経済分析第74号
家計行動の総合的研究

1979年1月
<分析1>
斎藤 光雄,大鹿 隆
<分析2>
斎藤 光雄,大鹿 隆
<分析3>
斎藤 光雄,松尾 泰秀

<分析1> 貯蓄行動の要因分析

(序)

本稿は昭和29~50年の年時系列により、家計の貯蓄関数を推定して結果を報告するものである。これまで、家計の貯蓄行動を決定する要因に関しては、多数の理論、仮説が提示され、これに関連する実証的研究もまたきわめて数多く発表されてきた。筆者らの研究はこれらの諸理論、仮説をできるだけ広範囲にとりあげ、それぞれの要因が日本の貯蓄率の決定に関し、どれだけの役割を果たしてきたかを数量的に明らかにすることを目的としている。本報告はその研究のうち時系列分析に関する部分である1)

すなわち、筆者らはすでに昭和45~49年の5年分の貯蓄動向調査の個票を用いて、所得、金融資産残高、過去の消費水準、世帯人数等が貯蓄率に与える影響の推計を行っている。このようなクロス・セクション・データはこれがもつ豊富な情報量により、多重共線性(multicollinearity)を避けつつ、上記諸変数および他の社会経済的要因の貯蓄率への影響力の推定を可能にした。しかし、データが5年分に過ぎないため、このクロス・セクション・データは時間的経過のもとにける貯蓄行動の変化を観察するという点では、きわめて不十分である。すなわち、価格変化率、分配率等時間的経過とともにのみ変化を示す変数(したがって、1時点においてはすべての家計に対して同じ値をとる変数)の影響をみるには時系列データによらねばならない。そこで、クロス・セクション・データでえた推定値と時系列データを用いて、いわゆるプーリング法により、時間的に変化する諸変数の貯蓄率への影響を推定することにした。

第2節では、推定方法とデータに関する説明を行う。第3節では推定結果を示し、その経済学的意味の検討を行なう。第4節では、上記の推定結果にもとづき、昭和29~50年における家計の貯蓄率の趨勢的変動を支配した諸要因について分析する。


1) 筆者らは、新SNAの個人部門全体の行動方程式の推定を試みており、(1)本稿による貯蓄関数の研究、(2)家計の金融資産選択に関する研究(斎藤・大鹿[1][2])および(3)家計の多費目消費関数に関する研究(斎藤・松尾[3])により、個人部門の行動方程式が完結する。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 346 KB)
  2. 1ページ
    1. 序
  3. 1ページ
    2. データおよび推定方法
  4. 5ページ
    3. 推定結果
  5. 14ページ
    4. 貯蓄率変動の要因分析
  6. 18ページ
    5. 結語
  7. 19ページ
    参考文献
  8. 20ページ
    付録(統計データ)
  9. 20ページ
    データ・リスト

<分析2> 資産選択の要因分析

(序)

本稿は、昭和29-49年の年時系列により、家計の金融資産選択方程式を推定した結果を報告するものである。本研究の特徴は以下のとおりである。第1に、方程式体系は新SNA でいう家計部門の金融資産および負債のすべての項目に関する資産選択モデルである1)

第2に、資産需要方程式は金融資産の各項目ごとに正味資産、所得および利子率の関数としてあらわされ、かつストック調整原理により動学化されている。また、この方程式はシステム全体として、資産合計と負債合計の差が正味資産に一致するように構成されている。この意味で、モデルはブレイナード・トービン型[1]である。

第3に、推定にさいして多重共線性(multicollinearity)を避けるため、プーリング法(pooling method)を適用した。すなわち、筆者らは、さらに貯蓄動向調査個票により、プレイナード・トービン型の資産選択方程式を推定した2)。今回はその推定結果における正味資産、所得および前期末各資産残高の係数を用いて、時系列データから利子率効果を推定する。

まず、第2節で、資産選択モデルを説明し、第3節で時系列データの作成およびプーリング法について述べる。ついで、第4,5節で推定結果を示すとともに、その意味の検討を行う。最後に、第6節で、上記の推定結果にもとづき、昭和29-49年における家計の資産構成の趨勢的変動を支配した諸要因について分析する。


1) この意味で、本稿の方程式は家計の貯蓄関数(斎藤・大鹿[4])および多費目消費関数(斎藤・松尾[3])とともに、新SNA の勘定体系に基本をおく家計行動方程式体系の一部を構成する。

2) 斎藤・大鹿[2]


全文の構成

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  2. 23ページ
    1. 序
  3. 23ページ
    2. 資産選択モデル
  4. 24ページ
    3. データ
  5. 28ページ
    4. 時系列による推定結果
    1. 29ページ
      第1図 現金通貨
    2. 32ページ
      第2図 通貨性預金
    3. 33ページ
      第3図 定期性預金
    4. 34ページ
      第4図 生命保険
    5. 35ページ
      第5図 株式
    6. 36ページ
      第6図 債券
    7. 37ページ
      第7図 その他金融資産
    8. 38ページ
      第8図 金融機関借入金
    9. 39ページ
      第9図 その他負債別ウィンドウで開きます。(PDF形式 431 KB)
  6. 41ページ
    5. 短期および長期の弾力性推定値
  7. 46ページ
    6. 金融資産構成比変動の要因分析
  8. 55ページ
    7. 結語
  9. 56ページ
    参考文献
  10. 57ページ
    付録(統計データ)
    1. (1) 時系列データの出処および単位
    2. (2) 本研究の項目と貯蓄動向調査報告および資産循環表の項目との対照表
  11. 58ページ
    データ・リスト

<分析3> 消費支出と価格

(序)

本稿は、昭和33~50年の時系列データによる23費目の個人消費関数の計測結果を報告するものである。多費目消費関数の計測に関しては、従来、多数の計量的研究の貯蓄が存在する1)。戦後日本のデータを用いた研究についても、計量委員会第1次報告[9]、同第5次報告[10]、斎藤[13]、[15]等を挙げることができる。これらの中にあって、本研究はつぎのような特徴をもつ。

第1に、多重共線性を避けるため、推定法としてストーンら[20]によって開発されたプーリング法を用いることにした。まず、クロス・セクション・データによって所得効果を計測した後、その推定値と時系列データを利用して価格効果を推定した。

第2にプーリング法の日本のデータへの応用は、さきに斎藤[13]によって、昭和28~40年の16費目時系列に対して行われているが、今回は時系列を50年にまで延長し、費目も23費目に拡大した。

第3に、プーリング法を適用するさいには、クロス・セクション・データと時系列データのデータ上の整合性に留意する必要がある。本研究では家計調査と国民所得統計の間で乖離の著しい部分、すなわち地代家賃、医療現物給付(健康保険による医療サービス部分)および金融帰属サービスについて特別の取扱いを試みた。


1) 多品目消費関数の研究に関する展望としては、ブラウン・ディートン[1],斎藤[14]参照。


全文の構成

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  2. 61ページ
    1. 序
  3. 61ページ
    2. 多費目消費支出の理論と計測方法
  4. 64ページ
    3. 統計データと消費項目
  5. 71ページ
    4. 総消費弾力性の確定-クロス・セクション分析
  6. 94ページ
  7. 99ページ
    6. 価格の交さ弾力性の推定
  8. 100ページ
    7. 序
  9. 101ページ
    参考文献
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