経済分析第147号
リサイクル促進のための経済的手段導入の費用と効果
-リデンプション方式設計の理論と実証分析-

1996年8月
  • 藤井 美文(経済企画庁経済研究所客員研究員、文教大学教授)
  • 石川 雅紀( 同 客員研究員、東京水産大学助教授)
  • 乃万 一隆( 同 委嘱調査員、四国電力)
  • 鈴木 俊之( 同 委嘱調査員、千代田生命保険)

(要旨)

1 研究の背景

リサイクルと経済的手段

家庭から出る廃棄物(一般廃棄物)の処理あるいはその手段の一つとしてのリサイクルが世界的に大きな論点となっている。アメリカでは80年代以降10の州で飲料容器などに対してデポジット・リファンドと呼ばれる預託-払い戻しシステムが導入されるとともに、日本の公共分別収集に当たるカーブ・サイド収集が広く普及しはじめている。また市町村によってはゴミの減量化を目的とした有料化(ユニット・プライシング)も積極的に取り入れられている。ヨーロッパでも、80年代にデンマークやスウェーデンなどの国々でリサイクルを軸とする廃棄物政策が導入されたが,90年代になってドイツやフランスといった大きな国が強制的な包装材の回収を含む物質回収促進型の法制度を施行するに至って、これらの制度の有効性は勿論のこと、これが貿易などに与える多角的な影響にまで関心が寄せられはじめている。

80年代までは先進国の中では最もリサイクル率の高かった日本でも、バブル経済によってゴミ量が大きく増大して最終処分場の確保がより一層困難になるとともに、円高によるバージン資源価格の低下や労賃・地価高騰などによってリサイクル産業の経営も困難となるなかで、廃棄物問題に対する新しい制度が検討され、95年には「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(いわゆる容器包装リサイクル法)が成立した。

これらの廃棄物政策に共通して、有料化、課徴金、デポジット・リファンドといった経済的手段に注目が集まっている。一概に廃棄物への経済的手段の導入といっても、費用負担の方法、リサイクルの経路と実施主体、住民へのインセンティブあるいはディス・インセンティブを課す方法などによって実に多様であり、新しい制度設計のもたらす効果や社会的な費用といった経済学的な側面からの評価が不可欠になっている。

リデンプション制度

このようななかで、カルフォルニア州で1987年以降実施されているリデンプション・システム(Redemption system)と呼ばれるデポジット・リファンド制度は当初2000年の実現を目指して始められたものの、導入後わずか4年で80%という目標回収率を達成したユニークなリサイクル政策である(図表要.1参照)。そのユニークさとは、第1に従来のデポジット・リファンドで小売店の負担が大きいとして課題となっていた逆流通ではなく、大型スーパーなどを通じた拠点回収型であり、しかもメーカー毎の容器選別を不要とする一括回収であるため費用負担が小さいこと。第2に、費用は飲料の生産者あるいはこれを購入する個人が負担するものの、州政府が直接システム全体を管理するという公共関与型であるために、リファンド額の設定といった社会的目標に対するシステムの制御が容易であり、また従来容器がリサイクルされないために卸業の所得となっていた未回収デポジットをシステム全体のファンドに組み入れて管理できるため全費用を大幅に低減できること。そして第3に、消費者が、便利だが経済インセンティブのない公共収集(カーブサイド収集)と多少不便ではあるが経済的インセンティブのあるリデンプションを選択できるという、選択の多様性。そして第4にリサイクルに関連する生産-流通-消費-再生などのあらゆるセクターにその促進のためのインセンティブが設けられていること、などである。

このようにリデンプション制度は、わが国がより高い資源回収を行うにあたって導入を検討するに値するシステムであり、またその仕組みがきわめて透明かつシステマチックであるが故に分析の狙上にも載せ易い。

2 研究目的と構成

研究目的

本来リサイクルは廃棄物問題の手段のひとつとして捉えられる必要があるが、現実にはリサイクル率そのものが目的となっているケースが多い。経済学的に最適なリサイクル率を導こうとするには、廃棄物がもたらす社会的費用を示すか、これができなければ過去の有害物質の環境基準のような科学的な知見から得られた基準をもとにした最小リサイクル率を設定する必要があるが、一部の例外を除いて廃棄物が直接健康に影響をもたらすことにならないためこれも容易ではない。そこで現実のように、分析ではリサイクル率を政治的に決定される所与の社会的目標として扱う。

リデンプション・システムでは回収拠点(ステーション)が設けられるが、ステーションが多ければ消費者は近くて空容器を返しやすいが、センター整備と運用にかかる費用は大きくなる。つまり、容器の回収率が高くなるほどリファンド支出もインフラ整備・運用支出も増えるため、この収支をまかなうためのデポジット額も大きくなりシステム全体の費用も大きくなることになる。このようにリデンプション・システムでは、ステーションの設置数=返却距離(利便性要因)とリファンド額(経済的要因)が最も重要な政策変数であり、この2つをもとに消費者がいかなる反応をするかが焦点となる。

以上から、本研究ではリデンプション制度をわが国に導入する際に、目標回収率を達成し、なおかつ消費者の利便性を含めたシステム全体の費用をいかに小さくするかを評価することを目的とする。

分析方法と構成

報告書は、以上のテーマに対して大きく3つの分析から成っている。第1(第1章と2章)は、リファンド額とステーション数を政策変数として、下記a.~b.の制約条件のもとでc.の社会的費用を最小にする理論的な分析である。

  • a. 目標リサイクル率という社会的ゴールを実現し、
  • b. かつ、制度の運用における財政(デポジット収入と消費者へのリファンドの支払いおよびリサイクル・インフラの建設・運用にかかる支出)均衡のもとで、
  • c. いかなる条件が、返却距離という消費者の利便性をも考慮に入れた全体の費用を最小にできるか。

このモデルでは、(1)飲料容器回収の運営費用をステーション数に比例する固定費用と回収量に比例する変動費用の和で表せる、(2)消費者の容器返却にかかる不便さを費用と見なし、その費用が距離の単調増加関数として表せる(第1章では距離に比例するという単純なモデルに、第2章ではこれを拡張したものになっている)ものとした。なお、このモデルでは消費者の返却距離を表すためにステーションの幾何学的配置(回収エリアを正方格子状に分割してその中心にステーションを配置する)を設定し、ステーションを中心とする円の内側の距離にいる消費者はあるリファンド額に対しては容器を返却するといった仮定を置いた。

第2(第3章)は、消費者の飲料購入や容器返却にかかる実証分析である。国内のスーパーマーケットの店頭において得た消費者のサーベイデータに基づき、購入、返却にかかる選択(例えば返却するか否か)をモデル化した。モデルには、離散型の質的選択モデル(ここではそのうちロジットと呼ばれるタイプを用いた)を用い、デポジット額(購入時)、リファンド額(返却時)などの経済的インセンティブ要因のほかに、自宅からステーションまでの距離要因、消費者の属性(環境/リサイクル問題への関心や経験、知識、男女、年齢など)要因を含めて、各要因が飲料購入や容器返却の決定にどれだけ影響を与えているかを数量的に分析した。

第3(第4章)は、第1のシステム全体のモデルと第2の消費者の選択行動モデルとを結合して、リデンプションの導入にかかる政策シュミレーションを実施した。

3 分析結果と政策的インプリケーション

まず、リデンプションシステムの理論的な定式化(第1、2章)からは、目標回収率(幾何学的配置によって決まる)が一定値以下では、目標回収率にかかわらず全体の費用を最小にする最適なリファンド額は一定であることが示された。つまり、回収率を上げるためには、リファンド額をそのままにして、回収ステーションを増大させて消費者の距離的な利便性を高めることが最適であることが示された(図表要.2参照)。

また消費者行動の実証分析(第3章)では、容器返却の決定においては、リファンド額や距離といった経済的あるいは利便性といった要因よりも、消費者の属性、とりわけリサイクル活動参加への積極的な関わりや知識、さらには年齢、性別などの要因がより大きな役割を果たしていることが示された(図表要.3参照)。すでに分別収集において得た経験から、わが国には経済的インセンティブ無しでもリサイクルをする層が相当数いることを示している。

両者の分析を結合した政策シュミレーション(第4章)では、この経済的インセンティブ無しでもリサイクルをする層の行動を戦略変数として分析した。その結果、リサイクル率を現状より高く設定しても、リデンプション導入による最適リファンド額は飲料容器1本当たり1円程度であり、現状の分別費用と大差ないことが示された。このことから、制度の導入自体が、大きな費用を伴わないでも高いリサイクル率を実現する可能性が示された(図表要.4参照)。


図表要.1 リデンプション制度の対象容器回収率の推移(素材別)
図表要.2 リデンプション・システムのモデル化のフロー図
図表要.3 容器返却にかかる消費者行動の要因別影響力 注1
図表要.4 デポジット・リファンド導入時の目標回収率とデポジット額等の関係

全文の構成(PDF形式、 全2ファイル)

  1. 2ページ
    (要旨)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 249 KB)
  2. 7ページ
    (序論)
  3. 13ページ
    第1章 デポジット・リファンド(リデンプション)・システムの最適設計に関するモデル分析1
    1. 13ページ
      1. 1問題の定式化
    2. 18ページ
      1. 2回収率
    3. 20ページ
      1. 3消費者の不便さ
    4. 22ページ
      1. 4最小条件
    5. 28ページ
      1. 5最適解のまとめ
  4. 30ページ
    第2章 デポジット・リファンド(リデンプション)・システムの最適設計に関するモデル分析2
    1. 30ページ
      2. 1回収率
    2. 31ページ
      2. 2消費者の不便さ
    3. 33ページ
      2. 3最小条件
    4. 36ページ
      2. 4最適解のまとめ
  5. 38ページ
    1. 38ページ
      3. 1モデル
    2. 41ページ
      3. 2データと集計結果
    3. 43ページ
      3. 3購入行動および容器返却行動の要因分析結果
  6. 52ページ
    第4章 デポジット・リファンド(リデンプション)・システム導入に対するシミュレーション
    1. 52ページ
      4. 1消費者の返却に伴う不便さの距離とリファンド額
    2. 53ページ
      4. 2政策シミュレーション
    3. 56ページ
      4. 3政策的インプリケーション
  7. 59ページ
    第5章 結論
  8. 60ページ
    Appendix A 回収率と臨界距離の関係
  9. 61ページ
    Appendix B リファンドに伴う消費者の不便さ
  10. 65ページ
    ワークショップにおけるコメント
  11. 68ページ
    Abstracts
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