経済分析第122号
(寄稿論文)国民経済総取引の推計
-実物経済と金融経済の関連に関する分析のための基礎資料集-(昭和30年~平成2年)

1991年4月
  • 赤羽 隆夫(経済企画庁顧問)

(要旨)

1.作業の趣旨

財貨サービス取引に限らず、株式、債権、不動産などの資産取引もマネーなしには実行できない。しかし、経済分析においては、長らく財貨サービスの最終取引額と等価物であるYとマネーの関係のみが注目されてきた。利用可能な統計が存在しないというのが主な理由であるが、資本取引がいまだ小額であったことから、分析上さしたる支障はなかった。ところが、近年のわが国経済においては、資産取引は名目GNPの数倍から十数倍の規模にまで膨張しており、これを無視、またはバイパスすることは分析を歪める結果となる危険性をもっている。このような状況認識から、このたび国民経済の総取引額の推計を試みた結果の報告書が本資料である。この資料は、マネーサプライと取引活動など金融経済と実物経済の関連等を究明するための基礎資料として役立つと考える。

2.国民経済総取引の範囲

国民経済の総取引は、三つに大別される。

(1)金融資産取引
株式および債権の発行および流通取引
(2)実物資産取引
不動産(土地および既存建物)の取引
(3)財貨サービス取引

3.マネーサプライと取引活動

マネーが銀行部門の非銀行部門に対する債務であることから、マネーサプライと対応すべき取引額は非銀行部門のものでなければならない。そうした観点から、マネーの定義、非金融部門の範囲等、推計および推計結果の分析をする場合の必要事項について詳細な検討を加えた。

4.本資料利用上の留意点(略)

5.新事実とその含意-推計結果のハイライト-

(1)国民経済総取引の推移

国民経済の総取引は極めて大きな伸びを示し、昭和30年から62年までの32年間に600倍以上の規模に拡大した。種類別にみて、もっとも増加率の著しかったのは、証券取引であって、昭和55年になお名目GNPの8割程度であった証券取引額は、昭和62年までの7年間に26倍もの膨張をみせ、名目GDPに対し15倍の規模になった。その後、平成元年においても名目GDPの10倍の規模である。昭和48年に18.8兆円、GDP比16.7%に達した土地取引は、平成元年には54.3兆円と金額では2.9倍になり、GDP比は13.6%になった。財貨サービス取引も一貫して増大したが、総取引高に占める比率は昭和30年の9割弱から近年では一割以下に低下している。

(2)取引種類別の変動状況

取引種類別にみて、証券の流通取引の変動が一番大きい。また資産取引の変動は、価格の変化との相関が高い。これは証券流通取引が主として投機動機にもとずくものだからだと考えられる。

(3)引高とマネーとの相関

マネーサプライと(非金融部門の)総取引額との間で相関係数を計算してみると、マネーのいずれの定義に関しても、ゼロの近傍の値がえられる。しかし、これは取引の種類によって、取引速度が異なることの反映であり、実態的にみてマネーと取引活動が無相関であることを意味しない。

(4)資産取引と財貨サービス取引の変動率のタイムラグ

資産取引と財貨サービス取引の変動率の転換点の時間的前後関係をみると、前者が後者に先行している場合が多い。これは両取引の間で金利等金融情勢の変化に対する反応の敏感さの度合いが異なることに由来すると考える。また資産取引にもマネーが必要であることを前提にして考えれば、しばしば議論の種になるMとYと変動率の間に見出される前者先行、後者遅行というタイムラグ関係も、資産取引の変動が財貨サービル取引の変化に先行するという事実から発生したもんと解すことができる。

6.残された検討課題

本資料は、なお資産段階であって、今後一層の改善が期待される。その際、特にSNAの概念や約束事等と実際に金銭取引を伴う資産取引等の関係を、概念的にもまた計数的にも、あらためて検討し直すこと等が必要になろう。


全文の構成(PDF形式、 全4ファイル)

  1. 4ページ
    (要旨)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 49KB)
  2. 6ページ
    (本論)
    1. 6ページ
      1. 作業の趣旨
    2. 6ページ
      2. 国民経済総取引の範囲
    3. 8ページ
      3. マネーサプライと取引活動
    4. 10ページ
      4. 本資料利用上の留意点
    5. 14ページ
      5. 新事実とその含意-推計結果のハイライト-
    6. 21ページ
      6. 今後の検討課題
  3. 24ページ
    付論1 修正M1について
  4. 24ページ
    付論2 現金通貨に関する評価
  5. 26ページ
    付論3 取引速度について
  6. 24ページ
    1. 41ページ
      第3表別ウィンドウで開きます。(PDF形式 449 KB)
    2. 86ページ
      II.実物資産取引別ウィンドウで開きます。(PDF形式 112 KB)
    3. 142ページ
      III.財貨・サービス取引
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