経済分析第121号
家計の貯蓄と就労等に関する経済分析
-公的年金との関係に焦点をあてて-

1990年11月
高山憲之
(一橋大学教授、前経済企画庁経済研究所客員主任研究官)
舟岡史雄
(信州大学教授、前経済企画庁経済研究所客員主任研究官)
大竹文雄
(大阪大学助教授、前経済企画庁経済研究所客員研究員)
有田富美子
(東洋英和女学院大学講師、前経済企画庁経済研究所客員研究員)
上野
(経済企画庁経済研究所委嘱調査員)
久保克行
(経済企画庁経済研究所研究官)

(はしがき)

『経済分析』116号および118号において、われわれは主として『全国消費実態調査』(1979年、1984年)の個票データを利用しながら家計資産の保有額を世帯ごとに推計し、その結果を報告した。家計資産として推計したのは単に金融資産・実物資産にとどまらない。人的資産(生涯資産・退職金・公的年金資産等)についても資産の1つとして推計を試みた。

資産の範囲を人的資産を含むものにまで拡大して推計したのは、家計の資産選択行動と消費・貯蓄の関係を調べたかったからである。とくに日本では近年、サラリーマン世帯の公的年金給付も充実してきた。公的年金制度の存在は家計の消費・貯蓄にどのような影響を与えるか。この問題は、これまで多くの者が分析しようとしてきた。しかし適切なデータが容易には入手しえなかったこともあり、今のところ確定的な実証結果は得られていない状況にある。われわれには『全消』の個票データがあり、データ面の制約はそれほど大きくない。資産選択という観点から公的年金と消費・貯蓄の関係を調べることができるのである。

また公的年金の存在は家計の就労とも少なからぬ関係をもっている。年金給付が充実すると、多くのサラリーマンは年金受給開始と同時に退職する可能性がある。われわれの関心は、とくに支給開始年齢の引上げ(いわゆる65歳問題)がサラリーマンの就労にどのように影響するかという点である。

本号では次の順序で考察を進める。まず、家計の消費・貯蓄と資産選択行動との関係を解明する前に、家計の消費が一体どのような要因によって決定されているかを分析してみたい。第1章でこの問題を究明する。具体的には家計消費についての回帰モデルを1984年における『全消』の個票データを利用して探索する。ここでは消費関数に関する非線型性の有無も調べてみたい。

第2章では、公的年金と消費・貯蓄の関係を調べる。ここでは公的年金制度の存在が家計の消費をふやすかどうかをまず検討する。あわせて単純なライフサイクル仮説が成立しているか否かについても検証してみたい。さらにR・バロー流の「中立命題」が成立するか否かについても検証する。

第3章では、厚生年金・共済年金の支給開始年齢を65歳に引き上げると、サラリーマン族の労働供給はどう変わるかについて究明する。仮に60歳代前半層の大半がサラリーマンとして働きつづけたいということになると、その雇用確保は大問題である。その雇用問題が深刻にならないような方策はないのか。この点を調べてみたい。

さらに、われわれの推計した結果(『経済分析』118号の分析1、第2章)によると、1984年において50歳以上の世代は、サラリーマン世帯の場合には平均して3000万を上回る所得の移転を公的年金制度から受けている。これは支払保険料の3倍以上の金額に相当している。しかも、この移転額は所得の高い世帯ほど多い。このような移転のありようは年金制度の設計時には想定しなかったものである。このような問題は年金給付課税を通じて解決することができる。そこで、本分析の第4章では年金給付課税の理論と現実を調べることにした。公的年金は拠出時非課税・給付時課税が原則となっている。現実がこの原則どおりになっているかどうかに、われわれの関心がある。

われわれは『経済分析』116号・118号および本号の第1章~第3章において経験的事実にのみ関心を集中し、その客観的叙述に努めてきた。本号第4章の後段ではこれらの研究をしめくくるにあたり、当該研究ユニットの提言を意見として申し述べることにする。すなわち公的年金給付課税の今後について1つの方向づけを試みる。なお本号末尾に第1章および第2章に関連する基礎的な記述統計量を参考資料として載せておいた。

本号をもって、経済企画庁におけるわれわれのチームによる研究プロジェクトは終了する。


全文の構成

  1. 要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 403 KB)
  2. 2ページ
    (はしがき)
  3. 4ページ
    (主要論点)
  4. 7ページ
    第1章 消費・貯蓄行動の要因分析
    1. 7ページ
      1.1 はじめに
    2. 7ページ
      1.2 分析視点
    3. 9ページ
      1.3 消費・貯蓄決定モデルの探索(その1)
    4. 14ページ
      1.4 消費・貯蓄決定モデルの探索(その2)
    5. 35ページ
      1.5 おわりに
  5. 40ページ
    第2章 公的年金と消費・貯蓄
    1. 40ページ
      2.1 はじめに
    2. 40ページ
      2.2 推定モデル
    3. 41ページ
      2.3 データ
    4. 42ページ
      2.4 推定結果
    5. 47ページ
      2.5 むすび
  6. 52ページ
    第3章 公的年金と男子高齢者の労働供給
    1. 52ページ
      3.1 はじめに
    2. 53ページ
      3.2 従来の研究成果
    3. 55ページ
      3.3 使用データ
    4. 59ページ
      3.4 推定方法と推定式の特定化
    5. 60ページ
      3.5 推定結果
    6. 61ページ
      3.6 推定結果の含意
  7. 67ページ
    1. 67ページ
      4.1 年金給付課税の原則と概要
    2. 68ページ
      4.2 公的年金給付の課税最低限(平成2年分)
    3. 72ページ
      4.3 夫婦世帯の年金受給額
    4. 77ページ
      4.4 年金給付課税の今後について
  8. 81ページ
    参考資料別ウィンドウで開きます。 (PDF形式 360 KB)
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