約を超えて拡大した分は、各項目のシェアに基づいて分配所得構成項目にふり分けられる。
2) 乗数効果をみる場合には、支出と分配の動きが一致しないことからくる不突合への漏れ(leakage)を防ぐため、不突合の大きさを標準型(スタンダード・ケース)と等しく固定しておき、変動分は後述の方法で分配所得構成項目にふり分けられる(IV.乗数分析参照)。こうした支出と分配の結合方式の変更により、従来に比べて乗数の値もかなり異なったものになっている。
 
(3) モデルの拡大
 以下のようにモデルを若干拡大した。
 第一に、金融ブロックをやや拡大して、マネー・サプライを内生化した。マネー・サプライは最も重油な金融指標の一つであるにもかかわらず従来は外生的に与えていたが、今回の改訂により、一応予測の対象に入ることになった。また、乗数分析上も、従来は公定歩合の乗数効果が住宅投資関数最も大きく現れるという不自然な結果が出ていた。これは、金融変数として、住宅投資関数には金利が、設備投資関数には資金のアベイラビリティが入っており、金利は公定歩合と共に動くが、資金のアベイラビリティはマネー・サプライが内生的に増減しないので、すぐには反応しないというメカニズムになっていたためである。今回のマネー・サプライの内生化により、上記のような乗数分析上の欠陥はかなり改善された。
 第二に、従来は外生変数だった労働力人口(NL )も近年、主婦等の労働力化がすすんだこともあって景気局面に応じて変動するようになってきているので、今回これを内生化することとした。
 第三に、間接税についても、SP-17では外生変数だったため、乗数分析を行うと、名目国民総支出の増減に伴って間接税が自ら変化する仕組にはなっていなかったため、支出と分配とのギャップが広がり、残差としての個人業主所得が変動するという欠点があったので、今回はこれを内生化した。
 第四に、政府経常支出デフレーターも、一般物価水準、賃金等の動きによって説明可能であるので、これも内生化した。
 
(4) 物価・賃金関数の変更
 デフレーターおよび一人当たり雇用者所得関数について、従来の前年比型の推定からくるエラティックな四半期変動を避けるため、スペシフィケーションの修正を行った。前年比型のスペシフィケーションでシミュレーションを行うと、前年比で見る限りではおかしな結果は出ないが、前年のレベルが不規則に変動していると、予測期間全体にわたってその変動パターンが継続し、それがモデルから得られる結果全体に波及するという欠点があった。
 このような問題点があるにもかかわらずこれまで前年比型のスペシフィケーションを採用してきたのは、わが国の賃金決定のメカニズムには春闘等の制度的慣行が強く働いているため、一人当たり雇用者所得(W )及びW を説明変数とするデフレーター関数については、レベル型、前期比型では十分な説明力を持つスペシフィケーションが得られなかったためであろう。
 そこで今回は、いわば前年比型と前期比型の中間として、過去一年間の平均に対する当期の伸び率P /P を使ってみた。このスペシフィケーションは比較的うまくいっており、予測シミュレーション結果の四半期パターンのエラティックな変動は大幅に改善された。
 
(5) コンスタント修正の自動化
 予測シミュレーションの際に、すでに判明している実績値とモデルから得られた推計値を一致させるためのいわゆる足元合わせのためのコンスタント修正については、従来は全体との関連を見ながら適当に手作業で処理していたため、かなりの時間を要し、結果も不完全だった。このため、SP-18では、ある程度実績の出ている期間も含めて予測をスタートさせ、その期間にていてはすべての構造方程式について実績に合わせるようなコンスタント修正を自動的に行うこととした。これにより、いわゆる足元合わせはほぼ完全に行われるとともに、予測作業も極めて迅速に行い得ることになった。
 さらに、予測期間内直前におけるコンスタント修正については、予測期間内直前の4四半期のコンスタント修正幅の平均を自動的に継続させるという方法をとることにしたので予測結果に恣意的な判断が入る余地は大幅に減少した(付論2.コンスタント修正の自動化参照)。
 

(注) ここで発表されているSP-18は、経済分析付録第17号「短期経済予測モデルSP-18による外挿シミュレーションについて」(52年7月)の中で発表されているモデルをさらに改訂したものである。


第 I-1 表 四半期予測シミュレーション結果(SP-17による)


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 359 KB)
  2. 1ページ
    I 序
    1. 1ページ
      1 基本的姿勢
    2. 2ページ
      2 SP-17の問題点
    3. 3ページ
      3 SP-18の特徴
  3. 4ページ
    II モデルの構造
    1. 5ページ
      1 支出ブロック
    2. 5ページ
      2 労働・生産ブロック
    3. 6ページ
      3 デフレーターブロック
    4. 6ページ
      4 分配ブロック
    5. 6ページ
      5 金融ブロック
    6. 7ページ
      6 推定方法と解法
    7. 8ページ
      付図 SP-18の全容(ブロック・ダイヤグラム)
  4. 9ページ
    III シミュレーション・テスト
    1. 9ページ
      1 シミュレーション・テストの意味
    2. 9ページ
      2 シミュレーション・テストの結果
  5. 20ページ
    IV 乗数分析別ウィンドウで開きます。(PDF形式 416 KB)
    1. 20ページ
      1 乗数分析の意味
    2. 20ページ
      2 乗数計算の方法
    3. 20ページ
      3 乗数計算における統計上の不突合の取扱い
    4. 21ページ
      4 乗数解釈上の注意すべき点
    5. 23ページ
      5 SP-18の乗数
    6. 23ページ
      6 長期乗数
  6. 35ページ
    付論1 過剰決定体系の解法
  7. 36ページ
    付論2 コンスタント修正の自動化
  8. 39ページ
    V 個別関数の説明別ウィンドウで開きます。(PDF形式 385 KB)
    1. 39ページ
      1 個別方程式の説明
    2. 56ページ
  9. 75ページ
    VI SP-18の方程式体系
    1. 75ページ
      1 SP-18の方程式体系(標準体系)
    2. 81ページ
      2 変数記号表
    3. 83ページ
      3 List of Variables
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