経済分析第159号
規制改革による経済効果分析のための応用一般均衡モデルの開発

2000年1月
金美
(経済企画庁経済研究所客員主任研究官、大阪大学大学院経済学研究科教授)
大坪
( 同 客員研究員、名古屋大学大学院国際開発研究科助教授)
小野
( 同 前主任研究官、国際協力銀行開発金融研究所副主任研究員)
松谷萬太郎
( 同 総括主任研究官付主査)
山口慎一
( 同 前委嘱調査員、三和銀行)

( 要旨 )

1.はじめに

規制改革による経済への影響を見るにあたっては、当該分野における影響を見るのは当然であるが、ある市場における変化は、相対価格の変化や生産要素の配分の変化を通じ他の市場にも波及する場合が少なくないと考えられる。経済全体への影響をみるにあたっては、こうした他の市場への影響も含めてみる必要がある。そこで、こうした動きを捉えることができる応用一般均衡モデルを用いて、規制改革の経済効果を測定できないかというのが、今回の研究の出発点である。本研究では、規制改革において利用可能な分析ツールの提供ということに主眼を置き、そのための一般均衡モデルを構築すること及びその利用可能性を示すことを主目的としている。

日本モデルを作成するにあたって、我々が考慮した点は、 (1) 我が国における、規制改革対象業種がおおむね網羅されていること、(2)他地域への波及効果を探るために世界モデルと連結可能であること、(3)規制改革に伴って発生する現象をできるだけ再現できること、の3点である。検討の結果、オーストラリアで開発されたORANI-Gモデルをベースにして、日本モデルを構築した。

2.主要なシミュレーション結果

(1)規制改革産業で生産性が上昇する場合

本分析では、規制改革により供給側(企業行動)がどのように対応すれば、マクロ経済及び産業構造にどのような影響をもたらすか、という視点からのシミュレーションをいくつか行っている。このうち、規制改革によって、企業の内部効率が上昇した場合の影響をみたものが、以下のシミュレーションである。

シミュレーションにおけるショックは、規制改革対象産業の全要素生産性(TFP)が1%上昇するという仮定である。規制改革の対象となる分野は、エネルギー(電力、ガス・熱供給)、商業、金融・保険、運輸(鉄道輸送、道路輸送、水運、航空輸送)、通信の5分野(9産業)である(なお、長期クロージャーの結果のみ以下で掲げる)。

第1表は、9産業でTFPが上昇したときのマクロ変数への影響をみたものである。生産性上昇の効果による価格の低下が、投資等の需要増によりある程度、相殺される。また、総消費や総投資が経済の拡大に伴って増加するため、実質GDPへの効果は大きい。分野別では、ウェートの大きい卸・小売の生産性上昇の実質GDP増加効果が大きくなっている。

第2表は9産業すべてについて同時にTFPが1%上昇した場合の当該産業への影響を示したものである。効果としては、価格が低下し、消費量、生産量が増加する一方で、当該産業の雇用者が減少する、という傾向がある。

以上の結果をまとめると、(1)TFPの上昇によって、価格の低下が起こり、当該産業の生産量、消費量を増加させる。また、価格低下の効果が他産業にも波及し、全体の生産量を増大させる。(2)規制改革によって、生産性の上昇する産業が多いほど、個別産業への効果はもとより、全体への生産増加の効果も大きくなる。(3)TFPが上昇する産業においては、雇用量の減少がみられるが、全体としてみれば、実質賃金は上昇する。(4)生産性が上昇する産業が多いほど、当該産業における雇用量の減少幅は、小さくなる。

(2)消費行動が変化する場合

規制改革による変化は、供給側だけにあるわけではない。単に、生産性が上昇するだけでは、当該規制改革産業の雇用者が減少することとなる。このようなシナリオでは、規制改革の効果を過小に評価している可能性がある。規制改革の目的は、経済の活性化にあるのであり、それは、企業の内部効率化のみならず、新規参入や新商品・サービスの提供や価格体系の多様化もあり、それに伴う需要拡大の効果も大きい。そこで、企業の行動の変化だけではなく、消費行動も変化する場合のシミュレーションを行った。

ここでは、通信のTFPが1%上昇するとともに、通信と電子・通信機器の需要曲線が10%分だけ右にシフトする場合と1%シフトする場合のシミュレーションを行ってみた。

一般均衡モデルでは、需要や投資は内生的に決まるようにできており、新規需要や新規投資を一般均衡モデルに単独で入れてやると、かえって非効率となったり、他の市場の縮小を引き起こしたりして、実質GDPが低くなるケースが起きてくる。経常収支をゼロに固定していたり、雇用量の増加をゼロとしたクロージャーでは、極端な需要の集中は、資源配分の集中を招き、制約がある中では賃金が上昇してしまい、かえって全体の生産が非効率となってしまう。そこで、実質賃金の上昇が10%ケースと1%ケースで同じにし(この場合、0.039%)、その代わり総雇用量を内生化した。すなわち、新規需要の発生に伴う雇用拡大効果を織り込んだシミュレーションを行った。第3表は、日本経済全体に関する効果をみたものである。

以上の結果をみると、単に需要の集中があったとしても、供給側に雇用量のような制約があれば、価格が上昇してしまうため、経済の拡大効果がかえって小さくなるが、供給側に制約がなければ、需要の拡大とともに、経済も拡大することとなる。規制改革によって、企業行動の選択肢が増え、商品・サービスの価格低下や多様化等によって、魅力ある市場にし、需要行動に影響を与えることが重要である点がこのシミュレーションで確認できる


(第1表)日本経済全体への影響
(第2表)当該産業への影響(9産業のTFPが同時に1%上昇する場合)
(第3表)日本経済全体への影響(雇用拡大効果を含む)

全文の構成(PDF形式、 全2ファイル)

  1. 3ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 442 KB)
  2. 7ページ
    第1章 ORANI-G型日本モデルの開発について
    1. 7ページ
      1.これまでの構造分析ユニットにおける応用一般均衡モデル研究の成果
    2. 7ページ
      2.なぜ、新たに一般均衡モデルを開発するのか
  3. 11ページ
    第2章 我が国における規制改革
    1. 11ページ
      1.公的規制に関する理論
      1. 11ページ
        (1) 公的規制とは何か
      2. 13ページ
        (2) 規制産業はなぜ非効率か
      3. 15ページ
        (3) 規制緩和が行われた背景
      4. 15ページ
        (4) 規制革命のメリット・デメリット
    2. 16ページ
      2.我が国における規制改革の状況
      1. 16ページ
        (1) 我が国の規制緩和はどういう形で行われているか
      2. 17ページ
        (2) 主要分野において、これまでに行われた規制緩和の措置
    3. 19ページ
      3.先行研究による規制改革の効果測定
      1. 19ページ
        (1) 規制緩和などの経済構造改革が経済に与える影響について(経済企画庁総合計画局 1997年6月)
      2. 22ページ
        (2) 規制緩和の経済効果試算について-規制緩和経済効果研究会報告書- (通産省 1997年5月)
  4. 25ページ
    第3章 ORANI-G型日本モデルの開発について
    1. 25ページ
      1.データベース
    2. 27ページ
      2.モデルの構造
      1. 27ページ
        (1) 生産構造
      2. 30ページ
        (2) 投資行動
      3. 31ページ
        (3) 家計行動
      4. 32ページ
        (4) 輸出需要
      5. 33ページ
        (5) 政府需要
      6. 33ページ
        (6) マージン需要
    3. 36ページ
      3.モデルのクロージャー
  5. 39ページ
    第4章 モデルによるシミュレーション(供給サイドの変化)
    1. 39ページ
      1.はじめに
    2. 40ページ
      2.規制改革と企業行動の変化
      1. 40ページ
        (1) 規制の問題点
      2. 40ページ
        (2) 規制改革による効果
    3. 40ページ
      3.モデルによるシミュレーション
      1. 40ページ
        (1) 競争による価格低下の意義
      2. 46ページ
        (2) 生産性上昇のシミュレーション
  6. 77ページ
    第5章 シミュレーション(消費行動の変化)
    1. 77ページ
      1.はじめに
    2. 77ページ
      2.消費行動の変化をどのようにとらえるか
    3. 80ページ
      3.弾性値等の変化による影響
    4. 81ページ
      4.需要集中の効果
  7. 93ページ
    1. 93ページ
      1.はじめに
    2. 93ページ
      2.総雇用量が内生の場合
    3. 95ページ
      3.労働移動の流動性の比較
  8. 参考文献
    1. 111ページ
      (参考1) ORANI-Gモデルの変数名一覧
    2. 119ページ
      (参考2) 日本モデルにおける弾性値について
  9. 129ページ
    経済分析政策の視点シリーズ用のワークショップにおけるコメント
  10. 131ページ
    国際ワークショップにおけるコメント
  11. 135ページ
    Abstract
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
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