経済分析第93号
大規模計量経済モデルの構造解析・解法・推定について(注1)

1984年3月
  • 伊藤 征一,佐々木 隆博,伴 金美,藤井 健二,矢萩 恵一,Jean-Louis Brillet(注2)

( はしがき )

 本稿は大規模計量経済モデルの構造解析、解法及び推定に関する諸問題に対処するために提案されたいくつかの方法を、若干の実験結果を用いて比較検討しようとするものである。ここで実験的に扱われているモデルは経済企画庁経済研究所で開発中の世界経済モデルのうちの日本及び西独経済モデルであり、世界経済モデル全体の規模と比較すれば小さなのもである。しかしながら、モデルを推定し解く場合に生ずる問題は大規模な全体モデルの場合と全く同じであり、実験に用いるには十分な規模であると考える。

 計量経済モデルの大規模化は、方程式と変数の数を著しく増大させるが、その一方で方程式と変数間の関係を不明確なものにする傾向がある。このような大規模計量経済モデルにおける各方程式と変数の関係を分析することは、モデルの開発過程で重要な役割を持つ。大規模計量経済モデルの特徴の1つは、方程式と変数間の関係が疎(Sparse)である。(個々の方程式に含まれる変数がモデル全体に含まれる変数に比べて著しく少なく、連立方程式体系のほとんどの係数がゼロとなっている)ことである。このような関係を分析するための方法は、大規模線型計画法などの数値解法の分野で発展したものであるが、連立方程式で構成されている計量経済モデルへも十分適応することができる。その方法によれば、大規模モデルもブロック化することにより、より小さいモデルへの分割が可能となる。これは方程式あるいは変数をグループ化することであり、このブロック分割によりその構造を明確な形で整理することが可能となる。

 次に、問題となるのは大規模計量経済モデルを解くための方法である。世界経済モデルをはじめ、多くのモデルは、非線型連立方程式から成る。この方程式体系を解くためには、通常ガウス・ザイデル法とよばれる反復代入法が用いられる。この方法は非線型連立方程式体系を比較的効率よく解く方法として知られており、経済企画庁の世界経済モデルもこの方法で解かれている。しかしながら、ガウス・ザイデル法は方程式の順序により収束回数が著しく異なるのみならず、解が存在してもモデルを解くことができない場合もある。一方、ニュートン法とよばれる解法は比較的小規模の非線型連立方程式体系の解法として工学的分野でよく用いられており、解の精度もガウス・ザイデル法と比較して高いことが知られている。

 これまで、大規模計量経済モデルへのニュートン法の適用については否定的な考え方が強く、解法として用いられることが少なかった。しかし、大規模計量経済モデルにおける方程式と変数との関係が疎である構造的特性を利用すれば、ニュートン法の適用も十分に可能であり、解の精度を高めるためにも望ましいことが最近明らかになりつつある。本稿では、ガウス・ザイデル法以外の解法としてニュートン法などを比較検討の対象とする。

 最後に、大規模計量経済モデルを推定するうえで生ずる問題として同時方程式体系の扱いがある。世界経済モデルの各パラメータは原則として最小二乗法を用いて推定されている。とこらが、同時方程式体系を最小二乗法で推定すると、いわゆる「最小二乗バイアス」が発生するとこが知られている。この問題に対しては、二段階最小二乗法や制限情報最尤法をはじめとするいくつかの同時推定法が提案されている。特に、最近の大規模計量経済モデルの推定量に関する小標本理論によれば、制限情報最尤推定量あるいはそれを若干修正した方法が、最小二乗推定量や二段階最小二乗推定量よりも望ましいとされている。本稿では、このような異なる推定量を用いてモデルを推定し、比較検討する。


(注1) 本稿の作成にあたっては、当研究所の世界経済モデル・グループの方々に負う所が大きい。付記して謝意を表わす。

(注2) J.L.Brillet氏は、フランス国立統計経済研究所(INSEE)の中期予測部モデル分析室長であるが、当研究所が本分析を行う目的で招へいした研究者である。


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 448 KB)
  2. 1ページ
    はしがき
  3. 2ページ
    第1章 大規模計量経済モデルの構造解析
    1. 2ページ
      1-1 はじめに
    2. 6ページ
      1-2 Stewardの方法
    3. 9ページ
      1-3 Hellerman.Rarickの方法
    4. 14ページ
      1-4 Nepomiastchy.Ravelliの方法
    5. 17ページ
      15 構造解析別ウィンドウで開きます。(PDF形式 361 KB)
  4. 36ページ
    1. 36ページ
      2-1 はじめに
    2. 37ページ
      2-2 ガウス・ザイデル法
    3. 39ページ
      2-3 ニュートン法・簡易ニュートン法
    4. 42ページ
      2-4 モデル解放への応用
  5. 49ページ
    第3章 大規模計量経済モデルの推定
    1. 49ページ
      3-1 同時推定法について
    2. 51ページ
      3-2 計量経済モデル推定における諸問題
    3. 53ページ
      3-3 日本経済モデルの同時推定
  6. 72ページ
    参考文献別ウィンドウで開きます。(PDF形式 335 KB)
  7. 74ページ
    付録1 簡単な日本経済モデル
  8. 75ページ
    付録2 簡略化された日本経済モデル
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