経済分析第87号
EPA世界経済モデルの構造(注)

1982年10月
  • 天野 明弘

(序論)

本報告では、経済企画庁経済研究所が内外の研究者の協力を得て完成した四半期世界経済モデルについて、(i)国別モデルの特徴、(ii)主要通貨の為替レート内生化の方法、(iii)貿易関連の方法、および(iv)経済活動の国際的波及に関するシミュレーション分析の4点にわたってモデルの構造を明らかにする。当モデルの開発に先立って課された目標は、主要先進諸国間における経済政策の協調の在り方が分析できるような短期的モデルであること、日本経済の動向を予測するに際して従来は与件と考えられてきた世界貿易の成長率、世界貿易価格の上昇率、その他の重要な国際経済諸変数を内生化したものであること、したがって、当然のことながら主要通貨の為替レートを内生化していること等であった。

これらの課題に応えるため、当モデルは世界経済および日本経済にとって主要度の高い9か国(日(JA))、米(US)、加(CA)、豪(AL)、韓国(KR)、西独(GE)、仏(FR)、英(UK)、伊(IT)については国別マクロ・モデルを構築するとともに、残余の世界貿易を扱うために一つの地域モデル(国別モデルに含まれない、アジア(AS)、中南米(LA)、中近東(ME)、社会主義圏(SC)、その他西欧(WE)、その他世界(RW)の6地域を含む)を作成し、これらを貿易関連モデルならびに直接関連ブロックを介して相互に整合的にリンクされるという形で構成され、主要諸国のマクロ経済政策に関する主要な手段・目標変数が明示的に導入されると同時に、主要国の為替レートが内生化されている点に特徴があるといえよう。

本報告では、まず、第2節において国別モデルの代表的な構成を示し、構造部門間における相互依存関係を明らかにする。国別モデルは、(1)最終支出、(2)雇用・稼働率、(3)賃金・物価、(4)所得分配、(5)財政、(6)金融、および(7)国際収支・為替レートの7部門に分けることができる。最初の5部門は伝統的な最終需要中心のケインズ型モデルを踏襲しているが、残りの2つの部門にかなりの比重を置くことによって、国内のおける実物的・金融的要因の相互関連や、貿易および資本移動を通じて生じる国際的依存関係の分析により強い光を当てることが可能となった。労働供給や生産関数の扱い方、とくにエネルギー価格変化の投入係数や産出物価格への影響の波及経路等の供給面について将来モデルを拡充すべき点も多いが、経済活動、物価、金利、資産需要、為替レート等の相互依存関係を明確に意識して構成されたという点が国別モデルの特徴である。

ついで、第3節において為替レート内生化の方法について述べる。われわれの世界経済モデルでは、若干の試行錯誤の後、需要バランス接近法(ないし構造的接近法)が多くの国別モデルにおいて採用されている。資産市場の調整速度が無限大でなければ、ストックとフローの相互作用によって為替レートが決定されること、多くの主要国において通貨当局の為替市場への介入が無視できないこと、為替市場の介入が国内金融市場に及ぼす影響を分析するためには、為替レートの変動と同時に外貨準備の変動を内生化する必要があること、さらに、EMSのような為替レートの取決めをモデル化しなければならないこと等の点に関して、われわれの用いる接近法はきわめて伸縮的な対応を可能とするものである。

第3節では、まずいくつかの代表的な単一方程式接近法について、その理論的・実際的問題点を検討した後、世界経済モデルで用いられている為替レート内生化の方法について詳論する。

貿易関連モデルについては、同一データに対して適用された主要な代替的接近法の比較検討の結果、現在ではHickman-Lauの方法が用いられている。第4節では、格接近法の特徴やパーフォーマンスの比較について検討し、あわせて地域モデルの概要について説明する。

第5節では、標本期間内における動学的シミュレーション(ファイナル・テスト)の解を標準解として行っていたいくつかのシミュレーション分析(いわるゆる乗数分析)の結果について述べる。分析の視点は、一国内部で生じた経済的変化が国際的にどのように波及し、その結果が当初の国にどのようにはね返ってくるかという点、ならびに為替レートを外生的に扱ってきた従来の世界経済モデルの諸特徴が、為替レートを内生かすることによってどのように変化するかという点の2つある。ここでは、各国における実政府支出の変化および公定歩合の変更という2種類の攪乱要因を与えて、これらの問題を解明し、あわせて他の研究結果との比較を行う。

最後に、原油価格の引上げ、および対日差別的輸入制限という2つの国際的規模での変化が、それぞれの各国経済と世界貿易に及ぼす影響について明らかにする。


(注) 本稿は、研究所におけるEPA世界経済モデルプロジェクトの研究成果の一部を著者の責任でとりまとめとものである。EPA世界モデルの開発は下記の世界モデル開発グループのメンバー諸氏に負うものであるが、本稿に示された見解は著者個人のものであり、本稿に含まれる誤りも全て著者に帰せられる。初期の草稿に対して有益なコメントを寄せられたPeter Hooper、福地宗生、および新村保子の諸氏に謝意を表わしたい。なお、モデルの詳細については、A.Amano, A.Maruyama, and M.Yoshitomi, eds., "EPA World Economic Model,"EPA World Econometric Model Discussion Paper No.11(March 1982)を参照されたい。

世界モデル開発グループ・共同研究者の構成員名一覧
世界モデル開発グループ
  天野 明弘 ,丸山 昭 ,吉冨 勝
共同研究者
  北米チーム : 貞広 彰 ,横井 豊 ,大谷聡
英・豪チーム : 安原 宣和 ,宮脇 啓二
欧州チーム : 豊田 利久 ,沢田 五十六 ,飛田 史和 ,伊東 順一 ,長橋 敦子
日・韓チーム : 佐久間 隆 ,笠原 裕博
貿易関連 : 水野 純一 ,深山 節子
システム管理 : 伊籐 征一 ,佐々木 隆博 ,藤井 健二

全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 467 KB)
  2. 1ページ
    第1節 序論
  3. 2ページ
    第2節 国別モデルの特徴
    1. 5ページ
      第2節への付録 単純化された国別モデルの代表的構造
  4. 10ページ
    第3節 為替レート内生化の方法
  5. 22ページ
  6. 31ページ
  7. 56ページ
    参考文献別ウィンドウで開きます。(PDF形式 310 KB)
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