経済分析第132号
発展途上国の1980年代における輸出動向と経済成長

1993年12月
  • 池上 政弘(経済企画庁経済研究所総括主任研究官)

(要旨)

1 研究の趣旨

第二次石油危機を契機として1980年代前半の世界的な景気後退を背景に、中南米は対外債務累積問題が深刻な問題となり、経済は低迷した。80年代後半、東アジアのNIESやASEAN諸国は総じて順調な経済成長路線をたどってきたのに対して、中南米諸国は経済の停滞が続いた。両者に格差が生じた要因について、70年代の後半から80年代前半までの期間についてSachsらの研究で以下の論点が指摘されている。

(1) 東アジアと中南米の最も大きな相違は、80年代前半い対外債務支払の対輸出比率(デット・サービス・レシオ)が、東アジアは中南米よりも低く、輸出により対外債務を支払い、且つ経済成長が可能であったのに対し、中南米では債務返済のため国内需要の厳しい抑制を余儀なくされ、経済成長が犠牲にされたことである。

(2) 上記比率の差異は、貿易部門の各国経済に対する相対的な大きさ、例えば、輸出の対GDP比率が、東アジアが中南米よりも高いことによる。その背景として消費財の輸入代替が終了した段階で、東アジアは消費財を中心として輸出志向の「外向き」の政策、中南米は国内市場向け中間財や資本財の輸入代替を進め、また、国内物価の配慮から為替レートを割高に設定する「内向き」の政策の姿勢が伝統的にとられた。この結果、70年代後半から80年代前半にかけて、東アジアに比較して中南米では国内市場の狭隘やコスト高で輸出の増加率が低かった。本研究では、80年代後半の期間を中心に上述の研究成果のフォローを行い、特に輸出と経済成長との関連性について分析した。なお、検討対象国として東アジアでは韓国、タイ、フィリピン、インドネシア、また、中南米ではアルゼンチン、ブラジル及びメキシコを取り上げた。

2 要点

(1) 80年代後半は世界景気の回復を反映して、韓国やタイで輸出及びGDPが高い増加率を記録した。他方、中南米では輸出のGDPの増加に対する寄与度が小さく、また、対外債務返済のため国内需要が抑制されたことによって、GDPの増加率が低い水準に留まった。この点では80年代前半について上述の研究で指摘された状況が後半も続いたとみられるが、東アジアと比較して中南米の不振が一層目立った。特に国内投資の抑制が政府の過剰規制による弊害や不適切なマクロ経済の運営の下での物価の高騰等の経済混乱を背景に、投資効率が低かったことと相まって成長阻害の要因となった。

但し、80年代初頭には中南米がアジアよりも高かったデット・サービス・レシオが、80年代後半から末にかけていずれの国も低下、アルゼンチンを除けば各国間の相違は著しく縮小した。対外債務問題の状況は好転し、経済成長に対する阻害要因としての影響は緩和された。

(2) 80年代前半から中頃にかけて、各国とも、公定為替レートを大幅に切り下げ、実質実効為替レートが割安になり、東アジアとともに、中南米においても、対外債務累積問題に対処するために輸出指向強め、政策の姿勢を「外向き」へと転換したとみられる。

(3) 80年代前半から後半にかけて、石油やその他の一次産品価格が低下したことに対応して、輸出に占める一次産品の構成比が高い国で、特にその目覚ましい低下傾向が見られ、逆に、各国とも工業品の構成比が高まり、産業構造の調整が進展した。

輸出の商品構成からみると、東アジアについては、経済の相互依存関係を通じて相対的に工業化が進んだ国から後発の国へ比較優位のある産業が順次移転されてきたことが伺われる。

  • 韓国は衣料、繊維の構成比が低下し、機械類のうち、世界市場で需要の伸びが高く、最終製品のウェイトが大きいオフィス機械、通信・音響機械、電気機械で輸出超過が拡大して来たのに対して、
  • タイは衣料及び繊維の輸出が急速に伸びて輸出超過が拡大、上記の機械類の輸出は輸入超過の段階に止まっていたが、輸出の拡大がみられ、
  • インドネシアは衣料の輸出超過が拡大、繊維の輸出が伸びて、輸出超過に転じた。

他方、中南米は、鉄鋼、化学の基礎素材型商品や資本財のウェイトが大きいその他の機械類の構成比が高い。特に鉄鋼は輸出超過の段階に移行しつつあり、その他の機械類は、総じて輸入代替の段階にあるものの、漸次輸出入が均衡の方向に向かってきており、商品によっては、輸出超過が進展する可能性が出てきたと考えられる。こうした状況を考慮すると、中南米の中間財、資本財は輸出競争力に欠けてるという、これまでの見方については再考する必要がある。ただし、中南米にとっても、機械類のうち最終製品の輸出の拡大が今後の課題である。

(4) 検討対象国とアジア太平洋地域のその他のアジアNIES、日本、米国等諸国の相互間の輸出及び輸入の状況をみると、東アジアでは、最終製品の輸出が拡大してきた反面、中間財や資本財の輸入の拡大が著しく、他方、中南米はアジアに比較して中間財や資本財に比較優位があり、これらの輸出を通じて密接な相互依存関係にあることが示された。中南米にとって、その輸出に占めるアジア太平洋地域向けの輸出の構成比は80年代に上昇し、当該地域の輸出市場としての重要性が高まった。

以上の状況からみて、検討対象国は、債務累積債務状況が好転し、また、産業構造調整が進んだことから、アジア太平洋地域において、域内国諸国間の貿易を通じた相互依存関係を基礎として今後の発展が期待される。なお、90年代に入ってからこれまでのところ、東アジアは総じて順調な経済成長路線を辿っている。他方、中南米は海外からの資金流入が順調であり、特にアルゼンチンやメキシコでは内需を中心にGDPが拡大基調にあるものの、輸入が拡大しており、経済の安定的な成長のためには、一層の輸出拡大の定着が必要である。


全文の構成(PDF形式、 全2ファイル)

  1. 2ページ
    (要旨)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 471 KB)
  2. 4ページ
    (はじめに)
  3. 8ページ
    第1章 マクロ経済の成果及び産業構造等の長期的な推移からみた各国経済の特徴
    1. 8ページ
      1 GDP及び輸出等の動向
    2. 9ページ
      2 GDP及び輸出入の産業別構成
  4. 23ページ
    第2章 交易条件の変化、対外債務累積状況、為替レートの変化と各国の輸出及び経済成長の動向
    1. 23ページ
      1 交易条件の変化の各国のGDPへの影響
    2. 25ページ
      2 対外債務累積状況
    3. 26ページ
      3 為替レートの変動及び世界貿易の動向の各国の輸出への影響
    4. 32ページ
      4 世界貿易の動向と各国の輸出、輸入及びGDPの動向分析
  5. 36ページ
    第3章 1980年代における各国の輸出の商品構成の変化と貿易関係
    1. 36ページ
      1 世界と各国の輸出の動向
    2. 40ページ
      2 工業品の商品分類別の各国の輸出動向
    3. 58ページ
      3 各国とアジア太平洋地域の他のアジアNIES、日本及び米国等の諸国との貿易関係
  6. 61ページ
    要約と結論
  7. 69ページ
    付属データ別ウィンドウで開きます。(PDF形式 115 KB)
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