経済分析第97号
世界経済モデルによる変動相場制の隔離効果とで伝播効果の分析 他

  • <分析1>世界経済モデルによる変動相場制の隔離効果と伝播効果の分析
  • <分析2>世界経済モデル(84年2月版)の構造と動学特性
1985年3月
<分析1,分析2>
(総括主任研究官)
吉冨 勝
(北米ユニット)
新村 保子,小田 克起,石尾 勝,大林 守
(欧州ユニット)
平野 正宣,広瀬 晴子,安原 宣和,三和 元純
(太平洋ユニット)
西田 卓馬,広瀬 哲樹,植田 哲史,川西 純一
(貿易関連モデル)
松田 正弘
(システム管理ユニット)
伊藤 征一,佐々木隆博,矢萩 恵一

<分析1> 世界経済モデルによる変動相場制の隔離効果と伝播効果の分析(注)

本稿の主要な目的は、世界経済モデル(注2)を用いてマクロ経済的な変動が、変動相場制の下でどのように隔離され、また伝播されていくか、そのメカニズムを分析することである。この論文の最も中心的な課題は、ある国の財政・金融政策がどの程度効果をもち、他の国々へどの程度波及していくかを明らかにすることである。もう一つの関心は、変動相場制が、石油価格上昇を含め他の国からの経済的な影響をどの程度隔離してくれるかである。

変動相場制の支持者の主張は、変動相場制は国内経済を世界経済の変動から隔離する("隔離"効果)一方、金融政策は何らかの制約も受けず国内経済の安定化に用いることができ(政策の自律性)、国際収支の均衡は変動相場制の調整機能にゆだねればよい、("国際収支均衡"機能)というものである。さらに変動相場制の下ではいかなる政策の国際的な調整も不要と主張された。何故なら、一国の政策はその国内にのみ影響を与える(ボトリング・アップ:自己増幅効果)からである(Kouri [5]1982参照)。

変動相場制を支持するこれらの主張と全く対象的に、世界経済モデルは変動相場制の下にもかかわらず又変動相場制であるが故に、海外の変動が多くの径路を通じて伝播されることを示している(伝播効果)。

現在の世界経済の中で経済変動の国際的な伝播メカニズムの径路を経験主義的に明示するためには、為替レートを内生化した多国モデルが必要である。世界経済モデルはこの目的のために作成された。これは4半期マクロ計量モデルであり、サミット7か国にオーストラリア、韓国を加えた9か国モデルとその他6地域のモデルを国際貿易モデルによってつないだものである。主要通貨の為替レートは構造的なアプローチによって内生的に決定される。

1984年2月改訂の世界モデル(ファイナルテスト結果、動学的特性は分析2参照)を用いて隔離と伝播経路を確定するために通常の動学的な乗数分析のためのフル・リンクのシミュレーションを行った。各モデルはまず標本期間(76年第1四半期~81年第4四半期)内での標準解を求め、次いで外生変数(政策変数及び石油価格)を変えることによるショックによって標準解から偏差を生じさせる。これが外生変数の変化に対する乗数である。

本論文は変動相場制の下での隔離効果と伝播メカニズムをたしかめるものである。我々の主要な関心は、1)政策の自律性、2)国際収支均衡効果、3)隔離効果、4)伝播効果である。我々のこれらの効果に対する分析は国内のマクロ経済政策や政策の自律性及びマクロ経済政策の国際調整に対して、重要かつ複雑な関係をもっている。しかしながらこの論文ではその様な政策面での議論は明示的に取り扱わない。

第1部は2章から成っている。第1章は世界経済モデルの背景を説明する部分で、完全な隔離効果をもつ単純モデル及びマンデル・フレミングモデルと世界経済モデルの主な前提の相違に焦点を当てている(より一般的な世界経済モデルの説明は1982年天野[1]参照)。理論と世界経済モデルの大きな相違についてより正確な理解を得るために第2章でいくつかのシミュレーション結果を示す。これには1)国内価格、輸入価格及び為替レートの変化間の相互依存関係、2)J カーブ現象、3)フィリップス曲線、4)IS -LM カーブ、5)J カーブを相殺する対外ファイナンス、に関するシミュレーションを含んでいる(より詳細な説明及びその他の世界経済モデルの特性については第II部で求められている)。

第II部では、変動為替レートの下で種々のインパクトが隔離される。あるいは伝播して行く経路を明らかにするため、固定為替レートの下でのシミュレーション結果と比較しながら、世界経済モデルの乗数による分析を行っている。ここでは次の3つのインパクトを与えたシミュレーションを行っている。I)金融政策によるショック(第3章)、II)財政政策によるショック(第4章)、III)石油価格によるショック(第5章)。

最後の章で、世界経済モデルの乗数分析で得られた変動為替レートの隔離及び伝播メカニズムに関する結論を簡潔にまとめている。


(注) 本稿は経済研究所の主催により1984年3月13~15日に開催された EPA International Symposium on "The Mechanism for Transmission of and Insulation from Economic Disturbances under Floating Exchange Rates - Comparisons between Theories and Multipliers of the EPA World Econometric Model - "に発表されたものの仮訳である。

(注2) このモデルの推計及びシミュレーションは、当経済研究所が(株)富士通の協力の下に開発した計量分析用プログラムシステム(SIGMA)を用いて行われた。


全文の構成

第I部

  1. 目次別ウィンドウで開きます。(PDF形式 110 KB)
  2. 3ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 189 KB)
  3. 33ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 205 KB)
  4. 48ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 265 KB)
  5. 81ページ
  6. 82ページ
    第2章 経済理論と世界経済モデルの理論的前提の主要な相違
    1. 82ページ
      (1)単純モデル
    2. 83ページ
      (2)Jカーブ現象
    3. 86ページ
      (3)モデルへの国際資本移動の導入
    4. 90ページ
      (4)金融ショックの伝播における不確実な側面
    5. 91ページ
      (5)財政ショックと為替レート

第II部

  1. 93ページ
    1. 93ページ
      (1)金融引締め政策の効果
    2. 99ページ
      (2)固定為替相場制のともで不胎化政策の効果 -ドイツと日本の比較-
  2. 102ページ
    第4章 変動相場制の財政政策に関する伝播効果
    1. 102ページ
      (1)全般的考察
    2. 103ページ
      (2)アメリカの財政政策の影響
    3. 107ページ
    4. 110ページ
      (4)国際的な金利の伝播
    5. 111ページ
      (5)拡張的財政ショックの隔離効果と伝播効果:要約
  3. 111ページ
    第5章 石油価格上昇による為替レートの変化と伝播メカニズム
    1. 111ページ
      (1)いくつかの理論的問題
    2. 112ページ
      (2)変動相場制のもとでの石油価格上昇の影響
    3. 115ページ
      (3)固定相場制のもとでの石油価格上昇の影響
  4. 116ページ
    第6章 結論

<分析2> 世界経済モデル(84年2月版)の構造と動学特性

(序論)

本報告では、経済企画庁経済研究所がこの程完成した改訂世界経済モデル(1984年2月版)の概要を明らかにし、同時に改訂世界経済モデルの構造と性格を明らかにするためのシミュレーション分析を行っている。

世界経済モデルは、1979年初以来、3年余の期間を費やして開発され、1982年2月に一応の完成をみた(1982年2月版)。この開発の契機は、70年代に入り、変動為替レート制度への移行、石油危機などにより世界各国間の経済の相互依存の強まり、主要先進国間の経済政策の協調の必要性などが強く認識されるようになったことから、日本経済の動向を分析するにあたっても、従来は与件として扱われてきた、世界貿易の成功率、世界価格の動向などへの日本経済の影響を無視しえなくなってきたことにより、このような日本経済と世界経済の相互関係を把えることのできる分析用具が必要とされたことにある。従って、主要な世界経済変数を内生化したものであること、とくに主要通貨の為替レートを内生化したモデルであること、主要国の経済政策手段を含んでいること、世界経済全体の動向を把握できることなどが要請された。

これらの要請に応えるために開発された世界経済モデルは世界経済および日本経済にとって重要度の高い9カ国についての国別マクロモデルと、残余の世界を6つの地域にわけた地域モデル、更に、これらの国・地域間の財の流れを斉合的に取扱う貿易連関モデルと地域・国間の直接連関を取扱う直接連関ブロックから成っている。その特徴として主要国通貨の為替レートが内生化されていること、世界的規模での政策シミュレーションが可能なように主要国のマクロ経済政策変数が明示的に導入されていること等がある。従って、主要な外生変数は主要国の政策変数ならびに原油価格だけであり、かなり自律度の高いモデルであるといえよう。

世界経済モデル(82年2月版)については本分析87号(天野(1982))[1]にその概要が示されており、その詳細な方程式体系及び乗数結果は本件研究所EPA World Econometric Model Discussion Paper No.11(Amano et al. 1982 a.)[2]に揚げられている。

今回の改定にあたってもその基本構造はほぼ旧バージョンと同じであり、本報告では主要な改定点についてのみ紹介する。(詳細についてはYoshitomi et al. (1984)参照。)[3]

本報告の構成は次の通りである。第2章では、今回の改定の概要を述べ、改定モデルのパフォーマンスを検討する。第3章以下では、マクロ経済学の論争点のうちのいくつかの問題を採り上げ、改定モデルで分析することによって、改定モデルのマクロ経済学的枠組を鳥かんしようとするものである。これらの目的のために、次の4つのテーマを選んでいる。すなわち、(1)クラウディングアウト効果、(2)名目GNP増加のインフレと実質算出高への分割、(3)フィリップス曲線関係、(4)外国為替市場の安定性である。クラウディングアウトの分析を通じて改定モデルの財市場、金融市場の国別特徴を名目GNP増加のインフレと実質算出高への分割を通じて価格と財市場の関係を、フィリップス曲線の分析を通じて労働市場と財市場の関係を、外国為替市場の安定性を通じて為替レートの決定メカニズムを、それぞれ検討しようとするものである。

これらの問題を9カ国の国別モデルを用いて分析することにより、各国モデルの構造と動学特性を明らかにするとともに、各国経済の特徴を明らかにしようとするものである。ここで、9カ国というのはアメリカ(US)、イギリス(UK)、西独(GE)、フランス(FR)、イタリア(IT)、カナダ(CA)、日本(JA)、オーストラリア(AL)と韓国(KR)である。

ここで用いた分析手法は、主として、国別単独モデルによる乗数シミュレーションである。すなわち、標準解に対して、外生変数をある一定額(率)変化させた場合のモデルの反応を標準解からの乖離によって捉えている。また、特定の問題の分析のために、モデルの一部分のみを用いた乗数シミュレーション(ブロックテスト)や、9カ国及び貿易連関モデルを同時に動かしたフルリンクモデルシミュレーションをも行っている。ここでの分析は単純化のために、多くの場合、為替レートを外生化した場合(以後、固定為替相場制下とよぶ)における特性を分析しているが、必要に応じて為替レートを内生化した場合(以後、変動相場制下とよぶ)における特性を掲げ、比較分析を行っている。具体的な手法については各節の冒頭で詳述している。また各節では、上記四つの問題に関して論じたあと、末尾に簡単な要約が付されている。

世界経済モデルは、大規模で極めて相互依存度の高い複雑なモデルであり、その構造や特徴の完全な理解のためには、各構造方程式の詳細な検討や、個々の係数の妥当性の検討からはじまり、大きさの異なる各種のショックに対する反応、係数が変化したときの感度分析等々の分析が必要であるが、ここでの分析は、このようなモデルの構造や動学特性検討の第一歩となることを意図したものである。


全文の構成

  1. 119ページ
    第1章 序論別ウィンドウで開きます。(PDF形式 343 KB)
  2. 121ページ
    第2章 世界経済モデル改定の概要
    1. 121ページ
      第1節 標本期間の延長と改定モデルのパフォーマンス
    2. 121ページ
      第2節 貿易連関モデルの改定
    3. 124ページ
      第3節 各国モデルの改定
    4. 137ページ
  3. 152ページ
    第3章 クラウディング・アウト
    1. 152ページ
      第1節 クラウディング・アウトとは
    2. 154ページ
    3. 154ページ
      第3節 クラウディング・アウト指標の国際比較-固定相場制の場合-
    4. 158ページ
      第4節 変動相場制とクラウディング・アウト
    5. 161ページ
      第5節 国別モデルのISLM 曲線
    6. 171ページ
      第6節 要約
  4. 172ページ
    1. 172ページ
      第1節 単純なモデルによる分析
    2. 173ページ
      第2節 乗数シミュレーションによる政策効果の分析
    3. 176ページ
      第3節 要約別ウィンドウで開きます。(PDF形式 423 KB)
  5. 180ページ
    第5章 フィリップス曲線
    1. 180ページ
      第1節 フィリップス曲線の国際比較
    2. 181ページ
      第2節 オークンの法則
    3. 183ページ
      第3節 要約
  6. 183ページ
    第6章 外国為替市場の安定性
    1. 183ページ
      第1節 短期の安定性
      1. 183ページ
        (1) 外国為替の超過供給曲線
      2. 184ページ
        (2) 国際収支諸項目の外国為替市場の短期的調整への寄与
    2. 186ページ
      第2節 長期の安定性
      1. 186ページ
        (1) Jカーブ現象
      2. 191ページ
        (2) 外国為替市場への一時的攪乱の影響
    3. 192ページ
      第3節 要約
  7. 195ページ
    付属図別ウィンドウで開きます。(PDF形式 172 KB)
  8. 202ページ
    参考文献
  9. 付属資料
    1. 203ページ
      1. 205ページ
        1. 9カ国の政策の各国への波及効果
      2. 217ページ
      3. 231ページ
      4. 243ページ
      5. 251ページ
      6. 263ページ
      7. 271ページ
      8. 277ページ
      9. 287ページ
      10. 293ページ
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