経済分析第107号
設備投資の資本コストと税制 他

1987年3月
  • 岩田 一政,鈴木 郁夫,吉田 あつし

<分析1> 設備投資の資本コストと税制

(序論)

 本稿は,わが国における資本所得に対する課税のあり方を民間設備投資の資本コストと実効限界税率を切り口として検討を加えようとするものである。

 資本所得に対する課税は,一国の資本形成,国内の貯蓄・投資バランスといったマクロ的な経済効果を与えるばかりでなく,資本蓄積の効率性や資本所得の分配に関する世代内,世代間での公平性の維持といった経済のミクロ面にも大きな影響を与える。

 さらに金融革新と金融自由化のうねりの中で国際的な資本移動がより自由になっている状況の下で資本課税の国ごとの相違が資本蓄積の形態や効率性,一国の貯蓄・投資バランス,対外バランスにも大きな影響を及ぼしている。またわが国が高齢化社会への移行期において,どのような形態で,またどのような速度で資産(富)の蓄積を行うべきかという問題は,資本所得課税のあり方と深く関わっているのである。この意味で,資本所得課税のあり方は「国際化」と「高齢化」に直面するわが国の政策問題を解決する上での鍵となっているのである。

(企業の税負担と民間設備投資)
 

民間設備投資と税制の関係については,これまで多くの議論と実証研究が行われている。

まず第一にわが国の法人の税負担が他の欧米諸国と比べてどの程度重いものであるかという問題が論じられた。そこでは,わが国法人企業の「実効税率」が他国に比してどの程度のレベルにあるのかが1つの争点となった。税制調査会は,法定税率のみ用いて「表面実効税率」を算出し,わが国企業の税負担は他の主要国とほぼ同じ水準にあるとの見解を示した。これに対し経済団体連合会)(1984)は,特別償却や準備金・引当金による課税ベースの圧縮および税額控除の効果を考慮した「実質実効税率」の国際比較を行い,わが国企業の税負担は主要国の中で最も重いとの反論を行った。

企業活力研究所(1985)も,税法本則を各国共通とした上で経団連と同様の試算を行い経団連と類似した結論を得ている。しかしながら,これら試算は以下の4つの問題点をもっている。その一つは,特別償却や準備金・引当金は課税ベースの一時的な圧縮ないしは租税の繰り延べに過ぎないため,将来の税の「取り戻し効果」が発生することを看過している点である。野口(1985年)および石・田近・油井(1985年)は,この税の「取り戻し効果」を考慮した「実質実効税率」を試算している。しかしこれらの試算と経団連試算との差は,特別償却や準備金,引当金が縮小されていることもあって,少なくとも最近時点においては小幅なものにとどまっている。

第二の問題は,企業の課税対象所得額として会計上の利益額を採るのか,それとも経済的に意味のある利益額を採るのかという点である。この両者の差をもたらす主な要因は,a. インフレによる債務者利得,在庫評価益(損),減価償却費の償却不足,およびb. 法定耐用年数に基づく減価償却と経済的償却の差等である。野口(1985年)は,日本の場合インフレに基づく課税ベースの縮小要因の中でも債務者利得が最も大きく,ついでインフレによる償却不足の効果が大きかったとしている。逆に,最近におけるインフレの鎮静化は実質的な企業の税負担を相当引上げるよう作用していると見ることが出来よう。

第三の問題は,企業の税負担を法人の段階のみに限定して考えるのか,または株式を保有し,投資に必要な資金を供給している家計の段階まで含めて考えるのかという点である。すなわち,法人企業の税負担ばかりでなく,a. 株式としての家計部門の配当所得・キャピタル・ゲインに対する課税および,b. 法人部門への資金供給者としての家計部門の利子所得に対する課税を当然考慮すべきであるという問題がある。わが国についてこの家計の段階まで含めた企業の税負担を計測した例としては,浜田=岩田(1985年)がある。この計測は,フェルドシュタイン=ディクス・ミロー=ポテルバ(1982年)がアメリカ経済について行った資本所得に対する実効税率をわが国についても試算したものである。すなわち,金融部門を含めた法人企業と家計の資産所得に対する課税額を税引き前法人所得で割ることによって企業の資本所得に対する実効税率を求めたものである。結果は第I-1図に示す通りである。1960年代後半から70年代前半にかけてアメリカの実効税率は日本のそれをはるかに上回っていたが,第1次石油危機以降は逆転し,1978~80年の時期を除けば日本の実効税率の方が高くなっている。アメリカの場合はレーガン政権下での大幅な減税措置によって法人の資本所得に対する実効税率は下降傾向を示している。これに対し,わが国の場合,資本所得の実効税率は1980年代に上昇傾向が示しており,アメリカと対照的な動きを示している。ただし,ここでの計測は,会計上の企業の利益(=税引き前法人所得)を課税ベースとしており,経済学的により意味のある課税ベースを用いていないことに留意する必要がある。

第四の問題は,以上述べてきた計測例はすべて平均税負担の計算を行っているのであって,企業の投資決定にとって重要な限界税負担を計算したものでないという点である。

(資本コストと税制)
 

言うまでもなく,企業の投資決定に直接関連するのは,資本コストであり,その資本コストに税制の変更がどのような影響を及ぼすかが問題なのである。この資本コストに影響を与えるのは企業・家計の各種税制パラメータであって企業の平均税負担でない。

安藤=アウエルバッハ(1985年)は,わが国の民間設備投資と資本コストの関係を企業ベースのデータを用い,アメリカにおけるそれと比較している。そこでは,資本コストの代理変数として,税引き前の株価収益率の逆数ならびに税引き前総資本(=株式+負債)収益率を用いて,日本の方が資本コストは低かったとの暫定的な結論を導出している。さらに,日本で資本コストが低いのは,企業の税負担が低いためではなく,日本で株式配当や額面価格での新株発行が行われるなどキャピタル・ゲインが過小評価されていることが主な要因であり,この特殊な要因を除けば日米両国で資本コストの差はほとんどないとしている。本間=跡田(1985年)も同様の手法を用いて製造業の業種の税引き前収益率を計算し,日本の方が資本コストはやや低いと見られるものの,その差は測定誤差や退職金引当金などの日米間の企業会計上の差に基づくものにとどまるとされている。

これら2つの試みは,資本コストの日米比較という点で先駆的業績であるが,資本コストを観察された税引き前資本収益率という"事後的な"数字で代理していることに一つの問題がある。投資決定にとって重要なのは,"事前の"税引き前資本収益率であることは言うまでもない。さらに,これらの試算においては観察された企業の平均税負担が考慮されているに過ぎず家計部門の税負担を考えていない。また,国際的に資本移動が自由である場合に両国の資本コストにはどのような影響が及ぶのか,といった点についても十分な解明を与えていない。

以上の問題点のうち"事前の"資本コストについては,新古典派のフレーム・ワークの下で定式化することが可能である。その一例はホール=ジョルゲンソンの定式化した資本コストである。アウエルバッハ(1983年)はホール=ジョルゲンソンの定式化した資本コストをベースとして,アメリカにおける産業別,資産別「実効限界税率」を計測した。このフレーム・ワークに基づいてわが国の資本コスト,および「実効限界税率」を計測する試みが,田近=林=油井(1986年),田近=油井(1985年),企業活力研究(1986年)によって行われている。前二者が主として企業の引当金,準備金が資本コストに与える効果を計測しているのに対し,企業活力研究は,日米の資本コストと実効限界税率の国際比較を行っている。そこでの計測結果によれば,実効限界税率は日本の方がアメリカよりもはるかに高く,また資本コストもレーガンの大幅な減税政策実施以降は日本の方が高いとされている。

上述した資本コストの計測例は,a. 資本ストックの調整コストを考慮していないこと,b. 家計部門の段階での税負担を考慮していないこと,といった問題がある。もとより,第一の問題については投資財据付けの調整費用を明示的に導入することは可能である。本間=林=跡田=秦(1984年)は資本ストックの調整費用を考慮した「租税調整済みトービンの限界Q」を計測することによって租税政策の変化が民間設備投資に与える効果を検討している。

第二の家計部門の税負担を考慮した上で設備投資の資本コストと実効限界税率を計測することも可能である。キング(1977年)およびキング=フラトン(1984年)は,企業部門のみならず家計部門の税負担を考慮した上で設備投資の資本コスト,実効限界税率の国際比較を行っている。ショブン=橘木(1985年)は,キングの定式化に従って1980年の時点における日本の実効限界税率を計算している。そこでの計測によれば,日本の実効限界税率はアメリカのそれよりも低いとの結論が得られている。そして,この結果は,日本における家計部門における資産所得(利子・配当・キャピタル・ゲイン)の限界税率が貯蓄優遇措置によって低いことによるとされている。

本稿は,ジョブン=橘木と同様に,キング=フラトンの理論的なフレーム・ワークの下で,わが国の民間設備投資の資本コストや実効限界税率が租税政策の変更,ならびに金融の自由化・国際化によってどのような変化を受けるのが,さらにその資本コストや実効限界税率の変化が民間設備投資にどのような変化を与えるのか探ろうとするものである。

ジョブン=橘木が主としてレーガン政権以前の日米間の実効限界税率の比較に重点を置いているのに対し,本稿では,a. わが国における資本所得税制の様々な変更,b. レーガン政権の下での租税制度の変更と日米比較,c. 金融の自由化と国際化の影響を探ることに焦点を合わせている。

以下では,II節においては,キングの定式化した投資の資本コストと実効限界税率がどのような前提条件下で導出されるのかを日本の租税制度に即して説明する。III節ではこの資本コストと実効限界税率を算出する上で必要な税制を始めとする各種パラメータを現実のデータを用いて確定する。IV節では,日本の企業部門,家計部門の資産課税の変更,レーガン政権下での税制改革,金融の自由化,さらには資本の国際移動が可能な下での資本コスト,実効限界税率の変化といった政策のシュミレーション分析を行うことにしたい。最後にV節では民間設備投資行動が資本コストの変化によってどのような影響を受けるのか吟味することにしたい。


第I-1図.日本とアメリカにおける法人企業の実効税率

全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 326 KB)
  2. 1ページ
    I.  序論
    1. 1ページ
      (企業の税負担と民間設備投資)
    2. 2ページ
      (資本コストと税制)
  3. 4ページ
    II. 民間設備投資の資本コストと実効限界税率の定式化
    1. 4ページ
      A 資本コストの定式化
    2. 5ページ
      B 企業の資金調達行動
    3. 9ページ
      C 投資の実効限界税率の定式化
    4. 9ページ
      D 日本の租税制度と資本コスト
  4. 10ページ
    III. 資本コストと実効限界税率の測定
    1. 12ページ
      A 日本の資本所得課税と限界税率
    2. 36ページ
      B 家計部門の資本所得課税
  5. 42ページ
    1. 42ページ
      A 日本の租税政策の変更と資本コスト
  6. 60ページ
    V. 資本コスト,実効限界税率の変化が民間設備投資に与える効果
    1. 60ページ
      (資本コスト,実効限界税率と民間設備投資)
    2. 60ページ
      (実証結果)
    3. 62ページ
      (誘発された投資増が限界税収に与える効果)
  7. 64ページ
    VI.  結び
  8. 67ページ
    付論
  9. 68ページ
    付表

<分析2> 住宅投資の資本コストと税制

(序論)

(住宅資本ストックの蓄積水準と蓄積速度)
 

1984年末におけるわが国の国富は,1,713.8兆円に達している。これは名目GNPの5.74倍に当る。しかし,その内訳をみると国富にしめる土地の割合は56.6%と半分以上に達している。さらに,対外純資産も近年増大傾向を示し,1984年の1%から86年末には2%程度に上昇したとみられる。土地,在庫ストック,対外純資産等を除く純固定資産が国富にしめる割合は1984年に38.3%(657.6兆円)となっている。さらに純固定資産の中でも住宅資本ストックのしめる割合は23.5%であり,国富に対する比率は9.0%に過ぎない。

このネットの住宅資本ストックの水準を国民所得で割った比率は日本の場合0.65であり,アメリカ(1.04),イギリス(1.40)の半分程度に過ぎない。また,純固定資産にしめるネットの住宅資本ストックの比率(23.5%)はアメリカ,イギリスの35%程度と比べて約7割でしかない。

さらにフローとしての民間住宅投資も,名目GNPにしめる割合は1973年のピーク時の8.6%から,1985年には4.6%へと4.0%ポイント低下している。近年におけるわが国の国内貯蓄超過傾向の高まりは,国内貯蓄率が高まったことにその原因があるのではなく住宅投資を中心とした国内投資率の低下にその主要な原因がある。住宅資本ストックの蓄積水準,および質的向上の面において,わが国が他の欧米諸国と比べて相対的に立ち遅れた状況にあるにもかかわらず,その蓄積速度が高度成長期と比べてスローダウンして来たことは政策上の問題を提起していると言えよう。

 
(住宅資本ストックの保有形態と質)
 

わが国の住宅資本ストックの保有形態および質をみると次のような事実が観察される。

まず第一に,わが国の住宅保有形態としては

  • (i)   持家
  • (ii)  民営借家
  • (iii) 公営(公社・公団)借家
  • (iv) 給与住宅

の4つがある。「住宅統計調査報告」(総務庁統計局,昭和58年)によると,ストック(戸数)でみると持家が62.4%,民営借家が24.5%であって,住宅ストックの大部分(86.9%)をしめていることが分かる。これに対し,公営借家,給与住宅のしめる割合は,それぞれ7.6%,5.2%に過ぎない(表I-1参照)

第二に,住宅の取得形態を所得階層別にみると,まず持家の場合,中古住宅の購入は低所得層(年収100~300万円の層)に多く,建て替えは低所得層と高所得層(年収700万円以上の層)に分極化している。他方,新築は比較的各所得層に広く分布している。また建売・分譲住宅の購入は,中所得層(年収350万円~1,000万円の層)に集中化傾向がみられる。

次に借家の場合には公営借家,民営借家とも中所得層以下での所得比率が高い。とりわけ,民営借家は低所得層の取得比率が高くなっている。これに対し,給与住宅については中所得層以上の取得比率が高い(表I-2参照)

第三に住宅資本ストックの質を1住宅当り居住室数,畳数,延べ面積等で調べてみると,1983年の時点でわが国には最低居住水準(3人家族の場合,2DK,居住面積25m2,15畳)以下の住宅がストックでみて14.9%存在している。これは,主として民営借家ついで公営借家による部分が大きい。表I-3に示されているように民営借家(とりわけ設備共用)の居住水準が最も劣悪であり,持家の居住水準は公営借家,給与住宅を上回っている。さらに民営借家と給与住宅の居住水準を比べると給与住宅の方がはるかに高く,かつまた相対的に所得の高い層が給与住宅に住んでいる。それにもかかわらず給与住宅の家賃は民営借家の3分の1から5分の1であることは「公平性」の観点からは問題があると言えよう(表I-5参照)

以上の住宅資本ストックの保有形態および質に関する事実の観察から,住宅資本ストックの供給者については次のようなことが言えよう。

まず持家については,家計部門が自ら供給した住宅ストック(戸数)は持家・貸家を合計した全住宅ストックの40.8%を占めている。民間企業(不動産業および社宅を含む)が供給した住宅ストックが,全住宅ストックにしめる割合は9.1%である。さらに公社・公団が供給した住宅ストックは2.6%をしめている(表I-4参照)

一方,借家については家計および民間企業が供給している住宅ストックが,全住宅ストックにしめる比率は24.5%であり,公社・公団が供給したストックは7.6%である。

持家と借家を合計してみると,公社・公団が供給した住宅ストックは10.2%に過ぎず,残りは民間経済主体(家計と民間企業)が供給したことが分かる。なかでも家計部門はその半分以上の住宅ストックを供給し,持家については7割近くを供給していると言えよう。

 
(最近の住宅投資の動向)
 

持家および借家建設の最近の動向をみると,1980年代に入って持家建設が伸び悩む一方で,貸家建設は1980年を底として「貸家建設ブーム」を続けている。しかもこの「貸家建設ブーム」は建て替えが中心であって,着工戸数の増加がストックとしての戸数の増加には必ずしも結びついていないことは注目されよう。

近年の「貸家建設ブーム」をもたらしている要因を,需要面と供給面に分けて調べてみると次のようなことが言えよう。

  • まず,需要面では,
  • (i)  若年層(15~25歳)や単独世帯数が1970年代半ば以降緩やか増加傾向を示してること
  • (ii) 人々のライフ・ステージ別の住み替えパターンが相対的に貸家需要を高めていること
    があげられる。(iii)については「住宅統計調査」によると,世帯の主な働き手の年齢別住み替えパターンは,20歳台で親族の家から借家,30歳台前半までは借家から借家,30歳台後半に借家から持家,40歳台で持家から持家への住み替えが観察される。最近時点においては,24歳以下,および40~49歳の層で借家への住み替え率が上昇している。
    さらに供給面については
  • (i)   家賃/建築費比率が上昇したこと
  • (ii)  土地所有者が土地の有効利用を図る観点から貸家建設を増加させていること
  • (iii) 持家建設と貸家建設の税制の相違が考えられる。
(本論のねらい)
 

本稿は住宅供給者の観点から住宅投資の決定因を探ろうとするものである。すなわち,住宅投資の供給面における最も重要な決定因である資本コストを切り口として,わが国の住宅資本ストック蓄積に伴う様々な問題を分析しようとするものである。とりわけ本稿はわが国における住宅投資促進政策を資本コストと税制および低利融資の関連を軸として評価すると共に,住宅資本ストックの効率的かつ公平性にも適った蓄積を実現するための政策立案の一助となることを目指すものである。住宅投資ならびに生活関連社会資本の充実は内需中心の成長の実現,対外不均衡是正のための政策の核と言われることがある。住宅投資の資本コストを理論および実証面で検討することは,この日本経済にとっての焦眉の問題を解決する上で必要不可欠な作業と言えよう。

これまでわが国において住宅投資の資本コストを理論的に定式化した試みとしては,岩田(1986年,2),岩田=鈴木=吉田(1986年,6)がある。この定式化はアトキンソン=キング(1980年)およびキング=フラトン(1984年)に基づくものである。アメリカの住宅投資の資本コストについては,これまでヘンダーショット=リング(1984年6,1985年)らの業績があるが,本論の理論的フレーム・ワークはフラトン(1985年)のそれに最も近いと言えよう。

本論の理論的フレーム・ワークは次節に述べる通りであるが,次のような2つの分析上の制約をもっている。

まず第一に,本論で取り上げる住宅供給者は,家計と民間企業(不動産業)であって,公社・公団・地方公共団体は分析対象から除かれていることである。

第二に,日本の住宅資本の蓄積過程において土地の制約,ないしは土地利用の制約が他国よりも重要な役割を演じていることは言うまでもない。しかし,本論の理論的フレーム・ワークの中に満足のいく形で土地の果たす役割を組み込むことは必ずしも容易ではない。そこで,本論では土地を除く住宅投資,すなわち,「国民経済計算」で定義される民間住宅投資の資本コストを分析対象とするものである。ただし,近年における住宅建設の約7割が建て替えによるものであること,ならびに近年の容積率の緩和など土地利用の規制が緩和されていることを考慮すれば,土地の制約を強調し過ぎることは必ずしも適切とは言えないであろう。

以下では,II節において本論の理論的フレーム・ワークを提示する。すなわち,a. 不動産業による貸家建設,b. 家計による貸家建設,c. 家計による持家建設の3つの資本コストの定式化を行うことにする。ついでIII節においては,わが国の住宅投資促進のための税制上ならびに金融上の措置がどのような効果を与えているか,所得階層別の資本コストの計測に基いて検討することにしたい。さらに,家計による貸家建設と持家建設の資本コストが税制上の扱いの差によってどのように影響を受けているのか,また,貸家建設の「ダックス・シェルター効果」とインフレ率の変化が与える効果について分析することにしたい。IV節においては,税制改革や金融の自由化が住宅投資の資本コストにどのような影響を及ぼすのか,アメリカの税制との国際比較等を通じて明らかにすることにしたい。最後にV節においては税制の変更が資本コストの変化を通じて住宅投資と家計貯蓄率にどのような影響を与えるのか検討することにしよう。

 

表I-1 住宅ストックの保有形態 表I-2 所得階層別借家の居住形態 表I-3 住宅形態別居住条件 表I-4 所得階層別持ち家の取得形態 表I-5 民営借家と給与住宅

全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 424 KB)
  2. 75ページ
    I.    序論
    1. 75ページ
      (住宅資本ストックの蓄積水準と蓄積速度)
    2. 75ページ
      (住宅資本ストックの保有形態と質)
    3. 77ページ
      (最近の住宅投資の動向)
    4. 78ページ
      (本論のねらい)
  3. 79ページ
    II.   理論的フレーム・ワークの定式化
    1. 79ページ
      (理論モデルの諸前提)
  4. 91ページ
    III.   住宅投資促進政策と資本コスト
    1. 91ページ
      A 現行の租税制度の下における資本コスト
    2. 105ページ
      B 家計部門の住宅投資促進政策の効果
    3. 107ページ
      C 不動産業と家計部門による貸家建設の資本コストの相違
    4. 108ページ
      D 家計部門による貸家・持家建設の資本コストの相違
    5. 109ページ
      E インフレ率の変化が資本コストに与える効果
    6. 112ページ
      F 家計による貸家の売買とタックス・シェルター効果
  5. 118ページ
    IV.  税制改革と住宅投資の資本コスト
    1. 119ページ
    2. 121ページ
      B 貸家建設に関する新たな税制上の優遇措置
    3. 122ページ
      C 家計による貸家・持家建設を税制上同一に扱うケース
    4. 123ページ
      D 利子所得に関する税制改革の効果
  6. 126ページ
    V.   資本コストと住宅投資および家計貯蓄率の変化
    1. 126ページ
      A 資本コストの変化が家計の住宅投資に与える効果
    2. 128ページ
      B 貯蓄課税の強化が家計貯蓄率に与える効果
  7. 133ページ
    VI.  結び
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)