経済分析第126号
土地税制の理論的・計量的分析
-固定資産税が宅地供給と地価に及ぼす影響についての計量分析-

1991年12月
安東
(経済企画庁経済研究所総括主任研究官)
岩田規久男
( 同 客員主任研究官、上智大学経済学部教授)
山崎福寿
( 同 客員研究員、上智大学経済学部教授)
花崎正晴
( 同 客員研究員、日本開発銀行調査部調査役)
川上
( 同 委嘱調査員、琉球銀行)
蝦名喜代作
( 同 行政実務研修員、神奈川県)
山崎高章
( 同 行政実務研修員、埼玉県)
石川達哉
( 同 委嘱調査員、日本生命)
渡辺俊生
( 同 委嘱調査員、東邦生命)

(はじめに)

土地あるいは地価問題の解決策が、現在各方面で議論されている。固定資産税・相続税の見直し、また都市計画・土地利用計画の詳細化、金融面からの規制強化等さまざまなものである。本研究はこれらの中で、固定資産税の税率変更が地価に及ぼす影響について研究したものである。

Ricardo(1817)以来の伝統的理論の応用や現代の資産選択理論によれば、日本の地価の水準を高める大きな要因として次の二つを挙げることができる。その一つは、土地に対する固定資産税の実効税率がアメリカの各都市等と較べても著しく低く、土地保有のコストが低いことが、他の資産に比較して、土地に対する需要を高め、地価を押し上げるというものである。もう一つは、市街化区域内農地の固定資産税額が宅地に比べて著しく低いことが、農地から宅地への転用を阻害し、地価を高めるというものである(岩田(1977)、野口(1989)、金本(1990)などを参照)。

しかし、固定資産税だけでなく、一般に土地税制が土地供給や地価に対してどのような影響を及ぼすかという点については、実証的な観点から計量的に把握するという研究は極めて少ない。日本における例外的な業績としては、Kanemoto, Hayashi and Wago (1987)、金本(1990)、橋本(1989)があるくらいである。Kanemoto, Hayashi and Wago(1987)は日本の土地譲渡所得税が農家の土地供給に及ぼす影響を実証的に分析するために、合理的期待形成仮説とAR仮説(Autoregressive Model 自己回帰モデル)のもとで構造方程式である宅地の需要関数と供給関数を推定している。これらの研究は実証的な意味で先駆的な業績であるが、十分満足のいく推定結果は得られていない。また、金本(1990)は各土地税制のもとで、シミュレーションによって、農家がいかなる条件のもとで土地売却のインセンティブを持つかについて分析している。橋本(1989)は農家の土地供給関数を推定したうえで、固定資産税制の変更が農業所得の変化を通じて土地の供給にいかなる影響を及ぼすかを計算している。しかし、これら二つの論文はいずれも主体的な均衡条件を分析したものであり、固定資産税の変化がどのような市場均衡の変化をもたらすかを分析したものではない。

他方、アメリカでは、市単位のような狭い地域について、地域内の公共投資の利益や財産税の負担が地価にどのように反映されるかといった研究はあるが、より広域のレベルで、土地税制が土地市場の均衡にどのような影響を及ぼすかといった研究は見当たらない。

本研究の目的は、岩田(1977)で示された資産選択の理論に依拠しつつ、計量的な手法を用いて、構造方程式である土地の需要関数を推定し、それによって、(1)市街化区域内農地の固定資産税を宅地並みに引き上げること、(2)固定資産税を増税すること、さらに(3)固定資産税の増税と住民税減税を組み合わせることが、それぞれ、宅地および農地の需要と地価に対してどのような影響を及ぼすかを数量的に検討することにある。

理論から予想されるように、市街化区域内農地に対する固定資産税を宅地並みに引き上げると、農地需要が減少して、農地から宅地への転用が進行するであろうか。仮に宅地の供給が増加するとして、その効果はどの程度のものであろうか。そのとき、地価はどの程度下落するであろうか。また、市街化区域内農地の宅地並み課税を実施したうえで、宅地の固定資産税を増税したり、固定資産税の増税と住民税減税とを組み合わせると、宅地供給と地価はどのように変化するであろうか。本研究は、推定された構造パラメーターの値を用いて、固定資産税の実効税率の変更に関してシミュレーションを実施し、土地市場の均衡がどのように変化するかを分析することによって、いま述べたような問題に一つの解答を与えようとするものである。

本研究は、東京都と神奈川県の市レベルと全国の都道府県レベルの二つの計量分析からなる。両者は相互に補完関係にあり、土地税制の効果の推定を相互にチエックし合うという役割を担っている。

以下、1では、東京・神奈川モデルによって宅地や農地の需要関数等を推定する。まず第1節で、基本的なモデルを、第2節で推定方法を説明する。次に、第3節で、利用される各種データを説明し、宅地と農地の実効税率を求める。第4節では、回帰方程式の推定結果を明らかにする。

2では、第1章第4節の推定結果を用いて、シミュレーションによって、税制変更が宅地と農地に対する需要や地価にいかなる効果を及ぼすかを分析する。まず第1節では、現行税制が持続すると想定した場合の標準解を設定する。第2節では、市街化区域内農地の宅地並み課税の効果、第3節では、固定資産税増税の効果、第4節では固定資産税の増税と住民税減税を組み合わせた場合の効果をそれぞれ分析する。

3では、全国都道府県レベルにおける地価変動の要因と固定資産税の増税が地価に及ぼす効果を分析する。まず第1節では、全国的な宅地地価の長期的動向を概観する。第2節では、モデルとそこで利用するデータを説明し、第3節でモデルの推定結果を説明する。第4節では、推定されたモデルを用いたシミュレーションにより、全国的な固定資産税増税の効果を分析する。第5節では、第1章と第2章の東京・神奈川モデルによる分析と第3章における全国モデルによる分析を比較する。

なお、本稿が依拠している地価の理論と土地保有税の転嫁に関する理論については、補論1で、日本の現行の固定資産税制度については補論2で、それぞれ説明されている。


全文の構成(PDF形式、 全4ファイル)

  1. 2ページ
    (はじめに)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 451 KB)
  2. 4ページ
    (要約)
  3. 12ページ
    1章 東京・神奈川モデルの推定
    1. 12ページ
      1. 基本モデル
    2. 16ページ
      2. モデルの推定方法
    3. 20ページ
      3. データの加工(地価と実効税率)等について
    4. 22ページ
      4. 回帰方程式の推定結果
  4. 31ページ
    2章 東京・神奈川モデルによる税制変更の効果分析
    1. 33ページ
      1. シミュレーションの標準解
    2. 36ページ
      2. 農地の宅地並み課税の効果
    3. 41ページ
      3. 固定資産税増税の効果
    4. 50ページ
      4. 固定資産税増税と住民税減税の効果
  5. 54ページ
    1. 54ページ
      1. 全国における地価の長期動向
    2. 57ページ
      2. 推定モデルと主要データ
    3. 60ページ
      3. モデルの推定結果
    4. 67ページ
      4. 地価のシミュレーション分析
    5. 86ページ
      5. 東京・神奈川モデルとの比較
  6. 87ページ
    (おわりに)
  7. 88ページ
    補論1 地価と土地保有税の理論
    1. 88ページ
      1. 地価の理論
    2. 91ページ
      2. 土地保有税の転嫁問題
  8. 96ページ
    補論2 固定資産税制度
    1. 96ページ
      1. 固定資産税
    2. 99ページ
      2. 市街化区域内農地の固定資産税
  9. 101ページ
    付録1 地価の作成手順
  10. 102ページ
    付録2 市街化区域内農地の実効税率算出の手順
  11. 106ページ
    付録3 データの出所一覧
  12. 図表(1)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 489 KB)
  13. 図表(2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 495 KB)
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