経済分析第114号
EPA世界経済モデルの構造と財政政策の効果

1989年7月
  • 安原 宣和(主任研究官)
  • 吉岡 真史(日本)
  • 田邊 靖夫(西ドイツ)
  • 堀 雅博  (アメリカ)
  • 田中 守  (イタリア)
  • 古城 謙治(イギリス)
  • 中島 光章(オーストラリア)
  • 城石 和秀(フランス)
  • 蘇田 正之(韓国)
  • 武智 久典(カナダ)
  • 野崎 進  (イタリア)

(はじめに)

本稿は、各種のシミュレーションを通じてEPA世界経済モデルの各国モデルが内包するIS、LM、BP等の教科書的分析手法を導出し、その国別差異によって財政政策の効果の違いを説明することを目的とする。

本稿の構成は以下の通りである。第1章ではIS-LM曲線のフレームワークによって財政政策の効果の国別差異を分析する。我々は吉富勝、新村保子他〔1〕において同様の試みを行ったが、そこでは教科書型の純粋なIS-LM曲線の傾きとそのシフトは必ずしも明瞭に分離して議論されてない。今回、我々はこれらの曲線のシフト要因(資産、価格の変化)を明示的に取扱うことにより、各国の財政乗数に差をもたらす要因をより一層明らかにしたいと思う。

第2章ではLS-LM曲線に比べれば、これまで分析の対象となることの少なかった総需要-総供給曲線のフレームワークにより各国の財政政策の効果の違いを説明する。我々のモデルの供給ブロックは非常に不充分なものであり、ここで導かれる総供給曲線は限られた意味を持つものでしかないが、モデルの特性を理解する一助となろう。

第3章ではBP曲線を導出する。BP曲線は開放体系下の政策乗数を議論するに際して極めて重要な役割を果たすものであるが、我々の知る限り計量経済モデルを用いてこれを導いた例はない。(注1)今回我々はひとつの試みを提示し、これを用いて各国の財政政策が国際収支及び為替レートに与える効果の違いを説明する。最後に、以上の分析を通じて得られた主たる結論を要約し、残された課題に言及する。

本稿の分析ではEPA世界経済モデルで内生化されている9カ国(アメリカ、日本、西ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、カナダ、オーストラリア、韓国)の国別比較を行うが、88年3月の第4回EPA国際シンポジウムで提起された主要な問題との関連で、我々は特に以下の3点を明らかにしたいと思う。

第1に、EPAモデルにおいてアメリカ、日本の財政乗数が極めて対照的な動きを示す-即ち、第4回EPA国際シンポジウムでも指摘された点であるが、アメリカでは財政乗数が時を経るにつれて小さくなるのに対し、日本では財政乗数が時と共に大きくなる-のは何故か。

第2に、第1の論点と関連した問題であるが、財政拡大に伴う価格の反応がアメリカと日本で大きく異なる-即ちアメリカでは大きく上昇するのに対し、日本ではあまり上昇しない-のは何故か。

第3に、財政拡大に伴う為替レートの動きが本稿で試作的に提示するBP曲線でどの程度説明され得るのか。

なお、以下の分析に用いるモデルは1987年7月版の第3次世界経済モデル(EPA〔3〕)であり、シミュレーションの期間は内挿期間の最新6年間(1979~84年)である。また、第3章第2節2.為替レート内生モデルにおける為替レートへの効果とLM-BP曲線の項の分析を除き為替レートを外生化したモデルを用いている。


(注1) J.Cockerline et al〔2〕にBP曲線の国別比較があるが、この研究ではBP曲線の傾きは限界輸入性向を資本収支の金利弾性値で除することによって求められており、我々のようなシミュレーションによって求める方法とは根本的に異なる。


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 398 KB)
  2. 2ページ
    第1部 要約
  3. 8ページ
    第2部 本論
    1. 8ページ
      はじめに
    2. 9ページ
      第1章 IS-LM 曲線と財政政策の効果
      1. 9ページ
        第1節 教科書型のIS-LM曲線の傾きとその決定要因
        1. 9ページ
          1. 分析のフレームワーク
        2. 10ページ
          2. IS曲線の傾きとその決定要因
        3. 12ページ
          3. LM曲線の傾きとその決定要因
      2. 14ページ
        第2節 財政政策の効果とISLM曲線
        1. 14ページ
          1. 分析のフレームワーク
        2. 16ページ
          2. シミュレーションの方法
        3. 17ページ
          3. イニシャル・シフトの大きさとその決定要因
        4. 19ページ
          4. IS-LM曲線の傾きと取引クラウディング・アウト
        5. 20ページ
          5. 資産の変化によるISLMのシフトとポートフォリオ・クラウディング・アウト
        6. 22ページ
          6. 価格の変化によるIS-LMのシフトとインフォレーション・クラウディング・アウト
        7. 24ページ
          7. 総計としてのクラウディング・アウト効果
        8. 25ページ
          8. 財政政策の効果とその決定要因
        9. 27ページ
          9. Pure LM曲線とモデルのLM曲線
    3. 29ページ
      第2章 総需要-総供給曲線と財政政策の効果
      1. 29ページ
        第1節 総需要曲線の傾きとその決定要因
        1. 29ページ
          1. 分析のフレームワーク
        2. 30ページ
          2. 総需要曲線の傾きとその決定要因
      2. 31ページ
        第2節 総供給曲線の傾きとその決定要因
        1. 31ページ
          1. 分析のフレームワーク
        2. 31ページ
          2. Pure AS曲線の傾きとその決定要因
        3. 34ページ
          3. Pure AS曲線とモデルのAS曲線
      3. 35ページ
        第3節 財政政策の効果と総需要-総供給曲線
        1. 35ページ
          1. 総需要曲線のシフト幅の大きさとその決定要因
        2. 36ページ
          2. 総需要-総供給曲線の傾きとインフレーション・クラウディング・アウト
        3. 38ページ
          3. 財政政策の効果とその決定要因
    4. 40ページ
      第3章 BP曲線と財政政策の効果
      1. 40ページ
        第1節 BP曲線の傾きとその決定要因
        1. 40ページ
          1. 分析のフレームワーク
        2. 41ページ
          2. Pure BP曲線の傾きとその決定要因
        3. 42ページ
          3. Pure BP曲線とモデルのBP曲線
      2. 45ページ
        第2節 財政政策の効果とLMBP曲線
        1. 45ページ
          1. 為替レート外生モデルにおける総合収支への効果とLMBP曲線
        2. 45ページ
          2. 為替レート内生モデルにおける為替レートへの効果とLMBP曲線
    5. 47ページ
      結論
      1. 47ページ
        1. 主たる結論
      2. 48ページ
        2. 残された課題
  4. 51ページ
     Aggregate DemandAggregate Supply,and BP Cureves.
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    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
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