経済分析第86号
地域間における受益と負担の帰着と再分配効果(注1)

1982年5月
  • 石 弘光,小泉 一郎,長谷川 正,秦 邦昭,山本 裕一

(はじめに)

 われわれ国民の負担する租税は、政府の供給するこう公共サービスと密着な関連をもっている。代表的な租税原則の一つである。「利益説」の立場にたてば、租税負担はまさにわれわれの受け取る公共サービスの対価とも考えられる。そこでこの両者を対応させ、租税負担と公共サービスの便益のバランスを考える視点が重要となってくる。

 この問題は従来から財政学の領域において「租税及び支出帰着」(tax and expenditureincidece)として考察の対象にされてきた。租税の究極的な負担者は誰なのか、あるいは公共サービスの便益を誰が最終的に受領しているのか、を数量的に把握するのは、実際の政策遂行のうえからもきわめて重要である。

 このような帰着の測定は、伝統的に二つの所得配分の状況と関連づけて行われてきた。一つは要素所得別所得分布であり、もう一つは所得階層別の所得分布である。その狙いはあくまで、財政手段の変更により機能的所得分配とか人的所得分配とかいわれるものが、どう変化するかを測定することにある。

 だが本稿における分析の狙いは、この伝統的な帰着論とはやや視点を異にする。われわれの住む地域によって、租税負担と公共サービスの便益がどのように相違してくるかを検討するのが、本稿の目的である。これはいわば「地域別帰着」(regional incidence)ともいうべきもので、その視点の重要性は今日しだいに認識されだしている。この動きは単に我が国にとどまらない。イギリスやアメリカでも最近地域経済の発展と財政の役割を分析しようと数多くの試みが行われている。(注2)この地域別帰着の視点は、これまでわが国において政策遂行上、あるいは研究とすすめるにあたり、著しく欠落していると思う。

 都市に住むか農村に住むかによって、今日われわれの受け取る公共サービスの水準には、著しい格差が存在する。と同時に、経済活動の規模や種類の相違を反映して、租税負担の水準にも地域ごとにかなりの差が生じている。

 このような認識の下に、本稿では、主として次の点について分析する。

(1) われわれに住む地域によって、公共サービスの便益(受益)と租税負担にどのような差異があるか、その実態を数量的に把握する。

(2) 受益と負債担の地域別帰着を、35,40,45及び52年度の4か年について測定する。この結果に基づき、過去20年近くの受益と負担の対応関係を横断的かつ時系列的に分析する。

(3) 日本経済の地域構造の変化を念頭に、受益と負担の地域別帰着の状況をいくつかの仮説をたて、回帰分析によりそれを検討する。

(4) 最も重要な経費項目である公共事業費に限定して、約20年間にわたる地域別帰着を試み、検討を行う。


(注1) 本稿の作成に当たって、当システム分析調査室の油井雄二氏、山下道子氏からの貴重なコメントを頂いた。ここに記して感謝したい。

(注2) 例えば、A.B.Atkinson and J.E.Stiglitz, Lectures on Public Economics, 1980. Joho Short, Public Expenditure and Taxation in the U.K. Regions, 1981. R.J.Bennett, The Geography of Public Finance, 1980.


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 494 KB)
  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    第1章 分析の対象及び方法
    1. 2ページ
      第1節 受益と負担の時系列分析-予備的考察
      1. 5ページ
        (1) 受益項目の時系列分析
      2. 12ページ
    2. 15ページ
      第2節 分析の対象及び方法
      1. 15ページ
        (1) 受益の対象と地域別帰着の測定方法
      2. 22ページ
        (2) 負担の対象と地域別帰着の測定方法
  4. 24ページ
    1. 24ページ
    2. 28ページ
    3. 28ページ
    4. 46ページ
  5. 46ページ
    第3章 負担の地域別帰着
    1. 46ページ
      第1節 地域格差の一般的特徴
    2. 47ページ
    3. 60ページ
  6. 60ページ
    1. 60ページ
      第1節 受益の地域格差の決定要因分析
    2. 64ページ
      第2節 負担の地域格差の決定要因分析
  7. 67ページ
    第5章 財政による地域間所得再配分
  8. 87ページ
  9. 93ページ
    むすびに代えて別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 453 KB)
  10. 95ページ
    補論 受益と負担の地域別帰着の測定方法
  11. 109ページ
    参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 495 KB)
  12. 参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 469 KB)
  13. 参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 492 KB)
  14. 参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 460 KB)
  15. 参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 492 KB)
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