経済分析第109号
最適税制

1987年6月
  • 本間 正明,跡田 直澄,井堀 利宏,中 正之

(はじめに)

わが国の税制は、時代に即応した税制改革が適宜なされてこなかったために、経済社会構造の急激な変化や国際化の進展に税制が適応しきらず、矛盾が顕在化している。この矛盾は、以下のように、様々な形で深刻な問題を生み出している:(1)給与所得者、とりわけその中堅所得者階層の重税感の高まり。(2)所得捕捉率の格差、税制面における差別的な特別措置により、事業所得者(含む農業)に対する勤労所得者の不公平間の増幅。(3)資産蓄積面における不平等度の高まり(階層化現象の新たな顕在化)。(4)ソフト化経済への移行に伴う間接税の課税対象の狭小化による、資源配分に対する撹乱(歪み)効果の拡大。(5)課税後の実質所得の下落と実質利子率の上昇を助長し、内需不足・外需依存型の経済体質の強化。

これからの問題を背景にして、これまでわが国の税制改革の課題について多方面から指摘がなされてきた。(1)所得税(とりわけ勤労所得税)の大幅減税、(2)大幅な累進所得税構造の緩和、(3)給与所得と事業所得者間の税負担の不均衡を是正するための特別措置の見直し、(4)直間比率の再検討、(5)中立的な間接税体系の確立、(6)小額貯蓄非課税制度(マル優制度など)の改廃、等がその代表的なものである。

上述した税制改革の課題は早急に手をつけなければならないが、その具体策については意見の一致が得られていないというのが現状であろう。その原因の一つとして、これまで税制の変更が経済社会に与える影響を明示的に分析し、そのうえで、ありうべきわが国の税制の姿がいかなるものであるかについての規範的分析が欠けていた点をあげることができよう。

この点を考慮して、本研究は、税制の変更が資源配分と所得分配の双方に与える影響を分析しながら、最適課税論の観点からわが国の現行税制の評価とその改革の方向を模索してみたい。具体的には、第1章は勤労所得者に対する最適所得税構造を、第2章は給与所得者、自営業所得者および農業所得者の間の最適な所得税負担のあり方を、第3章は最適な直間比率について、それぞれ分析する。


全文の構成

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  2. 1ページ
    はじめに
  3. 2ページ
    第1章 最適所得税構造の分析
    1. 2ページ
      1. 理論的枠組
      1. 2ページ
        1-1 家計と所得税制
      2. 3ページ
        1-2 政府と所得税制
    2. 4ページ
      2. 効用関数の特定化
      1. 4ページ
        2-1 特定化の方法
      2. 5ページ
        2-2 データと推計結果
    3. 9ページ
      3. 所得税制と経済的厚生
      1. 9ページ
        3-1 税収一定の前提のもとでのシミュレーション
      2. 16ページ
        3-2 増・減税を伴なうシミュレーション
  4. 19ページ
    第2章 所得税負担の最適業種間格差
    1. 19ページ
      1. 業種間格差の実態
      1. 19ページ
        1-1 従来の分析の展望
      2. 20ページ
        1-2 所得税負担率格差の指標
      3. 21ページ
        1-3 データと租税関数
      4. 23ページ
        1-4 税負担の業種間格差
    2. 24ページ
      2. 業種間格差と社会的厚生
      1. 25ページ
        2-1 理論的枠組
      2. 26ページ
        2-2 効用関数の特定化
      3. 27ページ
        2-3 業種間格差の評価
  5. 31ページ
    第3章 最適直間比率の分析
    1. 31ページ
      1. 直間比率是正論
    2. 33ページ
      2. 分析の方法
      1. 33ページ
        2-1 理論的枠組
      2. 34ページ
        2-2 効用関数の特定化
    3. 36ページ
      3. 直間比率と経済的厚生
      1. 26ページ
        3-1 税収一定の前提のもとでのシミュレーション
      2. 41ページ
        3-2 増・減税を伴うシミュレーション
  6. 43ページ
    むすび
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