経済分析第153号
環境税システムの設計に関する研究

1997年11月
植田和弘
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、京都大学大学院経済学研究科教授)
横山
( 同 客員研究員、中央大学総合政策学部教授)
吉岡完治
( 同 客員研究員、慶応義塾大学産業研究所教授)
稲田義久
( 同 客員研究員、甲南大学経済学部教授)
藤川清史
( 同 客員研究員、甲南大学経済学部教授)
幹雄
( 同 部外協力者、東海大学教養学部助手)
斎藤哲夫
( 同 総括主任研究官)
小野
( 同 主任研究官)
川島
( 同 総括主任研究官付主査)
山岸祐一
( 同 研究官)
鈴木俊之
( 同 委嘱調査員)
中山博喜
( 同 委嘱調査員)
室田弘壽
( 同 委嘱調査員)
足立直己
( 同 委嘱調査員)

(要旨)

第1部 「ごみ減量化・リサイクルと経済的手段 -デュアル・システムとパッケージ税-」

1.研究の目的

ドイツでは、1991年に包装廃棄物政令が制定され、事業者による包装廃棄物の回収・分別・リサイクル義務が定められた。 そして、これら義務の遂行を目的としてデュアル・システムと呼ばれるリサイクルシステム及び、当該システムの管理・運営にあたるDSD社が創設された(図1)。 包装廃棄物政令及びデュアル・システムによる強制リサイクルシステムは、制度が公表されて以来、1) リサイクルに関する数量的目標が明示されていることとともに、2) それを達成するためのシステムと事業者責任が明確にされていること、3) さらにその包括性により国際的に注目を浴びてきた。

本研究では、DSD社の唯一の財源であり、デュアル・システムの運営上、重要な位置を占めるグリューネ・プンクト料金の算出方式を詳細に検討したうえで、従来環境経済学の立場から提唱されてきたパッケージ税の考え方と比較しつつ、グリューネ・プンクト料金の諸機能について考察することとした。

2.デュアル・システムの成果と問題点

1990年初頭に創設されて以来、デュアル・システムには、多くの批判が浴びせられているものの、デュアル・システムは、短期間でドイツの国土全域に及ぶ回収・分別・リサイクルのネットワークを構築すると同時に、数量目標の達成及び、特定の包装材消費量の減少をもたらすなど、一定の成果をあげつつある。

グリューネ・プンクト料金は、当初は材料の種類によらない一律料金であったが、その後の改定を経て、材料種別の料金体系が盛り込まれた。 グリューネ・プンクト料金の算出にあたり、各種包装材の処理における共通費用をどのようにして材料種別に配分するかという問題が生ずるが、この点に関して分析の結果、共通費用の配合のために、費用割、重量割、密度割、均等割、実績割等の多様な負担基準が組み合わされていることが、明らかになった。 仮に、料金が単一の負担基準に基づいて算定されている場合には、明らかに特定の材料種の生産と販売を担う企業が不利になる。 DSD社が複数の負担基準を組み合わせて共通費用の配分を行っていることは、ある意味では恣意的であるが、デュアル・システムへの参加企業間での合意を優先させたものであり、ここに総合調整機関であるDSD社の特質が反映されている。

3.グリューネ・プシクト料金と最適パッケージ税

グリューネ・プンクト料金は、統合化機能、疑似エコマーク機能、財源調達機能、費用配分機能、フレキシブル機能、といった多様な機能を有する。 これらの機能により、政令に定められた数値目標を充たすうえでの前提となる、国内全域を網羅しうるリサイクルシステムが構築されるとともに、デュアル・システムの運営費用を不足なく、応益的に調達することが可能となった。

現行のグリューネ・プンクト料金は、各材料種別の回収・分別あるいはリサイクルに要する費用を反映しており、パッケージ税は、包装廃棄物量が社会的最適水準を達成するように課税するものであり、従来、環境経済学の立場から議論されてきた。 ここでは、ピアース、ターナーによるパッケージ税の算出式に基づき、ドイツにおける最適パッケージ税額を試算し、グリューネ・プンクト料金との比較を行うことにより、グリューネ・プンクト料金の廃棄物削減へのインセンティヴ効果の有無について分析した。

4.結論

a.静学的効率性の観点からは非効率

ペットボトル、アルミ缶および紙製の飲料容器において、グリューネ・プンクト料金が最適パッケージ税よりも高くなっていることが明らかになった(表1)。 したがって、包装廃棄物の限界排出削減費用曲線が右下がりであると仮定すれば、これらの包装材において設定されているリサイクル水準は、社会的最適水準よりも左方にあることが推定される(図2)。 その意味において、デュアル・システムは静学的効率性の観点からみれば非効率と言えるほど、リサイクル率を高めていることになる。

b.動学的効率性の観点が重要

リサイクルシステムの評価において重要なことは、静学的効率性よりも、廃棄物量の削減及びリサイクルのしやすさを考慮した商品設計を目的とする技術革新が進められたり、リサイクル技術の開発を促すインセンティヴが働くという動学的効率性であろう。 現にデュアル・システムの導入以来、包装材の軽量化、省包装化、単一素材化が促進されているとともに、新たなリサイクル技術が実操業に移されている。 この事実は、多くの素材においてグリューネ・プンクト料金が最適パッケージ税よりも高くなっていることにより動学的効率性が発揮される根拠を裏付けているのではないかと思われる。

c.デュアル・システムの評価

デュアル・システムは数値目標をもった強制リサイクルシステムであり、静学的効率性を重視していないものの、グリューネ・プンクト料金を媒介にして、動学的効率性を優先させたシステムであるといえよう。 したがって、グリューネ・プンクト料金が財源調達の機能を有していることは当然であるが、それは原因別に経費を割り振ることにより負担を公平化すると同時に、結果的にインセンティヴ機能をも併せてもつことになった可能性があると結論することができる。


図1 デュアル・システムにおける費用負担構造
表1 グリューネ・プンクト料金とドイツにおける最適パッケージ税の比較(試算)
図2 グリューネ・プンクト料金と最適パッケージ税

第2部 「環境税(炭素税)導入の公共選択」

1.研究の目的

本稿の目的は、これまでの環境税をめぐる議論とは全く異なる視点から環境税導入の公共選択を考察し、我が国における現行の化石燃料諸税について税収を変えずに純粋な炭素税へと改革する提案を行うことである。

2.炭素税のマクロ経済効果と政策選択

第一に、人々の経済観や二酸化炭素排出量に関する一般認識が同じでも、政策目的が違えば人々の環境税などの環境政策に関する意見対立が発生することをモデルで明らかにする。 加えて、たとえ政策目的が同じだとしても、その政策手段に関する評価や経済観などが異なる場合、環境政策の対立が生じる。地球温暖化に対する政策対応の対立が、その一例である。 本稿は、この政策対応の対立についてもモデルで分析し、ナッシュ均衡の存在を示唆する。

3.税収中立での改革モデル

こうした政策対立を避けることが、現実の政策運営では重要になる。 そこで現行の化石燃料諸税を潜在的な炭素税として認識し、税収中立のまま、潜在的な炭素税から純粋な炭素税への改革を検討し提案し、その意義を明らかにする。 化石燃料諸税全体の税収が同じだとしても、その税率構造が違えば、二酸化岸素排出量の削減効果が異なることは、先のモデルの中でも理論的に指摘した。

4.試算結果

すべての化石燃料の需要の価格弾力性を一定と仮定して、実際のデータから税収中立で新たな純粋炭素税率を算定し、その二酸化炭素排出削減効果を明らかにした。 需要の価格弾力性が0.2と0.1の2ケースについて、以下の算定結果を得た。

弾力性0.2(0.1)のケースでは、純粋炭素税率は炭素1kg当たり18.975(17.145)円となり、現行の化石燃料諸税の二酸化炭素排出削減推定量が19.265(8.700)百万トンであるのに対し、この純粋炭素税の二酸化炭素排出削減推定量は70.547(31.544)百万トンにも達する(参考表)。 さらに、現行の税収使途についても維持しようとすれば維持可能であり、炭素税の税率(X円/kgC)につき、将来世代が改変しようとすればいつでも改変できるような炭素税の算定式も、同時に導出した。

5.結論

化石燃料課税の増税を前提とする従来の環境税導入案に比べ、税収中立で既存の化石燃料諸税を純粋炭素税に改変する本稿の提案は、環境税の名の下に化石燃料課税を増税することに反対する人々の環境税拒否を和らげ、社会的により受容されうる可能性が高い。 しかも、化石燃料課税から得られる税収が同じだとしても、純粋炭素税の二酸化炭素排出削減効果は、現行の化石燃料諸税の二酸化炭素排出削減効果を大幅に上回るのである。


参考表:現行化石燃料諸説と純粋炭素税の二酸化炭素排出削減量(弾力性=0.2)

全文の構成(PDF形式、 全1ファイル)

  1. 全文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 383 KB)
  2. 3ページ
    (要旨)
  3. (第1部)ごみ減量化・リサイクルと経済的手段-デュアル・システムとパッケージ税-
  4. 10ページ
    第1章 はじめに -ごみ処理ルールの転換期-
  5. 11ページ
    第2章 デュアル・システムの成果と問題点
    1. 11ページ
      2-1 デュアル・システム及びグリューネ・プンクト制度の概要
    2. 14ページ
      2-2 デュアル・システムの成果と問題点
  6. 18ページ
    第3章 グリューネ・プンクト料金の機能
    1. 18ページ
      3-1 グリューネ・プンクト料金の算出方式
    2. 28ページ
      3-2 グリューネ・プンクト料金のモデル計算
    3. 28ページ
      3-3 グリューネ・プンクト料金の機能
  7. 31ページ
    第4章 パッケージ税の経済学
    1. 31ページ
      4-1 廃棄物管理の原則
    2. 33ページ
      4-2 パッケージ税の経済学
  8. 36ページ
    第5章 考察
  9. (第2部)環境税(炭素税)導入の公共選択
  10. 44ページ
    第1章 はじめに
  11. 44ページ
    第2章 炭素税のマクロ経済効果と政策選択
    1. 44ページ
      2-1 マクロ経済体系
    2. 45ページ
      2-2 マクロ経済に対する評価の相違
    3. 47ページ
      2-3 経済観と政策手段評価の相違
  12. 49ページ
    第3章 我が国における炭素税導入案
    1. 49ページ
      3-1 現行化石燃料諸税の位置づけ
    2. 50ページ
      3-2 税収中立での改革モデル
    3. 51ページ
      3-3 純粋炭素税率の算定
    4. 53ページ
      3-4 純粋炭素税収の配分
  13. 54ページ
    第4章 むすび
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