経済分析第140号
製造業における政策金融の誘導効果
-情報生産機能からのアプローチ- 他

  • <分析1>製造業における政策金融の誘導効果-情報生産機能からのアプローチ-
  • <分析2>政策金融と財政投融資-資金供給機能に関する研究の現状-
1995年9月
<分析1>
福田 慎一
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、一橋大学経済研究所助教授)
照山 博司
( 同 客員研究官、京都大学経済研究所助教授)
神谷 明広
( 同 研究官)
計 聡
( 同 部外協力者、慶応義塾大学大学院経済学研究科大学院生)
<分析2>
山中 尚
(経済企画庁経済研究所客員研究官、専修大学経済学部助教授)

<分析1> 製造業における政策金融の誘導効果-情報生産機能からのアプローチ-

(要旨)

1 本論文の目的

近年の金融論の分野では、金融仲介機能における「情報生産」の役割の重要性が幅広く認識されるようになってきている。間接金融としての金融仲介機関が資金の借手の投資プロジェクトの内容を正確に理解し、資金を効率的なプロジェクトへ配分することができるならば、情報のフリーライダーの問題を生み出すことなく、情報の非対称性による非効率性を防ぐことができると考えるのである。本稿のアプローチは、このような金融機関の情報生産の問題を政府系金融機関の1つである日本開発銀行(開銀)の融資を例にとり、それについて考えてみたものである。

分析で開銀を取り上げたのは、開銀が産業政策関連の政府系金融機関として代表的なものの1つであるからである。また、これまでの研究において、開銀の貸出は民間銀行の融資を誘導する効果があることが指摘されてきた。このような誘導効果は、特に、「カウベル効果」と呼ばれ、その存在に関してこれまでに多くの議論が金融論の分野ではなされてきた。

本論文の目的は、このような開銀の誘導効果を情報生産という一側面に焦点をあてて分析することにある。したがって、初めにお断りしておくが、この論文の性格は、日本開発銀行および政府系金融機関のもつさまざまな側面のうちの一側面に焦点をあてたものであり、政府系金融機関の問題全体を包括的に議論したものとはなっていない。

2 分析の内容

この論文では、開銀融資の情報生産の問題を再検討するのに、大きく分けて2つのタイプの実証分析を行った。まず第1のタイプの分析は、開銀融資の誘導効果が産業レベル(政策的優遇産業の選定)と企業レベル(特定の優遇プロジェクトの選別)のどちらに働いてきたかを、最近の分析手法を使って検討したものである。この種の分析はこれまでにも行われてきたものである。しかしながら、これらの研究の多くは、必ずしも産業レベルと企業レベルという観点から開銀の誘導効果を取り扱っていない。また、従来の研究結果が最近の計量経済学的手法を使っても依然として成立するかどうかを本論文を通じて再検討することは、それ自体意味があるものと思われる。分析ではこのような立場から、まず、コ・インテグレーション・テストやインパルス応答関数といった時系列分析の手法により、産業別の誘導効果の存在を長期的・短期的な面から検討した。そして、その結果をもとに、パネル分析の手法を使って、企業別の誘導効果の存在を分析した。

本論文の第2のタイプの分析は、開銀融資によって生産される情報が公共財的性質をもち、民間金融機関による情報の過小生産の問題を克服しているかどうかを検討したものである。一般に、生産された情報に対する「フリー・ライダー」の存在を考えた場合、民間の金融機関の情報生産は必ずしも十分に行われていない可能性がある。このため、公的性格を持つ政府系金融機関が審査の結果として融資先企業を決定することは、民間金融機関が生産できない企業レベルの情報を公共財的なものとして供給することとも解釈することができる。

情報生産という観点から開銀の融資を考えた場合、民間の金融機関のそれと1つの重要な差異があると考えられる。それは、開銀は公的金融機関であって、他の民間金融機関のように利潤を追求する融資を行う必要がないという点である。したがって、そのような融資を通じて行われる金融情報は、仮に正の外部効果をもたらすものであっても生産されることになる。

開銀融資によって生産される情報が果たして公共財的性質を持つかどうかを直接検証することは容易なことではない。しかし、開銀融資が開始された後、各企業に融資を行う金融機関の構成比がどのように変化したかを調べることにより、この可能性は間接的に検証することができる。これは、開銀によって生産された企業に関する情報の価値が、その企業について十分な情報を持っているメインバンクよりも、十分な情報を持っていない金融機関のほうが大きいと考えられるからである。そこで、本稿ではこの効果を開銀融資が民間金融機関の融資の構成比にどのような影響を与えるかを調べることによって検討した。

3 分析の結果

第1のタイプの分析によって明らかにされた結果によると、まず、製造業においては、少なくとも、石油精製、鉄鋼、非鉄金属、電気機械の4つの産業で、かなり大きな産業レベルでの誘導効果が、短期的にも長期的にも存在していた。しかし、それ以外の製造業の産業では、その効果は長期的には誘導効果ははっきりとしたものではなかった。一方、個別の企業データを使った分析では、精密機械といった例外的産業を別とすれば、多くの産業において開銀融資が個別企業に与える誘導効果が何らかの形で検出された。特に、産業レベルではその誘導効果がはっきりしなかった食料品、化学製品、金属製品といった産業でも、開銀融資と民間銀行融資との間にきわめて有意な補完関係がミクロ・レベルでは観察された。この実証結果は、開銀融資に代表される政策金融は、産業レベルよりもむしろ、個別の企業で成長可能性に関する「情報生産」機能を果たしており、その情報は民間の金融機関の融資行動に大きな影響を与えた可能性があることを意味していると考えられる。

一方、本論文の後半で行った第2のタイプの分析では、開銀融資の開始は、特にメインバンク関係が強力な企業においてメインバンクの融資ウエイトを相対的に低める傾向にあることが示された。この結果は、開銀融資の情報生産機能は、開銀融資がスタートする時期に大きく働き、それによってメインバンク以外の金融機関により大きな金融情報が提供されたと解釈できるものである。特に、情報の正の外部効果の存在を考えた場合、その際に生産される情報は、メインバンクに代表される民間の金融機関では本来供給されえない性質のものも含んでいる可能性がある。というのは、メインバンクが他の金融機関に情報を十分に供給しているのであれば、開銀融資の開始によってメインバンク以外の金融機関が融資比率を増加させるという状況は起こらないからである。したがって、開銀の情報生産機能は、メインバンクの機能に代替するものであるというよりもむしろ、補完的なものであると考えられる。


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  2. 1ページ
    I.製造業における政策金融の誘導効果:情報情報生産機能からのアプローチ
  3. 2ページ
    (要旨) 1本論文の目的
  4. 2ページ
    2 分析の内容
  5. 3ページ
    3 分析の結果
  6. 4ページ
    (本文) 1イントロダクション
  7. 6ページ
    2 産業レベルと企業レベルの誘導効果
  8. 11ページ
    3 産業別の分析 I :長期的効果
  9. 14ページ
    4 産業別の分析 II:短期的効果
  10. 18ページ
    5 企業別の分析 I :開銀の誘導効果
  11. 21ページ
    6 企業別の分析 II:その他の効果
  12. 27ページ
    7 開銀の公共財的情報生産とメインバンク
  13. 33ページ
    8 開銀融資と民間融資の構成比
  14. 39ページ
    9 メインバンクと開銀の代替性・補完性
  15. 42ページ
    10 開銀融資のリスク軽減機能
  16. 44ページ
    11 まとめ
  17. 46ページ
    (補論) 高度成長期とその後の開銀融資の効果の比較

<分析2> 政策金融と財政投融資-資金供給機能に関する研究の現状-

(はじめに)

本論は、財政投融資に関する既存の研究の展望を与えるものである。財政投融資とひとくちにいっても、既に巨大な規模に達している日本の財政投融資システムの機能に関わる議論全体に展望を与えることは容易なことではなく、また筆者のなしうるところでもない。そこで、本論では財政投融資システムの入り口である郵貯、簡保、年金などに関する問題は取り上げず、主として財政投融資の資金供給に絞って展望を与えることにしたい。財政投融資に関する既存の研究にはつとに膨大な蓄積があり、近年において財政投融資の包括的サーベイと現状分析を与える先行業績に、松浦(1990)、(1991)がある。また、政策金融の機能と経済発展との議論に関し、日本の経済発展の論脈でこれを扱った展望論文に寺西・三重野(1995)がある。いずれも本論の作成において参考になったことを記しておきたい。

従来までの財政投融資に関する研究は、「第2の予算」と呼ばれるように一般会計予算との関連、あるいは日本の財政システムの一環として分析されてきた研究が殆どである。このため、これまでに政策金融としての財政投融資システムを理論的・実証的に体系立って分析した研究は、われわれが予想するよりも多くはない。むしろ政策金融の機能とその制度的仕組みを概説することを通じて、財政投融資システムの総体的な議論を行うにとどまるものが大部分を占めていたというべきであろう。

本論では展望の視点を財政投融資の資金供給機能の側面に絞って議論を進めることとし、まず、近年の政策金融の現状について述べる。続いて政策金融の経済的機能についての総論を展望した後、各論として各政府系金融機関の果たしてきた機能に関してなされてきた先行研究を見ていくことにする。とくに、本研究ユニットでは政府系金融機関の誘導効果に注目している。とりわけ日本開発銀行の審査能力を評価するものとして、その融資が政策誘導効果を持っていたかどうかを実証分析によって明らかにすることがなされているため、日本開発銀行の融資機能(審査能力)に関わる議論に重点が置かれる。また、本論は、日本開発銀行を始めとして国内の金融市場に直接的に関与する政策金融に議論を絞ることにしたため、輸出入金融などを行う日本輸出入銀行の働きなどについては取り上げないことにした。

本論の構成は以下の通りである。まず、続く第2節では、財政投融資の概要について纏める。2.1では財政投融資の概念と仕組、2.2では財政投融資の推移と実績など、財政投融資の概要を述べる。

第3節では、総論部分として政策金融の経済的機能に関する議論、すなわち金融市場に対して政府系金融機関が直接的に介入することが正当化される理論的根拠を取り扱った文献について、4点に分けて整理する。まず第1に、政府系金融機関がはたしている経済的機能は、情報の非対称性に起因する非効率生を緩和するなど、民間金融を補完する機能であるとする研究である。そこでは、政策金融が民間金融がなし得ない機能を補完し、投資リスクが大きい借り手に対して融資を行うことでリスク負担を軽減することなどに関する議論がサーベイされる。第2に政策金融の組織の誘因特性(インセンティブメカニズム)ならびに金融市場の競争状態に及ぼす政策金融機関の役割について述べた文献を紹介する。特に、政策金融の特質をエイジェンシー理論やゲーム理論によって与えることにより検討した研究を取り扱う。第3に、産業政策との関連で、政策金融の実効性を論じた研究がサーベイされる。融資という形でのコスト負担によって政府が融資先の産業を優遇、保護するというスタンスの表明は、当該政策のクレディビリティ(信頼性)を高め、産業政策の実効性のさらなる向上が期待される。したがって、これまでの研究では、産業のセットアップコストや資本市場の不完全性があるとき、量的に限られた政策融資でも産業の私的収益率に影響する可能性があり、政策的融資がなされたという事実により、民間金融機関の融資の意思決定を容易にするという政策金融の呼び水効果が期待されるという主張がなされたことが紹介される。第4に先行研究では、政策金融は発展途上国の開発金融との関連においても重要なテーマであったことがサーベイされる。

第4節では、日本の政策金融に関する総論を紹介する。4.1では日本の産業政策と財政投融資に関する議論を行い、4.2では日本の戦後金融システムにおける財政投融資の位置付けを大雑把に述べることで、日本の政策金融の(資金供給面における)評価を与える。また、4.3では現在の財政投融資が抱えている課題として指摘されている議論を整理する。具体的には、第1に金融自由化にともなう財政投融資システムと市場メカニズムとの関連、第2に金融制度改革との関連、第3に政策金融の規模と財投の財政化、第4に資金運用部の国債引受・保有との関連、そして第5に政策金融と民間金融との競合関係、をそれぞれ取り扱った議論をサーベイする。

第5節では、政策金融に関する各論として、具体的な政策金融機関について論じた研究を紹介する。まず、5.1は、日本開発銀行についての先行研究のサーベイである。そこでは、これまでの研究において日本開発銀行が独特な情報生産機能を有していることを指摘していることが紹介される。最後に、5.2以降では、この他の政策金融機関に関する議論として、5.2で中小企業金融、5.3で住宅金融についてそれぞれ論じた研究をサーベイする。


全文の構成(PDF形式、 全1ファイル)

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 194 KB)
  2. 57ページ
    II.政策金融と財政投融資:資金供給機能に関する研究の現状
  3. 58ページ
    (本文) 1はじめに
  4. 59ページ
    2 財政投融資の概要
  5. 59ページ
    2.1 財政投融資の概念
  6. 59ページ
    2.2 財政投融資の推移と実績
  7. 62ページ
    3 政策金融の経済的機能に関する議論
  8. 63ページ
    3.1 市場の失敗と政策金融
  9. 63ページ
    3.2 企業組織としての政策金融
  10. 65ページ
    3.3 産業政策と政策金融
  11. 65ページ
    3.4 開発金融としての政策金融
  12. 67ページ
    4 日本の政策金融に関する総論
  13. 67ページ
    4.1 日本の産業政策と財政投融資
  14. 68ページ
    4.2 戦後日本の金融システムと財政投融資
  15. 71ページ
    4.3 現在の政策金融に関する議論
  16. 75ページ
    5 政策金融に関する各論
  17. 75ページ
    5.1 日本開発銀行
  18. 81ページ
    5.2 中小企業金融
  19. 85ページ
    5.3 住宅金融
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