経済分析第81号
世界経済モデルにおけるアメリカ経済の短期予測モデル注)

1981年3月
  • 天野 明弘,貞広 彰,穴井 二三徳,美添 泰人

(はじめに)

本稿は現在当研究所で開発が進められている世界経済モデル(EPA World Economic Model)の一環として作られたアメリカ経済モデルに関する中間報告である。天野ほか(1980)で述べたようにアメリカ経済モデルは日本経済モデル(吉冨ほか(1981))と並んで世界経済モデルの中で中核的な位置をしめる約160個の方程式からなる大型モデルである。

アメリカ経済を対象とするマクロ数量経済モデルの開発はTinbergenの先駆的研究(Tinbergen(1939))にはじまりKleinおよびKleinとGoldbergerのモデル(Klein(1950)、Klein and Goldberger(1955))によってその原型が確立される。以来1960年代においてBEAモデル、Brookingsモデル、DHL IIIモデル、Fairモデル、Whartonモデル、HickmanCoenモデル等多くのマクロ計量経済モデルが完成され、使用されてきたが(注)、ケインズ経済学の確立とケインズ的マクロ経済政策の有効性に関する揺るぎない確信がこのようなマクロ計量経済モデルの発展に大きく貢献したのはいうまでもない。

しかしながら60年代後半から70年代に入って観察されたいくつかの経済状況はそれまでのケインズ的マクロ経済の有効性に疑問を投げかけ、これら60年代のコンセンサスモデル再検討を理論面から迫ることとなった。また、1973年の変動相場制への移行とアメリカ経済における国際的要因の重要性の増大は、従来のコンセンサスモデルでは十分にとりあつかわれていなかった領域を明示的に含む計量モデルの開発を要請するものであった。

このような理論面からの挑戦と新しい時代の要請とに答えるべく開発された代表的計量モデルとしてMITPENNSSRSモデル(Board of Governors of the Federal Reserve System(1978)、以下MPSモデルと呼ぶ。)と連邦準備制度理事会国際金融部の多数国モデル(Berner et al.(1977),Kwack(1979)以下FEDMCMモデルと呼ぶ)がある。前者は、F.Modiglianiを中心として、基本的にはケインジアンの立場に立ちつつも、マネタリストからの挑戦を意識しつつ作成されたものであり、金融理論の発展のみならず、マクロ経済政策の有効性をめぐる理論的・実証的研究の発展にはたした役割は大きい。一方、後者は変動相場制と貿易・資本両面における国際化の発展を踏まえて作成されたものであり、開放経済体制下の経済政策のあり方をさぐるための道具として利用されている。

本モデルの作成にあたっては以上のようなアメリカにおける計量モデルの発展経過より生まれた共有財産を基礎とし、とくに上記二つの代表的モデルを参照にしつつ、次の3点を重視したモデルの開発を進めることとした。

(i) 実物セクターの設計にあたっては基本的にはケインズ経済学のフレームを踏襲するが、金融諸変数が実物セクターに及ぼすチャンネルについては時に留意する。

(ii) 金融セクターの設計にあたっては、一方において最近の金融構造の変化を意識しつつ、他方において金融セクター固有の理論を失わないように工夫する。

(iii) 基軸通貨国であるアメリカの実効為替レートは、世界経済モデルが完成した段階ではアメリカ以外の各国モデルで決定される対ドル為替レートの加重平均として定義的に決定されることとなる。しかし、その場合でもアメリカモデルを単独で作動させる場合には、実効為替レートを独自に決定しなければならない。したがって本モデルでも需要バランス法(Amano(1979b))による為替レートの内生化が可能となるよう国際収支セクターの充実をはかる。

以上のようなモデルの設計によって、開放経済体制下の財政・金融政策の効果が定量的に分析可能となるが、とくに(i)財政政策と金融政策の効果のちがい、(ii)金融諸政策の効果のちがい、(iii)世界貿易や輸入価格等の海外からのショックが国内経済にどのようなインパクトを及ぼすか、(iv)さらに以上のような政策効果等は代替的為替制度の下でどの程度のちがいを生むか等についての暫定的な判断が可能になったと考える。

以下ではまず第1章でモデルを構成している各方程式の理論的背景と推計結果およびモデルの相互関連メカニズムをいくつかのブロックごとに説明する。第2章では為替レートを外生変数とした場合、およびそれを内生化した場合について内挿テストの結果を検討する。第3章では種々のシミュレーション実験を行うことにより本モデルの特性を明らかにするとともに、上記の政策効果等について検討を行う。

最後に残されたいくつかの課題を検討して結びに代える。


注) 本稿作成にあたっては、米国連邦準備制度理事会調査統計局のDr. J.Enzler, Dr. R.Berner, Dr. F.Brayton,カナダ銀行のDr. D.Longworthおよび当研究所の吉冨勝氏をはじめとする日本モデル班ならびにモデル管理システム班の佐々木隆博、坂口邦雄の両氏に負う所が大きい。付記して謝意を表わす。
(注) これらのモデルの概略についてはHickman,ed.(1972)を、また、これらのモデルの比較分析についてFromm(1973)を参照されたい。


全文の構成

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  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    第1章 モデルの構造
    1. 2ページ
      第1節 最終支出ブロック
      1. 2ページ
        1.1 個人消費支出
      2. 3ページ
        1.2 民間企業設備投資
      3. 7ページ
        1.3 住宅投資
      4. 9ページ
        1.4 在庫投資
      5. 10ページ
        1.5 その他変数
      6. 10ページ
        (付 1.1) 最終支出ブロックの方程式体系
      7. 14ページ
        (付 1.2) 最終支出ブロックの構造分析表
    2. 16ページ
      第2節 雇用・稼働率・労働時間ブロック
      1. 16ページ
        2.1 雇用
      2. 18ページ
        2.2 稼働率・労働時間
      3. 19ページ
        (付 2.1) 雇用・稼働率・労働時間ブロックの方程式体系
      4. 20ページ
        (付 2.2) 雇用・稼働率・労働時間ブロックの構造分析表
    3. 20ページ
      第3節 賃金・価格ブロック
      1. 20ページ
        3.1 賃金
      2. 23ページ
        3.2 価格
      3. 25ページ
        (付 3.1) 賃金・価格ブロックの方程式体系
      4. 28ページ
        (付 3.2) 賃金・価格ブロックの構造分析表
    4. 30ページ
      第4節 分配所得ブロック
      1. 30ページ
        (付 4.1) 分配所得ブロックの方程式体系
      2. 32ページ
        (付 4.2) 分配所得ブロックの構造分析表
    5. 32ページ
      第5節 政府財政ブロック
      1. 33ページ
        (付 5.1) 政府財政ブロックの方程式体系
      2. 34ページ
        (付 5.2) 政府財政ブロックの構造分析表
    6. 34ページ
      第6節 国内金融ブロック
      1. 34ページ
        6.1 はじめに
      2. 36ページ
        6.2 自由準備の需給と短期金利の決定
      3. 39ページ
        6.3 要求払預金とMissing Money
      4. 42ページ
        6.4 定期預金
      5. 45ページ
      6. 46ページ
        6.6 国内金融ブロックと実物ブロックの相互連関メカニズム
      7. 47ページ
        (付 6.1) 国内金融ブロックの方程式体系
      8. 50ページ
        (付 6.2) 国内金融ブロックの構造分析表
    7. 52ページ
      第7節 国際収支・為替レートブロック
      1. 52ページ
        7.1 経常勘定
      2. 55ページ
        7.2 資本勘定
      3. 57ページ
        7.3 為替レート
      4. 60ページ
        (付 7.1) 国際収支・為替レートブロックの方程式体系
      5. 70ページ
        (付 7.2) 国際収支・為替レートブロックの構造分析表
  4. 72ページ
    第2章 モデルの動学的パフォーマンス
    1. 72ページ
      第1節 為替レート外生化モデルのパフォーマンス
    2. 73ページ
      第2節 為替レート内生化モデルのパフォーマンスと為替市場の安定性
    3. 81ページ
    4. 91ページ
    5. 100ページ
  5. 104ページ
    1. 104ページ
      第1節 為替レート外生化モデル
      1. 104ページ
        1.1 財政政策の効果
      2. 108ページ
        1.2 金融政策の効果
      3. 110ページ
        1.3 海外変数の効果とJカーブ効果
      4. 112ページ
        (第3章への付録1) シミュレーション分析の結果
    2. 159ページ
      1. 159ページ
        2.1 財政政策の効果
      2. 159ページ
        2.2 金融政策の効果
      3. 160ページ
        2.3 海外変数の効果とJカーブ効果
      4. 162ページ
        (第3章への付録2) シミュレーション分析の結果
  6. 210ページ
    今後の検討課題-むすびにかえて
  7. 211ページ
    補論 民間純資産ストックについて
  8. 215ページ
    付録1 変数記号一覧表
  9. 225ページ
    付録2 参考文献
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