経済分析第79号
労働力構造と就業行動の分析
-個票による家計の就業行動の横断面分析-

1980年3月
  • 島田 晴雄
  • 酒井 幸雄

(研究の目的)

本稿の研究は、総理府統計局『就業構造基本調査(昭和52年)』の個票データを用いて、横断面分析によりわが国の家計の就業行動における特性を明らかにすることを目的とするものである。

今日、一方における人口構造の急速かつ大幅な変化と他方における産業構造の変化の下で、就業構造も大きな変容を迫られており、また労働市場におけるその調整もしくは労働力配分過程における失業や不完全就業の問題は重要な政策課題となっている。本研究は、そうした課題に対する政策的取り組みのために基礎的な情報を提供することを意図している。

すなわち、就業形態や家族構成の異なる家族類型別、そして世帯主、配偶者、老親や子供などといった世帯上の地位別、そしてさらに年令階層などの異なるグループ別に、労働供給関数を測定し、所得や賃金など外的な経済的与件の相違に対して家計が就業行動の上でどのように反応するかを分析する。就業行動は、年間就業時間ならびに就業を選択する確立の2通りで定義され、われわれはその双方の特定化を併用して分析を行う。推計された労働供給関数から導かれる所得効果、賃金効果、代替効果等の値は、一定の理論的制約の下で、各種の政策が労働力構造に及ぼす影響を推測する上で有用な手がかりとなり得る。さらに、系統的な影響を及ぼす要因をコントロールするために、所得や賃金のほかに、家族構成(幼児の有無)、世帯主の社会経済的地位、地域需要条件などが説明変数として加えられており、これらの変数の就業行動に及ぼす影響のあり方も有益な情報となるだろう。

わが国ではこれまで労働力構造の分析として『国勢調査』などの地域的集計値データによる分析は少なからず試みられてきたが、集計値では労働供給の基礎単位である家計の就業行動を解明するには無理があった。われわれの研究は、個票を直接用いてわが国における家計の就業行動を包括的に明らかにしようとする先駆的な試みであり、本報告ではその第一次的接近の結果を提示するものである。この分野では1970年代にアメリカで多くの研究が蓄積されており、われわれの分析は、資料の適性の吟味という意味も含めてアメリカの研究結果との対比を意図しつつ進められる。

本報告では、以下、第II章でアメリカの研究蓄積を中心にやや詳しい研究の展望を行い、第III章で分析枠組を解説する。そしてIV章で計測結果を詳しく検討し、第V章で分析結果と含意を要約するとともに、残された問題点を指摘する。

本研究の推進の過程では中村隆英前所長の不断の御指導を得、また、古郡靹子(当研究所客員研究員)、斉藤修(慶応大学助教授)、田中滋(慶応大学助手)、大平純彦(元当研究所研究員)、新居玄武(東京大学大学院)、根来正人(当研究所委嘱調査員)の各氏から貴重な協力を得ることができた。

なお、本研究では京都大学経済研究所森棟公夫助教授のご好意によりロジェット分析計算プログラムを利用させていただいた。ここに記して、感謝する次第である。


全文の構成

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 444 KB)
  2. 1ページ
    第I章   研究の目的
  3. 2ページ
    第II章  研究の展望
    1. 2ページ
      1 研究の系譜
    2. 7ページ
      2 個票による横断面分析の展望
      1. 7ページ
        A 分析の枠組
      2. 8ページ
        B 結果の概要及び問題点
  4. 11ページ
    第III章 分析の枠組
    1. 12ページ
      1 理論モデル
    2. 12ページ
      2 最適時間選択モデルと就業非就業選択モデル
      1. 12ページ
        A 最適時間選択モデル
      2. 15ページ
        B 就業-非就業選択モデル
    3. 18ページ
      3 分析の枠組と方法
      1. 18ページ
        A 家計類型ならびに家計員の種類
      2. 20ページ
        B 労働供給関数の特定化
      3. 20ページ
        C 従属変数
        1. 20ページ
            ア 連続変数-労働時間
        2. 21ページ
            イ 不連続変数-就業・非就業
      4. 22ページ
        D 独立変数
        1. 22ページ
            ア 家計所得
        2. 23ページ
            イ 期待賃金率
        3. 23ページ
            ウ 本人以外の家計員の就業状況
        4. 23ページ
            エ 家族構成
        5. 23ページ
            オ 家計の社会経済的地位
        6. 24ページ
            カ 地域の需要条件
    4. 24ページ
      4 分析資料と変数の特定化
      1. 24ページ
        A 分析資料
      2. 24ページ
        B 変数の特定化
        1. 24ページ
            ア 類型分割に用いられた変数と地位別分割
        2. 25ページ
            イ 従属変数の特定化
        3. 26ページ
            ウ 独立変数の特定化
  5. 27ページ
    第IV章 計測結果
    1. 28ページ
      1 主婦(有配偶女子)
    2. 35ページ
      2 世帯主(有配偶男子)
    3. 38ページ
      3 親(複合家族)
    4. 43ページ
      表IV13 計測結果(1-0分析)
    5. 45ページ
      4 子供(核家族世帯及び複合家族世帯)
    6. 47ページ
      5 所得、賃金ならびに代替弾性値
  6. 54ページ
    第V章  結語-分析結果の要約と含意
    1. 54ページ
      1 研究の意義と概要
    2. 55ページ
      2 主婦(有配偶女子)
    3. 56ページ
      3 その他のグループ
    4. 56ページ
      4 残された問題点
  7. 58ページ
    参考文献別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 286 KB)
    1. 61ページ
      附録 1 データ作成について
      1. 61ページ
          ア テープの設計
      2. 61ページ
          イ 変数編集
      3. 63ページ
          ウ 賃金率Wについて
      4. 64ページ
          エ 有効求人倍率について
    2. 66ページ
      附録 2 計測手続きに関する覚書
      1. 66ページ
          ア 所得フィルター
      2. 66ページ
          イ 賃金率データについて
      3. 67ページ
          ウ 個票再集計データの試み
    3. 68ページ
      附録 3-A ロジットモデルにおける偏微係数と弾性値の導き方
      1. 68ページ
          ア 偏微係数
      2. 69ページ
          イ 弾性値
    4. 70ページ
      附録 3-B 労働供給モデルにおける所得効果と代替効果
    5. 71ページ
      附録 4 計測結果例
    6. 79ページ
      附録 5 参考表:各標本グループの独立変数間の単相関
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)