経済分析第151号
高齢化の経済分析

1997年9月
八代尚宏
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、上智大学国際関係研究所教授)
小塩隆士
( 同 客員研究員、立命館大学経済学部助教授)
井伊雅子
( 同 客員研究員、横浜国立大学経済学部助教授)
松谷萬太郎
( 同 総括主任研究官付主査)
寺崎泰弘
( 同 研究官)
山岸祐一
( 同 研究官)
宮本正幸
( 同 委嘱調査員、四国電力)
五十嵐義明
( 同 委嘱調査員、三井情報開発)

( 要旨 )

「高齢化の経済分析」の主要なポイント

  • 従来の高齢化モデルが2025年までの経済活動に注目していたことに対し、ここでは高齢化の真のピーク時である2050年までの期間を対象とした長期予測を行った。また、マクロ経済、労働力供給、公的年金を中心とした財政等の各部門を別々ではなく、それらの相互依存関係を組み込んだマクロモデルを作成した。
  • これは同時に、公的年金の保険料の引き上げと給付の抑制との様々な組み合わせを含む年金制度改革の財政収支やマクロ経済に及ぼす効果を数量的に示すことで、国民に多様な選択肢を示し、制度改革の議論の具体化に貢献することを目的としている。
  • 例えば、1994年度改正に加え、部分年金の廃止、第3号被保険者からの保険料徴収、及び厚生年金の賃金スライドを物価スライドに置き換え、等の改革を行えば、厚生年金保険料を高齢化のピーク時にも20%以下の水準に維持したままで、将来の公的年金財政の長期的な安定性を確保することができる。
  • 現在の高齢者の生活水準は、平均的には勤労者の水準に匹敵している。問題はその多様性であり、また家族との同居の有無や健康水準等の不確実性に左右され易い。高齢者層内部の大幅な所得格差を是正するための、同一世代内の所得再分配を促進する政策が必要となる。
  • 急速に進展する少子化への対応は、女性就業を抑制するのではなく、就業と子育てとの両立を図るための政策がカギとなる。厚生省の将来人口の中位推計に沿った出生率の回復が実現するためには、保育所サービスを2050年までに現在の3倍の水準にまで拡充する必要がある。

「経済分析」のねらい

日本の人口高齢化問題を他の先進国と比較した場合の大きな特徴として、その高齢化のスピードの速さがあげられる。すなわち、65歳以上の高齢者比率は、1950年の4.9%から1995年の14.6%へ上昇し、さらに2050年には32.3%へと急速に高まることが予測されている。また、15~64歳の生産年齢人口はすでに1995年をピークに減少へ転じており、2050年には現在の6割強の水準にまで減少するものと見込まれている。このように日本は、欧州の国々では長期間にわたって進行してきた高齢化問題に対して、はるかに短い期間で対応しなければならない。

人口の高齢化は、しばしば経済活動にとって外生的な要因として捉えられている。しかし、日本の高齢化の急速な進展は、戦後の出生率の低下と高齢者の平均余命の伸長が予想を上回る速度で進んだためであり、いずれも戦後日本経済の急速な成長を反映した、経済的社会の変化に対応している。すなわち、国民の所得水準の向上を背景に、家族の子供を持つことの需要が、量から質へと代替することが少子化の背景にあり、また医療サービス水準の充実とその平等な分布とが世界一高い高齢者の平均余命の大きな要因となっている。このように、日本の人口高齢化は、所得水準の目ざましい向上と、先進国のなかでは相対的に平等な所得分布をもたらした、戦後の経済発展のひとつの成果でもある。その意味では人口に占める高齢者比率の高まり自体が問題ではなく、そうした変化に適応しない、さまざまな制度的な改革の遅れが、高齢化社会の真の問題となっている。

この「経済分析」には、上記の視点に即して、高齢化社会へ対応した構造改革を必要とする国民生活の分野に関し、高齢化のマクロ経済・財政に及ぼす影響、高齢者の生活保障、および少子化問題への対応といった三つの論文を収録した。第1の高齢化のマクロ的分析では、長期的な労働力供給の制約の下で、労働力や経済成長の動向を2050年まで展望する。さらに、そうしたマクロ経済の長期的変化が公的年金財政に与える影響と、逆に年金制度改革が労働市場やマクロ経済に与えるインパクトの大きさを計量的に把握している。第2の高齢者行動のミクロ的分析では、個票データに基づき、家族形態の多様化が進むなかで、高齢者の就業・貯蓄行動と、それらと密接な関係にある親子同居率の決定要因について検討し、高齢者の生活安定のための政策を考える。第3の少子化問題についての論文では、出生率低下の経済的な要因として、女性就業の拡大にともなう子育て費用の増大を考える。次に、就業と育児との両立を図る観点からの保育所の充実が、出生率に及ぼすプラスとマイナスの効果を分析するとともに、少子化への政策的な対応を検討する。以下では、それらの論文の主要な内容を要約するとともに、各々の分析から導き出される共通した政策提言をまとめた。


全文の構成(PDF形式、 全4ファイル)

  1. 3ページ
  2. 4ページ
    1.人口高齢化に対応した公的年金制度の改革
  3. 9ページ
    2.高齢者世帯の経済分析
  4. 14ページ
    3.少子化の経済分析
  5. 18ページ
    4.政策的結論
  6. 20ページ
    (研究1)高齢化のマクロ的分析
  7. 20ページ
    第1章 年金制度改革の計量分析
    1. 20ページ
      1.シミュレーションの目的
    2. 22ページ
      2.厚生省推計の評価
    3. 25ページ
      3.マクロ経済変数の内生化と環境変化シミュレーション
    4. 31ページ
      4.年金制度改革のシミュレーション
    5. 34ページ
      5.保険料率の調整
    6. 40ページ
      6.年金制度改革の世代別効果
    7. 43ページ
      7.結 論
  8. 45ページ
    第2章 モデルの構造
    1. 45ページ
      1.モデルの基本的性格
    2. 46ページ
      2.マクロ経済セクター
    3. 49ページ
      3.労働供給セクター
    4. 51ページ
      4.財政セクター
  9. 54ページ
    第3章 公的年金の推計方法
    1. 54ページ
      1.全体の構造
    2. 56ページ
      2.国民年金
    3. 58ページ
      3.厚生年金
    4. 61ページ
      4.共済年金
  10. 62ページ
    1. 62ページ
      1.労働力長期展望の考え方
    2. 65ページ
      2.2050年までの労働力供給の展望
  11. 79ページ
    1. 80ページ
      1.高齢者の経済的地位
    2. 92ページ
      2.高齢者の就業と貯蓄の決定要因
    3. 99ページ
      3.親子同居率の決定要因
    4. 105ページ
      4.結論と政策的意味
  12. 113ページ
    1. 114ページ
      1.少子化社会の問題点
    2. 115ページ
      2.家族出生率の決定についての研究
    3. 120ページ
      3.晩婚化と少子化
    4. 120ページ
      4.少子化対策の方向
  13. 128ページ
    ABSTRACT
  14. 129ページ
    方程式体系一覧
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