経済分析第148号
為替増価の経済効果の研究

1997年3月
  • 木村 福成(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、慶応義塾大学助教授)
  • 鈴木 英之( 同 前総括主任研究官、現海外経済協力基金開発援助研究所次長)
  • 齋藤 哲夫( 同 総括主任研究官)
  • 鈴木 俊之( 同 前委嘱調査員、現千代田生命保険)
  • 島田 文孝( 同 委嘱調査員、安田信託銀行)
  • 室田 弘壽( 同 委嘱調査員、あさひ銀行)

(要約)

本研究では、1985年以来の円高の中での価格の推移をSNAベースの産業連関表のデフレータを用いて分析することにより、経済のどの部分に価格の歪みが生じており、その歪みはいかなる要因により生じているのか、またそれはどのような非効率を生み出しているのかを検討した。

まず内外価格差をいかに経済学的に捉えるかについて解説し、国際間商品裁定による貿易財価格の一致をベンチマークに据える分析フレームを示した。次に、為替変動が過去10年の価格変動をもたらした最大の要因であったことを利用して内外価格差を検出する方法を提示した。そこでは、産業連関表から得た輸出・輸入・国内産出価格の推移と、そこから算出される4つの指標、輸出パススルー率、輸出価格差別度、輸入パススルー率、輸入価格浸透度を分析した。さらに、4つの指標が各産業を性格づける諸変数との間にいかなる相関関係を有しているかを分析した。最後に、産業連関表の大分類ベースで財価格の変化を貿易財投入、非貿易財投入、および付加価値の各要因に分類し、投入サイドから価格変化の性格を分析した。

本論文で得られた主要な結論は、次の2点にまとめられる。第1に、輸出サイドの分析から、日本の比較優位構造の中位に当たる素材部門に価格付けの特異性が発見された。これらの産業では、円高に伴って輸出価格は下落しているにもかかわらず、国内市場向け価格は高止まりしている傾向が見られた。これは、当該産業が国内では不完全競争下にあり、かつ何らかの貿易障壁により安価な外国製品の流入が阻止されていることを意味する。どのようなメカニズムによって国内市場向け価格と輸出価格が差別され、それが長期にわたって維持されているかについては、さらに詳しい検討が必要である。しかし、10年間を通して国内向け価格と輸出価格のギャップが拡大してきたというのがここでの結論であり、安易に看過されるべき問題ではない。特に素材部門は製造業の産業連関の中で上流に位置しているため、このような価格付けの特異性は、機械産業など下流部門の生産コスト増の要因となり、ひいては製造業空洞化の一因となっている可能性もある。

第2の主要な結論は、1985年から1994年にかけて円高が進む中で、特に農産品・鉱産品や軽工業品などの日本の比較劣位商品を中心に、国産品の価格低下率が輸入品の価格低下率を下回っている事実に関するものである。これは、同じ産業分類の中で輸入品が低級品へ、国産品が高級品へと品質の変化が起こっているためとも考えられるが、それだけでは十分に説明されない。輸入品の価格低下が国産品の価格低下にダイレクトに波及することを妨げる、何らかの制度的、非制度的要因(「広義の貿易障壁」)が依然存在し、しかもその要因の効果が拡大している可能性すらあるのではないかと考えられる。


全文の構成(PDF形式、 全1ファイル)

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  2. 2ページ
    (要約)
  3. 3ページ
    I.イントロダクション
  4. 5ページ
    II.内外価格差の経済学
    1. 5ページ
      (1)貿易財・非貿易財と内外価格差
    2. 6ページ
      (2)貿易財の国際間価格差の3層構造
    3. 7ページ
      (3)非貿易財の価格構造
    4. 8ページ
      (4)為替変動と投入・産出構造
  5. 10ページ
    III.統計データと実証的方法
    1. 10ページ
      (1)産業連関表とデフレーターの使用
    2. 11ページ
      (2)分析1:為替変動と価格
      1. 11ページ
        (a)国内・輸出・輸入価格の変化と為替レートの変化
      2. 11ページ
        (b)輸出パススルー率と輸出価格差別度
      3. 14ページ
        (c)輸入パススルー率と輸入価格浸透度
    3. 15ページ
      (3)分析2:各指標と他の経済指標との相関
    4. 16ページ
      (4)分析3:価格変化の要因分解
  6. 17ページ
    IV.分析1:為替変動と価格変化
    1. 17ページ
      (1)価格と数量の推移
    2. 26ページ
      (2)輸出パススルー率と輸出価格差別度
    3. 27ページ
      (3)輸入パススルー率と輸入価格浸透度
    4. 29ページ
      (4)期間別比較
    5. 33ページ
      (5)まとめ
  7. 35ページ
    V.分析2:4つの指標の決定要因
    1. 35ページ
      (1)産業構造その他
      1. 35ページ
        (a)企業集中度
      2. 36ページ
        (b)輸入・内需比率
      3. 37ページ
        (c)輸出・国内産出比率
      4. 38ページ
        (d)国内市場実質成長度
      5. 38ページ
        (e)中間需要比率
    2. 39ページ
      (2)流通関係
      1. 39ページ
        (a)卸売マージン率、小売マージン率、それらの変化率、変化幅
      2. 39ページ
        (b)輸入価格浸透度、輸入パススルー率と卸売マージン率、小売マージン率の相関(国内、輸出)
    3. 41ページ
      (3)政府規制関係
    4. 42ページ
      (4)まとめ
  8. 44ページ
    VI.分析3:価格変化の要因分解
    1. 44ページ
      (1)貿易財投入、非貿易財投入の影響
    2. 44ページ
      (2)付加価値の増減の影響
    3. 46ページ
      (3)中間投入削減の努力
    4. 47ページ
      (4)まとめ
  9. 48ページ
    VII.結論と今後の課題
  10. 52ページ
    参考文献
  11. 54ページ
    ワークショップにおけるコメント
  12. 56ページ
    Abstract
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