経済分析第111号
第3次世界経済モデルによる政策シュミレーションの分析

1987年9月
八代尚宏
(主任研究官)
池田
(主任研究官)
梅渓健児
(日本)
中須賀
(米国、加)
田邊靖夫
(西独)
柿崎昭裕
(西独、仏)
上久保英治
(貿易連関、韓国)
田中
(伊)
古城謙治
(英)
中島光章
(日本、豪州)
城石和秀
(仏)
蘇田正之
(韓国)

要旨

1.第3次世界経済モデルの特色
 

経済研究所では昭和57年度に世界経済モデルを開発した後、国内外においてその活用を図ってきたが、主要国の国民経済計算のデータの基準改訂を契機に、昭和61年度より世界経済モデルの再推計作業を開始し、今回フルリンクモデルによる内挿シミュレーション作業を完成した。この間61年12月には中間報告として米・日・独の主要3カ国リンクモデルによる政策シミュレーションの結果を公表した。

第3次世界経済モデルの特色は以下の3点に要約される。

  • a. 米・日・独の主要3カ国については、予測及び各種の政策シミュレーションが可能な中規模モデル(例えば日本モデルの推定式は64本)を維持し、改善を加えた。
  • b. その他の欧州3カ国、加、豪州、韓国については各国モデルの比較分析を容易にし且つ作業負担を軽減するために、方程式体系の統一化・小型化(20本前後の推定式)を図った。
  • c. 第1次石油危機以降の構造変化や、最近時点での経済変動の特性をより良く反映するため、標本期間は原則として昭和50~59年の10年間に限定した。
2.主要なシミュレーションの結果
 
(1)財政政策の効果
  • a. 財政乗数の大きさは、各国の単独モデルの乗数と比べていずれの国でも大きくなっている。これは内需拡大の他国への波及効果が、世界貿易の拡大を通じて自国にフィード・バックする国際連関メカニズムが働くためである。また内需拡大に伴う貿易収支の悪化幅も、単独モデルに比べて輸出が一層増加することから小さくなる。このフィード・バック効果は日本・西独に比べ、世界経済に大きな比重を占める米国について特に大きい。
  • b. 為替レートが変動する場合の自国の財政乗数は、為替レート固定の場合と比べて米国で若干少なくなる反面、日本・西独では大きくなる。これは米国では財政赤字の拡大が内需拡大を通じて経常収支を悪化させる度合が、金利上昇を通じて資本収支を改善する効果より小さいことから為替レートが増価するのに対し、日本・西独では、財政赤字増加が金利を上昇させる度合が相対的に小さいため経常収支悪化要因が大きく、為替レートが減価するためである。
  • c. 財政政策の多国への波及効果について見ると、米国の財政支出増加が日本・西独の実質GNPや貿易収支に及ぼす効果に比べて、日本・西独の財政支出の増加が米国に波及する効果は極めて小さく、米国と日本・西独との間には大きな非対称性が見られる。これは両国間の経済規模の違いに加えて、米国の輸入の所得弾性値が日本・西独に比べて大きいこと、また財政赤字の拡大が米国ではドルを増価させるのに対して、日本・西独では円・マルクをそれぞれ減価させるとの相違によるものである。
(2)金融政策の効果
  • a. 各国の短期金利の1%ポイントの引き下げが実質GNPに与える効果は、それが内需を拡大させる効果と、資本流出を通じて為替レートを減価させ純輸出を増加させる効果とを合わせたものとなる。
  • b. 金融乗数の大きさは、各国の単独モデルの乗数と比べて小さくなる。まず、米国の場合にはドル減価が世界貿易へマイナスの影響を及ぼすことと、米国金利低下の影響が他国に波及し、その金利を低下させることにより米国の対外投資収益の受取額が減少する効果が大きい。また日本については、金利低下の他国及び世界貿易への影響が小さいことから単独モデルとの差はほとんどない。
  • c. 為替レートが変動する場合の自国の金融乗数は、為替レート減価により純輸出が各国とも増加することから、為替レート固定の場合と比較して大きくなる。この増加の度合は米国に比べて、日本・西独では内需拡大に伴い悪化するが、日本では為替レート減価による価格競争力の改善の度合が内需拡大による輸入増を上回ることから改善する。
  • d. 米国の短期金利引き下げの日本・西独への影響は、米国の内需拡大による輸出増を通じたプラス効果よりも、円・マルクの増価を通じた価格競争力の低下によるマイナスの効果が大きいために実質GNPは増加しない。
(3)為替レート増価の効果
  • a. 為替レート増価は、各国とも純輸出の減少を通じて自国の実質GNPにマイナスの効果を与える。他方、内需にたいしては、米国では為替レート増価が物価下落を通じて内需を増加させる効果が相対的に大きいのに対して、日本・西独では為替レート増価が輸出の減少を通じて国内設備投資を抑制する効果が大きい為内需はマイナスとなる。
  • b. 日本について、円が他の全ての通貨に対して増価した場合(ロのケース)には、円と欧州通貨が共にドルに対して増価した場合(イのケース、米国為替増価の日本への効果の符号を逆に読む)比べて実質GNPと内需の落ち込み幅はいずれも大きくなり、また貿易収支への効果も大幅なものとなる。
  • c. これは、円が他の全ての通貨に対して増価した場合した場合に比べて、円と欧州通貨が共にドルに対して増価した場合には、ドル建輸出価格の上昇率には大差がないものの、海外輸出競争価格の上昇率が高まることから輸出競争力の悪化度合は半減し、また輸入価格(自国通貨建)の下落率も小さくなることから、輸出入数量への影響が相対的に小さくなるためである。

表1.財政政策の効果(実質GNP1%の実質政府支出の持続的増加,貨幣供給不変,為替変動(括弧内は為替固定)) 表2.金融政策の効果(短期金利1%ポイント単独引き下げ,為替変動(括弧内は為替固定)) 表3.為替レート増価の効果(米国についてはドルの対円・欧州通貨に対する10%増価,また日本・西独については円・マルクの各々他の全ての通貨に対する10%増価,為替外生

全文の構成

  1. 2ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 370 KB)
  2. 4ページ
    1.EPA世界経済モデル作成の経緯
  3. 5ページ
    2.世界経済モデルの基本構造
  4. 15ページ
    3.主要シミュレーションの結果
    1. 15ページ
      (1) 財政政策シミュレーション
    2. 20ページ
      (2) 金融政策シミュレーション
    3. 24ページ
      (3) 為替レート変化シミュレーション
    4. 30ページ
      (4) 米国輸入課徴金と輸出入リンク制導入シミュレーション
  5. 32ページ
    4.経済政策協調の一つのシナリオ
  6. 34ページ
    5.残された課題
  7. (補論)
    1. 35ページ
      (1) 日本の財政政策シミュレーションについての補足
    2. 36ページ
      (2) 財政政策の自国へのフィード・バック効果
    3. 37ページ
      (3) 代替的な金融政策の仮定の下での財政政策の国際的な波及効果
    4. 38ページ
      (4) 代替的な金融政策の効果
    5. 39ページ
      (5) 為替レートが固定と変動の場合の金融政策の効果の相違
    6. 41ページ
      (6) 為替レート変化シミュレーションについての補足
    7. 42ページ
      (7) 個人所得税減税の効果
    8. 43ページ
      (8) 石油価格上昇の効果
  8. 付属資料別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 405 KB)
    1. 45ページ
      世界経済モデルの主要乗数表
      1. 53ページ
        1. 9カ国の政策の各国への波及効果
      2. 61ページ
        2. 3大国の政策が9カ国の主要経済変数へ及ぼす影響
      3. 81ページ
        3. 9カ国の政策が自国経済変数及び世界変数(3大国のケースのみ)へ及ぼす影響
      4. 119ページ
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