経済分析第144号
規制緩和及び民営化の日米英国際比較
(第4巻 国別及び全体評価)

1996年1月
  • Lewis J. PERL
  • George YARROW
  • 南部 鶴彦
  • 古川 章

(要旨)

1.研究の目的

本研究は、日米英の主要な経済的規制について、数産業を取り上げ、その現状や存在意義の検証、規制緩和・民営化の経済的影響等を、客観的かつ三国間で比較可能な経済分析手法によって明らかにすることを目的とするものである。取り上げた産業は、電気通信・電力・航空・トラック輸送の4産業であり、参入・退出、価格・料金、雇用・賃金・倒産、企業収益、サービスの質と利用可能性、投資、消費者余剰・生産者余剰・社会的厚生、市場構造、所得分配、外部不経済(安全性など)、競争政策との関連、副次効果への政策対応、マクロ経済効果・動学的効果、新規サービスの革新のうち可能なものについて分析を行なった。

2.全体的特徴

  • (1)米国はじめ各国とも、規制緩和は次のような状況で生じた。
    • a. 需要規模拡大、技術変化によって自然独占から潜在的に競争的な産業に変化。
    • b. 規制下で不採算部門に内部補助を行ったり過去の投資回収のため、各サービスでコストと価格が乖離し、価格が割高の部門で収益機会を求めて参入圧力。長距離通信が典型的。
  • (2)英国の場合、84年のブリティッシュ・テレコム( BT )民営化から、従来自然独占と見られていた事業でも本格的に民営移行した。ただし当初は通信、航空など競争が不活発であった。80年代末の電力民営化のころから規制構造を大幅に変更し、競争を積極的に導入するようになった。民営化に当たって価格政策の手段としてプライス・キャップ制(年々の価格変化率上限を、一般物価指数上昇率から生産性上昇分を差し引いた率(RPI-X%)とし、Xを4~5年間変えない)を導入したが、これは当初は規制産業のコストが不明確で総括原価主義を採れなかったことが一因。しかし効率性向上努力を促す要因であることがはっきりした。ただしXの予測にシ意性が残る。
  • (3)日本では、規制がもたらす諸問題によって経済厚生が損なわれ、特に内外価格差問題が重要に。電力、電気通信、航空とも需給調整条項により参入が厳しく規制され、高価格が産業にビルトインされる。日本の規制緩和は3段階にわたって行われたが、80年代前半の第一段階の公社民営化が内閣からのトップダウンだったのに対し、第二段階の国民生活改善及び外圧による規制緩和、第三段階の経済構造改革のための規制緩和は、コンセンサス方式で、規制緩和も官庁に依存するようになった。

3.電気通信の規制緩和・民営化の日米英比較

  • (1)どこの国も長距離通信への競争導入が先行したが、近年は、もとは自然独占と見られていた市内サービスも競争が可能な分野とみられている。
  • (2)米国では市外通話料金がコストを上回っていたことが参入圧力を高めた。MCIなど参入者は参入許可を待たず、先に参入してから規制当局と争い、地位を確立した。最近は市内サービスも新規参入が相次いでいる。
  • (3)英国ではBTを分割せず、80年代は競争企業も1社に限定され、BTの圧倒的優位が続いたが、90年代になって参入を大幅に認め、CATVなど多く参入した。民営化当初からプライスキャップ制が採用され、その中で長短料金適正化が行われた。
  • (4)日本では、当初新電電3社が参入を認められ、NTTの内部補助ゆえに人為的高料金による高収益を享受したが、その後の新規参入はなく競争が機能していない。市内網もNTTのほぼ独占となっている。第一種事業者にはサービスの種類や企業規模にかかわらず一律に総括原価方式による料金規制が行われ、新サービスも値段を下げて顧客を集めることが難しい。これが移動電話、CATVなどの普及を妨げてきた。

4.電力の規制緩和・民営化の日米英比較

  • (1)電力は、発電部門での技術革新と、送電網の広域相互接続によって、公益事業間の潜在的な競争と自家発等の参入の余地ができた。ただし小口顧客等一部の市場には規制が必要であるなど構造が複雑なため、規制改革が一挙には進みにくい。
  • (2)電力の規制改革が最も進んでいるのは英国である。英国では1987年のガス民営化で独占企業を残したことへの反省から、1990年の電力民営化に当たって発電、送電、配電3部門に分割し、発電には競争を導入した。1998年には消費者も誰でも電力会社を選べるようになり、競争的小売市場が形成される。ただし英国でも2大発電会社の市場支配力が問題になっている。
  • (3)米国では、自家発等の電力卸売市場への参入は1979年に始まるが、入札プロセスの不備もあって公益電力会社と自家発等との契約が高価格になり、電力小売価格の下方硬直性を招く場合があったため、現在州ごとに改革が行われつつある。
  • (4)日本では、地域独占、総括原価主義による価格規制などにより、事業効率化の誘因が働きにくく、円高が手伝って内外価格差が拡大した。また、負荷率の悪化など供給側の問題もあり、資本コストは総コストの42%に達する。

来年初に大幅な規制改革が予定されており、発電への新規参入により効率性向上が期待される。ただし料金規制では、原則的には総括原価規制が存続する。

5.航空の規制緩和・民営化の日米英比較

  • (1)航空業はもともと競争的産業であり、規制は米国などで長らく批判されてきた。米国では、1978年に参入退出規制、価格規制などが撤廃された。規制当局自ら規制緩和を主導したことが特徴である。規制緩和後、競争は活発化し運賃も大幅低下した(93年には規制があった場合に比べて22%低い)。ローカル線廃止はほとんどない。雇用は80%増加したが、大航空会社倒産の都度、大量の失職者を出したことも事実である。航空業の寡占化につながりうる問題として、ハブ・アンド・スポーク制、Frequent Flyer制、等があるが、今のところ明確に市場支配力を高めている証拠はない。
  • (2)英国では、英国航空( BA)が 81年から大幅なリストラの上、1987年に完全民営化された。BAの経営は極めて順調で、1990年代に世界の大航空会社が軒並み赤字になったときも黒字を維持した。また80年代には参入・価格規制が解除されたが、第2位のブリティッシュ・カレドニア航空(Bcal)が経営困難でBAと合併されるなど、競争促進は十分成功していない。
  • (3)日本では、免許制による参入規制、原則同一距離同一運賃の運賃認可制により、競争が抑制され、運賃引下げやサービス向上が進まなかった。日米で割引運賃を比較すると、同等の距離の路線で日本は米国の2~4倍(91年)となっていた。
  • (4)日本では空港容量の制約により参入規制緩和は有効でないとの指摘があるが、空港制約は英国も同様で、とくにヒースロー空港発着は既得権が優先されている。欧米の航空会社には、ロンドンでなく他都市への航空路を開設して成功しているものもある。

6.英米の規制緩和プロセスの日本へのインプリケーション

プラグマティックなアプローチ

英米では、一方で競争促進、市場の力の発揮など基本原理を打ち立てつつ、現実の適用には多くの試行錯誤を積み重ねてきた。技術や市場条件が刻々変化する現代、試行錯誤は避けて通れない。

規制当局のチェックアンドバランス

英米では、規制当局が必ずしも単一でなく、いくつかの機関(所管省のほか、半独立の規制委員会、司法府、地方政府も含む)が関係しており、その間の相互チェックが働きやすい。

被規制企業の積極的行動

英米では、新規参入しようとする企業は当局からの許可を待たずに参入し、必要なら法廷闘争も辞さない、というケースがかなりある。(日本では、航空、電力では規制当局と経営陣がともに変革に消極的、電気通信では規制当局と経営陣が対立して重要な意思決定が遅延、との指摘もあった。)


全文の構成(PDF形式、 全3ファイル)

  1. 3ページ
    Preface別ウィンドウで開きます。(PDF形式 40 KB)
  2. 5ページ
    ( Summary in Japanese )
  3. 1. Country Overview別ウィンドウで開きます。(PDF形式 346 KB)
  4. 9ページ
    i ) United States
    1. "Regulatory Restructuring in the United States"
      Lewis J. PERL
  5. 39ページ
    ii ) United Kingdom
    1. "Privatization and Deregulation in the UK : Background and Overview"
      George YARROW
  6. 65ページ
    iii ) Japan
    1. "Privatization and Deregulation in Japan : An Overview"
      Tsuruhiko NAMBU
  7. 83ページ
    2. General Overview別ウィンドウで開きます。(PDF形式 183 KB)
  8. "Comparison of Privatization and Deregulation in the USA, the UK and Japan"
    Akira FURUKAWA and Economic Research Institute Staffs
  9. 103ページ
    3. Comments and Discussion
    1. "Summary of the Symposium Proceedings"
      Economic Research Institute Staffs
  10. This is one of the four volumes from the research project on "International Comparison of Privatization and Deregulation" . Others are as follows.
    1. Volume I : Telecommunications
    2. Volume II : Electricity
    3. Volume III : Airline and Trucking
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