経済分析第131号
日本の財政運営と異時点間の資源配分

1993年8月
  • 浅子 和美(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、横浜国立大学教授)
  • 福田 慎一( 同 客員研究員、一橋大学経済研究所助教授)
  • 照山 博司( 同 客員研究員、京都大学経済研究所助教授)
  • 常木 淳  ( 同 客員研究員、大阪大学社会経済研究所助教授)
  • 久保 克行( 同 研究官)
  • 塚本 隆  ( 同 研究官)
  • 上野 大  ( 同 委嘱調査員、千代田生命)
  • 午来 直之( 同 行政実務研修員、埼玉県)

(イントロダクション)

近年、戦後の日本の財政運営のあり方、さまざまな形で先進各国から注目を浴びている。この主な理由は、日本の財政運営が、1970年代の半ばに大幅な財政赤字を出しながらも、1990年度には財政再建の第1段階として赤字国債依存体質からの脱却にほぼ成功したからである。このような日本の財政赤字の削減は、一方では、アメリカなど経済収支の赤字に悩む国から、日本はもっと財政支出を増やして世界経済の成長に貢献すべきである(いわゆる機関車論)と批判されているものである。しかしながら、同時に、アメリカも含めて多くの財政赤字に悩む国々から、日本がいかにしてその財政赤字を削減させることができたかが注目されていることも事実である。

実際、1980年代に入って顕在化した各国の財政赤字は,世界的な高金利現象を生みだし、その結果として各国の経常収支の不均衡やインフレ・失業の拡大に、少なからぬ影響を及ぼしてきたことは多くの経済学者によって指摘されてきたことである。特に、安定的な成長を世界経済が遂げていく上で、今後各国がそれぞれの財政赤字をいかにして克服していくかは深刻な問題であり、そうした意味でも、戦後の日本の財政運営のあり方がさまざまな形で先進各国から注目を浴びているのはごく自然の成り行きであると考えられる。

本研究ではこうした問題意識の下に、戦後の日本の財政運営のあり方を、いわゆるBarro(1979)の『課税平準化(tax-smoothing)の理論』を用いて再評価しようとするものである。『課税平準化の理論』についての詳細は3節で説明するが、その基本的な考え方を要約すれば、次のように整理できる。「政府の異時点間における課税のタイミングは、できるだけ時間を通じた資源配分を歪めない形でなされているはずである。したがって、財政赤字を賄うための国債は、国民所得が一時的に減少し税収が一時的に落ち込んだ場合や、政府支出が一時的に増加した場合に発行されてきたはずである。」この『課税平準化の理論』が現実の財政運営に持つインプリケーションはきわめて大きい。これは、もし現実の財政運営がこの理論と整合的な形でなされているのであれば、財政赤字が増減するのは異時点間の資源配分上好ましいことであり、したがって現実に存在する財政赤字を懸念する必要はほとんどなくなるからである。

後述のように、近年アメリカを中心として、多くの経済学者がこの『課税平準化の理論』やそれに関連した『財政赤字の維持可能性(sustainability)』に関して実証的に検証を試みている。しかし、残念ながら,わが国においてはこの『課税平準化の理論』の理論的ならびに実証的研究が、これまで組織的になされてこなかった。この現状をふまえて、本研究ではまず、『課税平準化の理論』の理論的枠組みを説明し、次いで戦前および戦後の日本の現実のデータに即して実証的に検証する。それによって、わが国の財政赤字の累積およびその削減過程を、異時点間の資源配分の観点からいかに評価すべきかを検討する。


全文の構成(PDF形式、 全2ファイル)

  1. (本論)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 456 KB)
    1. 2ページ
      1 イントロダクション
    2. 3ページ
      2 これまでのわが国における研究
    3. 4ページ
      3 基本モデル
    4. 5ページ
      4 バロー型の実証研究
    5. 11ページ
      5 戦後の日本における国債の発行要因
    6. 16ページ
      6 戦前の日本における国債の発行要因
    7. 23ページ
      7 西ヨーロッパ諸国における『課税平準化の理論』の妥当性
    8. 27ページ
      8 ランダム・ウォーク過程の検定
    9. 40ページ
      9 通貨発行権と税収
    10. 41ページ
      10 結び
    1. 43ページ
      A1 序
    2. 43ページ
      A2 新古典派成長モデル
    3. 45ページ
      A3 税制の経済効果
      1. 45ページ
        1. 労働所得税
      2. 47ページ
        2. 資本所得税
      3. 47ページ
        3. 課税コスト、税収、動学的整合性
      4. 48ページ
        4. インフレーション税
    4. 48ページ
      A4 リカード等価定理
    5. 52ページ
      A5 課税平準化の理論
    6. (補論2 計測手法について)
    7. 54ページ
      B1 コックラン(Cochrane)の手法について
    8. 54ページ
      B2 コ・インテグレーション・テスト
    9. 56ページ
      B3 Beveridge and Nelson(1981)の方法
    10. 57ページ
      B4 Perronの手法について
  2. 59ページ
    (補論3 戦後の日本の国債発行の経緯)
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