経済分析第127号
大型小売店の参入規制と小売価格の変動
-大規模小売店舗法の経済的評価-

1992年7月
  • 山下 道子(経済企画庁経済研究所主任研究官)
  • 井場 浩之( 同 委嘱調査員、日興リサーチセンター)
  • 新井 孝一( 同 行政実務研修員、神奈川県)

(要約)

第1章 Hedonic モデルによる価格分析

小売価格の変動要因を小売サービスの差別化と市場の競争条件であると考え、小売構造・市場規模・参入規制を説明変数とするHedonic価格モデルを推計した。小売構造を表わす変数として、世帯当たりの店舗数と大型店の販売額シェア、また小売市場の規模を表わす変数として、小売集積度と世帯当り課税所得をとり、さらに小売業への参入規制の代理変数として、大店法の市町村独自の運用形態である「横出し規制」(中規模店規制)の有無をとった。

これらの説明変数を用いて店舗規模別小売価格を推計すると、生鮮食品と地域ブランドの加工食品については、大型店の店舗密度が高い地域ほど価格競争が促進され、所得の高い地域ほどサービス競争が促進されるという結果を得た。一方、全国ブランドの加工食品と家電製品の価格は、小売構造と市場規模をほとんど反映せず、非競争的な価格設定となっている。また市町村の中規模店規制は、小売構造を通じて間接的に価格に影響を及ぼすと思われるが、直接的な価格引上げ効果は検証できなかった。

次に、小売市場がサービスの差別化による独占的競争市場であると仮定し、小売業者が価格とサービスを利潤最大化の手段とする理論モデルを想定した。これを用いて競争均衡解と独占均衡解が与える価格とサービスの水準を算出し、社会的余剰に及ぼす影響を比較した。その結果、なんらかの規制によって価格が制約されている場合は、競争市場より独占市場の方が均衡サービス水準は低く、またサービスが制約されている場合には、均衡価格水準が高くなることが確かめられた。さらに本章の想定の下では、サービス競争より価格競争の方が社会的に望ましいという結果になった。

第2章 大店法の独自規制と地域の小売構造

出店調整に関するアンケート調査によって、47都道府県および1030市町村における大店法の「横出し規制」の実態を把握した。この結果をもとに、独自要綱を制定している市町村に市場規模、産業構造、小売構造の観点からどのような地域的特性がみられるかを、Probitモデルによって分析した。

市町村が実施している参入規制の強さを、(1)売場面積500m2以下の中規模店の出店を規制する要綱があるか、(2)300m2以下の出店を規制の対象にしているか、(3)規制の対象を中小小売業にまで広げているか、(4)過去に出店凍結の決議はあったか、を表すダミー変数によって分類し、大規模店の開店数との関係を推計した。その結果、独自規制が大規模店の参入に対して抑制効果を持つ反面、零細店の退出には抑制効果を発揮していないことがわかった。

次に(1)~(4)の規制が大規模店と零細店の1店当り小売販売額の伸び率にどのような影響を及ぼしているかを計測した。これによると、大規模店の売上と規制の間には有意な関係が見いだせないが、零細店の売上に対しては(1)(4)のダミー変数が大きなマイナス効果を与えていることが明らかになった。

第3章 大型店の出店状況が小売価格に及ぼす影響

全国物価統計調査と商業統計調査の調査票をリングさせることにより、約700市町村を対象に食品および家電製品の小売価格と小売構造の関係を、1977年、1987年の2時点にわたって銘柄別に推計した。

店舗規模別にみると、売場面積400m2超の百貨店を除く大型店と、コンビニを除く100m2未満の一般店との間には平均すると1~10%程度の価格差があり、生鮮食品で大型店>一般店、全国ブランドの大量生産食品と家電製品で大型店<一般店の傾向がある。これより、大型店の出店により大型店の販売額シェアが高まると生鮮食品の平均価格は上昇し、加工食品と家電製品の平均価格は低下することになる。

1977年と1987年を比べると、大型店と一般店の価格差は生鮮食品と家電製品で拡大し、加工食品で縮小している。つまり、大型店では生鮮食品はより高く、家電製品はより安くなる一方、加工食品は以前ほど安くなくなっている。

小売市場の競争条件を最もよく表わす大型店密度を世帯当り大型店数で定義すると、大型店密度の上昇にともなって、生鮮食品の大型店価格と一般店価格はともに低下する傾向がみられる。これに対して、大量生産食品はいずれの価格にも明確な反応を持たない。家電製品では大型店密度の上昇によって一般店の競争が促進され、価格は低下する傾向を示す。

小売店の生産性を表わす指標として従業者1人当り販売額をとり、大型店価格との関係を調べると、大量生産食品と家電製品にはマイナスの関係が検証され、規模の経済性が価格に反映されているとみなすことができる。一方、生鮮食品についてはプラスの関係がきわめて有意であり、サービスの差別化や参入制限によって維持される高価格が、逆に大型店の1人当り販売額を高めている可能性を否定できない。

結論

分析の基本的な視点として当初、(1)小売店の規模が大きいほど生産性が高まり価格は安くなる、(2)大型店の数が多いほど競争が促進され価格は安くなる、の2点を想定した。しかし、実証分析の結果はいずれの仮説に対しても否定的であり、わが国の流通市場における競争体質について、改めて疑問を投げかける結果となった。

小売店の大型化・企業化の趨勢的変化のなかで大店法は構造変化のスピードを抑制し、地方自治体による中規模店規制など新たな規制の導入を誘発した。大店法が強化されてきた背景には、大型店との価格競争によって零細店の存立が脅かされる、との認識があったものと思われる。しかし、小売市場における競争の実態は価格競争よりサービス競争の様相が強く表れており、小売サービスの差別化には無限の可能性が潜在している。

他方、行き過ぎたサービス競争に対して逆にサービスを省き、低価格で商品を提供する小売形態が出現しつつある。こうした新形態を発展させ、高コスト・高価格への対抗力とするためには、大店法や独自規制による店舗規制を緩和する一方、独占禁止法の適正な運用により、メーカーや問屋の価格支配を抑制する必要があろう。

小売業のサービス形態が多様化するなかで、店舗規制などにより小売活動を制限することは、小売業者の営業機会と消費者の選択を制限することに他ならず、小売構造変化の調整コストに比較して社会的損失は大きい。改正大店法の効果が期待されるなかで、地方自治体の独自規制が機能し続けるならば、大・中規模店に対する参入抑制効果が働き、地域の小売業の活力が低下することは避けられないであろう。


全文の構成(PDF形式、 全4ファイル)

  1. 2ページ
    (はじめに)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 339 KB)
  2. 4ページ
    (要約)
  3. 6ページ
    第1章 Hedonicモデルによる価格分析
    1. 6ページ
      1.1 価格の決定要因
    2. 12ページ
      1.2 流通規制と社会的厚生
    3. 17ページ
      補論1 サービスの需給調整機能
    4. 19ページ
      補論2 独占的競争と規制のゲーム理論
  4. 22ページ
    第2章 大店法の独自規制と地域の小売構造
    1. 22ページ
      2.1 小売構造の変遷
    2. 24ページ
      2.2 大店法の独自規制
    3. 25ページ
      2.3 「横出し規制」の地域特性
    4. 26ページ
      2.4 「横出し規制」の効果
    5. 27ページ
      2.5 規制の問題点
  5. 30ページ
    第3章 大店法の出店状況が小売価格に及ぼす影響
    1. 30ページ
      3.1 分析方法の詳細
    2. 32ページ
      3.2 小売価格の規模間格差
    3. 41ページ
      3.3 大型店の価格分析
    4. 45ページ
      3.4 一般店の価格分析
    5. 46ページ
      3.5 まとめ
  6. 51ページ
    1. 58ページ
    2. 67ページ
    3. 74ページ
      3 銘柄別・市町村別小売価格の推計結果
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)