経済分析第135号
社会資本の生産力効果と公共投資政策の経済厚生評価

1994年4月
浅子 和美
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、横浜国立大学経済学部教授)
常木 淳
( 同 客員研究員、大阪大学社会経済研究所助教授)
福田 慎一
( 同 客員研究員、一橋大学経済研究所助教授)
照山 博司
( 同 客員研究員、京都大学経済研究所助教授)
塚本 隆
( 同 研究官)
杉浦 正典
( 同 委嘱調査員、東京ガス)

(要約)

本報告では、都道府県別の時系列データを基に社会資本(政府資本)の生産力効果を計測し、その結果を用いて公共投資政策の厚生評価を試みる。全体は、4つの章と2つの補論から成る。以下順番に、各章の内容を要約する。なお、本報告で用いた社会資本の定義は、(1)農業・水産基盤、(2)産業基盤、(3)運輸・通信基盤、(4)生活基盤の4つのカテゴリーを単純に集計したものである。

第I章「社会資本と民間資本:現状と蓄積の歴史」では、社会資本の現状と蓄積の歴史を把握する目的で、図や表を用いて複数の視点から考察を加える。データの最新時点である1988年度末のストック残高、全国データの時系列推移、都道府県別の差異、資本ストックと生産の関係、等がテーマとなる。ここでの興味深い発見は、都道府県データで一人当たりの社会資本と一人当たりの民間資本が逆相関し、つれて一人当たりの社会資本と一人当たりの県内総生産も逆相関することである。後者の結果は、一見すると社会資本の生産力効果を否定するものであるが、話はそれほど簡単なものではない。実際第II章では、その効果は有意に検出される。両者を整合的に解釈する際に注意しなければならないのは、社会資本の蓄積には都道府県間の所得の再分配を目指す側面も認められることである。

第II章「社会資本の生産力効果」では、社会資本を生産要素として含む生産関数を推定する。本報告での分析は、都道府県毎のデータを1975年度から88年度まで用いるか,あるいはそれらをすべてプールして推定するものである生産関数としては、労働・民間資本・社会資本の3つを生産要素とするコブ・ダグラス型を想定し、3つの生産要素について1次同次性の条件を課す場合と課さない場合を考える。係数間制約を課した上で1975-88年度について都道府県データをプールした基本形においては、社会資本の生産面での貢献を反映する係数パラメータγ(社会資本の生産弾力性値)は 0.1を若干上回る水準に推計された。

第III章「社会資本と民間資本の限界生産性」では、文字通り社会資本と民間資本の限界生産性を計測する。生産関数は第II章で推定したコブ・ダグラス型と新たに推定する2次関数の生産関数の2通りを前提とする。2通りの生産関数では得られた結果が異なるが、両者に共通のインプリケーションとしては、民間資本の限界生産性と社会資本の限界生産性は、都道府県によって、あるいは時系列的に一貫して乖離する可能性があることである。この乖離が資源配分上の損失をもたらしている可能性がある。

第IV章「公共投資の経済厚生効果-厚生損失の計測」では、社会資本の生産力効果を前提として、公共投資の経済厚生に及ぼす効果を分析する。すなわち、実際の公共投資政策と最適政策との乖離を表す指標を考案し、それを計測する。公共投資に限らず経済政策一般の厚生評価についての理論的枠組みは、補論B「経済政策の厚生効果評価のための理論的基礎」でサーベイしており、ここではそれを公共投資に応用した形で展開する。実際に厚生損失を計測した結果では、基準的なケースでは公共投資政策の厚生損失は年間で国内総生産の約3%と必ずしも無視できるものではないが、同時に際立って大きなものでもないことが示唆される。しかしながら、この結果はロバストなものではなく、一般に社会資本の限界生産性が大きく推定されればされるほど厚生損失も大きくなる傾向が認められる。

最後に、2つの補論について説明しておく。補論A「データの構築・出所」は文字通り本報告で利用するデータの構築法と出所を説明するものである。これに対して、補論B「経済政策の厚生効果評価のための理論的基礎」では、経済厚生計測の基礎的な理論についての一般的な説明を行う。すなわち、まず経済厚生の諸基準とそれらの特性を展望し、我々の採用する厚生基準である補償原理と整合的な経済指標を提示する。次いで、経済厚生計測の方法に関するいくつかの代替的な方法を簡単に展望し、我々が本報告において利用する経済厚生指標の近似値の計量的な推定がどのような意味をもっているかを明らかにする。


全文の構成(PDF形式、 全6ファイル)

  1. 2ページ
    (要約)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 255 KB)
  2. 4ページ
    (はじめに)
  3. 6ページ
    第 I 章 社会資本と民間資本:現状と蓄積の歴史
    1. 6ページ
      1. 1988年度末のストック残高
    2. 8ページ
      2. 全国の時系列推移
    3. 12ページ
      3. convergence
    4. 14ページ
      4. 資本ストックと生産
  4. 17ページ
    第 II 章 社会資本の生産力効果
    1. 17ページ
      1. 生産関数の定式化
    2. 19ページ
      2. 推計結果
    3. 26ページ
      3. 推計結果のまとめ
  5. 27ページ
    1. 27ページ
      1. 資本の限界生産性
    2. 28ページ
      2. 推計結果
    3. 30ページ
      3. 留保条件及びインプリケーション
    4. 30ページ
      図表(1)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 445 KB)
    5. 30ページ
      図表(2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 329 KB)
    6. 30ページ
      図表(3)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 417 KB)
  6. 54ページ
    1. 54ページ
      1. モデルと命題
    2. 56ページ
      2. 経済厚生指標の算出
    3. 57ページ
      3. モデルの関数形の特定
    4. 58ページ
      4. 厚生損失の計測
    5. 60ページ
      5. まとめ
  7. 62ページ
    補論A データの構築・出所
  8. 72ページ
    補論B 経済政策の厚生効果評価のための理論的基礎
    1. 72ページ
      1. バーグソン社会的厚生関数
    2. 75ページ
      2. 補償原理
    3. 79ページ
      3. アレーの余剰概念
    4. 81ページ
      4. 厚生計測の諸手法
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