経済分析第90号
EPA世界経済モデルにおける統計的分析(注)

1983年5月
  • 豊田 利久,新居 玄武,大谷 一博

(はじめに)

 1国のマクロ計量モデルによる計量的分析や予測の限界が露呈し、それに対処するさまざまな試みがなされている。その1つの方向が、国際的相互依存性を積極的に分析枠組に中に取り入れる世界経済モデルの構築である。このような新しい計量モデルによって、従来は必ずしも明確にされていなかった国際経済や国際金融に関する一般均衡的諸仮説を定量的に検証する途が開け、また、国際的相互依存性を考慮した予測や政策提言が可能になりつつある。

 EPA世界経済モデルもそのよう役割の一翼を担いつつあるが、他の世界経済モデルとは異なる数々の特徴を有しているので(例えば、天野[2]参照)、その特徴によって分析上の長所も短所も規定される。本稿は、その特徴のいくつかの側面をとり出し、主として統計的な分析を試みたものである。今迄はモデル開発が当面の大きな課題であったが、曲りなりにもそれが実用の段階に入った現在、統計的分析の見地から将来のモデルの改善の途を探ることは意義であることであろう。したがって、本稿は、主としてモデルの特徴から規定される短所の面を分析し、その解決策を探ろうとする試みである。

 ところで以下は3つの章から成り、各章とも独立した性格をもっているが、EPA世界経済モデルの統計的分析を扱っているという点では共通なので、1つの分析に収めたことをお断りしておきたい。

 まず、第1章では、「若干の推定と予測の問題」が議論される。通常の1国のマクロ計量モデルと世界経済モデルの異同が統計的に調べられた後に、EPA世界経済モデルで過去において実際にとられてきた手法の改善策が検討される。1つは、予測における定数項修正の改善についてであり、他の1つは貿易関連モデルの推定の改善についてである。

 第2章においては、「為替レート決定モデルの統計的分析」が展開される。EPA世界経済モデルの1つの大きな特徴は、主要為替レートを「フレックス方式」といわれる需給均衡方式で決定していることである。われわれは、このような需給均衡的計量モデルの一般的議論によって、このようなモデルにおける同次推定の重要性を明らかにする。つづいて、対ドル円レートを決定する小型のフレックス・モデルを設定し、同次推定を含む種々の推定法のパフォーマンスを比較・検討する。

 第3章「貿易シェア行列の変動と貿易関連モデルの予測精度」においては、現行の1970~1977年の貿易関連行列を1900~1980年に期間延長したときに判明する種々の論点を示す。まず最初に、貿易シェア行列が時系列的にどのように変化したかを検証し、つづいて2度わたる石油危機が貿易シェア行列に与えた影響を検証する。さらに、貿易関連モデルの基準点の変更が予測パフォーマンスにどのような影響を与えるかをシミュレーションによって分析し、特に事前予測を改善するためには基準時点を最近時点にとることの重要性が示される。


(注) 本稿の作成において第1章を記す発端となったのは天野明弘教授との討論であったし、第3章第3節では水野純一氏の全面的なご協力を得た。また、福地崇生所長、新村保子主任研究官をはじめ、EPA世界経済モデル・プロジェクトの多くのメンバーから有益なコメントをお受けした。記して謝意を申し上げる。


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 403 KB)
  2. 1ページ
    はしがき
  3. 2ページ
    第1章 若干の推定と予測の問題
    1. 2ページ
    2. 3ページ
      第1節 予測における定数項修正
    3. 8ページ
      第2節 貿易連関モデルにおけるGLS推定
      1. 15ページ
        第1章第2節への付録:貿易連関モデルにおける系列相関
  4. 15ページ
    1. 15ページ
    2. 15ページ
      第1節 需給均衡型モデルの推定問題
    3. 19ページ
      第2節 推定方法の比較
      1. 36ページ
        付録1:1.1節の定理の証明
      2. 39ページ
        付録2:分析に用いたデータ
  5. 40ページ
    1. 40ページ
    2. 41ページ
      第1節 貿易シェア行列の変動:1975-1980年
    3. 48ページ
      第2節 石油危機と貿易シェア行列の変動
    4. 51ページ
      第3節 貿易連関モデルにおける基準時点の変更と予測精度
      1. 59ページ
        第3章第3節への付録:貿易連関モデルの代替的推定結果
  6. 62ページ
    参考文献
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