経済分析第91号
世界経済モデルにおけるカナダ経済の短期予測モデル(注)

1983年5月
  • 天野 明弘,David Longworth,貞広 彰,横井 豊,穴井 二三徳,伊東 順一,大谷 聡

(はじめに)

カナダ経済のマクロ計量経済モデルとしては、戦後間もなく、カナダの大蔵省においてL.RKleinおよびT.M Brownが作成したいくつかの小規模なものがあるが、公刊されたものでは、Rhomberg(1964)をもって嚆矢とする。L.H. Officer(1968)は、中規模モデルとしては初めてのものである。かれはまた、J.F.Helliwell,H.T. Shapiroおよびカナダの銀行のスタッフとともにカナダ経済の四半期計量モデルRDX1の作成にも参加した(Helliwell et al.(1969))。RDX1の完成後、それを改善するための作業が直ちに開始された。その努力は、当初の規模をはるかに凌ぐRDX2となって結実した(Helliwell et al.(1971))。

RDX2モデルは、その後3回にわたる改訂を経て、1976年にその最終版が公刊されている(Bank of Canada(1976,1977))。RDX2モデルの予測結果が他のカナダ経済の四半期計量モデルのそれと比肩しうるものであることがJenkins and Kenward(1977)によって明らかにされたことから、予測用モデルを明示的に指向したRDXF の開発が推進されることとなったのである(de Bever et al.(1979b))およびBank of Canada(1980a),(1980b)参照)。

RDXモデル群がマクロの側から見て、すべてのカナダ計量経済モデル中最も詳細なディスアグリゲーションを行っているのに対して、カナダ経済審議会(Economic Council of Canada)が多くの連邦政府の省庁の協力の下に開発したCANDIDE モデルは、産業の側からディスアグリゲーションを行った年次モデルである。

RDXの開発と平行して、トロント大学においても予測用計量経済モデルの開発が進められてきた。カナダ経済の年次モデルTRACE は、1960年代後半に開発され、1972年に公刊されている(Choudhry et al.(1972))が、予測用四半期モデルとしてはQFM が作成され、後にFOCUS モデルによって置き換えられている1)。その他、民間機関によるものとしては、AERIC,DRI,WHARTON等のカナダ・モデルが挙げられているであろう。

カナダ以外の国において開発されたカナダ経済のマクロ計量モデルとしては、米国連邦準備制度理事会が1970年代に多国モデル(FED Multi-Country Model,MCM)の一部として作成したものが最も重要なものである。(Berner et al.(1977))、Howe(1982))。

以下に述べるわれわれのモデルは、RDXおよびRED-MCM諸モデルの経験に負うところがきわめて大きい。とりわけ、長期資本移動の推定式はRDX2のそれとよく類似しており、また金融ブロックは、RDXFの初期ヴァーションを参考にしている。他方、実物ブロックの多くの方程式は、FED-MCMの特定化を出発点として用いられている。

われわれのモデルの方程式は体系やシミュレーション・テストの結果については、開発の中間報告として、Longworth(1980d)、Amano et al.(1980)、Amano,Maruyama,Yoshiomi(1982)等の形で公表してきた、これまでの作業に結果、モデルの諸特徴がかなり明確となり、また1982年秋には世界経済プロジェクトの中で当モデルを含めた世界経済モデル全体による初めての予測も行われた(Amano,Kagawa,Yoshitomi(1983)参照)ので、この機会に当モデルの1982年2月ヴァージョンについて、構造方程式の特定化や推定結果ならびにモデルのシミュレーション特性等に関する詳しい報告をとりまとめることとした。

以下、第2節において、各ブロック毎にモデルの構造を説明し、第3節において内挿テストのパーフォーマンスを報告する。第4節では、モデル全体を用いた各種のシミュレーション分析を行って、本モデルにおける為替レート決定メカニズムの特徴や変動為替レート制下におけるマクロ経済のワーキングを明らかにする。


(注) 本稿作成にあたり、新村保子氏から有益なコメントを頂いた。また、佐々木隆博、坂口邦雄、藤井健二の諸氏にはシステム管理の面で負う所が大きい。付記して謝意を表わす。

1) 4つのカナダ・モデル(RDX 2,CANDIDE,TRACE, およびQFM )の動学特性の比較がde Bever et al.(1977a)で行われている。


全文の構成

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  2. 1ページ
    第1節 序論
  3. 2ページ
    第2節 カナダ・モデルの構造
    1. 3ページ
      2.1 最終支出ブロック
    2. 8ページ
      2.2 労働・稼働率ブロック
    3. 9ページ
      2.3 賃金・物価ブロック
    4. 14ページ
      2.4 分配所得・財政ブロック
    5. 15ページ
      2.5 国内金融ブロック
    6. 20ページ
    7. 31ページ
      2.7 貿易連関モデルとインターフェイス
    8. 32ページ
      第2節への付録 カナダ・モデルの構造分析表
  4. 42ページ
    1. 48ページ
      第3節への付録 最終テスト結果のグラフ
  5. 79ページ
    1. 79ページ
      4.1 為替レート決定の収束過程
    2. 81ページ
      4.2 Jカーブ効果と資本勘定における攪乱要因の影響
    3. 86ページ
    4. 93ページ
  6. 160ページ
  7. 166ページ
    付録2 方程式体系
  8. 183ページ
    参考文献
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