経済分析第136号
資産市場と景気変動

1994年10月
  • 小川 一夫(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、神戸大学経済学部助教授)
  • 北坂 真一( 同 客員研究員、名古屋市立大学経済学部助教授)
  • 渡邉 俊生( 同 委嘱調査員、東邦生命)
  • 丸山 達也( 同 主任研究官付)
  • 山岡 博士( 同 委嘱調査員、大和銀行)
  • 岩田 安晴( 同 主任研究官付)

(要旨)

本研究プロジェクトでは、我が国の最近の景気循環において、資産市場がどのような役割を果たしてきたかに焦点をあてて実証的な分析を行っている。

本研究は、「Asset Markets and Business Fluctuations in Japan.」(日本における資産市場と景気循環)を主題とし、「Asset Markets and Capital Investment in Japan.」(日本における資産市場と設備投資)、「Borrowing Constraints and Role of Land Asset in Japanese Corporate Investment Decision.」(日本の法人企業の投資決定における借入制約と土地資産の役割)、「An Empirical Re-evaluation of Wealth Effect in Japanese Household Behavior.」(日本の家計における資産効果の実証的再評価)の独立した3つの論文と、「Data Appendix for an Analysis of Firm's Investment Demand in Japan.」(日本における企業の設備投資需要分析のためのデータ作成方法)から構成されている。

1. 「Asset Markets and Capital Investment in Japan.」(日本における資産市場と設備投資)

この論文では、資産市場のうち株式市場と土地市場を取り上げ、それぞれ実体経済とくに企業の設備投資にどのような影響を与えたかを分析している。まず、土地市場において土地の担保としての役割に注目して分析を行った。企業の資金調達について近年借り手と貸手の間の情報の非対称性を仮定したエージェンシー理論が注目されてきている。この理論によると、資金の調達方法即ち内部調達か外部調達かによって、調達コストに差が出るとしている。その場合、投資水準は資金調達の方法から独立ではなく、企業は借入制約に陥っている可能性がある。日本では借入にあたり、土地資産が担保として重要な役割を果たし、借入制約を緩和するように働くと議論されてきた。もしそうだとすると、企業の保有する土地資産のレベルによって投資が影響を受けると予想される。我々はここで、担保可能な資産としての土地価値の上昇がこのエージェンシー・コストを引き下げ、投資水準を引き上げる効果があるという結果を得た。また、不況期には資産価値の担保的役割りが好況期よりも強く働き、資産価値の実体経済への影響が景気局面で非対称であることも実証分析より明らかになった。株式市場については、株価が企業の設備投資にどのような影響を与えたかを分析した。トービンのq理論においては、資産市場の情報に基づくqが企業の投資決定においてシグナルとして働くとされているが、我々の実証分析では株価から導き出したq(平均q)は設備投資を説明する上で有意ではなかった。これは、将来の企業の限界収益の期待値と割引率を株価が反映していると仮定し、限界収益率と割引率から導いた限界qと株価から導いた平均qが同じものとして扱われていたのに対し、実際の株価はこれらを反映しておらず、平均qが限界qから乖離しているということに起因していると考えられる。我々の分析結果からも多くの業種において、1980年半ばから1990年初頭にかけ平均qは限界qから大きく乖離していたことがわかった。これはバブルあるいはファッズがこの時期存在していたことの裏付けと言えるだろう。また、限界qを企業のファンダメンタルズを反映した部分、平均qの限界qからの乖離部分をノン・ファンダメンタルズを反映した部分と捉えると、設備投資はファンダメンタルズに対して、理論どおり正の反応を示すものの、ノン・ファンダメンタルズに対しては負の反応があることがわかった。株価の実態からの乖離が企業家にノイジーなシグナルを送り、それが投資にマイナスの影響を与えたと解釈できるだろう。

2. 「Borrowing Constraints and Role of Land Asset in Japanese Corporate Investment Decision. 」(日本の法人企業の投資決定における借入制約と土地資産の役割)

本論文では、企業の異時点間の最適化問題として、投資に関する一階の条件を直接計測することにより、企業が借入制約に直面しているかどうかのテストを行った。従来の研究では、投資関数の誘導形を計測する手法が採られてきたが、平均qと限界qの乖離、企業の将来の収益率や割引ファクタ-の確率過程の特定化における恣意性が問題となるため、ここでは GMM法により直接、一階の条件の計測を行った。結果として、約半数以上の業種で借入制約が観測され、特に、中小企業の比率の高い非製造業でこの傾向が顕著であった。また制約の度合いは土地資産またはキャッシュフローに依存することが判明した。これは1980年代半ばから1990年代初頭に起こった地価の高騰と企業の過剰流動性が借入制約を大幅に緩め、高水準の投資が行われたことを裏付けている。その後、地価は下落し、日本経済は長い不況に突入した。今般の不況の特徴は、中小企業の投資の停滞が挙げられるが、これは、企業の保有する土地資産の下落に起因するものと考えられる。

3. 「An Empirical Re-evaluation of Wealth Effect in Japanese Household Behavior」(日本の家計における資産効果の再評価)

1980年半ば以降の景気循環における民間最終消費支出の変動は、資産市場と密接に結びついていると考えられており、実証研究も盛んに行われている。ライフサイクル仮説では金融資産・有形資産だけでなく人的資源をも考慮した総資産を問題にしているが、本研究では資産の構成に着目した。なぜなら、家計の多くは流動性制約に直面しているという報告がなさされており、借入を行い効用が最大となるレベルまで消費を行いづらい環境にある。そういう状況下では必然的に、より流動性の高い資産がより消費に結びつきやすくなり、流動性の高低という意味で、資産の構成が消費行動に影響を及ぼす重要な要因であると考えられるからである。我々はここで資産ごとの資産効果を計測する際に問題となる多重共線性を排除するため三時点での県別のクロスセクションデータを利用し、消費関数の計測を行うこととした。 その結果として、従来のライフサイクル仮説による定式化では、資産を種類別に分解し計測したときより資産効果が小さく出てしまうことが分かった。また、金融資産と有形資産では消費に対して異なるインパクトを持ち、金融資産のなかでもとりわけ流動資産が最も有意な説明変数であることも明らかになった。株式は流動資産の構成要素であり、株価の変動は流動資産の変動として消費に影響を与えるというパスが明確となった。消費の変動についての要因分析を行った結果、1980年代半ばの好況期の消費の変化の約半分は流動資産の変動に起因するものであることがわかった。この時期に観測された耐久消費財やサービスに対する消費の高い伸びは、これらの項目が含まれる住居費や雑費といった費目に対して資産効果が大きく表れたという我々の実証結果から説明が付く。

4. 「Data Appendix for an Analysis of Firm's Investment Demand in Japan. 」( 日本における企業の設備投資需要分析のためのデータ作成方法)

1,2の研究で使用したデータの作成方法について簡単にまとめてみた。


全文の構成(PDF形式、 全3ファイル)

  1. 4ページ
    Preface別ウィンドウで開きます。(PDF形式 398 KB)
  2. 6ページ
    Summary in Japanese
  3. 14ページ
    Comments at the Workshop in Japanese
  4. Chapter. 1
    1. 16ページ
      Asset Markets and Capital Investment in Japan
    2. 98ページ
      Figure別ウィンドウで開きます。(PDF形式 328 KB)
  5. Chapter. 2別ウィンドウで開きます。(PDF形式 402 KB)
    1. 113ページ
      Borrowing Constraints and Role of Land Asset in Japanese Corporate Investment Decision
  6. 151ページ
    Data Appendix for an Analysis of Firm's Investment Demand in Japan
  7. Chapter.3
    1. 171ページ
      An Empirical Re-evoluation of Wealth Effect in Japanese Household Behavior
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