経済分析第103号
研究開発と技術進歩の経済分析

1986年9月
  • 後藤 晃,本城 昇,鈴木 和幸,滝野沢 守

(序論)

1.問題の所在

経済成長に対する技術進歩の貢献を数量的に明らかにしようとする試みは,いまや古典的となったSolow(1957)の論文以来,様々な形でなされている。わが国でも数多くの計測がおこなわれているが,これらの結果はほぼ一様に技術進歩の経済成長に対する貢献がきわめて大きなものであることを示唆している。

さらに遡って考えると,技術進歩は,今日では多額の研究費の支出を伴う組織的な研究開発活動から生み出だされる。研究開発活動が経済成長の主要な源泉の一つとなっているのである。そこで,経済成長と技術進歩の間の関係を明らかにする作業の次のステップとして,研究開発と技術進歩の関係を明らかにするという問題が浮かびあがってくる。

1960年代後半より製造業部門の生産性の上昇率が低下し始めたアメリカでは,その原因を明らかにしようとする研究が数多くおこなわれた。その中で研究開発と生産性上昇率の関係を明示的にとらえようとする試みが理論的,実証的におこなわれだした。

わが国においても研究費は8兆円近い額に達しており,企業によっては設備投資額をこえる研究費を支出しているものもでている。世界の技術開発のフロンティアに位置する企業がわが国でも増加するにつれて,研究費は一層,増加を続けるものと思われる。そこで,本章ではわが国における研究開発と技術進歩ないし生産性の上昇の関係を数量的に明らかにすることを試みる。より具体的には,研究開発支出が企業ないし産業の生産性上昇に対してどれだけの貢献をしているのかを明らかにする。とりわけ,近年は産業構造の変化が激しく,また産業別で技術進歩の動向も大きく異なっている。産業,企業により蓄積されている技術知識の内実も当然,質的にも量的にも異なっている。そこで,研究開発支出の生産性上昇への貢献をとらえる場合に,製造業全体でとらえるのではなく,できる限りマイクロレベルでとらえることが必要となる。

2.研究開発支出額の動向

ここで,本研究において分析の中心となっている7産業及び全製造業の研究開発支出額を昭和51年から昭和57年の間について見ると,表I-1のとおり製造業全体では,毎年順調な伸びを示しており,昭和50年を基準とする実質額で1.66倍に増加している。

こうした傾向は,我が国の研究開発支出総額についても同様であり,総務庁統計局の「科学技術研究調査報告」(昭和59年)によれば,この間に,実質額で1.51倍に増大している。昭和45年から昭和50年の間では,それが1.19倍しか増大しなかったことからすれば,昭和50年代に入って研究開発活動が活発化したことがうかがわれる。

昭和51年から昭和57年の間の研究開発支出額の推移を後述する産業別分析Iの対象業種である7業種について見ると,発送配電用・産業用電気機械,通信機器,自動車の3業種は,上記の製造業全体の水準を上回る伸びを示している。これに対して,無機化学,有機化学,医薬品,ガラスの4業種は,その水準を下回っており,医薬品を除けば,これらはすべて素材産業となっている。

また,後述する産業分析IIIに用いた総務庁統計局のデータにより,この間の研究開発支出額の動向を製造業の各業種について見ると,表I-2のとおりである。ただ,このデータについては,各業種を構成する企業がその部門別売上高の構成比の変化により,年によっては,それまでとは違った業種に分類されることがあり,これによる企業の異動が各業種の研究開発支出額の値に変動をもたらすことがあるので,各業種の研究開発支出額の動向を正確に把握するのに十分なデータとはいえないが,他にこれに類するデータがないことから一応,このデータを利用することとする。

対前年伸び率の単純平均値を見ると,その値が負を示す産業はないが,概して素材産業に属する業種については低く,製造業全体の平均を下回っているものが多い。これに対して,組立産業に属する業種については,これと反対の傾向を示しているものが多い。

次に売上高に対する研究開発支出額の比率について見ると,表I-3のとおり,製造業全体では,昭和57年において1.64%となっている。これを昭和51年と比較すると0.16ポイント上昇している。

前記の7業種について見ると,昭和57年においては,いずれもこの製造業全体の水準を上回っており,特に医薬品が4.15%と高く,次いで発送配電用・産業用電気機械3.75%,通信機器2.95%の順となっている。昭和51年と比較すると,同年より比率が上昇したのは,無機化学,有機化学,発送配電用,産業用電気機械,自動車の4業種であり,中でも無機化学は,1ポイント近い上昇を示している。逆に下落したのは医薬品,ガラス,通信機器の3業種となっている。

また,製造業の各業種について見ると,表I-4のとおりであり,昭和57年における売上高に対する研究開発支出額の比率は,化学,電気機械,精密機械に属する業種において,製造業全体の水準より高いものが多く,昭和51年と比べて見ても,この傾向は,変わっていない。


表I-1 研究開発支出額の推移 表I-2 研究開発支出額の昭和51年から昭和57年の間の伸び率(製造業各業種) 表I-3 売上高に対する研究開発支出額の比率 表I-4 売上高に対する研究開発支出額の比率

全文の構成

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  2. 1ページ
    I.   序論
  3. 4ページ
    II.  技術知識ストックの推計とその動向
  4. 14ページ
    III.  研究開発投資の生産性上昇への効果
  5. 20ページ
    IV. 研究開発投資の他産業への波及効果
  6. 56ページ
    V.  使用データについて
  7. 69ページ
    付表別ウィンドウで開きます。(PDF形式 136 KB)
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