経済分析第96号
世界経済モデルにおける韓国経済の短期予測モデル

1984年10月
  • 申 玄哲,吉冨 勝,佐久間 隆,金 在天,坂口 邦夫,西川 淳一

(はじめに)

 経済研究太平洋ユニットでは、世界経済モデル開発作業の一環として、韓国経済の短期予測モデル(以下「韓国モデル」という。)を開発してきた。韓国モデルは1982年2月に第一版(1982年2月バージョンという)が完成し、その後このモデルの基本的枠組、構造を踏襲した改定版が1984年2月に完成した(1984年2月バージョンという。)現在使用中の韓国モデルはこの1984年2月バージョンである。

 本稿は、両バージョンを合本として取りまとめたものである。先ず1984年2月バージョンの韓国モデルについて、その基本的枠組、構造、モデルの推定結果、シミュレーションテスト及び乗数を述べ、次に1984年2月バージョンについて推定期間の延長に伴う関数形の主な変更点、推定結果、シミュレーションテスト及び乗数を、付論として収録している。

I-1 EPA世界経済モデルと韓国経済モデル

 本稿は、経済企画庁経済研究所が開発を進めている「世界経済モデル」(EPA World Economic Model)の一環として開発された韓国経済モデルに関する、中間報告である。

 世界経済モデルは、日本及び世界経済に重要な地位を占める国々(いわゆる7大国)に日本と特に関係の強い国々(オーストラリアと韓国)を加えた、合計9か国の国モデル、並びにそれ以外の地域を6地域にまとめられた地域モデル、さらに貿易面からこれらの国・地域モデルを連結する貿易関連モデル、各モデル機関を直接連結する直接関連ブロックからなる大規模モデル(方程式数約1800本)である(天野['82]参照)。この中で、韓国モデルはフランスモデル、イタリアモデルと並び方程式60~70本の小規模モデルである。

 世界経済モデル全体の観点からみると、韓国経済の規模は小さいので、韓国の政策シミュレーション自体が問題になることは考えられず、当初、韓国モデルをどの程度まで政策分析の可能なモデルに構築するべきかについて論議があった。他国モデルとの比較可能性、予測の際の取り扱いの容易さ、あるいは、整合性を保持したまま、モデルの規模をこれ以上小さくすることの困難性等を考慮した結果、フランス、イタリアとほぼ同様の枠組みに基づいてモデルを構築することとなった。

 モデルの構築にあたってはなるべく不安定要素を排除することに留意した。これは、韓国経済が極めて高い貿易依存度を持っているので、世界経済モデルの中に組み込まれた場合、輸出数量と輸入価格を通じて相当のショックを受けることが予想され、不安定なモデルでは、単独シミュレーションよりも一層解を得ることが難しくなることを恐れたためである。

 次に、特筆すべきことは、世界経済モデルにおいて、国モデルとして取り扱われている国々の中で、韓国が唯一の中進国であることである。世界経済モデルの一環として韓国モデルを構築することは、韓国が日本の輸出相手国の中で第二位の地位を占めていることによるだけでなく、中進国を取り入れることで分析の幅を広げる意味を持っている。また、韓国の統計は中進国としては非常に整備が進んでおり、したがって、モデル作成の経験はかなり蓄積されているので(例えば、Bank of Korea Model[参考文献1],[参考文献3],Otani and Park[参考文献4],Kohno and Chun[参考文献5],モデルの開発が他の中進国と比べ容易であると考えられたためである。

I-2 韓国経済モデルの特徴

 韓国経済モデルは、他の世界経済モデルの中の国モデルと同じく、短期の経済変動を追跡し、政策分析を行うことを目的としており、したがってそのフレーム・ワークは他の国モデルと基本的に共通のものである。しかしながら、韓国経済の特質や政策体系の違いから以下に述べるような4つの大きな特徴を持っている。

(1) 生産と雇用の面で部門を農林水産業と非農林水産業に区割している。韓国経済では、農林水産業が総生産に占めるシェアは高水準であるとともに、推計期間中に急速に減少している。しかも農林水産業の生産は、天候など経済外的な要因で大幅に変動する。以上の理由からその生産額を外生変数として扱っている。また、農林水産、非農林水産の両部門間の就業者の移動は長期的な産業構造の変化の要因だけでなく短期の労働需要にも影響されており、失業率の変動とともに賃金決定にあたっての重要な要因になっている。

(2) 全体のバランスからみて、賃金・物価ブロックを精緻化している。これは、前述のように韓国経済の貿易依存度が大きく、輸入物価の変動による国内物価水準への影響が大きいばかりでなく、投資財価格と消費財価格に対する影響の大きさにかなりの違いが存在するので、これらを把えないと海外物価が変動した場合にシミュレーション結果に歪みが生ずるのを避けるためである。

(3) とくに財政ブロックを構築せずに政府支出と間接税率を政策変数として扱うのに止まっている。これは、韓国の政策体系が金融政策中心であることも一因であるが、分配面の四半期別データが得られないことが最大の理由である。分配ブロックが作れないので、民間部門の純貯蓄額の累積としての金融純資産のデータが作れないことになり、この結果、韓国モデルにおいては貨幣需要など金融資産需要式の特定化が他の国モデルと異なることになった。

(4) 為替レートを政策変数として扱っている。これは推計期間中を通じてウォンの米ドルレートが固定されていた期間がほとんどであること、また、現在はフロート制を採用しているとはいえ、通貨当局が主要通貨の動きや経常収支をみながら政策的に為替レートを決定していることによっている。


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 426 KB)
  2. 1ページ
    I  はじめに
    1. 1ページ
      I-1  EPA世界経済モデルと韓国経済モデル
    2. 2ページ
      I-2  韓国経済モデルの特徴
  3. 2ページ
    II  モデルの構造
    1. 3ページ
      II-1  モデルの構成
    2. 4ページ
      II-2  構造分析表
  4. 9ページ
    1. 9ページ
      III-1  支出ブロック
    2. 13ページ
      III-2  労働・生産ブロック
    3. 15ページ
      III-3  賃金・物価ブロック
    4. 22ページ
      III-4  分配所得ブロック
    5. 23ページ
      III-5  金融ブロック
    6. 27ページ
      III-6  国際収支ブロック
  5. 31ページ
  6. 36ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 278 KB)
  7. 43ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 225 KB)
  8. 48ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 203 KB)
  9. 53ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 233 KB)
  10. 57ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 219 KB)
  11. 61ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 239 KB)
  12. 66ページ
    V  乗数表別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 143 KB)
  13. 69ページ
    VI  方程式体系別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 382 KB)
  14. 付論 韓国モデルの改訂について-1984年2月バージョンの韓国モデル-
    1. 81ページ
      I  方程式体系別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 390 KB)
    2. 98ページ
      II  内挿テストの結果
    3. 101ページ
    4. 106ページ
    5. 110ページ
    6. 114ページ
    7. 118ページ
    8. 122ページ
    9. 126ページ
    10. 130ページ
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)