経済分析第150号
地方分権化時代における地方財源のあり方に関する研究

1997年6月
宣嗣
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、関西学院大学教授)
宏昭
( 同 客員研究員、帝塚山大学助教授)
齋藤哲夫
( 同 総括主任研究官)
菅田
( 同 主任研究官)
倉知靖博
( 同 行政実務研修員、埼玉県)
斉藤秀夫
( 同 行政実務研修員、埼玉県)
中山博喜
( 同 委嘱調査員、安田生命保険)
小野
( 同 行政実務研修員、岩手県)

(要約)

1.研究の目的

地方団体が、地域住民のニーズに最もよく適合した行政サービスを、自らの責任において自主的に提供できるようにすることが地方分権の趣旨である。しかし、現実には国が地方の経済的資源の配分に関与し、自主性の発揮を困難なものにしている。このため、地方の公共財の提供において、生産効率、配分効率上のロスが大きくなっている。本報告書では、国が地方の資源配分をコントロールする中心手段となっている国庫補助金と、地方の財源面の自主性を担保する地方税に焦点を当て、現状分析、問題点の指摘を行っている。

2.おもな分析結果

(1)財政活動による県別の「地域勘定」

国や地方の財政活動は、各地域に受益(歳出)と負担(歳入)をもたらす。これら国と地方の財政活動による受益と負担が県別にどのように帰着しているかをみるものが「地域勘定」である。(国や地方の歳出・歳入が各県の受益、負担としてどのように帰着するかについては、一定の仮説を置いて、世帯数、消費額等を用いて配分した。)

  • a. 受益の帰着:国の支出による受益は西日本で高い
    • 国と地方を合わせた財政支出が県ごとにどのくらいの金額になるかを、人口1人当たりの支出額でみると(図4-1)、大都市の行政需要の大きさを反映して、東京都が突出して高いほか、大阪、北海道、愛知が高い。次に、国から地方への直接・間接の支出額(国庫支出金、地方交付税を含む)をみると(図4-2)、東京等の大都市圏では低く、島根、高知が突出して高い。また、全般に西日本で高い傾向がうかがわれる。このように国の支出による再分配効果は大きい。

  • b. 負担の帰着:大都市圏で高い
    • 国や地方の課税はおもに所得や消費、資産などの経済力に応じてなされる。このため、負担の帰着(一人当たり税負担額)をみると(図4-3)、大都市圏で高く、地方で低い。

  • c. 純移転率(受益に対する負担の割合):大多数の県は受益超過
    • 国と地方の財政活動による受益の負担に対する比率をみると(図4-4)、東京、神奈川など数県で負担超過となっている以外は大多数が受益超過となっている。特に、島根、高知、鹿児島といった西日本の地域で高い。

      地域別にみた受益と負担の乖離は、受益超過地域では非効率的な支出につながりやすい一方、負担超過地域では不満がつのるなど地域間の利害対立を招くとともに、適正な資源配分の達成を妨げる。

  • d. 再分配効果:80年代以降、国の支出による再分配効果が強まる
    • 国と地方の課税や支出は各県の所得を再分配する効果を持つ。この効果を、県民所得の不平等度(アトキンソン係数によって計測)がどれだけ低下したかでみると(図4-5)、80年代に入ってからこの効果が高まっている。また、税負担のみによる効果に比べ、支出による効果も加味した方がはるかに大きく、その効果も80年代以降高まっている。特に、1987年から1992年にかけて、大都市圏でのバブルの崩壊、消費税の導入等により、税負担による再分配効果は低下したが、支出による効果が拡大し、再分配効果はほとんど低下していない。

      支出を通じた再分配は、もっぱら国が国庫補助金や地方交付税によって行っている。したがって、以上は、国が国庫補助金や地方交付税によって行う地域間の再分配効果が大きく、しかもその効果が80年代以降強まっていることを示している。これは、地方分権が叫ばれる今日、注目すべき動きである。

(2)地方の財政支出に及ぼす国庫補助金の効果:教育、投資への支出促進効果が大きい

各県が一定の予算制約の下、ミニマムの事業を行った上で、4種類の公共サービス(投資、教育、福祉、そのほか)への支出を地域の厚生水準(経済的な満足度)を最大にするように決定するというモデルを推定し、これをもとにシミュレーションを行った。

まず、各公共サービスに対する補助金を全額、一般財源に振り替えた場合に、各支出額がどの程度変化するかをみた(表3-4)。補助金の一般財源化によって当該公共サービスへの支出額が減少するが、減少率が大きいのは、教育と投資のように補助金への依存度が高く、補助金の支出促進効果が大きいサービスである。

また、すべての補助金を全額、一般財源に振り替えた場合、教育、投資支出は減少し、福祉、その他支出は増加する結果となった。厚生水準は全県で高まるが、県別には、補助金への依存度が高い、沖縄、鹿児島、新潟で上昇率が高い(表3-5)。このように、補助金は地方のニーズにあった支出を困難なものとし、厚生水準の低下をもたらしている。

(3)補助金の構造分析と整理合理化の方向

  • a. 構造分析:現在の補助金の約4割が、1954年以前に創設
    • 地方団体に対する補助金は、94年度には1,485件、16兆円にのぼる。これを補助根拠、創設年度、補助率、予算額の増減という角度から整理し、構造的な特徴を分析した。

      • 補助根拠:金額ベースでは法律に補助根拠があるもののうち、補助が義務であるもののウェイトが大きい(65.1%)。
      • 創設年度:1955年以前のものが金額ベースで37.7%存在する。その後の大きな環境変化を考えると、存在意義、運営方式が今の時代にあったものか見直す必要性がある。
      • 補助率:高率の補助金のウェイトが大きい。金額ベースでみると50%以上75%未満のものが、69.5%と最も多い。次いで、75%以上100%未満が10.9%と多い。
      • 予算額の増減:94年度に前年度比減少した補助金は金額で46.3%存在する。
  • b. 整理合理化の方向
    • 補助金の抜本改革のためには、一定の外形的な基準によって、問題がありそうな補助金を絞り込み、その存在意義を吟味した上で整理合理化を図るという手順が有用である。

      例えば、a) 1973年度以前に創設された補助金で補助根拠が法令にない(予算補助)もの(320件、7,481億円)、b) 補助率が50%未満と小さく、補助が法令で義務づけられていないもの(242件、1兆679億円)、c) 予算額が前年度比で減少または同額で、補助が法令で義務づけられていないもの(403件、4兆5,800億円)などが考えられる。

(4)地方税源の拡充

高齢化の進展に伴い、地方政府の役割が増大しているが、国税に対する地方税の比率はほとんど一定である。他方、地域勘定でみたように、地方が国からの財政トランスファーに多くを依存すれば、地方の財政運営の責任は不明確となる。地方の財政責任を強化するためにも、地方財源の拡充が必要である。

地方税の税目を個人所得税、法人所得税、財産税、消費税、その他の5種類に分類し、課税額の税目構成の偏りを国際的に比較すると(図5-5)、財政規模が大きくなるにつれて、始めは偏りが縮小するが、規模の拡大とともに偏りが大きくなるという関係がみられる。日本は現状では偏りの小さい税目構成となっているが、今後地方の役割の増大とともに、地方税の税目構成が特定の税目に集中していく必要性があることを示唆しているものとみられる。地方の税源と国の税源が重複した場合、地方税の拡充には限界があり、地方財源の拡充のためには、地方に重点配分される税目を持つ必要があることを示している。

3.結び

国の直接支出、国庫支出金、地方交付税などによる国から地方への支出は、所得の再分配効果を強くもっており、この傾向は、地方分権論議が高まりを見せてきた近年においても変わらず、むしろ、強化されている。国の役割は、真にナショナルミニマムの維持に限定すべきであり、それを上回る部分は地方団体の自主性に委ねるべきである。

国からの国庫補助金は、地方の財政支出に非中立的な影響を与えており、これを一般財源に振り替えることで経済厚生を高めることが可能である。国庫補助金を整理する上で、補助根拠、制度の創設年度などに着目して検討対象を絞り込むことが有用と考えられる。

また、地域別にみた受益と負担の乖離は、規律ある地方財政運営を難しくする。受益と負担を連動させながら、住民ニーズを反映した公共サービスを提供するため、国からの財政トランスファーを縮減し、地方税などの自主財源に振り替えていくべきである。地方税の拡充に際しては、他国の例からみても、地方に重点配分される税目を持つ必要がある。


図4-1 国および地方からの支出による一人当たり受益
図4-2 国からの支出による一人当り受益
図4-3 人口一人当り負担額(1992年度)
図4-4 純移転率
図4-5 再分配効果の推移
表3-4 補助金全額削減、一般財源化が道府県財政支出に及ぼす効果
表3-5 全補助金削減、一般財源化による厚生水準の変化
図5-5 地方財政規模と地方税体系の国際比較

全文の構成(PDF形式、 全2ファイル)

  1. 2ページ
    (要約)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 349 KB)
  2. 6ページ
    序 章 国と地方の財政関係
    1. 6ページ
      1. 財政活動における国と地方の役割
    2. 9ページ
      2. 行政改革としての地方分権
    3. 13ページ
      3. 中央集約的なわが国の税財政制度
    4. 18ページ
      4. 本報告書のねらい
  3. 26ページ
    第1章 国庫支出金の現状と問題点
    1. 26ページ
      1. 分析の目的
    2. 27ページ
      2. 国庫支出金の制度上の役割
    3. 28ページ
      3. 国庫支出金をめぐる国と地方の関係
    4. 31ページ
      4. 公共事業補助金の実態
    5. 35ページ
      5. まとめ
  4. 44ページ
    第2章 補助金の構造分析と整理合理化
    1. 44ページ
      1. 分析の目的
    2. 45ページ
      2. 補助金の概要
    3. 47ページ
      3. 対地方団体補助金の構造
    4. 51ページ
      4. 補助金整理合理化の方向
    5. 53ページ
      5. まとめ
  5. 60ページ
    第3章 国庫支出金の一般財源化
    1. 60ページ
      1. 分析の目的
    2. 60ページ
      2. 分析のフレームワーク
    3. 62ページ
      3. 計測モデルと推計方法
    4. 65ページ
      4. パラメーターの推計結果
    5. 66ページ
      5. 政策シミュレーション
    6. 69ページ
      6. 中央政府の失敗
    7. 70ページ
      7. まとめ
  6. 79ページ
    1. 79ページ
      1. 分析の目的
    2. 81ページ
      2. 受益・負担の概念と帰着仮説の設定
    3. 84ページ
      3. 受益の地域別帰着
    4. 87ページ
      4. 負担の地域別帰着
    5. 88ページ
      5. 財政活動によるネットの受益と再配分効果
    6. 92ページ
      6. まとめ
  7. 109ページ
    第5章 地方分権時代の地方税
    1. 109ページ
      1. 分析の目的
    2. 109ページ
      2. 構造的に不足する地方税
    3. 111ページ
      3. 地方の課税権の制限
    4. 113ページ
      4. 税制改革における国税と地方税
    5. 115ページ
      5. 国際比較による地方税改革の方向
    6. 119ページ
      6. 地方税における応益性の強化
    7. 120ページ
      7. まとめ
  8. 127ページ
    第6章 提 言
  9. 131ページ
    補 章 地方分権に係る地方公共団体ヒアリング調査結果
    1. 131ページ
      1. 調査の目的
    2. 131ページ
      2. ヒアリング調査結果
      1. 131ページ
        地方公共団体A
      2. 132ページ
        地方公共団体B
      3. 134ページ
        地方公共団体C
  10. 136ページ
    ワークショップにおけるコメント
  11. 138ページ
    Abstract
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)